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外伝
【外伝】亡国の剣2
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襲いかかってきた十数人の野盗を、ほぼ一人で切り倒した鬼神のごときハムであるが、目下どうしたものかと戦闘中よりも困っていた。
「馬も御者もやられちゃいましたね」
野盗たちからひとり生け捕りにされ、捕縛縄できっちりと結ばれた男に腰掛けていたノアもため息をついた。
場所は王都ユルセールとホームグラウンドであるウォルスタのちょうど中間。南下していけばイスキアという街がある。まずはそこを目指すべきなのだろうが。
「このまま徒歩でイスキアを経由すると一週間以上はかかるな」
「しかも捕虜を連れてです。いっそここで始末してしまいましょうか?」
ノアの尻の下で野盗がもぞもぞと抗議に動いたが、自警団での鉄火な日々を送るノアにしてみると同情に値しない。人から命とものを奪い取るような悪人については、博愛精神を発揮する必要がないと考えているからだ。
「どの道、縛り首だがせっかく生け捕りにしたんだ。できればいろいろと情報を吐かせてからにしたいな。そう思うだろ?」
ハムは野盗に近づいてさるぐつわを外すと同意を求めた。
「てめぇ…… 何者だ?」
「ウォルスタ自警団で団長をしている者だ」
「流れ星のハム!! 畜生、なんてこった!」
ハムの素性を知ると、野盗はぐったりとうなだれしまった。
「その様子だと行きずりの襲撃か。仲間はほかにいるのか? ヤサは魔の大森林のとば口か?」
すぐには口を割らないだろうと思ったが、他にすることもないので野盗を問い詰める。
王都ユルセールからウォルスタには大きなリザール山脈と大森林とで南北がほぼ分断されている。わずかに東の海岸線に大森林の緑化が及ばない道が一本あり、そこがウォルスタをはじめとするユルセール自治領と正規の王国領をつなぐ生命線となっている。
そこで大森林の浅いところに野盗が拠点を構え、脇の甘いキャラバンや旅人を身ぐるみ剥ごうと待ち構える。ユルセール王国とウォルスタの街の関係が改善されたことにより、今ではかなり野盗の数が減っているはずなのだが、こうして安易な犯罪に手を染めるものはなかなかいなくならない。
「………………」
「黙るよなあ。喋れば今殺されるかもだし、情報は出し惜しみするほうがいいもんなー」
「あっ……ぐ……」
「何だって? はっきり喋れよ」
「………………」
ノアが問い詰めるがとくに進展はなかった。
ハムはわずかに沈黙の質が気になったが、それ以上の追求は避けた。大きな街に行けば喋るまで責め苦が待っているのだし、うまくいけば《嘘感知/センス・ライ》が使える魔術師がいるかもしれない。
国境沿いの野盗を倒すのは仕事の延長線のようなものだが、どうも気乗りしない。正直に情報を引き出したあとはすぐ殺してしまうほど冷たくはないし、かといって黙られてこのまま野盗と歩いてイスキアまで旅するのも嫌だ。さてどうするかと思っていたのだが。
「ハムさん、ユルセール側から武装キャラバンが隊列組んでやってきます。あれはいつもウォルスタに来る商会の旗です」
「いいタイミングだ」
武装キャラバンは五台の箱馬車で移動をしていた。そこに十数人の冒険者が馬車に乗り込んでいたり、馬で随伴をするなどして護衛をしていた。
基本的に野盗たちは、自分たちより数が多いものを狙わない。もちろん夜襲などはその限りではないが、戦い慣れた冒険者たちを敵に回すほど骨のある集団はあまりない。
だから商人たちは商いの移動のさいには冒険者たちを随伴させたがる。移動する予定がある冒険者からすると少額とはいえ収入があり、なおかつ移動の際には食事が出るのが普通であったし、数さえ揃えば比較的安全な仕事なので、護衛の仕事は人気がある。
「すまない! 止まってくれんか!!」
「何者だ!? ……ってハムさんか。どうしたんだこんなところで?」
「野盗に襲われてしまってな」
「ハムさんを襲うとか、バカな野盗もいるもんだ」
先頭を馬に乗って率いていた護衛は、ウォルスタの冒険者の宿を常宿にしている者で、腕の立つ戦士だった。ハムが声を掛ける前から前方に馬車と馬の残骸があることから、声をかけられる前からずいぶんと警戒していたらしい。ハムの姿を見て警戒を解くと、キャラバンの一時停止を触れ回った。
改めてハムの前に姿を表したのはこのキャラバンの責任者だ。
「行進を止めてしまってすまない」
「いえいえ。ハム殿のおかげで我々も安心してウォルスタに行けるのです。少しでもご恩返しになれば」
受け答えは至極穏当だった。道の真ん中で倒れている馬と瓦礫を手分けして端に寄せて、御者の死体は残念だが遺髪と形見だけイスキアまで持っていってもらい、然るべく連絡を取ってもらえるようにした。
「この野盗はイスキアの官憲に引き渡してくれ。もしかすると賞金首かもしれないが、そのさい賞金はそちらで好きにしてくれてかまわない」
「承知いたしました……が、ハム殿たちは共に行かれませんので?」
「野盗どもの足跡があるようなら、そのまま乗り込んで殲滅しようと思う」
「魔の大森林に向かわれるので?」
「ああ。ついでにうまく横切れば徒歩でもイスキア経由するより早くウォルスタに到着できるやもしれんしな」
「……そこらの横丁を一本抜かして通るみたいにいわれると、こちらも何と返していいかわかりませんな」
キャラバンの責任者は乾いた笑いを漏らすと、それでもハムからの要請を快諾した。ウォルスタの自警団長。さらにこの王国ではすでに伝説となった冒険者、『流れ星』の戦士に恩を売れる機会を喜んですらいた。
「ノア。行くぞ」
「えっ。そっちは大森林ですよ。どこ行くんですか? ハムさーん」
「馬も御者もやられちゃいましたね」
野盗たちからひとり生け捕りにされ、捕縛縄できっちりと結ばれた男に腰掛けていたノアもため息をついた。
場所は王都ユルセールとホームグラウンドであるウォルスタのちょうど中間。南下していけばイスキアという街がある。まずはそこを目指すべきなのだろうが。
「このまま徒歩でイスキアを経由すると一週間以上はかかるな」
「しかも捕虜を連れてです。いっそここで始末してしまいましょうか?」
ノアの尻の下で野盗がもぞもぞと抗議に動いたが、自警団での鉄火な日々を送るノアにしてみると同情に値しない。人から命とものを奪い取るような悪人については、博愛精神を発揮する必要がないと考えているからだ。
「どの道、縛り首だがせっかく生け捕りにしたんだ。できればいろいろと情報を吐かせてからにしたいな。そう思うだろ?」
ハムは野盗に近づいてさるぐつわを外すと同意を求めた。
「てめぇ…… 何者だ?」
「ウォルスタ自警団で団長をしている者だ」
「流れ星のハム!! 畜生、なんてこった!」
ハムの素性を知ると、野盗はぐったりとうなだれしまった。
「その様子だと行きずりの襲撃か。仲間はほかにいるのか? ヤサは魔の大森林のとば口か?」
すぐには口を割らないだろうと思ったが、他にすることもないので野盗を問い詰める。
王都ユルセールからウォルスタには大きなリザール山脈と大森林とで南北がほぼ分断されている。わずかに東の海岸線に大森林の緑化が及ばない道が一本あり、そこがウォルスタをはじめとするユルセール自治領と正規の王国領をつなぐ生命線となっている。
そこで大森林の浅いところに野盗が拠点を構え、脇の甘いキャラバンや旅人を身ぐるみ剥ごうと待ち構える。ユルセール王国とウォルスタの街の関係が改善されたことにより、今ではかなり野盗の数が減っているはずなのだが、こうして安易な犯罪に手を染めるものはなかなかいなくならない。
「………………」
「黙るよなあ。喋れば今殺されるかもだし、情報は出し惜しみするほうがいいもんなー」
「あっ……ぐ……」
「何だって? はっきり喋れよ」
「………………」
ノアが問い詰めるがとくに進展はなかった。
ハムはわずかに沈黙の質が気になったが、それ以上の追求は避けた。大きな街に行けば喋るまで責め苦が待っているのだし、うまくいけば《嘘感知/センス・ライ》が使える魔術師がいるかもしれない。
国境沿いの野盗を倒すのは仕事の延長線のようなものだが、どうも気乗りしない。正直に情報を引き出したあとはすぐ殺してしまうほど冷たくはないし、かといって黙られてこのまま野盗と歩いてイスキアまで旅するのも嫌だ。さてどうするかと思っていたのだが。
「ハムさん、ユルセール側から武装キャラバンが隊列組んでやってきます。あれはいつもウォルスタに来る商会の旗です」
「いいタイミングだ」
武装キャラバンは五台の箱馬車で移動をしていた。そこに十数人の冒険者が馬車に乗り込んでいたり、馬で随伴をするなどして護衛をしていた。
基本的に野盗たちは、自分たちより数が多いものを狙わない。もちろん夜襲などはその限りではないが、戦い慣れた冒険者たちを敵に回すほど骨のある集団はあまりない。
だから商人たちは商いの移動のさいには冒険者たちを随伴させたがる。移動する予定がある冒険者からすると少額とはいえ収入があり、なおかつ移動の際には食事が出るのが普通であったし、数さえ揃えば比較的安全な仕事なので、護衛の仕事は人気がある。
「すまない! 止まってくれんか!!」
「何者だ!? ……ってハムさんか。どうしたんだこんなところで?」
「野盗に襲われてしまってな」
「ハムさんを襲うとか、バカな野盗もいるもんだ」
先頭を馬に乗って率いていた護衛は、ウォルスタの冒険者の宿を常宿にしている者で、腕の立つ戦士だった。ハムが声を掛ける前から前方に馬車と馬の残骸があることから、声をかけられる前からずいぶんと警戒していたらしい。ハムの姿を見て警戒を解くと、キャラバンの一時停止を触れ回った。
改めてハムの前に姿を表したのはこのキャラバンの責任者だ。
「行進を止めてしまってすまない」
「いえいえ。ハム殿のおかげで我々も安心してウォルスタに行けるのです。少しでもご恩返しになれば」
受け答えは至極穏当だった。道の真ん中で倒れている馬と瓦礫を手分けして端に寄せて、御者の死体は残念だが遺髪と形見だけイスキアまで持っていってもらい、然るべく連絡を取ってもらえるようにした。
「この野盗はイスキアの官憲に引き渡してくれ。もしかすると賞金首かもしれないが、そのさい賞金はそちらで好きにしてくれてかまわない」
「承知いたしました……が、ハム殿たちは共に行かれませんので?」
「野盗どもの足跡があるようなら、そのまま乗り込んで殲滅しようと思う」
「魔の大森林に向かわれるので?」
「ああ。ついでにうまく横切れば徒歩でもイスキア経由するより早くウォルスタに到着できるやもしれんしな」
「……そこらの横丁を一本抜かして通るみたいにいわれると、こちらも何と返していいかわかりませんな」
キャラバンの責任者は乾いた笑いを漏らすと、それでもハムからの要請を快諾した。ウォルスタの自警団長。さらにこの王国ではすでに伝説となった冒険者、『流れ星』の戦士に恩を売れる機会を喜んですらいた。
「ノア。行くぞ」
「えっ。そっちは大森林ですよ。どこ行くんですか? ハムさーん」
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