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第ニ章 婚約

17 婚約宣言

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「じゃあ、行こうか?クリスティーナ。」

爆発事故から三ヶ月が経ったこの日 ハロルドとクリスティーナはめでたく婚約披露パーティーを迎えていた。
クリスティーナの怪我の回復を待っていた為予定よりも遅くなったが何とかハロルドとルーカスが学園に入学する前には間に合った。
それもこれもハロルドがアカネとセイジから第三の幽霊の可能性とその幽霊が危険な可能性を聞いてクリスティーナを守る事を第一に早く王子の婚約者にすると急いで進めた為だった。
何故なら王子の婚約者となれば普通の令嬢とは違い常に王宮から警護が出るし、その為の人材もハロルドが指名できるのだ。
クリスティーナを失いたくないと考えたハロルドは通常半年はかかる日程を三ヶ月で終わらせての今日だった。

クリスティーナもアカネからその事は聞いていたので恋愛感情は抜きにして淡々とハロルドとの婚約に向けて進めてきた。一度狙われたクリスティーナはその恐怖と自分の周りの人が危険に晒さられている事に耐えられなかったのだ。
渋る両親と兄を説得し何とかハロルドとの婚約を認めてもらったので感無量だった。

「クリスティーナ、今日までバタバタしていてはっきりとは言えなかったが、私は君の事を唯一無二の存在だと考えている。
君無しでは私の理想とする未来は描けないだろう。
その事で再びあの事件のような危険な目にも合わせてしまうかも知れない。
しかし、私と共にこの国をより良くしていく為に協力してはくれないだろうか?」

ハロルドは婚約に際して伝えるには甘くない口説き文句だか、本心をクリスティーナに伝えた。

「わかっております。まだまだ未熟者ですが、殿下のお役に立ちたいと思っております。」

そういうとクリスティーナはドレスを摘んで優雅な淑女の礼をとった。
もうすぐ十四歳となるクリスティーナは少女と大人の女性両方の良さを持ちその美しさは王宮でも評判となっていた。

ハロルドはクリスティーナのその姿と覚悟を決めた真剣な瞳を見て、改めて綺麗だと感じていた。
もう婚約披露を待つばかりとなってはいるが今までハロルドはクリスティーナの肩書きばかりを見ていたと気が付いたのだ。
それは五大ストーン家の令嬢であり、
親友ルーカスの妹で、
同じような幽霊から異世界の話を聞いて育ち、
その良し悪しを説明なしに議論できる。
それがハロルドにとってのクリスティーナだった。

確かに整った外見や高い教養やマナーなども見てはいたが、あくまでそれも表面的な特徴と捉えていた。

それが今この時になって初めてクリスティーナを正面から見てその人間性や内から湧き出る品や優しさに気付いた気持ちだった。

実を言うとハロルドは朝から自分はこれから彼女と一緒に人生を歩くという責任に足が震えるくらいの重みと現実感を感じていた。それが今のクリスティーナの一言でふわりと軽くなり一人ではないと強く感じたのだ。

ハロルドはもう一度クリスティーナを頭の先からつま先までしっかりと見つめた。
クリスティーナはこの日のためにハロルドの色彩をまとっていた。明るく淡い黄色のドレスはすこし大人っぽいデザインで二歳の年齢差を上手く埋めている。アクセサリーはハロルドが事前に慣例として送った自分の瞳と同じ色のエメラルドで統一されてキラキラと輝いていた。
少女と大人の狭間にある透明感を持った可愛らしくも美しい顔で優しく見つめていたのだ。

ボン!

ハロルドは自分の顔が一気に真っ赤になったのを感じて、手で顔を慌てて隠した。

クリスティーナは凄い美少女じゃないか!!しかも可愛い!!

ハロルドはやっと今更な事を感じていた。

お、、俺の婚約者か、、、。

なんだか照れ臭いが心の奥から湧き出てくる喜びに顔がニヤける。
突然だまって顔を隠したハロルドを不思議そうに見つめるクリスティーナはそれこそ妖精の様に可愛らしかった。

なんとか平静を保ったように見せてハロルドはクリスティーナにエスコートの為の手を差し出した。
その手にクリスティーナの細く華奢な手が乗った時ハロルドの胸がドキンと高鳴った。

そう、、ハロルドはこの婚約披露の日にクリスティーナに恋に落ちたのだった。

「ハロルド様?どうかなさったのですか?」

「いや、、なんでもない。」

「でも、お顔が赤くなっておりますわ。お熱でも?」

「いや!本当に大丈夫だ。すまないね。少し緊張してるのかも知れないな。」

ハロルドがとぼけるとクリスティーナは声をあげて微笑んだ。

「まぁ、ご冗談を。ふふ」

くーーー!可愛いな!!

ハロルドは一度意識するとクリスティーナの仕草や笑顔全てが好ましく、そのクリスティーナと婚約できる事が嬉しくてたまらなくなった。

クリスティーナの笑顔に見とれていると声がかかりパーティー会場への扉がようやく開いた。

「ハロルド・キングストーン殿下並びに御婚約者クリスティーナ・バイオレットストーン公爵令嬢!!」

会場の扉が開くと拍手とともにワーという歓声が上がり二人を迎えた。

ハロルドとクリスティーナはにこやかに笑いながら会場の中央を歩き、一段高くなっている場所までゆっくりと進んだ。
目の前には国王夫妻がおり二人は礼を取った。

「ハロルド並びにバイオレットストーン公爵令嬢クリスティーナ。」

「「はい」」

「ここに二人の婚約が正式に成った事を宣言する。二人はクリスティーナの学園卒業を待って婚姻を結ぶ事とする。」

「ありがとうございます!」
「よろしくお願い致します。」

「皆で二人の婚約を祝おうではないか!」

国王の宣言の後、音楽が流れ始め、ハロルドとクリスティーナはファーストダンスを踊るため壇上から下がりフロア中央に立った。

二人が軽やかに踊り始めると周りからため息と羨望の眼差しを受ける。
そんな中どこからともなく中傷の声が響いた。

「怪我の代償で婚約か!」

その声にクリスティーナがビクッと踊りを止めた。ハロルドはわからないように舌打ちをするとクリスティーナをしっかりと抱きしめてその声がした方に言い放った。

「クリスティーナほど我が妻に相応しい女性は存在しない!
彼女の怪我の責任を取らねばならないのなら私は自ら喜んで責任を取る!
クリスティーナは何も恥じる事は無いし、逆に危険な立場にしてしまう事を心底申し訳なく思っているくらいだ!
クリスティーナを悪くいうものを私は決して許さないし認めない!
何故なら私にはクリスティーナが必要だからだ!」

ハロルドは誰だかはわからないが会場全てに響き渡るような声で宣言した。
クリスティーナはその宣言を聞きながら顔を真っ赤にしていた。
そんな二人の様子に中傷の声は無くなりその代わりに会場は拍手と歓声に包まれた。
この婚約宣言は後々まで語られるほど有名になったのだった。

その会場の二階辺りにはアカネが待機していた。
セイジとの話でこのパーティーで何かが起こると予測していたアカネは二階部分からしっかりとこの光景を眺めていたのだった。

「なるほどね~。宣言は宣言だけど王子様の宣言になるわけか。
クリスティーナ、よかったわね!
それに!見つけたわよ!今のヤジを飛ばしたやつ!!」

アカネから見て丁度真下にいた男があのヤジを飛ばしたのをしっかりと見ていたアカネは早速その事をセイジに伝えるべく会場を後にしたのだった。
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