悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第1章 悪役令嬢の帰還

12、シダール王国のビクトル王子

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シダール王国のビクトル王子は隣国アッカルド王国から手紙を確認した側近のアーベルから報告を受けていた。

「そうか、残念だがダルトリー子爵は我が国に来てくれないということか?」

「そうですね。結構乗り気に感じたんですけど、、違っていたようです。」

「断ってきた理由はなんだ?」

「何でも新しい王太子殿下が期待の星らしいです。もう少し王太子殿下の元、アッカルドを立て直したいとの事です。」

「ああ、初の女性王太子だったな。確か、、、マチルダ殿下ではなかったか?」

「いえ、クローディア殿下です。ほら随分前に辺境の国に追放された王弟一家の娘ですよ。」

「ローレンス王の叔母のマチルダ殿下が王太子ではない?王太子は、、、クローディア、、、。」

「はい、確かそう書いてあります。まあ、あの国は小さく、大した産業も無いので、あまり注視していない国ではあるのでどうしてなのかはわかりませんが、、。何か問題でもありましたか?」

「い、いや、、。」

ビクトル王子は内心穏やかではなかった。なぜなら、クローディアに十年前、自分の知る歴史を教えたのは他ならぬ自分だったからだ。
ビクトル王子はこのシダール王国の第三王子だった。優秀で健康な兄が二人もいるので結構のんびりと過ごしてきた自覚があった。
お陰で来年三十歳になるのに婚約者さえいないのだ。
家族はいつまでもフラフラするビクトル王子を早く落ち着かせようと何度もお見合いさせるほどだった。
そんなビクトル王子には皆には言えない秘密があった。
それは不思議な記憶があることだった。
といってもこのシダール王国の事は記憶になく、あるのは隣の小国アッカルド王国の事ばかりだった。
この奇妙な記憶が何処からきたのか?誰の記憶なのか?いつから認識していたのかは定かではないがビクトル王子の頭の中に確かに存在するものなのだ。
初めは物語のようだと思い、夢でも見たんだと考えていたが、地理の勉強をしたことによってその国が実在すると分かったのだ。それからは興味が湧いてきて自分で調べたり、家庭教師から説明を受けたり、その隣国からの外交官に話を聞いたりしたのだった。
そうすると、段々怖くなった。
何故ならその記憶にある同姓同名の人物が確かに存在しているのだ。しかも、一人ではなく何人もだ。
王の名前から王太子、王太子の婚約者までが同じ名前で同じ立場だった。
しかも、ビクトル王子の記憶ではその時点での出来事は序章的な部分であり、その後アッカルド王国が滅亡するまでの十五年間の記憶があったのだ。まるで未来を知っている様だった。
ビクトル王子の興味はアッカルド王国に注がれていった。それを見兼ねた父王がアッカルド王国に視察に行く機会を設けてくれた程だった。
ビクトル王子は視察を前に夢に見ていた人物に会えるのが楽しみでたまらなかった。
そして、その時になって結構断片的な記憶を初めて時系列に並べて年表に書き出してみた。頭に浮かんだ出来事で何年に起こったことがわかるものを軸としてこれは前、これは後と並べるのだ。
すると、今まで物語の様に感じていた人物が本当に生きていて、ビクトル王子はこの後この人物達がどうなるのか知っていることに罪悪感を感じたのだった。
特に王太子の婚約者のクローディアは酷かった。
身元不明の怪しい女に婚約者を奪われ、謂れのない罪を押し付けられ、もっとも悲惨な場で婚約を破棄され、追放されてしまうのだ。
更に国を追われ、家族からも嫌われ、何と最後は二十歳も上のチビデブハゲの後妻になるのだ。
これには流石のビクトル王子も可哀想だと思ってしまった。
だから、ビクトル王子は賭けに出た。
もし、今回の視察でこの王太子の婚約者が気に入ったら、彼女に関わる滅亡までの出来事を分かる範囲で、事細かにまとめて渡してみることにした。適当に思いついた名前で予言者として。
それを読んで彼女が得体の知れない女と戦うのも良し、さっさと婚約を破棄して他の男と一緒になるもよし、信じずに記憶通り追放されるのもしょうがないと思っていたのだ。
視察の際開かれたパーティの席で見た彼女クローディアは不幸そうだった。惨めだった。
それでも婚約者にエスコートもされず父につれられてきたクローディアは息を呑むほど美しかったのだ。
漆黒の巻き毛と透き通る青い瞳に胸が高鳴った。
一目惚れと言ってもいい。
だから、ビクトルは挨拶した隙に腰のリボンに用意していた手紙を忍ばせたのだった。
なんとかクローディアの未来を変えたかったのだ。
その後の一年はアッカルドの動向を注意深く観察していた。歴史が変わるのではないかと期待していた。
しかし、その様な奇跡は起こらなかった。
クローディアは記憶通り、良い様に扱われ都合よく悪者にされてアッカルド王国を家族もろとも追放されたのだ。
その話を聞いてビクトル王子は隣国への興味をなくした。クローディアのいないアッカルドが栄えようが滅びようがどちらでも構わないと思った。
そして、運命を変えることが出来ないのなら、この後に起こることはクローディアが自暴自棄になって、チビデブハゲの後妻に収まるのだ。そんな報告など受けたくなかった。
そうしてその後十年間はアッカルド王国はその他の国の一つとなり、滅多に話題にも上らなくなっていた。それでもたまに昔色々と話した外交官と会ったり、スカウトしたりはしていたが、まさか十年ぶりに聞いたクローディアという名前が自分の思ってもみなかった形だった事に驚きを隠せなかった。

(クローディアだと!!なぜだ?なぜクローディアが王太子なんだ?王位継承権は放棄したんじゃないのか?何処で歴史が変わったんだ?何が起こったのだ?一体、、何が、、、。)

ビクトルの頭の中にあのパーティで見た傷心で庇護欲を掻き立てる美しいクローディアの面影が浮かんでは消えていった。

「アーベル。」

「はい。どうしました?」

「すまないがアッカルドの事を調べてくれ。特に新王太子について事細かくな?」

「え?アッカルドですか?」

「ああ。」

「わかりました。なんだか十年前の様ですね?十年前もそう言われていたのを思い出しましたよ。」

アーベルはそう言って笑ってビクトル王子の願いを聞き届けてくれた。
ビクトル王子は感謝を込めてアーベルを見ると頷いた。

「ああ、そうかもしれないな。よろしく頼むよ。アーベル。」

ビクトル王子は早る気持ちを何とか抑えてアーベルからの報告を待つことにしたのだった。
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