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二部
189 会見
しおりを挟むユルセールに戻ってからは怒涛の日々だった。
まず、古代龍であるカトラについてから事情をまとめておきたい。
ユルセールの軍隊よりも早く到着しても仕方がないということで、カトラに乗せてもらって空を飛んだ俺とリーズンは、ユルセールをぐるっと一周してもらった。
そのときにカトラのことや、レゴリスにいたフィレモンというブリンガーのこと。どうしてザラシュトラスに『龍王の装飾卵.』を使われたのか。
そういったことを空中散歩しながらゆっくり聞くことができた。
「つまり、わたしは目下宿なしなのである」
「そこにオチがつくのかよ!?」
カトラは細かいことは気にしなかった。ザラシュトラスに操られていたことも、それまで住んでいたレゴリスの山を荒らされたことも、過ぎたことと一蹴した。
「人間ごときに傅かなくてはならなかったのは、わたしにとっても不愉快なことであったが……過ぎてしまえば長い龍生の中でもなかなか珍しい体験だったのである」
「さいですか……」
「だが、長い龍生。重要なのは住み家である。レゴリスの古巣はフィレモンと『龍王の装飾卵.』があったから住んでいた場所であるが、すでにレゴリスが荒らしまくってしまったのである」
カトラとフィレモンの話は複雑なので省略するが、すでにフィレモンは死んでおり、カトラは『龍王の装飾卵.』に触れることができなかったため、長くあそこに留まっていただけという話だ。
「なので、この地によい場所があれば引っ越しをしたいのである」
「よい場所ねえ」
銀龍ほどの大きな生き物が住むとなったらそれなりに広い場所じゃなくちゃダメだろうし、人里が近すぎると問題だろうし……
「どういう物件がいいんだ? というか人間の姿でいればコンパクトに暮らせるだろ?」
「人間の姿は窮屈なので、ずっとあのままは疲れるのである。メテオだって家に帰れば靴を脱いで上着を脱ぐであろう?」
「そりゃまあそうだな」
「贅沢はいわぬので、あまり人が来なくて閑静で広々とした古城などがいいのである」
「古城って段階で贅沢だろ!!」
俺はカトラの首に乗ったままずびしとツッコミを入れた。
古代龍というわりに、こいつはやたらと人間臭い。なんでもフィレモンという男と暮らしているうちに、人間の文化を学んだという話だったが学びすぎだろ。
「メテオ。アヴィルードなどいいのではないか?」
「あー…… あそこかー」
アヴィルード。かつてペストブリンガーの居城があった孤島。
しかし俺がかなり地形を変えてしまったし、古城というより廃城なんだけどなあ。海水を浴びまくってあたり一面塩だらけだろうし、なにより人はいないがアンデッドの巣窟だ。
「よい場所があるのであるか?」
「気にいるかどうかは微妙だけど……」
「見てみよう。案内するのである」
そうして辿り着いたアヴィルードの上空からかつてペスブリがいた廃城を眺め、カトラは思いのほか乗り気であった。
「うむ。広さもあるしわたしが寝転がれそうな城もある。浄化しがいもあるので気に入ったのである!!」
「浄化?」
「わたしは銀龍である。混沌の勢力のさばる地に、秩序回復をもたらすのは楽しいのである!!」
メタルドラゴンは秩序の神々と共に混沌の神々とカラードラゴンと対立していた。というのは本当だったのか。
「レオンもアンデッドだらけの島よりは、銀龍が浄化してくれた島のほうがいいよな」
「おおそうだ。この国の王であるレオンとやらに許可を貰わねばな」
「銀龍というのは案外そういう道理を気にするのだな」
リーズンが意外そうに漏らすとカトラは失敬な。と、不満を述べる。
「前にいた山も、もとはといえばわたしが先に住んで、そののちレゴリスとやらが来たのである。人間種はすぐに増えてさわがしくなるので、こちらも静かな場所を探すのが大変なのである!」
ドラゴンも大変なんだな。
その後、カトラとともにユルセールへ向かうと、城は軽いパニックに陥ったが、事情を知っているレオンやビショップさん。ハムとアーティアも残っていたので、騒ぎはすぐに収まった。
黒龍騎士団の飛竜でカトラを誘導して、飛竜が離着陸する竜舎に案内すると、カトラはそこで巫女姿の少女へ変身した。
「――銀龍カトラ様。ユルセール王、レオン様がお待ちでございます。銀輪騎士団長ペリアスがご案内いたします」
「うむ」
恭しくお辞儀をするビショップさん。しかしいつものイケメンマスクもカトラを前にかなり緊張している。ビショップさんは実際にカトラの戦闘を見ているからな。人間の少女の姿だとしてもやっぱり緊張するのだろう。
カトラとビショップさんの後に続くのは俺とリーズンそして、飛竜に乗っていた若い騎士ももだ。
その騎士は銀龍の姿を見てからというもの、英雄を見る少年のように目を輝かせてカトラを見ている。
「あれは黒龍騎士団の副団長。トーマスといったかな……」
ハムがこっそりと教えてくれる。
黒龍騎士団の副団長というからには、よほど竜や龍といったものに思い入れがあるのかもしれない。
俺も、カトラと戦うことにならず、さらにあんな人間臭くなかったらもっと純粋な気持ちで最強のドラゴンをキラキラした目で見ていたかもしれない。
「副団長ってことは、団長のヴァリウスはどうしたんだ?」
「リーズンの代わりにウォルスタを守ってくれている筈だ」
……聞けばヴァリウスとロルト爺にはずいぶん世話をかけたようだ。それでリーズンがあんなところにいたのか。
王の間には白狼騎士団長のローフル。青衣騎士団長のヒュメリア。車イスに乗っているのはストブリだ。そしてハムとアーティアにガルーダ。エステルたち北極星とロルト爺が赤絨毯をはさんで並んでいた。
もちろん赤絨毯の先には玉座に座ったレオンがいた。
「――王よ」
カトラが赤絨毯を進み出ると、深々と頭を下げた。
「このたびはわたしの不覚が貴国に迷惑をかけた。深くお詫びを申し上げるのである」
その様子を見た全員が、銀龍カトラの。少女の姿とはいえ間違いなく古代龍が、素直に頭を下げて謝意を述べたことに驚愕していた。
「銀龍カトラ殿――頭を上げてください」
そんな中、レオンだけは動揺していなかった。それどころか玉座を立つと、すたすたとカトラに歩み寄り、声をかけた。
「聞けばアーティファクトで――いえ。この話はあなたにとっても不名誉なことでありましょうから、重ねて問いますまい。余が申し上げたいのは、今回のことについてはカトラ殿も被害者であるということ。そして、余に禍根はないということであります」
「ユルセール王よ。寛大な言葉、感謝するのである」
……すげえなレオン。
銀龍ってことがわかっているのに、ここまで対等に接することができるのか。
「しかし、わたしと眷属の竜種たちが迷惑をかけたのは事実。このカトラの名において、非礼は詫びなくてはならぬ。わたしにできることがあれば、何でもいってほしいのである」
カトラはあくまで借りを返そうとする。銀龍としてのプライドがあるのだろう。そのプライドが傲慢さではなく、人間に対してブレていないところがすごい。
「この国の賓客として。余の友人として付き合っていただけるのであれば、これに勝るものはありません」
「それだけでよいのか? わたしは銀龍。望むのであれば――」
「――いえ」
カトラの言葉をレオンは遮った。
「古代龍が与えてくれるものについては、もろもろ伝承が伝わっております。財宝、知恵、力に不老不死…… しかし、余は。ユルセールはそうした人智を超えたもので、長く痛い目に合ってきました」
レオンはペストブリンガーと『漆黒の聖杯』のことをいっているのだろう。
レゴリスとの戦争も、俺が介入するのを嫌がっていた。
レオンは俺とも友達としての立場を崩さず、しかしブリンガーが出てきたのみ俺が力を化すという、国にとっても正しい方向に落とし所を見出した。
カトラともそうした付き合いをしようとしているのだろう。
「なのでまずは――」
レオンは俺を見て、そしてこの場にいる全員を見回した。
「わたしの大切な部下や、友人たちと宴を共にしていただけないだろうか?」
……レオン。お前って本当に器のでかいヤツだよ。
「気に入ったのである。ご相伴に預かるのである!!」
カトラも少女の顔を破顔させて請け負った。
「宴だ!! このたびの戦いはユルセールの勝利に終わった! これから先まだまだレゴリスへの調停や補償など頭の痛い問題は多いが、今は勝利を祝おうではないか!!」
「王様いっかすぅ!!」
レオンの言葉にガルーダが飛び上がって叫んだ。
ああ、これで本当に一段落だ。
――俺も今日はしこたま飲むぞ!!
************************************************
ようやくエピローグ的なものに突入していきます。
二章は長かったですねえ。
じつはこっそり活動報告更新してます。
実はこの一ヶ月くらい、完全に書き溜めたストックだけで戦っていたんですけど、
もの書きとしてではなく鉱物写真家として動いていました。
この話が更新される日に開催される『石フリマ』というイベントで
石&カメラ仲間と写真集を出してます。
えっ、告知遅いって? 忙しかったんですよう!!!
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