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第1章 悪役令嬢の帰還

25、わたくしは王太子です

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「セドア共和国のベルンハルトです。お二人とも素晴らしい解決策だったと思います。私は隣国の王太子としてどちらの方が治める国が隣国として相応しいかという観点で判断させていただきます。」

ベルンハルトはそう言うと壇上の中央に立って聴衆を見据えた。

「私はまだまだお若いが母上殿と二人三脚で解決策を出されたリカルド殿下が相応しいと思います。クローディア様の解決策は余りにも変化が強すぎます。貴族への配慮もなければ、いざという時に国民を守れませんよ。」

そう言ってリカルドとマチルダに頭を下げると席に戻った。
続いてシャルロッテが立ち上がり中央に移動した。

「わたくしはクローディアお姉様の解決策を支持致します。理由は色々ございますがお姉様の解答が素晴らしいからですわ!!」

そう言ってシャルロッテは淑女の礼を取ると席に戻った。
最後にビクトル王子が立ち上がり中央に立った。
三人の内二人の意見が分かれた今このビクトル王子の判断で結果が決まる。その事に気付いた聴衆は、ザワザワし始めた。そんな聴衆の気持ちがわかっているのかいないのか、ビクトル王子は淡々と話し始めた。

「私は経済の解答はクローディア殿、政治の解答はリカルド殿が優れていると思う。クローディア殿の貴族とは別に国民へも温泉を開放するという考えは素晴らしい考えだ。そして、リカルド殿の言う通り王と王太子の間には無用な争いは無いに越した事はないのだ。」

ビクトル王子は、一旦言葉を切ってから再び話し始める。

「そして、最後の司法はクローディア殿を支持する。何故ならば王位継承者はその権利と共に常に危険にも晒されている。それは私自身が王位継承権第三位なのでよくわかる。この財産分与が行われた時点でクローディア殿は既に王位継承権第二位、それならば国として必ず守らねばならないと思う。その為にも財産は正当な対価として公爵が継承し適切に使う必要があったと思う。
よってこの審査はクローディア殿が王太子に相応しいと判断した事になる。」

ビクトル王子の言葉に一瞬しんと静まり返ってから主に三権の要職についているも者達から歓声が上がった。

「ローレンス!!!これは一体どういう事なのです!!!話が違うじゃないの!!」

マチルダは立ち上がるとローレンスに向かって怒りを爆発させた。

「お、叔母上、、。」

「貴方が王太子になれるというからわたくしはここに来たのですよ!!こんな聴衆の面前で恥をかかせてリカルドが可哀想ではないの!!」

そういうとマチルダはリカルドの手を引いて立ち上がった。

「もうこんな国最悪よ!!リカルド帰りますよ!!」

マチルダとリカルドが壇上から降りようとした時、司法長官のヨハンが二人を呼び止めて一言話した。

「マチルダ王女、リカルド殿下、お待ちください。」

「なんなのよ!!」

ヨハンは二人に向かって一礼すると一枚の紙を取り出して見せた。

「法によりますと今回の審査に参加して負けた場合はご自身の王位継承権は破棄される事になります。残念ながら、マチルダ王女とリカルド殿下はお二人揃っての敗北となりますので、、こちらの王位継承権放棄の書類にサインをお願いします。」

「そ、そんな、、わたくしはそんな事聞いていないわよ!!」

「おや?そうでしたか?しかし、残念ながら此方は法律で決まっております。逆にお聞きしたいのですがこの様な聴衆の面前で王太子に相応しくないとなった方が王位継承権上位にとどまれる訳がありません。」

マチルダは顔色を青くしてローレンスを睨みつけた。ローレンスも知らなかったらしくカーティスとマチルダを見比べてアワアワしていた。
その様子を呆れたように見ていたクローディアは安堵のため息をついていた。

「どうぞ!サインを!!」

意外にも強い口調で書類を突きつけるヨハンを皆、固唾を飲んで見守る。カーティスはこの条項を知ってはいたが、そんな話をすればマチルダ達が参加しないかもしれないし、どうせクローディアが負けると高を括っていたのだ。それが予想に反してビクトル王子がクローディアに軍配をあげたので何も言えなくなっていた。

「ハーヤネン長官、少し良いかしら?」

クローディアが一歩前に出ると口を挟む。

「何でございましょう?クローディア王太子殿下。」

「その方達の王位継承権はそのままでいいわ。」

「そう言われましても、、、それが規則でございます。」

「それでも、わたくしには子供もいませんし、ローレンス王もまた然り。只でさえ王位継承者が少ないのです。今ここで放棄されたら次世代がいなくなりますわ。最悪でもリカルド殿下には残っていただかないとなりません。」

クローディアの理路整然とした主張に流石のヨハンも何も言えなくなり暫く考えると頷いた。

「わかりました。では、今回はマチルダ王女が主導権をもってこの審査に参加したとしてマチルダ王女のみ王位継承権放棄といたしましょう。リカルド殿下には一つ繰り上がり王位継承権第二位といたします。宜しいですか?」

クローディアは頷くとマチルダとリカルドを見た。

「叔母様、リカルド、王太子はわたくしクローディアですわ。諦めて下さい。」

「、、、、このアバズレが!!貴方がビクトル王子に取り入ったのでしょう!!恥ずかしくないの!!」

マチルダの避難がクローディアに向かって放たれると直ぐに騎士団がやってきた。流石に王太子への暴言は容認できないのだ。

「なんなの?!わたくしは王女よ!!下がりなさい。」

「叔母様、それでは此方にサインしなさい。それで王太子に対する不敬罪は不問としてあげますわ。」

「ななななな、何という事を言うの!!あんなに可愛がってあげたのに!!」

「あら?それとも先程リカルドが話した通り王位継承権を叔母様が放棄するんですもの。全財産を返納なさる?」

クローディアの冷めた声が会場に響く。

「そ、そ、そ、それは、、、。そうよ。結局は貴方が言った事が正しい解決策なのでしょう!リカルドの王位継承権が残るのだから財産はそのままでリカルドの為に使うわよ!!わかったわね!!」

それだけ言うとマチルダはヨハンの書類にサインしてリカルドの手を引いて会場から逃げるように去っていった。
保身のためとは言えクローディアの案まで支持したのだからもう何も言えまい。
その後ろ姿を見ながらクローディアは会場に向かってにっこりと微笑んだ。

「皆さま、わたくしが王太子クローディアです。よろしくて?」

すると貴族ではない各三権の要職にあるものからは大きな拍手が起こった。そんな中多くの貴族は苦虫を噛み潰したような顔をして壇上のクローディアを見ていた。
その悔しそうな顔をみてクローディアは更に婉然と微笑むのだった。



「カ、カーティス!!!どうするのだ?!クローディアが王太子のままになってしまったではないか!!」

ローレンスの瞳が不安そうに揺れた。

「落ち着いてください。もう、これはしょうがないです。もう覆すことは出来ませんよ。公には、、ですが、、。」

カーティスが静かにしかし怪しく囁いた。

「カーティス?」

「幸いリカルド殿下は残りました。王太子の不慮の事故など幾多もあります。」

「カ、カーティス!」

(泣いて謝って懇願させるまで精々王太子としての栄華を満喫していなさい。クローディア、、)

カーティスの瞳が危険な色を帯びてクローディアを見つめていた。
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