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第一章 完璧な悪役令嬢

5 セイジside

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何故俺が死なねばならなかったんだ!

初めに感じたのは強い怒りの感情だった。

俺はセイジという名前で日本で会社員をやっていた。シンクタンク系の会社だったし、それなりにいい大学も出ているので結構優秀だったと思う。
俺には彼女がいて一緒にスキー場に向かうバスに乗っていると突然強い衝撃を受けた所までは覚えているので、ここが病院でなければ天国か俺が幽霊になったかだなと冷静に判断出来るようになったのはかなりの時間がたってからだった。

暫くは恨み辛みや若くして死んだ怒りばかりが体中を駆け巡り只々ブツブツと愚痴っていたように思う。

冷静に周りをり見る事が出来るようになると黒い霧のようだった体が何となく人間のように変わり、生きていた時のことが全て思い出せるようになると体も俺が覚えているセイジになった。
そして、俺がいたのは高級ホテルのスィートルームのような部屋だった。
勿論泊まったことはなかったがテレビで見たような奴だ。
天井にはシャンデリア、家具はマホガニーの様な一目でわかる高級品、そして極め付けは、天蓋付きの大きなベッドだ。
そして一番びっくりしたのは中世ヨーロッパのような衣装を着た少年だ。
少年が着ていたのはなんて言うか昔の貴族の格好で金の刺繍、手刺しだな、に膝丈のズボンに白タイツだった。

ここは、そういうコスプレの観光用の城か?

そして、更に驚いたのは、この少年が話しかけてきた時だ。
この部屋は実に色々な人間が出入りするがメイド服、これもコスプレか?徹底してるな、を着たお掃除のおばさんも手紙を届けに来るこれまた仰々しい格好の男などもこちらには気付くことはなかった。
メイド服のおばさんなんか俺の上から箒をかけたぞ。通り抜けたけど。
そんな俺をピタリと見つめてこの少年が話しかけてきたのだ。そりゃびっくりするさ。

「お前は何者だ?どうしてここにいる?」

いやいや俺が聞きたいわ!とは子供相手には言えないので取り敢えず名前を名乗って体がここから動けない事を伝えた。
そうなのだ俺も最初に動こうとしたのだがふわふわと空中に浮いたこの体は何故かこの部屋のチェストと紐の様な物で繋がっていて半径1メートルくらいしか移動できないのだ。
少年は更にのたまった。

「お前!面白い格好をしているな!」

いえいえ、貴方にはかないません。

俺は幽霊なのに乾いた笑いが出る事に少し感動した。

少年はハロルドという名前でこの国、キングストーン?聞いたことないけど、の王子様ということだった。
そんな金髪碧眼で日本語を話すとか大丈夫かよ。

俺が聞いたことない国だなというと建国史を持ってきて俺の前で本を広げた。うん、書いてある言葉も日本語か、、。

やっぱり観光用の模擬国家かな?
なかなか斬新な自治体もあるもんだな。

俺は暫くはここは日本で事故で死んだ俺が幽霊となって事故現場の近くの観光テーマパークに迷い込んだと思っていた。

それでもこの王子様と話していくうちにここは日本ではなく、いや、自分のいた世界でもなく、まったく違う時間軸をもった異世界と判断した。
流石に電気や携帯、カメラにテレビも知らないみたいだし、演技って感じでもないからね。
ここが俺の知っている世界ではないとなると興味も湧いてきてあれやこれやと質問していると、流石に王子も面倒くさくなったのか、今まで別室に移動して受けていた授業を俺の居る自室で行う様になった。そうして俺は王子と一緒に授業を受けることでこの世界の事や常識、マナーなどを学んだ。

俺はこの世界が地球の中世ヨーロッパの生活水準で絶対王政の国が殆どだと知った。政治は王と宰相を中心とした少人数で進められ、貴族がそれぞれの領地を収めその下に平民がいる。
平民と貴族の間には明確な身分差があり、直接話すことさえ無いということだ。
民主主義で育った俺には違和感ありまくりだ。
少年王子も始めは横柄で人の意見も聞かず、でも自分の正義を振りかざす典型的な王様、裸の王様ともいう、だった。
俺は毎晩寝る前にこんこんと民主主義とは、上下関係のない友人とは、独裁者の末路とかを話で聞かせた。
それで二年くらいをかけてこの王子様の性格矯正に成功したのだ。
今では人の意見もよく聞き、人に優しく、常に冷静な判断を下せるようになったと思う。

いや~いい仕事しました!

王子様改めハロルドは問題にぶつかると俺に意見を求めてきたり、俺が退屈しないようその日にあった出来事や人物についてを話すようになった。

まったく変な風習だが子供は十ニ歳なってから開催するお披露目パーティーの後にならないと家族以外とは会えないらしく、始めて学友としてやって来るルーカスという公爵令息と会うのをそれはそれは楽しみにしていた。
ハロルドは俺が話したような友達になりたいらしい。だから俺も一言アドバイスをしてやったさ。

第一印象は大事だぞ!!

俺がそういうと顔を引きつらせて、顔合わせに向かったハロルドは面白かったな。
ハロルドとルーカスは元々又従兄らしく多分考え方も近いのかとても仲良くなったようだった。

この世界ではかなり特殊な異世界教育を受けたハロルドと気があうって結構ルーカスって子も変わってるのかもな。
兎に角初めてのお友達のルーカスとは主従ではない友情を感じるらしく、ハロルドは俺に一生懸命話してくれたよ。
ルーカスが、ルーカスを、ルーカスにはってな。まぁ良かったなって感じかな。
そのルーカスにはって話はいつもルーカスの妹の話だった。ルーカスには二つ下の妹がいて可愛くて、優しい子らしいとかルーカスがとても可愛がっていて話題にすると一人で熱く妹の素晴らしさを語るとかその妹はかなり自由な考え方をしているとかな。
なんだかハロルドも会ったこともないそのルーカスの妹が気になってるみたいだがだった。

そんな妹ちゃんのお披露目パーティーに招待されたと招待状を見せてきたハロルドは俺からすれば恋に落ちる寸前みたいな顔してました。

まぁ俺は動けないからハロルドが色々な経験をしてそれを話してくれる方が楽しいからいいんだけどな。

その妹ちゃんが本当にいい子であることを祈るよ。
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