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5歳

 19、この世界の真実

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 父様はお家で、何事もなく平穏に仕事が終わったそうだ。
そして食事のあと、お茶を頂きながら、話をする。

「お父様、今日はお話がたくさんあります。私、精霊の真実を突き止めました」
「精霊の真実、かい?それは一体・・・」
家の精霊達がポンポンと現れる。

「精霊は二心ある者には従わない!と言う精霊王との制約です。精霊を失って魔法が使えなくなるのは自分で選んだ人間の自己責任だから、精霊から真実は告げられないらしいです」
と言うと、3人とも言葉を失った。

「そうだったのか。それでその、何を選んだ責任・・なんだい?」
と聞かれたので、精霊達をチラリと見る。
「分りやすく言うと、恋人や奥様がたくさんいる人生、ですかね?・・・だよね?合ってるよね?」
ニッコリと確信を持って精霊達を見ると、みなゆっくり頷く。大人3人は凄く困った、情けない顔してる。
「最初はね、なんでイレッサに精霊がいないのかって聞いたら、2度結婚したんじゃない?って言われて凄く考えたの」
アリアを見ながら笑うと、ちょっと照れくさそうに視線を逸らす。
「そのあと、お母様の精霊が邪魔した話を聞いてね・・・」
母様の精霊がこちらを見てる。
「魔力が混じらないって聞いて、じゃあ混じるとどうなるのか?と思ったの。魔素があるこの世界の生き物は全て、魔力を持っているのでしょう?その魔力で生きるための仕組みかな?と思って」
「混じるとか混じらないって言うのは・・・なんなんだい?」

「例えば、お母様がまだ結婚してないとき、精霊がいない殿方に襲われていたら、まずお母様の魔力がその後、増える事は多分無いんだと思います。でもお母様には初めての殿方だから、魔力が幾つも混じってしまう訳ではないので、もう進化は出来ないけど精霊は側に居てくれます。でもそのあと、お父様と結婚していたら、今そこにいるお母様の精霊達はここに居ないと言う事です。そしてお父様は2人目の殿方だから、お母様の中に2人の殿方の魔力があるので双方が邪魔をして子供が作りにくくなっていたんじゃないかと思います。お母様の為に、そして自分達が進化をする為に、この子達は頑張ったんですよ」
母様が口に手を当てて驚愕している。

「殿方も同じです。もしお父様が何人も恋人がいてお付き合いをした後にお母様と結婚していたら、2人目の恋人のご婦人が出来た時点でお父様の精霊はここにいませんし魔力ももう増えません。更にお父様の体内魔力はお母様以外の女性と混じってしまっているので、お母様と魔力が混じらないか混じりにくくなっていて、とても頑張らないと子供が出来にくいか、もしくは出来ない。つまり私は産まれてないかも知れないと言う事です。混じらないし増えない、とはそう言う事だと思います。合っている?」
と精霊達を見ると、ゆっくりと頷いている。

父様も驚いた顔だが何気に泣きそうだ。イレッサも言葉を失っていて、少し悲しそうだ。
「イレッサの場合は本当に仕方ないと思うの。だってイレッサを殴ったりする方だったんでしょう?何人も恋人がいた訳ではないけれど、きっとそんな事情の人は多いと思う。でも途中で旦那様を変えたから、精霊は決まりに従ったんだと思うの」
イレッサが少し悲しそうに俯く。
「そう言う事だったんですか・・・」

3人とも、意外な事実に思考が追い付いてないようだ。
「でも精霊もそう言う事情の人には付いててあげたかったんじゃないかな?って思う」
テーブルの冷えたお茶を飲んで、一息つく。
「イレッサ、お茶を入れてもらえる?」
と言うと、3人はハッと目を瞬いた。
「すぐに入れ直しますね」
と言って厨房に消えた。
父様と母様が、自分達の精霊を見ると、とてもうれしそうに二人を見ている。

「それでもう1つの事実が判明したんですけど・・・」

「もう1つ・・・?」
母様が首を傾げる。

「私、コルセットをしなくなって健康になれば、子供は増えると思ってました。でも恋人や奥様が複数いる方、限定するなら第一夫人以降の方は、コルセットを外して体が正常になったとしても、たぶん子供は出来にくいだろう、と言う事です。たぶんお母様が今日会ったあの第三夫人の奥様もです」
父様の眉間の皺が深くなって、母様は悲しそうに青ざめた。

「もっとはっきり言うと、殿方が第一夫人より前に他のご婦人とお付き合いをしていたら、第一夫人とも子供が出来にくい可能性がある事ですね。つまり誰がお相手でも最初に夜を過ごした相手の方じゃないと魔力が混じりにくいので子供は出来ないと言う、この世界の決まり事なんじゃないかと思います。最初の一人しか混じりにくいらしいですよ」

「何て事だ・・・」
父様は今まで見た事がない程、真剣で険しい顔つきになった。

イレッサがお茶を入れ直したポットを手にお茶を注いでくれる。
「お父様、これは稀人である事とは関係ないですから、少しずつでも回りに知らせた方がいいです。精霊も、100人いたら80人は下級だそうです。全然進化出来なくて可哀想ですから」
「そ、そんなにたくさん下級なのか!」
精霊達がみな困った顔で頷く。
「私から質問されて気付いた事にすればいいですよ。子供には知りたがりな時期があります。何故?何で?どうしてなの?これは何故こうなるの?じゃあこれは?・・・と質問攻めにされて、考えるうちに真実を知って、精霊に確めた事にすれば大丈夫です。精霊は嘘をつけないそうですから、分からなかったら知らない、知ってても決まりがあれば言えない、と答えてくれますよ。言えない、と言われたらまた考えて答えを探すと面白いですよ?」
と私がニッコリ笑って言うと、家の精霊達が父様を見た。全員を眺め、自分の精霊に視線を戻してからため息をついた。
「そうか、そんなに聞き出そうとした事はないから気付かなかったよ」
「私の答え、大体合っているとは思いますが・・・まだ確証がありません。お父様とお母様が今までに知っている貴族の方で2人か3人奥様がいて、子供がいる方といない方がどのくらいいるのか思い出してみて下さい。手始めにお父様の師匠の先生か、学校の先生か、確かめられそうな方に確認をとりながら真実を話して見るのはどうですか?」
と言うと父様は目を見開いた。
「・・・・そうだね、どうやって話をするか考えてみよう」
「それで、お話をする方に確かめられたら、第二夫人の方に子供がいるならば、2人目以降を貰ったのが、1年以内か、1年以上、2年とかたってからなのか。どのくらいまでなら混じるのか混じらなくなってしまうのか知りたいですね」
父様が眉を寄せるけど、私が言いたい事がわかったらしく、頷いた。
「そうだね、わかった」

と、母様がポツリと言う。
「ミラ、馬車の中でこの子が言った千年ぶり、ってこの事なの?つまり精霊がいるかいないかの理由と本当の魔力の在り方と使い方を、人は千年近く忘れていたのね」
「せ・・・千年?そ、それは忘れてしまっても仕方ないと思うよ」
父様がびっくりして狼狽えてるけど、私は首を振って答える。
「・・お父様、それは命が短い人間の言い分です。精霊にとってとっても辛い千年だったと思いますよ?期待しては裏切られて、見えなくなる、進化出来ない、契約者の死を何度も見ながら、又やり直し。私だったら人間が思い出すまで拷問してますね!」
眉を寄せて口をへの字にする。

「す、済まなかった。そうだね、精霊はいつも人の側で助けてくれているのに」
父様がしゅんとなってしまった。

「千年くらい前に、とても大きな戦争がありましたか?」

と聞くと大人3人とも、しばし考え込むが、記憶にないようだ。文献とかにも記述がないのだろうか?なので母様の火の子を見る。この子は千年と口にしたから、かなり長生きなんだと思う。それに歴史的事実だから秘密には触れないんじゃないかと、思ったからだ。ポツリと何か呟いた。母様が目を丸くする。
「り、竜族と戦争して・・・両方たくさん死んだ、と・・・。・・え?・・・せ、精霊もたくさん消えた、って・・・・」
母様が躊躇いながら言った。
「精霊も?魔素を取り込む余裕もない程、一瞬で消えたの?・・・」
火の子がコックリと頷く。

やっぱ竜はいたんだ・・・過去に。
生き残りはいるかな?いるといいな。
ほぼ不死のはずの精霊も減ったのか!その頃は人間だって魔法を使える人がたくさんいたはず・・・回復出来ない程瞬時に消える程の戦争って一体どんな戦い?・・・。

「り、竜だって?本当にいるのか?」
父様がびっくりしている。
「物語の中には出てきますけど、今はいないんですか?」
「ああ、昔はいたと言われているが、確証はないんだ。死骸や骨も見つかっていないから。・・学院では、昔大陸全土で大きな戦争があった事は教わるが、それが竜との戦いなのか?」
「それは同じ歴史なんでしょうか?・・・でも真実を知る人がいなくなったという事だけは事実ですね。お父様に、頑張っていただいてみんなに真実を伝えて欲しいですね」
と言うと、困った顔で声を詰まらせる。
「・・・頑張ってみるよ」
父様は、肩を落として溜め息をついた。

「それから、有害な白粉を発見しました」
と報告すると、父様の眉が寄る。
「白粉に鉛が使われていて、吸収して入ったら体に溜まり、石綿と同じ様に体を壊します。それで気になったのですが、食事で使っているフォークやスプーンとか銀色の食器に鉛は使われていますか?金属などの加工をするときにも使われたりするのです」
私が真剣な顔で聞いたので、3人が青ざめた。
「ち、違うと思う。あれは銀だ、銀のはずだ。結婚するとき餞別に父から貰ったんだ」
銀だったのか、それは一財産だ。父様の男爵家は意外と裕福なの?
「そうですか。じゃあうちに鉛製品とかはないですね?」
「ああ、ないよ」
「銀食器は、一財産ですね。私達の世界では銀は毒物に触ると色が変わると言われてるので、暗殺の危険がある王侯貴族はお金をかけて銀器を揃えていたんです」
「銀にそんな機能があるなんて聞いた事がないな。ここでは金や銀は錆びたりはしないので食器や宝石に使われたりするんだ」
「え・・・この世界の銀は性質が違うんでしょうか?」
「わからないが、どうなんだろう?」
取りあえず、うちに鉛製品は無いらしい。古代ローマ人は鉛の杯で命を縮めていたし、ワイン好きのベートーベンも鉛入りの甘いワインを愛好していたので難聴になったという説が有力らしいし。白粉がある以上、警戒しておいた方がいいよね。
「もしこの世界に少し鈍い色の銀の食器があったらそれは使っては駄目ですよ。それは鉛製です。甘味のあるワインとかも、お砂糖入りじゃない限り、鉛を溶かして甘く感じるようにしているかもしれないので飲まないで下さい」
と忠告すると母様が、狼狽える。
「甘いワインは駄目なの?」
あるのか?なんて事だ!石綿もそうだったけど、少しずつ悪い物が入り込んでるよね、この世界。
「甘いワインがこの世界にあるんですか?お砂糖を入れたワインなら太るだけなので構わないんですが、鉛だったらまずいです。前にお母様が、お砂糖は高いから伯爵家でも甘い菓子は滅多に食べられないと言っていたから大丈夫だと思ったんですが。それは砂糖じゃないかもしれないですね。いつどこで、飲んだんですか」
「昔、晩餐会と・・夜会で殿方に勧められて・・・」
「私も晩餐会で甘くて美味しいワインを飲んだ事があるよ」
母様が頬に手を当てて困った顔で首を傾げた。父様も悲しい顔になってる。
「じゃ、ほんの数回で、何年も前ですね?」
「ああ。もう6~7年前だね」
「それなら、5年以上たっているので、体を壊す程の量は体に残ってないと思うので大丈夫だと思います。まあこの世界には魔法もありますからヒールとか頻繁に使っているなら更に減っているとは思うので」
父様も母様も少しホッとしたようだ。
「でも加工に使うのは仕方ないとは思うんですけど、そんなに昔から鉛が使われているのはマズイですね。しかも晩餐会から広がっているなんて、貴族全てが鉛中毒の可能性もあります。いろんな所が少しずつ悪くなるので、たぶんすぐにはわからないです。調べる機械なんてここにはないし、わかった時にはもう治せないくらい悪くなっている人が多いかもしれないですね」
「どうしたら治せるんだ?」
「体の中を細かく調べられないので、一ヵ所ずつ治しても治療した事になりませんから、魔力をもっとたくさん増やして頭の先から足の先まで、骨も臓器も全てに魔法を掛けられないと治せないでしょう。差し詰めハイ・ヒールとかエクストラ・ヒールぐらいの威力じゃないと駄目じゃないかと思います。もう1つの可能性は・・・」
「ま、待て、ミラ!今なんと言ったんだ?」
「は?今?なんですか・・・?」
何かスゴイ事言った?父様がとても焦っている。よく見ると母様も目が泳いでる・・?

「な・・何故ライトヒール以上の魔法を知っている?」

あちゃ!・・・・・口に手を当てる。たぶん今度は私の目が泳いでいる。でも地球のたくさんのメディアからのアイデアで、憶測でしかないんだけど。

「これは私の憶測なので、本当に知らないですよ、精霊からも聞いてないですし。前の世界はいろんな情報がたくさんあって魔法が使えない世界だったから、魔法が使えて冒険出来る空想の物語がたくさんあったんです。そしてその想像の物語ごとに面白い呪文がたくさんあるんです。例えば治す呪文で〇イミならその上が〇ホイミとか、〇アルならその上は〇アルラとかです。ここでは最初がヒールなのでヒールに基づいて、付け足すならこうじゃないかなぁ?という上級魔法の予測を私が立てているだけなので本当にこの呪文が発動するかはまだ試してないですし・・・」
と説明すると父様と母様は呆気に取られた顔をしたけど、そのあと言った。
「その予測した呪文でいい、教えてくれ。試してみたい」
ちょっと一瞬固まってしまった。マジ?ほんとにやる気なの?
「・・・そうですか。それじゃあ・・・ハイ・ヒール、はかなり体の広範囲を治してくれると思います。エクストラ・ヒール、はたぶん無くなった手や足を戻してくれるぐらい強力じゃないかと思います」
「け、欠損を治すのか?」
3人とも未知の呪文に驚愕している。いや私だってあくまで仮定で話してるからね?
「そうですけど、もしかしたら、という仮定ですよ。この呪文が合っているなら普通に発動しますけど、自分のレベルより上だから、かなり魔力が減りますよ。更にこの世界の呪文、精霊が持っている呪文じゃなかったら自分で作った呪文になるので、普通より更に魔力を使いますし、どのように治したいか頭で想像しながら魔法を掛けないと発動しないかもしれませんから、気を付けて精霊に助けて貰って下さい。他にも試す気があるなら、エリア・ヒールとかもありそうな気がするんですけど」
「エリア・ヒール・・・?」
「自分の近くにいる人全部を治す呪文ですかね?例えば、辻馬車の事故や戦争とかで、1度にたくさん怪我人が出た時、1度にライト・ヒールぐらいの魔法を掛けられる呪文です」
「それは・・・在ればいいと思った事はあるが、本当にあったのか」
それはあるんじゃないか?たぶん。ないのかな?
いやでも、在ればいいと思った時点で自分で作ろうよ!
「それは、発動すれば、ですね。その上に、エリア・ハイ・ヒールが使えるんじゃないかと想像してるんですけど、自分の魔力量によって治せる範囲が変わるし、自分が枯渇したら危ないので慎重に頑張って下さい」
「ああ、わかった。もっと魔力を増やさないとな」
「そうね、私も頑張ってみるわ」
2人ともやる気に満ちている。あ、そうだ、混じるのも試してみて貰うか?
「あの、さっきのお話の混じるというのも、魔力がどうなるのか、もっと増えるのか試してもらえますか?」
「「・・・え?」」
お、ハモった。
「1人だけしか魔力が混じりにくいという話しです。たぶんお父様とお母様はお互いしかいませんから例えば、いつも魔法を使う手を合わせて、今日はお父様がお母様に自分の体内魔力をあげる。そしたらお父様の中の魔力は空になってそこに魔力が増える。増えたら次の日、今度はお母様がお父様に体内魔力をあげる。そしてお母様の魔力が空になって魔力が増える。それが本当に正解なのかどうか試してもらえますか?」
父様と母様が嬉しそうに見詰め合っている。とっても微笑ましいラブラブ夫婦だ。ちょっと羨ましい。私も頑張ってイイ人見つけたい。
「わかった。それはもちろん試してみるよ」
父様と母様がニッコリと笑った。


「それから今日、私と同じ転生者の稀人に会いましたよ」
私の報告に父様は目を丸くした。


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