ワールドトークRPG!

しろやぎ

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二部

119 樹木室の魔法

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 いざ痴漢に合うと冷静に対処できないっていうのは本当だ。
 オーバーレベルの冒険者である俺がいうんだから間違いない。

 思い出したくないのに衝撃が強すぎた。『狂太子』の股間が脳内でエンドレス再生されている。誰か、俺の記憶を改竄してくれ……

 俺は逃げるように《転移/テレポート》を使って、ピニオーリの適当な場所に移動してしまったので、気分転換も兼ねて《飛翔/フライト》で夜明け前の闇夜を飛んでジルメリが身を潜めている林に向かっている。
 あれだけ追い詰められて《転移/テレポート》を使ったので、いまひとつ自分がどこにいるのかよくわからないが、上空から地形を俯瞰することでなんとか迷子にならずに済んだ。座標をしっかりイメージしてからでないと、すごくアバウトなところに飛ばされるのはわかった。石の中とか土中に転移するとか怖いので、次からはもっと気をつけて使いたい。

 『狂太子』。俺が思っていたよりもはるかに王子らしくない人間だった。俺が知っている王族といえば、レオンとその父カザンだけだが、あれはちょっと友達になれないタイプだ。ていうか男でもいいとかぬかして、俺に尻を出せとか……
 やめよう。この悪寒は夜空を飛んでいる冷気によるものではない。脳内再生も止まってくれない。早く忘れよう……

 本当に記憶をいじってもらってでも忘れたい光景だが、テーブルトークRPGシステムであるところの『アャータレウ』では人間の心をいじくる魔法は、公式にはほとんど存在していない。せいぜい《強制/ギアス》があるくらいだ。

 その意図は定かではないが、精神系の魔法はゲームバランスを保つことが難しいのと、人道的なところから設定されていないのだと思っている。
 『アャータレウ』の数多いルールブックやサプリメント。リプレイや小説の中には、名前だけが知られている魔法も多い。俺が使える10レベルの魔法。《万物創成/クリエイトオール》もそうした魔法のひとつだ。
 これらはローカルルールとして、ゲームマスターの裁量で独自のルール化をしているグループもあったが、あまり強力なものはゲームマスターが使わせてくれない。
 《精神歪曲/マインドベンド》もそうした魔法のひとつだ。これは『アャータレウ』の世界観で書かれた小説に、名前とレベルとおおまかな効果だけ登場した魔法だ。レベルは9。効果は対象の記憶をひとつだけ操作できる。

 石井先輩はこうした直接的に記憶を操作するという魔法をあまり好んでないようなので、ついに俺たちのセッションでは登場することはなかった。俺もこういう魔法は、なんというか邪悪な感じがするので好きではない。
 正直《強制/ギアス》や《嘘看破/センスライ》といった魔法も、使うのに抵抗があった。リアルに魔法を使える今も、ここらへんは日常的に使えてしまうと人格が崩壊しそうで怖い。効果が強力なだけに、一度使うとそれに頼ってしまう麻薬的な魔法なのだ。
 
 ……よし。『アャータレウ』のことを考えていたらずいぶん落ち着いてきた。ジルメリが潜んでいるであろう林も見えてきた。今度は突然現れて驚かしたりしないよう、正面から会いにいこう。

 林に着地すると、そこにはジルメリと ロリ少女。ケイシャがいた。俺の姿を認めると、ジルメリは明らかに不満気な顔であった。

「あんたねえ……あたしに子守を押し付けるだなんて冗談がきついよ」
「急だったもんで。すまんすまん」

 見ればジルメリとケイシャは微妙な距離感を保っていた。
 あ、もしかしてケイシャが闇エルフに偏見持ってたのかな。

「ケイシャ。いい子にしていたか」
「……うん」

 俺が声をかけると、とてとてと駆け寄って身につけていたローブを脱ごうとした。

「あっ、俺のローブはまだ返さなくていいから!! 新しい服が見つかるまで着てていいから!!」
「……うん」

 ヘソまで脱ぎかけていたローブを見てあわてて止める。

「ジルメリお姉ちゃんは怖くないからなー ちょこっと色黒なだけのエルフで、ケイシャを取って食べたりしないからなー」
「あたしを何だと思ってるんだ。いっておくけどその子はあたしに触ろうとしてきたけど、どこに毒が染み込んでいるかわからないから触らせなかったんだよ」

 あ、なるほど。もともと毒を扱うジルメリなだけに、まだ子供のケイシャをおもんばかってのことだったのか。

「ごめん」
「謝るこたないわ。だからあたしは子守に向いてないっていってるんだよ。――でもまあ、いい子だよ、その子。あんたの魔法で突然あたしのところに飛ばされたにしちゃ、きちんと状況を把握してたし、泣き喚いたりしなかった。なかなか肝が座ってる」
「そっか。ケイシャ、えらいぞ」

 トラウマを抱えて自閉症になってもおかしくない体験をしているのに、ケイシャは心が強いのかもしれないな。思わずちいさな頭を撫でる。
「あ、あり……がと……ございま、す。じ、ジルメリお姉ちゃ、ちゃんも」

 どもりがちの言葉は、もしかしたら少しトラウマが入ってしまったのかもしれない。だが、自分のいいたいことはきちんと言葉にできる。それだけでも、子供としては得難い素養じゃなかろうか。

「礼なんかいいって。あたしのは仕事の一環だ」
「そうだ、ジルメリ。『緑腐』はもう処分したんだろうな?」

 あんな危険な毒はとっとと捨てておくべきだ。人肌で保存しないといけない毒だなんて、ピンの抜けた手榴弾を抱えているみたいなもんだ。

「もちろん」
「……仇為すものが潜まぬよう探り当てる。毒を喰むことを何者も望んでいないのだから。《毒感知/ディテクト・ポイズン》。おい、ジルメリ。そのおっぱいの谷間から自分で出すか、俺に出させてもらうか選べ」

 チッ、と舌打ちしてジルメリは胸元の谷間から、アマガエル色の液体の入った小瓶を取り出す。俺の《毒感知/ディテクト・ポイズン》でかっちり引っかかった。『緑腐』だ。

「お前なあ。平気な顔して嘘をつくな。ケイシャの教育に悪い」
「あんたの親父みたいな助平根性よりはマシよ。女の嘘くらい見抜いても見守ってやんな」
「助平親父とかいうな。あと早く捨てろ」
「あいよ」

 ジルメリは小瓶を少し離れた木立に投げつけ、瓶を破壊した。ぬらりとした緑色の液体が樹の幹を濡らす。

「ちょ! そんな雑な方法で大丈夫なのか!?」
「『緑腐』は常温と空気に触れて、数分で無毒化するから大丈夫よ。植物にも影響を及ぼさないわ」
「……じゃあいいけど」

 かなりびっくりしたぞ。確かに見る間に緑色は薄くなっていき、俺たちが見守る中で『緑腐』はその色を失った。

「あたしの切り札だったんだけど、マスターの命令じゃしかたないわね」

 少し残念そうにジルメリ。なんだかんだで、毒に対する執着はそれほどでもないらしい。

「よし、これで毒は完全になくなったな。ケイシャ、もうジルメリに触っても大丈夫だぞ」
「えっ、ちょっと!?」

 俺の言葉にケイシャはちょこちょこと動いて、慌てるジルメリの服のすそを握る。

「あたしは闇エルフの毒使いだよ!? どこに毒が染み込んでいるかわからないんだからやめときな!!」
「大丈夫。俺が魔法で調べた」

 あわてるジルメリ。もっともっと慌てるがいい。

「じ、ジルメリお姉ちゃん」
「な、なんだい」
「み、見守ってて、く、くれて、ありが……とありがとうございます」
「だからいいって、あたしのは仕事のうちだから!」
「お、お仕事でも、助けて……くれ。くれたから」
「ああ、わかったわかった!! くすぐったいからそこらへんにしてくんな!」

 こやつめ、暗殺者稼業が長すぎて子供耐性がないな、こやつめ。
 ジルメリも徐々に一般的な生活に戻っていくべきなので、少しは子供とスキンシップを取るといい。

「もう夜も遅いし、ケイシャは明日、俺がユルセールに連れて行く。今日はここで泊まろう」
「あたしやあんたは野営に慣れてるだろうけど、この娘に野宿は酷じゃないかい」
「だ、だい。だいじょう、ぶ」

 ケイシャの心配をするジルメリと、自分は大丈夫だというケイシャ。なかなかいいコンビかもしれないな。もっとも暗殺者は廃業してもらったものの、諜報活動なんかに少女を付けておくわけにはいけないが。

「今日のところは俺が寝床を用意する。待ってろ……《ツリーハウス/樹木室》」

 手近な木に触れ、精神を集中させる。魔法語の魔法とは違った心の使い方と、特別な呼びかけ方法。俺は木の中に満ちているであろう、木の精霊ドライアドを感じた。それを足掛かりにして、さらに大きな上位の精霊に心の通路パスをつなげる。
 植物の上位精霊。森の精霊トレントの力を借りて、行使する精霊魔法。《ツリーハウス/樹木室》だ。

 上位精霊である森の精霊トレントと心の通路パスがつながった。俺の呼びかけに応じて、木々はまるで生き物のようにうねり始め、枝葉や幹。根を静かにざわめかせて身を寄せ合った。
 数分後には、生きた樹木で編まれた大きな円筒状のものが出来上がった。

「こんなもんだろ。おーい、ちょっとここを開けてくれ。サンキュ」

 俺が呼びかけると、木が絡みあったところに人一人が入れる穴が開いた。

「さ、ふたりとも入った入った」

 《光明/ライト》かけるとそこには十帖ほどの空間が広がっていた。木の内部とは思えないほどがっしりとした壁と天井があり、床は足の長い草が緻密な絨毯のように群生している。

「……あんた。魔術師じゃなかったのかい。精霊魔法まで使えるなんて聞いてないよ」
「あれ、いってなかったっけか? 俺、魔法関連ならたいていのものは使えるんだ」
「この『緑腐』のジルメリが子供扱いされたわけだわ」

 ジルメリは盛大なため息をついてくれる。子供扱いはしていないぞ。精一杯大人の女性として扱ったと思ったが。

「ケイシャ。あんた自分の幸運に感謝しな。こんなバカみたいに強力なくせして妙なところでヘタレでお人好しの魔術師なんて、そうそういるもんじゃないから」
「ヘタレは余計だ!! あとジルメリとケイシャの部屋はとなりだ。女子部屋も作っておいた。寝る前にそこの穴。そこそこ、丈夫なツタがかかってるからケイシャでも下に降りられるだろ。地下水を組み上げて行水できるような風呂も作っておいた。トイレもあるぞ」
「……あたしもそれなりに使える精霊使いなんだけど、あんたデタラメね」

 《ツリーハウス/樹木室》は7レベルの精霊魔法で、上位精霊の森の精霊トレントの力を借りて、快適な木の家を作ることができる。7レベルでひとつの部屋を作れ、以後レベルが上がるごとに別室を作ることができる。
 森の精霊トレントに頼んでみたら、地下から水を吸い上げて泉も作れるというので、二部屋ぶんの枠をふんだんに使い、地下に風呂とトイレを作った。10レベルの精霊使い技能をフルに使わせてもらった。
 おそらくジルメリは《ツリーハウス/樹木室》を使えない。
 せっかく《ツリーハウス/樹木室》を使えるだけの木々があるところなのに、野営でそれを使わない手はない。なんとなれば地下に小部屋を作ることができるこの魔法は、隠れつつの野営にも最適で快適だからだ。

「せっかくだから使わせてもらうよ。水浴びできるだけでも儲けものね」
「あ、待った。ケイシャも一緒に風呂に入れてやってくれ」
「あたしが!? ……ああ、わかったよ。そら、こっちおいで」

 一瞬抗議をしかけたジルメリだが、思いの外素直にケイシャを連れて地下のバスルームに降りていった。

 あいつらが出てきたら、俺も少しだけ水浴びしてから寝るか。地下水で行水できるとか楽しみだ。
************************************************
次回更新は10/12(日)です。

だれでも一度は憧れるツリーハウス。
わたしも子供の頃、近所の公園の木に廃材とかダンボールで作りました。
速攻誰かに壊されましたが…
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