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第三章
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「プリシラって呼んでもいいかな?」
私が少し恥ずかしそうに言ってみるとプリシラはコクコクと頷いた。内心やったーと思いながらもはにかんだ笑顔を返す。
「僕のこともジェイって呼んでね」
「ああ、わかった。私のことはハリーでいい」
反対側から不機嫌そうに返してきたのはプリシラの兄だった。
私は面倒くさそうな態度は取らずにやはりにっこりと笑った。
「ありがとうございます。突然お邪魔してすみませんでした」
ハリーに頭を下げると今度はプリシラが返事を返してくる。
「全然構わないわ!! 私はジェイとお友達になりたくなっちゃったの」
そう言って顔を真っ赤にしている彼女は控えめに言っても可愛らしい。前世でも結婚はしていたが恋愛経験が豊富という訳でもないので言葉に詰まってしまう。
「プリシラ、お前は人を信じすぎるぞ。こいつがどんなやつかまだわからないだろ? 私がしっかりと確認してから友達になるんだ!」
「そんなぁ。そういってお兄様はいつも私の友達を取り上げてしまうじゃない!! 嫌よ。私はジェイと友達になりたいの!!」
「誰が取り上げたんだ!! あいつらはお前のことなんてなんとも思ってないんだぞ! 母上が元王女だから寄ってきただけなんだ。そんなこともわからないから私が選別しているんだろ」
「それが嫌なの!! お兄様はお友達がいないから悔しいだけよ!!」
私を挟んで突然兄妹喧嘩を始めた二人に面を喰らってしまう。
「あ、あの……」
「ジェイは黙っていて」
「お前のことは後でだ!」
思わず二人を止めようとしたが、無理なようだ。私は困って子爵に目を向ける。
すると、こちらには一瞥もくれない子爵は飄々とワインを傾けていた。
はいはい。わかりましたよ。こういうくだらない人間関係はいつも私の役目だよな。
子爵を頼るのは諦めて今度は伯爵夫人に目を向ける。
はぁ、こちらも駄目だ。流石は元王女だけあって、自ら動くことはなさそうだ。ニコニコ微笑んで二人の喧嘩を見つめているだけだ。
私は最後の望みをかけて伯爵に目を向ける。さっきまでの様子だと冷たい印象だったのだが、どうだろうか?
「……お前たちやめないか」
おお! なかなか話がわかる人のようだ。とても不倫しているようには見えない。
いや、このメンバーだとやるしか無いという諦めか?
「ハリー! プリシラ!」
伯爵の声にピタリと口論を止めた二人は今度は伯爵に食って掛かる。
「お父様!! 聞いてらして? お兄様ったら酷いのよ!!」
「父上、私はプリシラのことを思って言っているだけです! どこの誰かもわからない奴をプリシラに近づけるわけにはいきません!」
どこの誰って……まぁ、本当のことだけど……
流石にガクッとしてしまった時、子爵が低い声で話し出した。
「ハリーくん、君は大きな間違いを犯している。確かにジェイは実子では無いが、その能力を高く評価して養子に迎えたのだ。そして、彼の身元は私の兄であるホームライト伯爵が責任を持っている。よって誰ともわからないという表現は訂正してもらいたい」
うん、子供にはわかりにくい。しかし、子爵が不機嫌になったことだけは誰の目にも明らかだった。
「あ、シャリアン、すまない。ジェイくんも申し訳なかったね。ハリー! お前も謝りなさい」
ハリーはフンッと横向いてしまった。私はその姿をみてため息を吐く。子供がこうなるとどうにもできないものだ。
ハリーのことは諦めて私はプリシラに目を向ける。するとプリシラは両手を口に当てて目に涙を浮かべている。
「プリシラ? 大丈夫かい?」
思わず手を差し出してしまったが、その手は軽くプリシラに止められてしまう。
「ごめんなさい。ジェイ。お兄様が酷いことを……」
それだけいうとプリシラは立ち上がると母親の元に走っていってしまった。
こうなるとどうすべきなのかがわからない。
私も同仕様もなくうなだれた。
「……申し訳ありませんが、今日は失礼させていただきます。さぁ、ジェイ行こう」
子爵は持っていたグラスを置くと私に手を差し出した。
「はい、父上」
私は俯いたまま立ち上がるとくるりと回って子爵の手を掴んだ。
「ご不快に思われたら申し訳ありませんでした。私も息子もこういう場は不慣れなもので、お許しいただけたら幸いです」
そういって子爵が頭を下げたのだ。その姿を見て私も慌てて頭を下げる。
「モーリスタン子爵、頭を上げてくださいませ。こちらこそ言葉が過ぎました」
プリシラを抱き寄せたまま伯爵夫人は私に優しい目を向ける。
「ジェイくん、今度とは伯爵家にも遊びに来てちょうだいね。今日はごめんなさい」
「いえ、僕も失礼しました。父上の子供になれて浮かれていたようです。本当にごめんなさい」
「ハリー! お前も謝りなさい!!」
「嫌だよ!!」
「あっ、大丈夫です。本当に、僕、大丈夫です」
僕が笑顔を見せると伯爵夫妻はなんとも言えない表情でお互いの顔を見合わせる。
そして、頷くと伯爵が私の目の前にやって来て跪いた。
「ジェイくん、是非遊びにきなさい。ああ。そうだ。今度子供向けのイベントがあるんだ。招待状を送るから是非お出で」
そう言って私の頭を一撫でしてくれる。
「シャリアン、息子がすまなかった。しかし、君が父親をやっているなんてな。いや、悪い意味じゃないぞ」
「わかっています。では、失礼します」
「ああ。また会おう」
そうして私達は劇場を後にした。
馬車に乗った後、目の前に座る子爵は私をちらりと見てから一言。
「よくやった」
どうやら私は貴重なイベントの招待を手にしたのだった。
私が少し恥ずかしそうに言ってみるとプリシラはコクコクと頷いた。内心やったーと思いながらもはにかんだ笑顔を返す。
「僕のこともジェイって呼んでね」
「ああ、わかった。私のことはハリーでいい」
反対側から不機嫌そうに返してきたのはプリシラの兄だった。
私は面倒くさそうな態度は取らずにやはりにっこりと笑った。
「ありがとうございます。突然お邪魔してすみませんでした」
ハリーに頭を下げると今度はプリシラが返事を返してくる。
「全然構わないわ!! 私はジェイとお友達になりたくなっちゃったの」
そう言って顔を真っ赤にしている彼女は控えめに言っても可愛らしい。前世でも結婚はしていたが恋愛経験が豊富という訳でもないので言葉に詰まってしまう。
「プリシラ、お前は人を信じすぎるぞ。こいつがどんなやつかまだわからないだろ? 私がしっかりと確認してから友達になるんだ!」
「そんなぁ。そういってお兄様はいつも私の友達を取り上げてしまうじゃない!! 嫌よ。私はジェイと友達になりたいの!!」
「誰が取り上げたんだ!! あいつらはお前のことなんてなんとも思ってないんだぞ! 母上が元王女だから寄ってきただけなんだ。そんなこともわからないから私が選別しているんだろ」
「それが嫌なの!! お兄様はお友達がいないから悔しいだけよ!!」
私を挟んで突然兄妹喧嘩を始めた二人に面を喰らってしまう。
「あ、あの……」
「ジェイは黙っていて」
「お前のことは後でだ!」
思わず二人を止めようとしたが、無理なようだ。私は困って子爵に目を向ける。
すると、こちらには一瞥もくれない子爵は飄々とワインを傾けていた。
はいはい。わかりましたよ。こういうくだらない人間関係はいつも私の役目だよな。
子爵を頼るのは諦めて今度は伯爵夫人に目を向ける。
はぁ、こちらも駄目だ。流石は元王女だけあって、自ら動くことはなさそうだ。ニコニコ微笑んで二人の喧嘩を見つめているだけだ。
私は最後の望みをかけて伯爵に目を向ける。さっきまでの様子だと冷たい印象だったのだが、どうだろうか?
「……お前たちやめないか」
おお! なかなか話がわかる人のようだ。とても不倫しているようには見えない。
いや、このメンバーだとやるしか無いという諦めか?
「ハリー! プリシラ!」
伯爵の声にピタリと口論を止めた二人は今度は伯爵に食って掛かる。
「お父様!! 聞いてらして? お兄様ったら酷いのよ!!」
「父上、私はプリシラのことを思って言っているだけです! どこの誰かもわからない奴をプリシラに近づけるわけにはいきません!」
どこの誰って……まぁ、本当のことだけど……
流石にガクッとしてしまった時、子爵が低い声で話し出した。
「ハリーくん、君は大きな間違いを犯している。確かにジェイは実子では無いが、その能力を高く評価して養子に迎えたのだ。そして、彼の身元は私の兄であるホームライト伯爵が責任を持っている。よって誰ともわからないという表現は訂正してもらいたい」
うん、子供にはわかりにくい。しかし、子爵が不機嫌になったことだけは誰の目にも明らかだった。
「あ、シャリアン、すまない。ジェイくんも申し訳なかったね。ハリー! お前も謝りなさい」
ハリーはフンッと横向いてしまった。私はその姿をみてため息を吐く。子供がこうなるとどうにもできないものだ。
ハリーのことは諦めて私はプリシラに目を向ける。するとプリシラは両手を口に当てて目に涙を浮かべている。
「プリシラ? 大丈夫かい?」
思わず手を差し出してしまったが、その手は軽くプリシラに止められてしまう。
「ごめんなさい。ジェイ。お兄様が酷いことを……」
それだけいうとプリシラは立ち上がると母親の元に走っていってしまった。
こうなるとどうすべきなのかがわからない。
私も同仕様もなくうなだれた。
「……申し訳ありませんが、今日は失礼させていただきます。さぁ、ジェイ行こう」
子爵は持っていたグラスを置くと私に手を差し出した。
「はい、父上」
私は俯いたまま立ち上がるとくるりと回って子爵の手を掴んだ。
「ご不快に思われたら申し訳ありませんでした。私も息子もこういう場は不慣れなもので、お許しいただけたら幸いです」
そういって子爵が頭を下げたのだ。その姿を見て私も慌てて頭を下げる。
「モーリスタン子爵、頭を上げてくださいませ。こちらこそ言葉が過ぎました」
プリシラを抱き寄せたまま伯爵夫人は私に優しい目を向ける。
「ジェイくん、今度とは伯爵家にも遊びに来てちょうだいね。今日はごめんなさい」
「いえ、僕も失礼しました。父上の子供になれて浮かれていたようです。本当にごめんなさい」
「ハリー! お前も謝りなさい!!」
「嫌だよ!!」
「あっ、大丈夫です。本当に、僕、大丈夫です」
僕が笑顔を見せると伯爵夫妻はなんとも言えない表情でお互いの顔を見合わせる。
そして、頷くと伯爵が私の目の前にやって来て跪いた。
「ジェイくん、是非遊びにきなさい。ああ。そうだ。今度子供向けのイベントがあるんだ。招待状を送るから是非お出で」
そう言って私の頭を一撫でしてくれる。
「シャリアン、息子がすまなかった。しかし、君が父親をやっているなんてな。いや、悪い意味じゃないぞ」
「わかっています。では、失礼します」
「ああ。また会おう」
そうして私達は劇場を後にした。
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