不本意な転生 ~自由で快適な生活を目指します~

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7歳

 45、初めての外

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 オママゴトという遊びは偉大である。

 我が輩は石である。名前など有るはずが無い。

 諸姉諸兄諸君。
 お察しの通りだ。
 もはや何も言うまい。

 危うく隣近所の石に名前を付けて、一人オママゴトに興じるところであった。
「おはよう、マイク!」「おはよう、エリー! 今日も良い天気だね!」「ハハッ!」
 この遊びは危険だ。
 いよいよ、頭がおかしくなる。
 否、おかしくなる頭は、もうないのだった。

 さて、ここまで来たら諦めることが上手くなってきた。
 無理なものは無理。
 この言葉を生前の自分に使えていたら、もう少し楽な地獄に逝けたのだろうか。
 やれば出来る、は試さなかった。
 やらなくても出来ることを探していたのだ。
 その結果、ニートをやっていたわけだが。

 魂の知覚の論説は概ね正しかったらしい。
 魂を意識した世界への知覚は、少しずつ広がりを見せていた。
 周囲の石、樹木、川。
 鳥、動物、魔物、ドラゴン。
 全て、魂が存在する。
 この知覚が、我が輩の世界を外へと膨らませていった。
 残念ながら、我が輩の魂の呼びかけに答える魂は無かったが、魂同士は繋がり、広がってくれたのだ。
 知覚の共有とも言うべき現象である。
 嗚呼、我が輩は唯の石であるが、決して世界に拒まれてはいなかった。
 人間の身体なら、この感動に噎び泣いたことだろう。

 やがて、我が輩は人間の集落を知覚する事に成功した。
 一言でいうなら中世の文化水準であろうか。
 端的に言えば、電気が無い。
 ただ、それだけである。
 家の作りは、木造に土壁、茅葺き屋根と見受けられる。
 田畑が見える。
 農村のようだ。
 我が輩の推論ではここは地獄だというのに、随分と様になった村だ。
 今は春先なのだろうか、田んぼに水を張っている。
 我が輩が元日本人だから、日本風な異世界に来ているのだろうか。
 それとも、我が輩の魂は現代日本の過去に遡ったのだろうか。
 否、それは有るまい。
 夜の月が証明している。
 この世界の月は、常に複数浮かぶのだ。

 同時に我が輩が唯の石であることを、改めて自覚させられた。

 男がいた。
 女がいた。
 少年がいた。
 少女がいた。
 老人がいた。
 老婆がいた。
 牛がいた。馬がいた。犬がいた。猫がいた。
 ネズミがいた。虫がいた。草花があった。

 誰一人、何一つ、我が輩の存在に気付くことは無かった。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

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