田舎者弓使い、聖弓を狙う

ふぁいぶ

文字の大きさ
51 / 63
第二章 冒険者活動編

第51話 田舎者弓使いの一日 其の四

しおりを挟む

 リュートは王都にある、とある一軒家の前まで来ていた。
 そして、扉をノックする。

「オラが来ただよ」

「どうぞ、お入りください」

 中から初老の男性の声がする。
 リュートは遠慮なく扉を開けて家に入る。

「リュート様、毎日授業に来るなんて、偉いですね」

「オラの将来に関わる事だかんな、毎日来るに決まってるべ」

 初老の男性の名は《オーギュスト》という。
 エリッシュが「知識を提供する」という事で、彼を王都へ向かわせた。
 オーギュストは王都立大学を首席で卒業したエリートなのだが、異常なまでの出世争いに辟易して辞めた所、エリッシュに拾われて筆頭執事になったそうだ。
 そんな彼の知識量は尋常ではなく、教え方も非常に上手い為、リュートは楽しく毎晩授業を受けていた。
 それに、授業開始初日、授業を始める前のオーギュストの言葉に感銘を受けたのだ。

「恐らくリュート様は、最初の内は楽しく授業を受けて頂けるでしょう。しかし、その内こう思う筈です。『何故こんな生活の役にも立たない事を学ばなくてはいけないのか?』と」

 リュートは勉強というものをした事がないので、首を傾げつつオーギュストの言葉に耳を傾けた。

「実際、これから私がお教えする事、そして王国兵士になる為の筆記試験で使われる問題の大半は、実際の生活ではほとんど使わないでしょう。では何故知識を蓄える必要があると思いますか?」

 オーギュストはリュートに質問をする。
 が、勉強をした事がないリュートには、答えられなかった。

「いくつか理由があります。一つ目は「学習する」という行為を身に付ける事で御座います。今まで、リュート様はどのように勉強したらいいか、全くわからなかったのではないでしょうか?」

 リュートは深く頷く。

「今までのリュート様は恐らく試行錯誤を行って弓や狩りを学んだと思いますが、知識を蓄える場合は試行錯誤では学べません。では本を与えたとします。しかしこれまた読むだけでは知識として蓄える事は、大半の人は出来ません」

 そしてオーギュストはいつの間にか何処かからか取り出した、白紙の分厚い束をリュートの机にどさりと置く。

「学習する事、それは見て、聞いて、読んで、自ら書く事で知識として深く定着するのです。それらをしないでただ見ただけでは、当日は覚えていたとしても何かがきっかけですぐ忘れてしまうでしょう」
 
 更にまた、何処からか取り出した万年筆とインクを取り出し、リュートの机にことりと置く。

「ここで二つ目に繋がるのですが、努力をし続ける力を身に付ける意味合いもあります。勉強とは、生きている限り生涯行っていくものです。私ですら、未だに勉強する毎日で御座います。それ程知識というのは絶大な量があり、日々新しい知識が増えていっているのです」

「……なるほど」

「新しい知識を取り入れるのは、やはり継続した努力が必要です。勉強は、努力をする力を身に付ける練習、みたいなものですね」

「ふむふむ」

「そして私の中で一番大きな意味を持っていると思うのが三つ目。勉強する事で視野が広がり、

「……様々な事が見え、感じられる?」

 オーギュストの言葉があまりにも抽象的過ぎて、頭を傾げてしまうリュート。
 
「この様々という意味、わかりますか?」

「……正直、さっぱりだ」

「では、お答えします。勉強をして知識を蓄えると、視野が広がります。視野が広がるとどうなるか? 知識量や個人の性格で大きく変わってきますが、様々な選択肢を思い浮かべられるようになるのです」

 オーギュストの言葉の意味はこうだ。
 知識がない人と知識がある人、この二人が右足を怪我してしまったとする。放っておいたら出血多量で死んでしまう酷い怪我だと想定する。
 ではどうやって生き残ればいいか? という問題が発生した時。
 知識がない人は、自分で治療するという知識がない為、ひたすら大声で助けを求めるだろう。
 しかし知識がある人は、まずは止血をする行動を取って生存確率を上げるだろう。そしてさらなる自己治療の知識があるのであれば、更なる生存確率上昇の為に行動を取るだろう。
 つまり知識の有無で、その場で判断が問われた時の対応の選択肢の幅が広がるのだ。
 どんなに頭の回転が速い人物であったとしても、知識が無かったら何もできないのだ。
 そうならない為に、日頃勉強しておいた方がいいのである。
 と、オーギュストは語った。

「この先、貴方様は故郷では遭遇しなかったであろう困難に見舞われるでしょう。その時どのようにすれば解決するかは、貴方様の知識次第で御座います。大変かと思いますが、どうか頑張って勉強をしていってください」

「ああ、頑張るだよ!」

 こうして、銀等級になってから一日も欠かさず、オーギュストからの授業を受けていた。
 元々リュートは賢いので、水を吸収するスポンジのように知識を蓄えていった。
 その中でも数学はまだ上手く要領を掴めておらず、計算間違え等が頻繁に起きていた。
 しかし間違いを恐れる事無く果敢に問題に挑む姿は、オーギュストから見ても非常に好ましく、教え甲斐もあった。
 リュートが好きなのはどうやら歴史のようで、歴史に関しては覚える速度が他教科よりも段違いだった。

(この方、きっと王都で生まれ育っていたら大学でも上位に食い込んでいたでしょうね……)

 勉強にのめり込むリュートを見て、そう思ったのだった。
 
 このように、リュートの一日は結構な過密スケジュールであった。
 しかし本人は非常に充実しており、毎日が楽しく感じていた。
 特に最近、依頼で学んだ知識が活かせた場面があり、それがたまらなく嬉しくて、更に勉強に力が入っていく。

 リュートは全く自覚していないが、知識を身に付けていく事で更なる進化が起きていた。
 とある冒険者パーティと合同で依頼をしている時であった。

「リュートさん、この茸は食べられるでしょうか?」

 野営の際にあまり良い食料に恵まれず、腹を空かせていた時であった。
 まだ新人の冒険者が茸を持ってきたのである。
 今までなら茸の有毒性を見分けられなかったので、食材としては真っ先に除外するものであった。
 しかし、今のリュートは違う。
 
 リュートは茸を受け取り、ナイフで傘部分を切ってその断面を自身の腕に押し付ける。
 すると腕に痒みが発生してきた。
 見てみると、茸を押し付けた部分が赤くなっているではないか。
 これは所謂可食性パッチテストで、以下の手順を行って大丈夫なら毒性無しと判断できる。

 一.腕にある程度押し付けて異常があれば毒、なければ次の項目へ。
 二.唇にある程度押し付けて異常があれば毒、なければ次の項目へ。
 三.舌にある程度押し付けて異常があれば毒、なければ毒性無し(舌に押し付ける場合は飲み込んではいけない)。

 今回リュートのパッチテストでは、項目一で異常が見られた為、新人冒険者が持ってきたのは毒キノコだったのだ。

「へぇ、そういう確認方法があるんっすね! 勉強になります、リュートさん!!」

 こうしてパッチテストを知った冒険者パーティは、今度は自分自身でテストを行って、大量の安全な食料を確保する事に成功したのだ。
 このように、勉強をした事でリュートは日々、進化をしていく。
 もしかしたら、半年程度で金等級冒険者に昇格出来てしまうのではないか。
 冒険者内ではそのように騒がれていた。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

霊力ゼロの陰陽師見習い

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...