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第2章 クローディアとサオリ

30、わたくし、王子とお話ししました

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「今すぐ?」

「はい。早急にお会いしたいとビクトル王子が仰っております。」

「そう、、きっとお怒りよね。もう三日も部屋から出られないんだもの。わかったわ。すぐに伺うと伝えて頂戴。」

「はっ!」

そう言ってダルトリーはクローディアの執務室から出ていった。
この三日はなんとかローレンスにビクトル王子を解放する様に訴えて来たが、中々聞き届けられずにいた。
その事はダルトリーを通してビクトル王子に伝えていた。
やはり三日も経つと直接の文句が言いたくなるかとため息を吐いた。
只でさえビクトル王子には嫌われているのだ。もう罵詈雑言は我慢しようと腹を括ってクローディアはビクトル王子の部屋を訪れた。
部屋を監視している騎士を退けて前室に入りダルトリーに頷いてみせた。

「ビクトル王子、クローディア王太子殿下がお越しです。」

ダルトリーの声が部屋に響いた。

「あ、、ああああ、ああ。通してくれ!」

ビクトル王子の相変わらず冷たく素っ気ない声にクローディアは覚悟を決めて部屋に入った。

「ビクトル王子、この度はご不便をお掛けして誠に申し訳ございません!!」

クローディアは、そう言って深々と頭を下げた。
ビクトル王子とアーベルは顔を見合わせてからクローディアに話しかけた。

「クローディア王太子殿下、ビクトル王子の側近のアーベルでございます。以後お見知り置きください。」

「はい。アーベル殿。」

「そして、今日は少々困った事がありましてクローディア様にお願いがあるのです。」

クローディアは顔を上げてから、少し首を傾げて繰り返した。

「お願い、、ですの?」

「はい。詳しくはビクトル王子から説明があります。王子?王子!ビクトル王子!」

するととても緊張した面持ちでビクトル王子がクローディアを見て話した。

「ああ。まぁ、そこに座れ。」

ビクトル王子はクローディアにソファセットの端を進めて自らは再奥の椅子に腰かけていた。その距離およそ10メートルだ。クローディアは表情を変えずに勧められた場所に腰かけてビクトル王子の次の言葉を待った。

「あー、あのな、、少々困った事になった。」

「はい?」

「まぁ、わかっていると思うが私は本国シダールとは情報のやり取りをしている。」

「はい。」

「まぁ、その、、、シダールの家族はそれはそれは立腹していたのだ、、。」

「それは、、本当に申し訳ございません。」

「まあ、その、、な。今にもこのアッカルドに攻め入る勢いなのだ。」

クローディアは口惜しそうに顔を下に向けた。もし本当にシダールが攻めて来たらほんの数時間でこの国は終わる。

「そ、、そうで、、すか、、。」

「しかし、流石に成人した息子を助ける為に一国を滅ぼすのはやめてくれと頼んでいる。」

「ありがとうございます。」

「すると、、シダールからアッカルドを信頼する確証が欲しいと言われているのだ。」

「確証でございますか?」

「ああ、候補は三つだ。
一つ、アッカルド王からの正式な謝罪と即時解放およびシダールへの忠誠
二つ、私と同等の人質の送致
三つ、将来的な約束
この三つの中から選べと言って来ている。」

クローディアは頭の中で候補の三つについて考えた。
一つ目は無理だ。こんなにクローディアから何度も話しているのにローレンスは頑として首を縦に振らない。
二つ目は確かにアッカルドでビクトル王子を軟禁しているのだ。人質交換は妥当な考えだが、今現在の王位継承権第二位はだ。マチルダ含めて首を縦には振らないだろう。
最後の三つ目は、、、何を言っているのかがよくわからない。

「あの、ビクトル王子、三つ目の将来的な約束とは具体的に何を指しているのでしょうか?」

ビクトル王子は心なしか顔を少し赤らめて早口で宣った。

「そ、そなたと私の婚約だ。」

「、、、え?!」

「私がこの国の王太子配となる約束だ。」

「あの、、わたくしとビクトル王子がでしょうか?」

「そ、そう言っている。私がこのアッカルドの将来の王配となるのならシダールは口も手も出さないということだ。」

クローディアはビクトル王子から目を離すことが出来なかった。言っていることは確かにその通りで、ビクトル王子がこの国に婿入りするのなら今回の事は内輪揉めで済むのだ。国際問題にもならない。しかし、、この王子は自分を嫌っている。そんな人との婚約にクローディアはかなり躊躇していた。しかし、三つの候補の中では唯一クローディアの采配で決められる事でもあった。

「ゆっくり考えよ。返事は明日でもよい。」

そう言ってビクトル王子が寝室のドアに向かって歩き出した。クローディアは慌てて立ち上がると大切な質問をした。

「ビクトル王子!お待ち下さい。あの、王子はもし、わたくしが三つ目を貴方との婚約を選んでも宜しいのですか?」

クローディアは国の為とはいえ、人を犠牲にはしたくなかった。

「、、かまわない。どうせ王族の結婚とはそういうものだ。」

それだけ言うとビクトル王子は部屋から出て行ったのだった。

「王子、、、。」

後ろからアーベルの呆れたような呟きが聞こえたがクローディアはその事には頓着せずにビクトル王子の返答を反芻した。
そう、王族の婚姻は国の方針に沿う。これは常識だ。だから戦争を回避する為に婚約するのは間違っていない。いやそうしなければならないくらいの案件だ。
クローディアはそう考えるとその場で覚悟を決めた。

「アーベル殿、ビクトル王子に、お伝えください。わたくしは三つ目の提案をお受けします。そのようにシダール王国にお伝えくださいと。」

アーベルはクローディアの状況判断の速さに舌を巻いた。冷静に考えればクローディアの選んだ三つ目が正しいし、シダール王もビクトル王子とアーベルの手紙を読んで息子の恋を応援するつもりでこの三案を言ってきたのだ。
三つ目以外をクローディアが選んだらシダール王はこの国を併合する為に動いたはずだった。何故ならビクトル王子を捕らえた時点でいくら謝っても信頼に足る王ではないし、ビクトル王子と同価値の人質などこの国には存在しないのだ。
アーベルは正しい答えを最速で出したクローディアに心からの臣下の礼を取った。

「承知いたしました。クローディア様。その旨本国に直ぐに伝えます。婚約式等については追ってお知らせいたします。」

「わかりました。よろしくお願いしますわ。」

クローディアは、そう言ってビクトル王子の部屋を退出した。
そして、その足でローレンスにこの事を伝えるために王の執務室に向かった。
流石に王太子の婚約には王の許可が必要なのだった。

「滅亡危機からの婚約者、、、。凄いわよね。」

クローディアは自嘲気味に自らを笑った。
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