堕天使は腐女子に翻弄されています?!

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魔界を揺るがすのは身内か腐女子かそれとも両方か

七十二日目① ドキッ☆ 堕天使だらけの水泳大会

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『――午前九時から幕を開けた ドキッ☆ 堕天使だらけの水泳大会 も、ついに佳境へと入って参りましたーーー!!』

 そう叫んだのはついに本日開催された私のご褒美イベント――魔王含む堕天使全員(ヤン以外)参加のガチンコ水泳大会の司会進行役を務める、プロMCの女性上級悪魔だ。その高揚感たっぷりの中性的な声が、本日のイベント会場である円形闘技場内――中級悪魔街の北端、海岸そば――に響き渡り、一万を超える観客席から大きな叫び声が上がった。

『『『ワーーーーー!!』』』

 そして、その叫び声(と熱視線)を浴びているのは、闘技場の真ん中にある仮設プールを覆うように設置された白いステージの上でたった今レオ達によって四肢を鎖に繋がれ、大の字に寝そべる格好となったルシファーだ。それも、肌色の水泳パンツのみを着用した状態で。
 だが、そんなあられもない姿のルシファーが浴びているのはそれらだけではない。闘技場内にある六つの巨大スクリーンと繋がっている複数台のライブカメラと、おまけに本日のイベントを祝福しているかのようなキラキラとした陽光も一緒にだ。

『これから行うのは、皆様お待ちかね! 先日の吸血木きゅうけつき暴走事件の首謀者、堕天使ルシファー様の公開罰です!!』

 MCの女性悪魔がそう言った瞬間、全ての巨大スクリーンにルシファーの姿が映し出され、観客席からは黄色い声援――いや、熱狂的な叫び声が上がった。

『キィヤァーーーーー!!』
『ルシファー様ぁーーー!!』

 三十分ほど前に終えた水泳競技の時とは段違いの興奮ぶりである。そして、もちろん私もマジックミラーで囲まれた関係者席という名の特等席から声を上げている。

「待ってましたーーー!!」
「……ふっ……ルシファーの顔からは相当の焦りが見えるぞ。どうやら美咲の言う通り、これはあやつにとって罰になっているようだ」

 そう言ったのは私の横に座る魔王だ。元々魔王は、ルシファーへの罰をステージのすぐそばで見届ける予定だったのだが、その役はレオ達みんなに任せ、水泳競技終了後からずっと関係者席に居る。多分、私と同じでこの真正面の特等席から公開罰を思い切り楽しみたいのだと思う。
 それで、その罰は一体何なのかと言うと――。

『ではここで注意事項です! 今から繰り広げられる行為は、罰を与える役のセシル様がルシファー様をあくまでくすぐるだけであり、決していかがわしいことをするわけではございません!――』

 ――そう、早い話が、ただ単にセシルがルシファーをくすぐって可愛がるというものである。まあ、場所によってはくすぐったすぎて、ルシファーから怪しげな息や声が出てしまう可能性も大いにあるのだが。というか、私的にはそれが狙いなので、セシルにはめちゃくちゃ頑張ってもらいたい。私はそんな思い(念)を込めて、ルシファーと同じく肌色の水泳パンツを着用しているセシルに視線を送った。

『――また、お二人の姿は遠目で見ると裸のように見えますが、当然裸ではありません! 肌色の水着を着用していますのでご安心下さい!――』

 ちなみにセシルの方は、ルシファーと違って強制ではなく本人の希望によるものだ。そんなセシルの顔がスクリーンに映り、セシルはカメラに向かって甘い笑顔をみせながらヒラヒラと手を振って白いステージの上に登っていく。すると、今度はうっとりするような声が観客席から沸いた。

『――そして最後になりますが、こちらの公開罰の個人的な録画や録音は禁止になっております! ですので、この公開罰を思い出に残しておきたいという方は、公開罰終了後に行われる第一回魔界公式同人誌即売会にて販売予定の漫画や小説をお買い求め下さいますようお願い申し上げます!――』

 この漫画というのは私とモネの共作で、ストーリーと人物は私、背景はモネが担当した思いっきりいかがわしいBL同人誌である。カップリングは言わずもがな、セシル×ルシファーだ。もちろん、約三週間前に開いた同人誌即売会の時の漫画や小説も一緒に販売する。

『――それでは、会場の、特に腐悪魔女子の皆様は長らくお待たせいたしました! 堕天使ルシファー様の公開罰、これより開演です!!』

 闘技場内にブオ~ブオブオ~というホラ貝の音が鳴り響き、それと同時にセシルとルシファーのマイクがオンになるキーンとした微かな音が鳴った。反対に観客席からの歓声はピタリと止んで、闘技場内は瞬く間に期待と緊張の二つが入り混じった空気でいっぱいになる。
 私はゴクリと唾を飲み込み、口元を歪めながらオペラグラスを構えた。

『……さあ、カワイ子ちゃんへのお仕置きタイムだよ。いっぱい可愛がってあげるからね』

 セシルはそう言って、ルシファーの足元に膝をつく。最初は足の裏から攻める(くすぐる)つもりのようだ。

『っ?! ふ、ふざけるなっ! こんなバカげた罰があってたまるくぁっ?! ふんっ、ぐぅっ……!!』

 どうやら足の裏への攻めが早速効いたらしい。ルシファーは必死に身体を捻らせ、セシルの両手から逃れようとしている。

『おやおや……カワイ子ちゃん、くすぐったいんだね? 一番いいところはここかな? それともここ?』
『ひゃうっ?! やっ、やめろぉおおお……!! やめろってばぁ……!!』

 ルシファーは顔を赤く染め、少し涙目でセシルにそう訴える。けれど、そんな可愛く命令されてもセシルの指の動きは止まらない。

『じゃあ聞くけど、吸血木の暴走の件は反省してるの?』
『反省っ、して、るっ……はぐっ……! お、俺が、悪かっ……たっ……っ!』
『うん、偉いね。ちゃんと自分の罪を認めて反省出来たんだね。でもね、カワイ子ちゃん、罪であるのは変わらないんだよ。ってことで、続けるね』
『なっ?!』
『あっ、でも待って……カワイ子ちゃんが反省してるってわかったから、後半で使おうと思ってたスペシャルアイテムを今から使ってあげるよ』
『はっ、はぁ?! って、おい?! な、なんだよそれ?!』

 そのアイテムとは、ふわふわの羽毛がびっしりついた手袋だ。これを両手に装着すれば、あら簡単――一撫ひとなでで広範囲をくすぐることが出来て、くすぐられる方もたちまち気持ちよくなっちゃうという、スペシャルアイテムである。
 セシルはそれを自分の右上辺りの空間から取り出すと、両手にしっかり装着した。

「おっほぉ……!! 序盤でもうそれを使っちゃうとか、セシルってばだいぶノリノリじゃん……?!」
「……いや、あれはどちらかと言えば優しさの気遣いだな」
「はぇ……? 優しさの気遣い、ですと?!」

 いやいやいや! ルシファーにそんなの要らないから!!

『今回は全身をくまなくくすぐられる罰だからね。この手袋を使えば、それもあっという間だよ。まあ、その分すっごくくすぐったいと思うけど』
『ちょっ、はぁ?! 待て、セシル!! だったら俺はゆっくりでい――』
『――よいしょっと』
『ふぁあっ……!――』

 その瞬間、シーンとしていた観客席が一気に騒然となった。

『――って、おい、なんだこの体勢は?!』
『え? 僕がくすぐりやすいように体勢を整えただけだけど――』

 そう、なんとセシルは、ルシファーの両脚を持ち上げ、自分の膝の上にルシファーのお尻を乗せたのだ――! でも勘違いないでほしい――本当にただ乗せただけである!
 だが、腐った妄想力がチート級の方は、見ようとすればセシルのナニがルシファーのアレにインしているように見える……かもしれない。

「セシルぅうう!! ナイス角度ぉおおおお!!」
「……まるで野球観戦をしているような言い草だな。だが、確かに際どい角度ではある……正直言って、義務だとわかっていても直視は避けたいくらいだ」
「いやいやいや?! 何言ってるんですか?! 目ん玉かっぽじってガッツリ直視して下さい!! ガッツリ!!」

 こんな激レアショット、滅多にお目に掛かれないんだから!!

『――ってことで、早速いっちゃうね、カワイ子ちゃん』

 セシルはそう言うとくすぐるのを再開し、ルシファーの全身あちこちをスーッと撫でていく。

『ふぁあああっ?! ああっ?!』

 その度にルシファーは我を忘れたように声を上げ、雪のように白い肌をピンク色に染めていった。くすぐっているだけなのに非常に官能的だ。
 また、観客席からも我慢出来ないといった感じの艶めかしい声が漏れ聞こえている。

『はぁ~~~ん……!』
『なんて可愛いお顔とお声なのぉ……!』
『私までセシル様の色気でクラクラしてきたわぁ……!』

 まあ、憧れの堕天使様のナニをしているように見える姿や嬌声に聞こえなくもない声を、こんな間近で見聞きしているのだからそうなるのも無理はない。それに、それだけこの公開罰に熱中して入り込んでいる――つまり楽しんで頂けているということだと思うので、この日のために必死に準備した私としては非常に嬉しいというものだ。ついでに新規腐悪魔女子が大量発生してくれたらもっと嬉しい。

 あ、そうだ、腐悪魔女子と言えばみんなも楽しんでくれているだろうか――? そう思って、私が少し離れた観客席の方へとオペラグラスを向けてみると、そこにはこの公開罰を一際堂々と楽しんでいる集団――私の友達が居た。
 ステージとスクリーンを忙しなく交互に見やり、目をギンギンに開いて不敵に笑っているビビ。その隣には『悪くはないけど暴力的要素も欲しい』と絶対思っていそうな顔のアサコと、多分口パクで『アタラシイゲイジュツゥ!』と言いながらキラキラした瞳で興奮している顔のモネ。
 そして更にその横で、両手を握り合い、泣きながら顔を真っ赤にして笑っているルルセナの二人。二人の推し同士の生絡みは、二人の魂を相当揺さぶっているらしい。程度は違えど、五人みんなが今この瞬間を楽しんでくれているのがわかる。
 私は一人静かに笑みをこぼし、オペラグラスをまたステージ上に戻した――。
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