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魔界を揺るがすのは身内か腐女子かそれとも両方か
七十二日目② ドキッ☆ 堕天使だらけの水泳大会
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――さて。そうこうしている内に、公開罰もいよいよクライマックスである。現在はセシルがこれでもかという動きでルシファーの全身をくすぐり倒していっており、ルシファーは別の意味で息も絶え絶えといった感じだ。
私はオペラグラスにグッと力を入れ、目の前のマジックミラーすれすれに立ち上がった。
「そろそろ、くるっ……!」
「何がだ?」
「決まってるじゃないですか!! ルシファーの昇天シーンです!!」
「……なるほど」
そして、それは予想通りその直後に訪れた――! セシルがルシファーの首筋に手袋を滑らせた瞬間、ルシファーが最後の力を振り絞り、全てを受け入れたような声を上げたのである――! それも、攻めに愛されまくった受けに相応しいとってもとっても可愛い表情で――!
『――ふ、ふわあああああぁっ……!!』
ルシファーが逝った!! ルシファーが逝ったぁああああ!!!
「…………っ!!」
感動、興奮、それから尊いという感情――それらが一気に押し寄せ、私は心臓がギュッとなって、その場に固まった。でもそれは、私だけではない。この闘技場内に居る観客全員も同じだった。
『『『…………っ!!』』』
みんなが息を止め、動きを止め、視覚と聴覚だけを研ぎ澄ましている。ある者はステージ上のルシファーを、またある者は全てのスクリーンに映し出されているルシファーの昇天フェイスを見つめながら、闘技場内に木霊するルシファーの昇天ボイスを最後の最後まで味わうために――。
ルシファーったら、なんて……なんて幸せそうな顔なの……!! いや……あれだけ攻めに愛されたらそんな顔にもなるよね……!!
しかし、そんな幸せな時間にも当然終わりが訪れる。ルシファーの昇天フェイスはいつの間にかぐったりとしたものに変わり、木霊していた声も完全に聞こえなくなってしまったのだ。
ああ……!! 終わっちゃった……っ!! もっと、もっと味わっていたかったのに……!!
一瞬だけシーンと静まり返る闘技場内。けれど、次の瞬間、観客席から爆発音並みの大歓声がドカンと沸き上がった。
『『『ワーーーーー!!!!!』』』
その感動的な声が私の胸の中に残ったルシファーの余韻と合わさって、私は勢いよく魔王に顔を向ける。
「続編を!! 続編を希望します!!」
「第一声がそれとは……さすがだな」
「それと円盤を出しましょう!! 円盤!! これ、録画してますよね?!」
「……よくもまあ、次から次へとそんな発想を思い付くな。確かに録画はしているが、それは公的な記録として残すためにだ。よって、一般に向けて販売することは絶対ないぞ」
「なっ?! なんでですか?! こんなに最高な愛の物語なのに!!」
「まあ、確かにこれは最高だったがな」
「ですよね?! 魔王様もそう思ったでしょ?!」
「ああ。一度この罰を見てしまえば、バカな真似をしようとする堕天使は今後一切出ないだろう。私がそう確信するくらい、最高の罰だった」
ああ……そういう意味ですか……。
「……って、ちょっと待って下さい!! 今、ルシファーのような公式の受けは今後一切出てこないって聞こえたんですけど?! 私の聞き間違いですよね?!」
「使った単語は違うが、その解釈で合っているぞ」
「っ!!――」
な、なんということだ……!! ルシファー以外の公式の受けが出てこないなんて……!!
「――くっ……! こうなったら、堕天使の誰かを唆すしかない……! それとルシファーの続編も実現させて……!」
「ふっ……やはり美咲は面白いな」
魔王はそう言うと、突然私の左手首を掴んでグイッと引っ張った。そして、よろける私を一瞬の内に自分の膝の上へと誘導し、私を抱きかかえながらその大変整った顔で私の顔を覗き込んだのである――!
膝の上でのお姫様抱っこと国宝級イケメンに顔を近付けられるというダブル攻撃で、私は軽くパニックだ。
「だっ……?! どぅえっ……?!」
「まさか人間が堕天使を唆して先ほどのような醜態を晒させようと考えるとは……くくっ……悪魔以上に非道ではないか」
「え゛っ…………あっ、そそそ、そうですか、ね……?」
「ああ。だが……私は其方のその邪悪なところが結構気に入っている」
「っ!」
魔王はそう言いながら愉快そうに微笑して、もっと顔を近付けて来る。
「それはそうと美咲。我らはかれこれ一時間二人で居るが、其方はいつ私を名前で呼ぶんだ? 二人きりの時は名前で呼んでいいと言ったはずだぞ?」
「へっ……?! な、名前でふかっ?!」
「そうだ。噴火の前日にランチをしただろう。その時に言ったではないか。よもや、一緒に食事をしたことすら覚えてないと言うのではあるまいな? 其方のためにわざわざ時間を作ったというのに――」
えっ?! あ、あれって、冗談に見せかけたテストじゃなかったの?!
「――私のことを名前で呼ぶまで解放しないぞ。さあ、サタンと呼んでみよ。もちろん敬称は無しでだ」
「っ……!! だっ……あのっ……呼ぶのでっ……! 呼ぶのでまずは顔をっ……!」
「ん? 顔がどうした?」
――と、その時だ。関係者席のブースの扉を三回ノックする音が響いた。その音にすぐさま反応した魔王の手が緩み、私はその隙に身体を捻って、魔王の膝の上から床に転げ落ちる。そんな私に魔王は一瞬目をやり、やれやれといった風にベンチから立ち上がった。その直後、ノックをした人物が入って来た。
「――サタン、美咲、入るぞ」
グラスだ。
「ご苦労だったな」
仕事復帰から三週間が経過した今では、半分大天使に戻ったその姿も魔王城にすっかり馴染み、毎日執務室でレオの分もバリバリ仕事をこなしている。そしてそれをアシストしているのは、引き続きそこで働いている私と――。
「失礼するデシよ」
――今入って来たモップちゃんだ。天界ではグラスの部下だったからか、グラスとはレオ並みのツーカーぶりで、素晴らしい手腕を発揮している。それも、レオが文句を付けるところがないくらいに。
で、そのレオはと言うと、復興復旧作業の責任者ということもあって基本下級悪魔街に出ずっぱりの毎日だ。けれど、一週間に一回は夕方頃に執務室へと帰って来ては私の差し入れ(ドーナツ)を素早く平らげ、色々とグラスに愚痴ってから、また時にはモップちゃんと小競り合いをしてから、再び下級悪魔街へ向かうというルーティンを繰り返している。
そんなレオが足音を立てながら、モップちゃんを追い掛けるように入って来る。
「おい、クソモップ! お前、天使のくせに割り込みとかすんじゃねーよ!」
「ふーんデシ! ぼくはただ目の前に居たトボトボ歩くのろまなクソ犬っころを横から追い越しただけデシけど?」
「ああ?! 誰がのろまな犬だぁ?!」
いや、喧嘩の内容、小学生かっ!――と、まあ、レオがこんな感じなので、グラスとは一向にラブラブな雰囲気になることもない。おまけに、グラスもガツガツいく様子が無くて(レオに対してあまりにも普通なのだ)、現在は様子見の私もそろそろグラスに発破をかけようと頃合いを見計らっているところである。
でも、二人がラブラブにならない原因はそれだけではない――。
「あ~……ホントに恐ろしい罰だった……! 俺、途中からルシファーがかわいそうになったよ。セシル……ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」
と、言いながらレオの次に入って来たお疲れ顔のショタと、
「そうかな? 罰なんだし、僕はどれだけ恐ろしくてもいいと思ったけど」
と言って、ショタの後ろから入って来たセシルのせいでもあったりするのだ。と言うのも、実はこの二人も下級悪魔街の復興復旧作業の件で割と頻繁に執務室に来るのである――!
もちろん、復興復旧作業の本部である総務省に、それも責任者のレオが居る時に来るのは当たり前のことだと理解はしている。けれど、用事が終わっているのに居座り続けるのはどうかと思う。いや、むしろ物申したい。
せっかく私が「仕事は大丈夫? 忙しいんじゃないの?」と、執務室からサッと立ち去れるように話を振っても、逆に長々と自分達の近況を喋り始め、私の終業時刻になってやっと出て行く――というのが現状なのである。このままでは、いつまで経ってもグラスとレオを二人っきりに出来ないではないか――!
「いやいや、恐ろしいにも種類と限度ってものがあるでしょ?! ちょっと、セシル! 美咲に影響され過ぎじゃない?!」
「そんなことはないよ。僕はただ美咲に喜んでほしかっただけさ。と言っても、僕もちょっとだけルシファーに情けをかけてしまった部分もあったから、美咲の期待通り出来たかはわからないけど……ねぇ、美咲、僕の攻めはどうだった? 美咲の期待に応えられたかな……って、美咲、なんで床に転がってるの?」
セシルの問いでみんなの視線が一斉に私へと集まり、私は慌ててその場に立ち上がった。
「あ……ははははははは! えっと、その……セシルとルシファーの愛の物語に、感動で興奮しちゃって!!」
「あーうん、はいはい。そんなとこだと思ったよ」
「……っ、本当かい?!」
「うん! ホントにホント! マジのマジ!」
「……私にはどこが愛の物語だったのか全くわからないのだが……レオ、モップ、わかるか?」
「いや、オレにもさっぱりわかんねー」
「ぼくも専門は恋の橋渡しなのでわからないデシ」
「美咲、すごく嬉しいよ! だってそれって僕の攻めが良かったってことでしょ?!」
「うん! 最高の攻めだったよ!! 特に一番良かったのは――」
「――ちょっとちょっと! 止めて! ストップ! そういうのは二人っきりの時にしてよ!! こっちはさっきのダメージからまだ回復してないんだからね?! って言うか、そんなことよりサタン!」
ショタが叫ぶように魔王の名を呼び、ルシファーが居るステージを指さした。
「ああ。公開罰の閉幕宣言だな。わかっている」
魔王はそう言うと扉の前までスッと移動して、「美咲」と私を呼んだ。
「へ?」
「其方も出るのだろう? 例の即売会とかいうイベントの準備をしに行くのではないのか?」
「あ゛あ゛っ!! そうだった!! 私としたことがうっかりしてたぁああ!!」
公開罰が終わったらすぐにここを出てビビ達と合流する予定だったのだ――! 私は急いで自分の荷物をまとめ、扉の前で私を待っているらしき魔王の方に向かってバタバタと駆けて行く。
「美咲、慌てると怪我をするぞ。急いでも誤差の範囲内だ。ゆっくり向かえばいい」
「まっ、せいぜい楽しんでこい。それにしてもグラス、お前美咲に対してちょっと過保護すぎじゃね?」
「美咲! はしゃぎすぎてトラブルを起こさないようにね!」
「もし何かあったら連絡をくれれば僕がすぐに駆けつけるから安心してね」
「みさきしゃん、いってらっしゃいデシ!」
「みんな、ありがとう! 行ってくるね!!」
魔王が扉の取っ手に手をかけ、グッと押した。その途端、外の光が入ってきて、その眩しさに私は少し目を細める。
けれど、足を一歩踏み出せば、その眩しさは瞬く間に希望の光へと変わり、私を、闘技場内に居る全ての人々を、陽気に照らしていた。
私はその光を全身に浴びながら、これから始まる同人誌即売会への期待と喜びを胸に大きく息を吸い込んで、それを噛みしめるようにゆっくり息を吐く――。
「――美咲、其方への褒美だ。存分に堪能してくるがいい」
魔王がフッと笑い、顎で先に行けと私を促した。
「うん! 思う存分楽しんでくるよ!!」
私はそう返事をすると同時に、目の前に続く階段を大きな笑顔で一気に駆け上る――BLを心ゆくまで味わうために、いざ行かん!
――こうして、この後開かれた第一回魔界公式同人誌即売会は大成功を収め、私達は無事、魔界にBLという新たな風を吹き込めたのだった。それもちょっとしたブームになるほどに。
だが――その風が魔界を揺るがすほど(と言ってもツブヤイターにBL関係の卑猥な言葉や画像が溢れ続けるとか、同人誌の売買が闇取引にまで発展するとかそんな程度)のものになってしまって、堕天使みんなが頭を抱えたのは、まあ、偶発的事象の結果と言うか何と言うか……とにかく私のせいではない。そう、これは……偶然にも腐女子の私を魔界に連れて来た時点で、起こるべくして起こった出来事、言わば運命である!
私はオペラグラスにグッと力を入れ、目の前のマジックミラーすれすれに立ち上がった。
「そろそろ、くるっ……!」
「何がだ?」
「決まってるじゃないですか!! ルシファーの昇天シーンです!!」
「……なるほど」
そして、それは予想通りその直後に訪れた――! セシルがルシファーの首筋に手袋を滑らせた瞬間、ルシファーが最後の力を振り絞り、全てを受け入れたような声を上げたのである――! それも、攻めに愛されまくった受けに相応しいとってもとっても可愛い表情で――!
『――ふ、ふわあああああぁっ……!!』
ルシファーが逝った!! ルシファーが逝ったぁああああ!!!
「…………っ!!」
感動、興奮、それから尊いという感情――それらが一気に押し寄せ、私は心臓がギュッとなって、その場に固まった。でもそれは、私だけではない。この闘技場内に居る観客全員も同じだった。
『『『…………っ!!』』』
みんなが息を止め、動きを止め、視覚と聴覚だけを研ぎ澄ましている。ある者はステージ上のルシファーを、またある者は全てのスクリーンに映し出されているルシファーの昇天フェイスを見つめながら、闘技場内に木霊するルシファーの昇天ボイスを最後の最後まで味わうために――。
ルシファーったら、なんて……なんて幸せそうな顔なの……!! いや……あれだけ攻めに愛されたらそんな顔にもなるよね……!!
しかし、そんな幸せな時間にも当然終わりが訪れる。ルシファーの昇天フェイスはいつの間にかぐったりとしたものに変わり、木霊していた声も完全に聞こえなくなってしまったのだ。
ああ……!! 終わっちゃった……っ!! もっと、もっと味わっていたかったのに……!!
一瞬だけシーンと静まり返る闘技場内。けれど、次の瞬間、観客席から爆発音並みの大歓声がドカンと沸き上がった。
『『『ワーーーーー!!!!!』』』
その感動的な声が私の胸の中に残ったルシファーの余韻と合わさって、私は勢いよく魔王に顔を向ける。
「続編を!! 続編を希望します!!」
「第一声がそれとは……さすがだな」
「それと円盤を出しましょう!! 円盤!! これ、録画してますよね?!」
「……よくもまあ、次から次へとそんな発想を思い付くな。確かに録画はしているが、それは公的な記録として残すためにだ。よって、一般に向けて販売することは絶対ないぞ」
「なっ?! なんでですか?! こんなに最高な愛の物語なのに!!」
「まあ、確かにこれは最高だったがな」
「ですよね?! 魔王様もそう思ったでしょ?!」
「ああ。一度この罰を見てしまえば、バカな真似をしようとする堕天使は今後一切出ないだろう。私がそう確信するくらい、最高の罰だった」
ああ……そういう意味ですか……。
「……って、ちょっと待って下さい!! 今、ルシファーのような公式の受けは今後一切出てこないって聞こえたんですけど?! 私の聞き間違いですよね?!」
「使った単語は違うが、その解釈で合っているぞ」
「っ!!――」
な、なんということだ……!! ルシファー以外の公式の受けが出てこないなんて……!!
「――くっ……! こうなったら、堕天使の誰かを唆すしかない……! それとルシファーの続編も実現させて……!」
「ふっ……やはり美咲は面白いな」
魔王はそう言うと、突然私の左手首を掴んでグイッと引っ張った。そして、よろける私を一瞬の内に自分の膝の上へと誘導し、私を抱きかかえながらその大変整った顔で私の顔を覗き込んだのである――!
膝の上でのお姫様抱っこと国宝級イケメンに顔を近付けられるというダブル攻撃で、私は軽くパニックだ。
「だっ……?! どぅえっ……?!」
「まさか人間が堕天使を唆して先ほどのような醜態を晒させようと考えるとは……くくっ……悪魔以上に非道ではないか」
「え゛っ…………あっ、そそそ、そうですか、ね……?」
「ああ。だが……私は其方のその邪悪なところが結構気に入っている」
「っ!」
魔王はそう言いながら愉快そうに微笑して、もっと顔を近付けて来る。
「それはそうと美咲。我らはかれこれ一時間二人で居るが、其方はいつ私を名前で呼ぶんだ? 二人きりの時は名前で呼んでいいと言ったはずだぞ?」
「へっ……?! な、名前でふかっ?!」
「そうだ。噴火の前日にランチをしただろう。その時に言ったではないか。よもや、一緒に食事をしたことすら覚えてないと言うのではあるまいな? 其方のためにわざわざ時間を作ったというのに――」
えっ?! あ、あれって、冗談に見せかけたテストじゃなかったの?!
「――私のことを名前で呼ぶまで解放しないぞ。さあ、サタンと呼んでみよ。もちろん敬称は無しでだ」
「っ……!! だっ……あのっ……呼ぶのでっ……! 呼ぶのでまずは顔をっ……!」
「ん? 顔がどうした?」
――と、その時だ。関係者席のブースの扉を三回ノックする音が響いた。その音にすぐさま反応した魔王の手が緩み、私はその隙に身体を捻って、魔王の膝の上から床に転げ落ちる。そんな私に魔王は一瞬目をやり、やれやれといった風にベンチから立ち上がった。その直後、ノックをした人物が入って来た。
「――サタン、美咲、入るぞ」
グラスだ。
「ご苦労だったな」
仕事復帰から三週間が経過した今では、半分大天使に戻ったその姿も魔王城にすっかり馴染み、毎日執務室でレオの分もバリバリ仕事をこなしている。そしてそれをアシストしているのは、引き続きそこで働いている私と――。
「失礼するデシよ」
――今入って来たモップちゃんだ。天界ではグラスの部下だったからか、グラスとはレオ並みのツーカーぶりで、素晴らしい手腕を発揮している。それも、レオが文句を付けるところがないくらいに。
で、そのレオはと言うと、復興復旧作業の責任者ということもあって基本下級悪魔街に出ずっぱりの毎日だ。けれど、一週間に一回は夕方頃に執務室へと帰って来ては私の差し入れ(ドーナツ)を素早く平らげ、色々とグラスに愚痴ってから、また時にはモップちゃんと小競り合いをしてから、再び下級悪魔街へ向かうというルーティンを繰り返している。
そんなレオが足音を立てながら、モップちゃんを追い掛けるように入って来る。
「おい、クソモップ! お前、天使のくせに割り込みとかすんじゃねーよ!」
「ふーんデシ! ぼくはただ目の前に居たトボトボ歩くのろまなクソ犬っころを横から追い越しただけデシけど?」
「ああ?! 誰がのろまな犬だぁ?!」
いや、喧嘩の内容、小学生かっ!――と、まあ、レオがこんな感じなので、グラスとは一向にラブラブな雰囲気になることもない。おまけに、グラスもガツガツいく様子が無くて(レオに対してあまりにも普通なのだ)、現在は様子見の私もそろそろグラスに発破をかけようと頃合いを見計らっているところである。
でも、二人がラブラブにならない原因はそれだけではない――。
「あ~……ホントに恐ろしい罰だった……! 俺、途中からルシファーがかわいそうになったよ。セシル……ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」
と、言いながらレオの次に入って来たお疲れ顔のショタと、
「そうかな? 罰なんだし、僕はどれだけ恐ろしくてもいいと思ったけど」
と言って、ショタの後ろから入って来たセシルのせいでもあったりするのだ。と言うのも、実はこの二人も下級悪魔街の復興復旧作業の件で割と頻繁に執務室に来るのである――!
もちろん、復興復旧作業の本部である総務省に、それも責任者のレオが居る時に来るのは当たり前のことだと理解はしている。けれど、用事が終わっているのに居座り続けるのはどうかと思う。いや、むしろ物申したい。
せっかく私が「仕事は大丈夫? 忙しいんじゃないの?」と、執務室からサッと立ち去れるように話を振っても、逆に長々と自分達の近況を喋り始め、私の終業時刻になってやっと出て行く――というのが現状なのである。このままでは、いつまで経ってもグラスとレオを二人っきりに出来ないではないか――!
「いやいや、恐ろしいにも種類と限度ってものがあるでしょ?! ちょっと、セシル! 美咲に影響され過ぎじゃない?!」
「そんなことはないよ。僕はただ美咲に喜んでほしかっただけさ。と言っても、僕もちょっとだけルシファーに情けをかけてしまった部分もあったから、美咲の期待通り出来たかはわからないけど……ねぇ、美咲、僕の攻めはどうだった? 美咲の期待に応えられたかな……って、美咲、なんで床に転がってるの?」
セシルの問いでみんなの視線が一斉に私へと集まり、私は慌ててその場に立ち上がった。
「あ……ははははははは! えっと、その……セシルとルシファーの愛の物語に、感動で興奮しちゃって!!」
「あーうん、はいはい。そんなとこだと思ったよ」
「……っ、本当かい?!」
「うん! ホントにホント! マジのマジ!」
「……私にはどこが愛の物語だったのか全くわからないのだが……レオ、モップ、わかるか?」
「いや、オレにもさっぱりわかんねー」
「ぼくも専門は恋の橋渡しなのでわからないデシ」
「美咲、すごく嬉しいよ! だってそれって僕の攻めが良かったってことでしょ?!」
「うん! 最高の攻めだったよ!! 特に一番良かったのは――」
「――ちょっとちょっと! 止めて! ストップ! そういうのは二人っきりの時にしてよ!! こっちはさっきのダメージからまだ回復してないんだからね?! って言うか、そんなことよりサタン!」
ショタが叫ぶように魔王の名を呼び、ルシファーが居るステージを指さした。
「ああ。公開罰の閉幕宣言だな。わかっている」
魔王はそう言うと扉の前までスッと移動して、「美咲」と私を呼んだ。
「へ?」
「其方も出るのだろう? 例の即売会とかいうイベントの準備をしに行くのではないのか?」
「あ゛あ゛っ!! そうだった!! 私としたことがうっかりしてたぁああ!!」
公開罰が終わったらすぐにここを出てビビ達と合流する予定だったのだ――! 私は急いで自分の荷物をまとめ、扉の前で私を待っているらしき魔王の方に向かってバタバタと駆けて行く。
「美咲、慌てると怪我をするぞ。急いでも誤差の範囲内だ。ゆっくり向かえばいい」
「まっ、せいぜい楽しんでこい。それにしてもグラス、お前美咲に対してちょっと過保護すぎじゃね?」
「美咲! はしゃぎすぎてトラブルを起こさないようにね!」
「もし何かあったら連絡をくれれば僕がすぐに駆けつけるから安心してね」
「みさきしゃん、いってらっしゃいデシ!」
「みんな、ありがとう! 行ってくるね!!」
魔王が扉の取っ手に手をかけ、グッと押した。その途端、外の光が入ってきて、その眩しさに私は少し目を細める。
けれど、足を一歩踏み出せば、その眩しさは瞬く間に希望の光へと変わり、私を、闘技場内に居る全ての人々を、陽気に照らしていた。
私はその光を全身に浴びながら、これから始まる同人誌即売会への期待と喜びを胸に大きく息を吸い込んで、それを噛みしめるようにゆっくり息を吐く――。
「――美咲、其方への褒美だ。存分に堪能してくるがいい」
魔王がフッと笑い、顎で先に行けと私を促した。
「うん! 思う存分楽しんでくるよ!!」
私はそう返事をすると同時に、目の前に続く階段を大きな笑顔で一気に駆け上る――BLを心ゆくまで味わうために、いざ行かん!
――こうして、この後開かれた第一回魔界公式同人誌即売会は大成功を収め、私達は無事、魔界にBLという新たな風を吹き込めたのだった。それもちょっとしたブームになるほどに。
だが――その風が魔界を揺るがすほど(と言ってもツブヤイターにBL関係の卑猥な言葉や画像が溢れ続けるとか、同人誌の売買が闇取引にまで発展するとかそんな程度)のものになってしまって、堕天使みんなが頭を抱えたのは、まあ、偶発的事象の結果と言うか何と言うか……とにかく私のせいではない。そう、これは……偶然にも腐女子の私を魔界に連れて来た時点で、起こるべくして起こった出来事、言わば運命である!
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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