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二部
181 龍の結界
しおりを挟む「――あれ? あの馬車ってもしかして」
確かに銀龍は堅くて強いが、ここまでやってお互いに致命傷を与えられないのがよくわかった。
俺に求められているのはこの銀龍の足止めなので、多少痛いが緩やかな消耗戦を演じていればいい。演技といったって命がけなんだが、いざとなったら《転移/テレポート》で逃げることができる強みがある。
だから俺はあらかじめ魔法で増幅していた視力や感覚器官を使って、銀龍だけでなく戦場をまんべんなく観察するようにしていた。
そうしたら、さっきまでレゴリス軍の騎兵が川のように流れているところに、異変が起こったのを発見した。
その異変は突然現れた一頭の馬車によるものだった。
「……間違いない。あれは俺がエステルたちにあげた馬車」
「このわたしと戦っているときによそ見とは余裕である!!」
「そんな余裕でもないんですけど!! ――我が道を阻む者を貫く鏃となれ。《雷撃/ライトニングボルト》」
「うぬぬ! ビリビリするのである!!」
銀龍の攻撃方法は牙と爪と長い胴体によるなぎ払い。そして目潰しと灼熱を全方位に浴びせかける銀色のブレス。
このうち通常攻撃はおおむね避けることができる。《加速/ヘイスト》でAGIを二倍に上げて、回避力を上げているのが功を奏した。これがなければ、通常攻撃で俺のVITは毎ターン回復を必要としたかもしれない。
銀のブレスは避けようがないうえ、ダメージはかなりのものだし高確率で目潰しをくらう。これを食らったあとは必ず《快癒/リフレッシュ》を使わざるをえないので面倒だ。なによりものすごく痛い。
状況は銀龍にとっても同じようで、俺の魔法は必中だがダメージがそれほど通らない。《隕石落とし/メテオラ》が使えればもっとざくざく削り取れるんだろうが、お互い近すぎて広範囲魔法の《隕石落とし/メテオラ》は自爆技だ。
試しに俺の持つ魔法の剣『七つの護符剣』で斬りかかってみたんだが、当たることは当たるがダメージが通った様子がない。この剣は魔法の剣といっても、魔法の発動体の役目のほうが大きく、戦闘性能重視ではないので仕方がない。
このまま削り合って、どちらが勝つかは俺にもわからないが、当分の間は膠着状態だ。周囲の警戒と観察くらいいいじゃないか。
「古代龍堅すぎだろ! しかも即死系の魔法が効かないとかずるい!!」
「ヌゥ、龍に即死魔法が効かないことを知っているとは、博識だの!! 伊達に銀龍と渡り合うだけの魔術師ではないな」
……いや。博識なんかじゃなく、俺の知識はテーブルトークRPGの中での知識なんですけどね。ひとまず《嘘看破/センスライ》の魔法で銀龍が嘘をついていない裏付けは取れたんだが、喜んでいいんだか。
それにしてもこの銀龍。俺に対して戦闘中のよそ見が余裕だとかいっているわりに、べらべらしゃべりまくる奴だな。レオンじゃないが、こいつを縛っているであろう呪縛が解けたら、仲良くなれそうな気がする。
「もし、無事この戦争が終わっておまえも自由になれたらさ――ゆっくり話でもしようぜ」
「ふん! 生き残れるとでも思うてか!!」
巨大なくせに思わぬ方向から飛んでくる尾と鉤爪をなんとか避ける。
さっきから通常攻撃が多い。
銀のブレスは回数制限があるのか、魔法と同じように精神力を消費するかであまり使いたくないのだろう。
ふと、地上の馬車を見ると、コメットらしき馬がちょこまかと馬車を曳きつつ、うまくレゴリス軍を振り切ろうとしている。行く手のレゴリス軍の騎馬たちが不自然に落馬しているあたり、馬車の中から魔法での援護もしているのだろう。
――間違いない。エステルたちだ。御者台にいるのはガルーダに……ロマーノとかいう男。いや、あれで女だったっけか。他のメンバーは馬車の中か。
あのぶんなら早々にレゴリス軍を抜けて、レオンやハムたちがいるユルセール軍に合流できるだろう。にしてもなんであいつら、あんなところに――
俺の思考はそこで中断した。
突如、馬車の周囲に現れた霧を見たからだ。
「ミストブリンガー!? あいつは俺の《契約の儀式/リチュアルコントラクト》でユルセールの戦争に――ああっ! あいつらは冒険者だから攻撃できるのか!? やばい!!」
「またよそ見をしているのである! 真面目に戦うのである!!」
「ちょ、ちょっとタンマ! また後で相手するから――ああっ!!」
銀龍の攻撃をかわしつ横目で確認したのは、馬車の後部を破壊されて走行不能になった馬車――さすがにあの霧のブリンガー相手にエステルたちは分が悪い。助けにいかないと。
「すぐ戻ってくるから。ほんとゴメン!! 峻厳の山河、羽すら休めぬ空海、時を知らせる砂の重さ。我が翼はいずれも妨げとならず――」
俺は即座に《転移/テレポート》の詠唱に入る。
すると銀龍もざわざわと銀色の鱗を逆立てて、長く太い姿がぎらりと輝く。
(ここで銀のブレスか!! まあいい、一撃くらいは食らってやる――)
「――目を閉じて開ければもうそこに。《転移/テレポート》……あれ?」
銀龍の身体がぎらりと光ったかと思った直後。俺の魔法が完成したはずだ。
おかしい。失敗の手応えじゃなかった。
「魔術師はちょっと分が悪くなるとすぐ逃げようとするのである」
「おま――何をした」
銀龍の身体は鱗が逆立ち、それがひらひらと抜け落ちて空中に舞っていた。ブレスではない。別の何かの能力――
「魔術師風にいうと結界である。少々展開に時間がかかるゆえ、おぬしが逃げられぬようタイミングを見計らっていたのである」
それだけじゃなく、銀龍はぶるっと身体を震わせると、俺が仕掛けた《雷鼓の束縛/サンダーバインド》までさらっと打ち消しやがった。
「ああ、せいせいしたのである!!」
転移を封じる鱗の結界と、自分にかけられた魔法の無効化か……
まだまだ隠しワザがあるとは思っていたが、よりによって魔術師殺しなものを持ってやがったか。
そのとき視界の隅で、霧が動いた。
魔力で拡大した俺の目に、ミストブリンガーが創りだした無数の槍が、エステルを貫いた光景が飛び込んできた――
エステルは戦闘系技能を持っていない。ミストブリンガーの槍は物理攻撃扱いだった。だとすればエステルやケイシャには避けるすべはない。
「エステル!!」
「わたしはエステルという名ではないのだ」
「そこをどけ! 結界を解け!!」
「何だかわからぬが、いい面構えになったのである」
エステルのあのダメージは間違いなく致命傷。運が悪ければ即死――
「天然記念物みたいなものだからって手加減してやったら調子に乗りやがって……」
事情が変わった。
一刻も早くエステルのところに向かってやらないと。
「このわたし相手に手加減とは、どこまでも偉そうな魔術師なのである!!」
銀龍は長い胴体の鱗をぎらぎらと輝かせながら、猛スピードで俺の周囲を動きまわった。
左右だけでなく上下も含め、まるで俺を閉じ込める銀の檻のようだ。
「おまえも手加減してたって訳か……」
俺は手加減していたといっても、この銀龍相手にスピード決着できそうな手段はない。
純粋な削り合いに打ち勝つくらいしか手立てがない。
――多少、自爆技であっても使って、早期決着を狙うしかない。
「星界の子供たちよ。この声は届いているか。この魔力は伝わっているか。これなるは我が箒。魔法を極めた者の魔法の箒。お前たちの古箒と取り替えておくれ。この地を掃くため清めるため。何も残さず綺麗にしよう。《隕石落とし/メテオラ》!!」
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いよいよ二部ラストが見えてきました。
テンポアップしたので、終わりまでなつかしの週二回更新……
したいと思わなくもなくなくないです!(何)
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