ワールドトークRPG!

しろやぎ

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二部

147 除湿

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「数多に満ちる魔力の精髄。今わずかな時間でいい。この石塊いしくれ仮宿かりやどに顕現せよ《石人形/ストーンサーバント》」

 防壁を降りて霧へと向かい、懐に忍ばせておいた白っぽい小石に魔法をかける。
 小石は俺の魔法で次々とがっしりとした人型に変わっていき、石人形ストーンサーヴァントになった。この魔法は石材を触媒として、一時的なゴーレムを作るものだ。コメットのように永続効果を持たず、小一時間でもとの石に戻ってしまう。

 ひとまず二十体ほどの白い石人形を作り出し、次の魔法を唱える。

「この魔力の風が触れたのちは、砂漠に咲く薔薇のように潤いを奪い去る。《乾燥/ドライスペル》」

 できあがった石人形たちに次々と乾燥の魔法をかけていく。
 すると白く濁ったような石が、みるみる透明になっていった。

 この魔法は生活魔法のようなもので、物体ひとつの水分を失わせる。乾燥量のさじ加減は術者の望むように調節できるため、洗濯物の乾燥からほどよい干し肉を瞬間的に作るなど応用範囲は広い。しかし、生きているものにはかけることができないため、攻撃魔法的な使い方はできない。
 ただし、この世界だと魔法をひとつ使うのもかなりの負担であるから、通常の洗濯物は干したほうが早いし、干し肉も料理人が作ったほうがおいしい。俺がこの魔法を石人形にかけたのは、以前エステルから魔術師ギルドの書庫で交わした会話を思い出したからだ。

「保存の魔法がかけられている書物は少ないので、書庫にはこうして乾燥剤を置いておくんですよ」
「これ……ただの石柱じゃないのか?」
「はい。ダイアトライトという石で、これに《乾燥/ドライスペル》を使っておくと、数ヶ月くらいはいい具合に書庫内の湿度が低くなるんですよ」
「へー。ちょっと俺がやってみてもいいか」
「そろそろ魔法をかけ直す時期なので、ぜひお願いします」

 俺はその時初めて《乾燥/ドライスペル》を使った。加減がわからずに、思いっきり魔力を石柱に注ぎ込んだら、白い石が半透明となり、すぐに透明に変わっていく。そしてパキパキと音を立ててヒビが入り始めた。

「あっ、乾燥させすぎです!! あまり極端に部屋の中が乾燥しすぎても紙によくないんです……」

 石はあちこち割れてしまい、若干美観を損ねてしまった。
 せっかく乾燥させた石だが、その後エステルが水を注ぐと驚くほどの量を吸い込んだ。
 ある程度の水分を吸い込むと、今度はほどよい加湿器にもなるのだという。

 ダイアトライトはつるつるしたプラスチックのような手触りで、天然のシリカゲルみたいなものなのだろう。乾燥していると透明だが、湿気を吸うと白く濁るので吸湿状況がわかりやすい。
 この世界独特の石なのかもしれないが、もとの世界のシリカゲルがどんなものかも知らず、この世界では賢者レベル3の俺には知る由もない。
 だが、もしかしたら役立つかもしれないと思い、ウォルスタに戻ったとき、魔術師ギルドからダイアトライトでできた石材をいくつか割り砕いて持ってきていたのだ。

「《泥人形/クレイサーヴァント》の魔法のほうがいいかと思ったけど、《石人形/ストーンサーヴァント》のほうがもとの石より丈夫になっていいな」

 俺の実験によるとサーヴァント系の魔法は、使った素材で若干風合いが変わる。
 例えばウッドサーヴァントも針葉樹と広葉樹だと香りが違ってくるのだ。

 石材にもそれは適用される。時間が経つともとの大きさに戻ってしまうが、宝石でストーンサーヴァントを作るとじつに綺麗な石人形となる。硬度も若干違うようだ。テーブルトークRPGシステムでは、ここらへんのデータ化はされていなかった。

「お前たちは俺の周囲に円陣を組むように立ってろ。移動したら等間隔でついてこい」

 エデンの町にこの霧がやってくると面倒なので、除湿剤と化したサーヴァントを従え、俺は霧に向かって歩き始める。
 遠くから広範囲攻撃魔法で霧を吹き飛ばす。ということも考えたのだけど、寝静まっている町の人々を起こすのも嫌だったし、なにより今のところただの霧なので散らすにしてももう少し様子を見たい。

「傘の一本が雨を防ぐように、魔力の傘もまたわたしを護るだろう。たとえそれが死をもたらす死の雨であろうと、恵みをもたらす癒しの雨であろうと、この天蓋はただひとたびのみ、すべての魔力に対する護りとなる。《魔防皮膜/ルーンスクリーン》」

 《魔防皮膜/ルーンスクリーン》。9レベル魔術師が使える防御魔法で、あらゆる魔法効果を一度だけ防ぐことができるという強力なものだ。
 しかし、この魔法は非常に使いにくい。強力な効果に反して、俺はテーブルトークでこの魔法を使ったことは数えるほどしかない。
 すべての魔法を一度だけ無効化してくれるのだが、これはもちろん自分がかける魔法も含まれ、当然味方の回復魔法などもしっかり防いでしまう。事前に自分にかけている魔法も一回分として無力化してしまうのでタチが悪い。

 持続時間も数分と短い上、高レベルなのでMND消費も大きい。
 物理攻撃に対しては無力で、もし遠間から矢などを射掛けられて傷を負ったら、回復するには一度魔法を解除してからでないといけない。解除の瞬間を飛び道具、あるいは魔法で攻撃されたらたまったもんじゃない。

 なので、単純なシーンで使える魔法ではない。
 しかし今の俺は魔術師でありながら盗賊スキルによる回避能力を有している。
 持続時間も膨大なMNDに支えられているので問題ない。
 さらに単独行動なので、いざとなれば自分を中心に攻撃魔法を展開するという荒業に訴えることすらできる。
 今みたいに、どこから魔法を打ち込まれるかわからないときには非常に重宝するわけだ。

「この除湿サーヴァント……あんがい優秀だな」

 透明だったサーヴァントはごくごくゆっくりと白濁していき、その除湿具合が一目でわかった。
 進行方向の先頭にいるサーヴァントからどんどん白くなっていき、たまに隊列をローテーションすることで長持ちさせる。
 除湿能力も文句なく、円陣の中央にいる俺は霧の中を歩いていながらじめじめせずに快適とくらあ。

 頃合いを見計らい、ほとんど白濁して不透明になってきたサーヴァントに《乾燥/ドライスペル》をかけてやる。すると、ふたたび除湿能力を取り戻す。

「いいなこれ。ギルドに戻ったら時間制限のあるサーヴァントじゃなくて、ゴーレムで作ってみたい」

 水取りゴーレムさんって名前にしたら売れないかな。
 普通のゴーレムを作れる者がほとんどいない世界だから、まっとうなゴーレムのほうが売れるか。

 あまりエデンの防壁から離れても何かあったらフォローできないので、ほどほどのところで霧の中をうろうろする。

 それから、二回ほど水取りサーヴァントさんの除湿を済ませるも、何事も起こらない。
 もしかして、これって自然現象の霧なのか……?
 だとしたら遠間から攻撃魔法をどかどか打ち込んで騒ぎにしなくてよかった。

 何もなかったことだし、エデンに戻って待機するか。
 念のため《天候操作/コントロールウェザー》で少し風を起こして霧を遠ざけるか。昼になればカンカン照りにして霧なんか出ないくらいの天気にするんだけど、夜だと強めの風を起こすのがせいぜいだな。

 エデンに戻るため踵を返す。すると、それまで背後にいた水取りサーヴァントさんが、急速に白く不透明になった。
 
「何事!?」

 それまでなかった水取りサーヴァントさんの変化に、七つの護符剣セブンタリスマンを抜き、周囲に意識を巡らせ身構える。

 ひたり。
 
 首筋に冷たいものが触れた気がした。
************************************************
次回更新は4/26(日)00:00です。

もうすぐ来ますね…じめじめした日本の季節が。
わが家にも水取りサーヴァントさんほしいです。
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