転生幽霊は悪役令嬢の味方です

波湖 真

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第五章 悪霊退散

36 旅立ち

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マリアと話した後は、とんとん拍子に話は進みとうとう明日出発となった日の午後ハロルドの部屋にはいつものメンバーが集まっていた。

なんと言っても今日は明日と同じくらい重要な日なのだ。
それはアカネを見つめるセイジの表情にも現れていた。

「これがこのチェストに関する全ての情報だ。アカネから見て何か思う所はないか?」

「うーん、そんな事言われても、、特にないなぁ。確かにこの生産地辺りにはフラフラしてた当初にいた気もするけど、もう何年も前の話だし、そこでは私のことを見える人も居なかったから観光程度しかしてないよ。確かにこういう高級家具作りが盛んだったなぁって感じかな?」

へへっと笑ったアカネにハロルドも詰め寄って報告書を突きつける。

「アカネ!もう一度見てくれ!!よ~く目を凝らして隅から隅までしっかりと見てくれ!」

「そんなぁ。そう言われても特にはないよぉ。ねぇ、ほんとにハンスさんは私に聞けって言ったの?」

「ああ、産地まで調べてアカネに話せば俺が自分を縛っている意味が見えてくると言っていたぞ。」

「そんなぁ、、、。」

アカネは何がなんだか分からず情けない声を出した。

「セイジはどうなんだ?何か変わった事はないのか?」

「残念ながら何もないな、、、。離れられる気がしない。」

とても、残念そうなセイジを見て皆が黙ってしまった時クリスティーナが声をあげた。

「皆さま、わたくしにいい考えがありますの!」



「これはないよな、、。」

セイジはこの世界に来て初めて見る青空に心が浮き立つのは止められないがこの状況には納得できないでいた。

「まぁいいじゃない。悪霊付きのチェストをお祓いしてもらうなんていい考えじゃない?確かに霊付きではあるんだし。」

そうなのだクリスティーナが提案したのは教会がもつ悪魔祓いの噂をそのまま利用したものだった。
クリスティーナが悪魔祓いで有名な教会に行くならこのチェストの悪霊も祓ってほしいとハロルドが言い出しだという事にしたのだ。すると部屋の掃除をしているメイド達も勝手に本が捲れるんですとかペンが勝手に動くんですと言い始めたのであっという間に呪いのチェストとしてお祓いしてもらうという話になったのだ。

今チェストは荷車の荷台に括り付けられてクリスティーナ達と一緒にハンスの教会へ向かっていた。

セイジは悪霊と言われて拗ねてはいたが、初めて見る外の世界にここは本当に異世界なんだなぁと今更ながら感動していた。
馬車で移動もそうだが、高層ビルも自動車もなく道路も王宮近くの石畳み以外は舗装されていない土の道だった。建物は本や映画で知っている中世ヨーロッパの様式で目に楽しい。
キョロキョロと周りを見回しているセイジを見てアカネは一緒に行けて本当に良かったと感じていた。

予想外の荷物も増えクリスティーナ達一行は馬車三台と荷馬車一台という行列を作って進んでいた。

一台目の馬車には案内役のサイモンが護衛と共に乗り、二台目にはマリアが、三台目にはクリスティーナとハロルドとお目付役のルーカスが乗り込んだ。

「おい!ルーカス、お前は俺のチェストと共に荷馬車か監視のためにあの女と乗ったらどうかと思うんだが。」

「それは無理だな。未婚のマリア嬢とは同乗出来ないし、荷馬車に公爵令息が乗ると護衛は歩きになってしまう。それに何よりハロルドとクリスティーナが狭い車内で二人きりなど許せるはずもない。父上からもくれぐれも二人にするなと言われている。」

そういうと、隣り合って座るクリスティーナとハロルドの正面に座りいい笑顔で答えた。

「お兄様、、今回の旅は物見遊山ではございませんのよ。そんな事は気に病む必要もありませんわ。
ハロルドさま、父と兄は少々心配症で、、、申し訳ございません。」

少々というところでゲフンと咳き込んだハロルドはそれでも気を持ち直してクリスティーナに頷いてからルーカスを見た。

「まぁそういうことだぞ。ルーカス」

本当は中々進展しないクリスティーナとの仲をこの旅で少しは深めたいと思っていたのだがそれは飲み込んで答えた。

「その目が信用出来ないと言っている。とにかくこの旅の間は同乗させてもらうよ。」

そう言ってルーカスは気持ちを切り替えて外の景色を眺めた。

二番目の馬車ではマリアが悔しそうに顔を歪めていた。
実はマリアは鍵の話を聞いてから、なんとかサイモンを捕まえて二人で先に向かおうとしたのだ。
サイモンの話通りに女性であれば誰でも賢者の石を取り出す鍵を手に入れることが出来るのならクリスティーナなど邪魔でしかない。
しかし、どんなに待ち伏せてもサイモンは学園現れず、平民のマリアにはサイモンを捕まえる術がなかった。
そうしてこの日を迎えたマリアは馬車に乗る前にその不満をぶつけるように不機嫌にサイモンに話しかけたていた。

「どうして学園に来なかったの?
私はサイモンと二人で行きたかったのに!!」

サイモンは昔とは違う冷めた瞳でマリアを見て冷たくいった。

「前に誘ったはずだがな。その時は余計なことだと断られたからクリスティーナ様にお声がけしたのだ。なにを言っている。」

そう言うとサイモンはマリアを見もしないで前の馬車に乗り込んでしまった。

そうしてマリアは自分の馬車に乗ると先程から悪態をついていたのだ。

「なんなんだ!あの男はこの女の言いなりじゃなかったのか!!この女に任せていると上手くいかないことばかりだな。でも、もうすぐだ、、もうすぐ賢者の石が手に入る、、。そうすれば、、この世界を生贄に俺は消滅できるはずだ!!
ハハハハハハハハ。」

マリアの顔と声で不気味な口調で話すのはマリアが悪魔と呼んでいた男だ。
マリアがもうやめたと言ったあの時からマリアの体を乗っ取っていた。普段はマリアの思考に任せていたので行動は管理していたが言動は好きにさせていただけだったのだ。但し賢者の石関係の話が出た時は完璧に入れ替わっていた。
最近ではマリアの気配が段々と弱くなってきたので悪魔が前に出ていることも増えて来ていた。
今も悪魔が出てサイモンに文句を言う為に話しかけたのだが、冷たくあしらわれイライラしていた。

「この女が上手くやりさえすれば邪魔な婚約者や王子など置いてとっとと出発出来たものを!役立たずな女だ!」

そう言ってマリアの姿で腕を組み足を伸ばして座席に座った。その格好はとても年頃の女性には見えなかった。


サイモンは馬車に乗り込むと剣の鞘に添えたままの強張った腕をどうにか外してため息をついた。

「あれは本当にあのマリアなのか?
確かに悪霊に取り憑かれているとしか考えられん。あの不気味な気配と焦燥感を煽る様な瞳は見た事がない。思わず剣を抜きたくなる、、、。」

そう呟いて共に移動している護衛の騎士にもマリアには気をつける様説明したのだった。
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