悪役令嬢だったわたくしが王太子になりました

波湖 真

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第四章 運命との決別

65、カーティスの後悔

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カーティスは森を彷徨っていた。初めて自分の理解が及ばない事が起こったのだ。ある種のパニックを起こして走り回っているといっても過言ではない。

「き、消えた!!ローレンスとサオリが、、消えた!!どこだ!どこに隠れたのだ!!ローレンス!!!」

二人を探してかき分けた小枝や草が身体中に引っ掻き傷と泥をつける。服も敗れ誰も見た事がない程情けない自分の姿さえ自覚できない状態だった。

「何が起こったのだ?二人はどこだ?何故私には何もわからないのだ?理解できない!理解出来ない!!!」

どんなに走り回っても二人は見つからずそれでも探す事をやめられなかった。
更に探している間にあの広場にも帰れなくなった。確かにこの辺りにあるはずの場所はただの草むらになっているのだ。その有り得ない光景にカーティスの思考が止まる。

「わ、わ、わ、わ、ワーーーー!!」

叫び出して闇雲に走っていると突然草むらから飛び出して倒れ込んだ。その時突然クローディアの声が聞こえた。

「カーティス!!」

カーティスは何故ともどうしてとも考えずにその声の方に顔を向ける。

「一体どうしたのです!!」

カーティスは這う様にクローディアの足元まで近寄るとその足に縋る様に手を伸ばす。

「ク、ク、クローディア、、、クローディア、クローディア!クローディア!!クローディア!!!」

そのカーティスの手を虫でも踏みつけるようにビクトル王子が思いっきり踏みつけた。

「煩い。」

「ビクトル様、、、。」

クローディアが少し顔を引きつらせつつもカーティスに話しかける。

「カーティス!わたくしを見なさい!!」

ゆっくりとカーティスの顔がクローディアを見上げた。

「ローレンス王とサオリ王妃はどうしたのです!何があったのかを答えなさい!!」

その言葉にカーティスの土色の顔色が青く変わった。

「き、き、き、消えた、、。」

クローディアが怪訝そうに聞き返す。

「消えた?」

カーティスがガバリを体を起こそうとして未だに手を踏みつけているビクトル王子を睨み言葉を続けた。

「消えたんだ!!あの二人が目の前で!!霧の様に!!」

「まさか!!」

「本当なんだ!!信じてくれ!!いや信じて下さい!!クローディア様!!」

あまりに真剣なカーティスを見下ろしてビクトル王子とクローディアは顔を見合わせた。

「本当なんです。私は直ぐに探したんです。なのに誰もいないのです。消えた広場も無くなっていて、、、不思議な光りもないのです。クローディア様!クローディア様、、信じてください!!この哀れな私を信じてください!!もうクローディア様しか、、頼るものはいないのです!!」

カーティスがクローディアに懇願を続けた。
ブツブツと呟いているカーティスはパニックを起こしていると考えられたが森に入って調査するのは難しいのだ。
クローディアはハァと息を吐き出してカーティスなど見えないかの様に踵を返した。

「クローディア様!!!」

カーティスに大声で呼ばれたクローディアはチラリと振り向いて言い放った。

「カーティス、お前はこの国を危機に陥れました。ローレンス王とサオリ王妃の失踪に加担し、隣国に侵入したのです。その責任はお前の命では償えない程のものです。覚悟なさい。」

そういうとクローディアは軽く手を上げた。すると待機していた元ローレンスの近衛騎士達がカーティスを拘束した。

「何故、、、何故、、、何故!?クローディア様、貴女は私が私が私が助けてきたはずだ!!貴女は私に跪き、泣きながら謝る筈だ!!私に助けて下さいと、、、いうはずなのだ!!」

カーティスが喚く常軌を逸した発言に周りの者が変質者を見るような目を向ける。
クローディアはカーティスの前に戻りその顔を無表情で見つめた。

ドゴッ

「グハッ!!」

クローディアの旅装の太いヒールがカーティスの顔面を踏みつけた。

「この言動は王太子としてではなく、わたくし一個人の物です。皆、耳を塞ぎなさい。目を閉じなさい。」

「グ、、。」

地面に這いつくばったカーティスから声が漏れる。

「カーティス、わたくしはお前に助けられた事もお前に本心を見せた事もない。わたくしは何があってもお前に縋ったり、お前の前で泣いたりはしない。
穢らわしい。控えよ!!」

そういうともう一度カーティスを踏みつける足に力を込めるとそのまま蹴り上げた。

「ゴハッ、、、、ク、、クロー」

「わたくしの名を呼ぶことも許さぬ!」

それだけ言うとクローディアは踵を返して今度こそカーティスを捨て置いた。
ビクトル王子がクローディアの後を追って話しかける。

「大丈夫かい?クローディア。」

「ビクトル様、お見苦しい所をお見せ致しました。あまりの言葉に十年分の恨みが爆発してしまいました、、、。」

「何のことかな?耳を塞いで目を閉じたから何もわからないなー。」

クローディアはビクトル王子の少しおどけた様子にほんの少しだけ笑みを漏らした。
そんなクローディアの肩をそっと抱いて耳元で囁いた。

「君は当然の事をした。それどころか私に殺せと言っても良かったんだ。君は十分に優しすぎるよ。」

「ビクトル様、、、ありがとうございます。そうですね。それも良かったかもしれません。でも、ローレンス王がいない今、今回の件の責任を取る人間が必要なのです。」

淡々と正論を話すクローディアにビクトル王子はやはり王の器はクローディアだなと一人納得していた。
そうしてその日は森から迷い出てきたローレンスの側近を数人捕らえたりして過ぎていったのだった。
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