35 / 63
第二章 冒険者活動編
第35話 悪意の集落、殲滅戦 其の四
しおりを挟むゴブリンの残党を残らず殲滅し、多人数協力依頼メンバーは肩で息をして地面に座り込んでいた。
リュートもこんなに矢を射るのは初めてで、疲労で上手く手が動かせないでいた。
他の面々だってそうだ。
こんなに武器を振り回し、敵を殺した事なんてない。
銀等級である《竜槍穿》ですら、こんな大規模の集落を殲滅した事はない。
地面にはゴブリン達が撒き散らした血や臓物があったのだが、そんな事は気にせず地面にへたり込んでいたのだった。
「……へへ、やって、やったぜ」
息も絶え絶えだが強がってみせるウォーバキン。
それに応えるように皆が力なく同意した。
全員擦り傷等の軽傷で済んでいるのだが、ゴブリンの返り血を盛大に浴びている。
正直、早く帰還して身を綺麗にしたい思いだった。
唯一戦闘をしていないタツオミは現在、ゴブリンの死体を一箇所に纏めて火を放って焼却している。
ゴブリンの死体を燃やさないと、他の魔物が餌と思って寄ってきてしまうからだ。
燃やす前にゴブリンを討伐した証として、彼等の耳をナイフで斬ってから燃やす事は当然忘れてはいない。
切り落とした耳の数はなんと二百近く。
あまりにも大規模な集落であった。
ゴブリンの肉は焼け、吐き気がする異臭が漂うが、そんな事にリアクションをしている程の体力はなかった。
だが、残念ながらまだやる事があった。
「よし、皆。疲れている所悪いが、最後の仕事がある」
ハリーが声を上げる。
「向こうの崖の洞窟を探索しなくてはいけない。そこにゴブリンがいたら、それも殲滅だ」
「……正直、もういないで欲しいな」
「同意」
ハリーも含めたメンバーは全員、疲労から来る重くなった身体を何とか立たせる。
リュートももう休みたい気持ちを押し殺し、何とか立ち上がる事に成功した。
(これが最後だべ。頼む、何も起きないでおくれよ)
リュートのそんな考えは、この悪意に満ち溢れた集落には届かなかった。
ハリーが先頭に立って洞窟内を散策していると、ハリーの足が止まる。
そして、深い溜息を一つ吐く。
「ハリー、ありましたのね?」
「……ああ。だが、この規模にしては人数が少ない」
「よかったと言うべき、でしょうか」
「銅等級の面々にはよかっただろうよ」
ハリーは振り返り、非常に言いにくそうに皆に言葉を掛ける。
「いいか、この先には地獄が待っている。集落では十中八九、こういった光景が大なり小なり待っている。皆、気をしっかり持って欲しい」
どういう事だろうか?
リュートも含めた《竜槍穿》以外の全員が首を傾げる。
逆に《竜槍穿》のメンバーは、苦虫を噛んだような表情をする。
《竜槍穿》のメンバーの表情を見てしまい、先に進むのを躊躇する面々。
しかし、一人だけ躊躇しない者がいた。
リュートだ。
「先に行くだよ」
何の躊躇もない。
強い足取りでハリーの横に並んで先の光景を見る。
そして、躊躇しなかった自分に後悔をした。
「……なんだ、こりゃ」
リュートの眼前に広がる光景。
それは、五人の女性が全裸で横たわっている。
ただ、女性全員の表情がおかしい。
恐怖に歪んでいる訳ではない。
瞳孔が開いて瞬きも少なく、視線は常に定まっておらず泳いでいる。
そして、涎を垂らして悦に浸っているような表情をしているのだった。
とある女性は「あは、はは」と短く笑い声を漏らしている。
別の女性は腹が異様に膨らんでいる。
どうしてそこまで腹が膨らんでいるのか、その答えは非常に簡単であった。
「ようこそ、地獄の入り口へ」
隣にいたハリーが、そのように言う。
これが地獄の入り口、つまりまだ先があるということなのか?
リュートは軽く目眩がした。
すると、とある女性とリュートの視線が交わった。
瞬間、女性は発狂する。
「あはぁ、ち○こがきたぁぁぁ!! 早く、頂戴!! もう我慢できないのよぉぉぉ!!」
「な、なんだ!?」
視線が合った女性が、リュートに向かって這い寄ってくる。
よく見たら、女性の両足はあらぬ方向へ曲がっている。
ゴブリンに逃走防止の為に足を折られたのだろう。
女性はリュート目掛けて、細い腕を懸命に動かして前進する。
うすら笑みを浮かべて。
「は、ハリー、どういう事だべ?」
「……ゴブリンはな、唾液や精液にこの世界で一番強いと言われる麻薬成分が含まれている」
「麻薬……」
田舎者のリュートでも、麻薬の存在は知っていた。
村周辺でも麻薬の元が自生しており、時折小さな子供が誤って食して中毒になってしまう事が年に一度位発生する。
故に、リュートも麻薬の恐ろしさを知っていた。
その中でも世界で一番強いと呼ばれる麻薬が、ゴブリンの体内に存在しているというのだ。
村の麻薬ですら危険だったのに、それを超える物となると、リュートはぞっとした。
「ゴブリンは雄しか生まれない。繁殖方法はご覧の通り、人間の女性か人型の魔物の雌を孕ませる事。非常に強い快楽を与えて抵抗感をなくし、自ら求めるように仕向けるんだ。全く、反吐が出る」
「……」
リュートが絶句している中、女性聞くに耐えない卑猥な言葉を呪詛のように言いつつ、ゆっくりとリュートへ近付いていた。
そして、リュートに遅れて他の面々がこの光景を見てしまい、特に《ジャパニーズ》の女性メンバーは小さく「ひっ」と悲鳴を漏らしてしまう。
「な、何だ、これは」
「おいおいおいおい、何が起きてるんだよ!」
男性陣も流石に絶句して凍ったように立ちすくんでしまう。
それを見た女性達は、目を光らせる。
「あぁ、男だわ。男が沢山! 早く、気持ち良くしてぇ」
「もっと、もっと気持ち良くしてよぉ! お願いぃぃ」
台詞を聞くだけなら喜んでしまうだろうが、その台詞を吐いている女性達がまともではない状況だと全くもって嬉しくない。
まだ比較的冷静を保っているリュートは、ハリーに質問をした。
「ハリー、彼女達を救う方法、ねぇか?」
「……無い」
「んだかぁ」
予想通りだった。
昔、村の村長が険しい表情で言っていた事を思い出した。
「いいか、もしゴブリンが女さ攫ったら、そいつはもう死んだと思え。そうなる前に、必死になって守れ」
理由は話してくれなかったが、小さい頃から村長からそのように言い聞かされていた為、ハリーの返答を聞いて「やっぱりかぁ」という感想だった。
だが、納得していないのは、命のやり取りが少ない世界から飛ばされてきた《ジャパニーズ》の面々。
特にリョウコとチエは、何とか助けたいという思いが強く感じられた。
「ハリー、回復魔法で助けられるでしょ!? 私知っているわよ、解毒魔法で麻薬成分を取り除けるって!」
「私もそう聞いている、お願い、助けて!」
リョウコとチエが言っているのは正しい。
人間が作る麻薬であれば、解毒魔法で中毒症状ごと治す事は可能だ。
しかし、あくまで人間が作る麻薬の場合のみの話である。
「ゴブリンの麻薬成分は、あらゆる解毒魔法、あらゆる薬を跳ね除けてしまう。今まで様々な流れ者がゴブリンの被害にあった女性を助けようと頑張ったさ。だが、今現在においても助ける手段は確立されていない」
「そ、そんな」
流れ者はこの世界の住人より進んだ知識、スキルを持っている。
そんな彼らですらお手上げなのだ。
となると、方法は一つしかない。
「俺達に出来る事はただ一つ。快楽が残っている内に介錯をしてやる事だけだ」
ハリーの言葉に驚く面々。
《竜槍穿》のメンバーだけは、武器を取り出して女性達を手にかけようとしている。
リョウコはぎょっとして、必死になって食い止めようとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そうだわ、ほら、徐々に弱い麻薬を打っていけば、きっと助かるかも!」
「それも無理だ。ゴブリンの成分に比べたら弱すぎて、全く意味を成さない」
「なら、皆で支えて禁断症状を乗り越えたら……」
「無駄だ。その禁断症状はあまりにも強すぎて、終いには死ぬ」
「それじゃ、それじゃぁ!」
「リョウコ、気持ちはわかるがここから救い出しても、彼女達が待っているのは更なる地獄なんだよ……」
「……そんな」
リョウコは両手で顔を隠し、その場にへたり込んでしまった。
43
あなたにおすすめの小説
タイム連打ってなんだよ(困惑)
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」
王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。
パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。
アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。
「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」
目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?
※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。
『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
霊力ゼロの陰陽師見習い
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる