昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真

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「貸せ」
今まで全く会話に参加してこなかったパパがジェームスの手から手紙を奪う。
「おい! これはアンジュちゃんに持って来たんだぞ」
パパはそんな言葉は気にせずに、手紙に手をかける。
しかし、一旦その手を止めると私を見た。
一応、気にはなるのだろう。
私はパパに向かって手を差し出す。
「貸して下さい。それはママ宛の手紙です」
私はパパの顔を見てハッキリと言う。
パパには遠慮せずに話すことにしたからだ。
パパは私の顔と手紙を見比べると、はぁというため息と共に手紙を私の手に乗せた。
「おっ! やるねぇ、アンジュちゃん」
私はジェームスの言葉ににっこりと微笑むと手紙を目の上に翳した。
なぜか、ママは手紙を受け取ると必ずそうするのだ。
なんとなく真似てしまう。
中には便箋が入っているようだ。
私は四人の視線を感じて、少し迷ったが手紙を開けることにする。
ママがいない時はそうしていたので特に罪悪感はない。
だけど、みんなに言うのはどうなんだろう。
ママは許してくれるかしら?
そんなことを考えながら、手紙の封を切った。
「え?」
切った途端、中からドス黒い煙のようなものが漂ってくる。
「ジェームス!!」
「おう!」
私は叫ぶ間もなく、ジェームスに抱えられて馬車から下ろされる。
私に続いてお兄様達もアタフタと馬車を降りた。
そして、パパとジェームスが馬車に残った。
「パパ!!!」
「アンジュ! 大丈夫か?」
「アンジュ!」
私の体をお兄様達が抱きしめるが、私の目はパパしか見えない。
あの黒い煙はあっという間に動物のような形になる。
「……黒魔法」
「まじか? そんな馬鹿な……」
お兄様達の呟きに私の胸はドキドキしてくる。
まだ、よくわからないが確か黒魔法は禁止されているはずだ。
なんでも人を傷つける魔法だから。
それが目の前に現れたのだ。
パパとジェームスはゆっくりと馬車を降りる。
そして、私たちを背にして黒い怪物と対峙した。
「パパ……」
「大丈夫だ。アイツは強い」
ネイトは私を抱き上げると、後ろに下がる。
「そうだよ」
サイラスも一緒だ。
そして、パパは持っていたステッキをバシッと一振りする。
すると、今まで木のステッキだったものが、スラリとした剣に変わった。
「え?」
私は驚いたが、他の誰も驚いていない。
そして、パパは剣になったステッキを構えた。
その動作には無駄がなく、見ているだけならば、綺麗だと思えるほどだ。
そして、パパの隣ではジェームスも腰に刺していた剣を構える。
馬車を護衛していた騎士達もやってきた。
「お前らは子供達を守れ!」
ジェームスの声に騎士達が返事をすると私達の周りを囲む。
「オスカー! 行くぞ」
「ああ」
二人が声を掛け合うと、手にしていた剣がうっすらと光りを帯びる。
「聖魔法だ」
「黒魔法に一番効くんだよ」
聖魔法を帯びた剣を黒い物体に向かって、振り下ろす。
ザンっという音と共に、黒い煙から出来た動物が消える。
「すごい……」
「でしょ? 聖魔法を剣に纏わせるのはかなりの使い手だけなんだ」
サイラスは得意気に話す。
「はい! パパは凄いんですね」
私は拍手するように手を前で合わせるが、その手はネイトに止められた。
「凄くねえよ。俺だって成人するまでには必ず成功させてみせるぜ」
嬉しそうなサイラスとは対照的にネイトは悔しそうに話す。
パパとジェームスは馬車の中を確認してから、私達の方へ歩いてきた。
「大丈夫だからねぇ」
そう言ってジェームスは私を抱き上げる。
「怖くなかったかい? アンジュちゃん」
「大丈夫です。でも、なんで手紙から?」
「んー、そうだね。君のママはヤバい奴らに狙われているとか? 何か知ってる?」
「狙われる? そんなことありません。ご近所さんとは仲良くしてたし、結構引越したので、恨まれるほど長く付き合ったこともないし」
私が答えるとなぜかジェームスとパパが顔を見合わせる。
「どうかしたんですか?」
「いや……何事にも理由があるからね。はぁ」
「読め」
ジェームスに抱っこされたままの私の目の前には先ほどの手紙が差し出される。
「えっと、中身ってあるんですか?」
「もちろん。大体こういう黒魔法は既にある手紙に仕掛けられることが多いんだよ」
ジェームスの言葉に私は頷くとパパから手紙を受け取った。
それは先程の事件が夢に思えるほど平和な内容の言葉だった。
ママの昔のお友達からで、時間があるなら会いに来てほしいと書いてある。
そして、手紙の最後には住所が添えられている。
「やはりこの村には、何かあると言わざるを得ないな」
パパがぼそりと話す。
先程までは剣だったステッキは、再び木でできたステッキに変わっている。
「あの、そのステッキを見せてもらえますか?」
私が頼むとパパは何も言わずに手渡してくれる。
手に取ったステッキはかなり重たい。
「重いんですね」
「まあな、木に見せかけているからな。元々は剣だ。丸腰で馬車に乗るわけにもいかんからな」
なるほど、パパはあの事件のようにならないために剣は手放さないのだ。
それも、きっと、変化なのだろう。
私達は再び馬車に乗り込んで、サンドール村に向かったのだった。
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