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しろやぎ

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三部

031_フィレモンの霊廟

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 船であれば幽霊船の出ない迂回路とはいえ、二ヶ月かかるユルセールとレゴリスの距離。
 わずか一日と少しでカトラは飛翔してみせた。

 地上から見上げれば豆粒よりも小さく見える高度で、弓よりも風よりも早くこの銀龍は移動してのけたのだ。

(『龍王の装飾卵イースターエッグ』の加護がなければ、メテオといえど背中から吹き飛ばせる自信があったのである)

 この銀龍はやや自慢げに、俺とマリアの心に語りかけてくる。

 海の上では比較するものがなかったのでわからなかったが、確かにレゴリス大陸が見えてから、景色の移り変わりが尋常ではなかった。
 数えるくらいしか乗ったことはないが、飛行機のそれを完全に上回っていた。もちろん乗ったことはないが、戦闘機クラスの速度だったのではなかろうか。

「試そうって気持ちも起こらないな」

 偽りなき俺の本心である。
 《飛翔/フライト》の魔法が子供だましに思えるほどの速度だった。

「今まではメテオの《転移/テレポート》が最速の移動手段だと思っていたけど、この速さなら星までも飛んでいけそう」

(飛んでいけないこともないかもしれないのであるが、面倒臭いので試したことがないのである)

「いやいや。カトラはともかく生身で宇宙空間はヤバいだろ」

 この世界の宇宙空間がどうなっているかはわからない。そそられはするが、宇宙進出という大それたことは、この大地の上をコンプリートしてから考えたい。

(そろそろなのである。ここがわたしとフィレモンが暮らした愛の巣、銀龍山脈なのである)

 レゴリス大陸に入ってからのカトラは速度を落としていた。それと同時に高度も落とし、俺たちの目の前には白い冠雪を戴いた、どこまでも横に広がる山脈が見えてきた。

「凄いわ…… もうわたしが闘技場で戦っていたウェザリアすら越えてレゴリスの最北端まで……」
「地図の縮尺がわけわかんないな、もう」

 ウォルスタの魔術師ギルドから取り寄せたレゴリスの地図を広げた。すっかりレゴリスの版図を上空から飛び去り、ユルセールから二日とかからず最果てまでやってきてしまった。

(わたしがいなくなった後、龍の眷属たちも散り散りになってしまったようなのである。山もほんのちょっとだけ削り取られているのである)

 カトラが示した先は、広大な銀龍山脈のほんの麓の一部分。高山の薄い緑と、岩山を切り開いて作った町があった。
 見渡す限りその町だけは他の人里からは切り離され、うっすらとレゴリスの中心部へと続く道のみが、町とその他を繋いでいる。

「こんなところに町があるのか」

(わたしがいた頃は、こんな町などなかったのである)

「……たぶん、鉱山の町ね。人里離れて孤立しているのは、銀でも掘れるんでしょう」

(狂太子にかどわかされたほんの数年で…… まったく人間はすばしっこいのである)

 それまでカトラやさまざまな竜種がいたから、鉱物資源があっても手を付けられなかったんだろう。だが、ほんの数年でこれだけ大きな町を作るか。

「いいのか、カトラ? お前の眷属たちや、フィレモンの墓もあるんだろう?」

(別にかまわないのである。眷属たちは奥地に移り住んでいるであろうし、フィレモンの霊廟も山脈の最奥の、まともな人間ではたどり着くのも難しい場所なのである)

 これだけ大きな山脈だから、たいしたことはないってことなんだろうな。

(――それに、約束をしたのである)

 カトラが感じられるか感じられないか、ギリギリの心話を送ってきた。

「何を――」

(もう到着なのである。霊廟の上でわたしは龍の姿から人間の姿になって落ちるのである)

「えっ。ちょ――!!」

 そう聞こえたとき、すでにカトラは人間形態に変わっていた。

「もっと早くいってくれ!!――羽根の如く落ちよ《浮遊落下/ランディングフェザー》」

 マリアと俺に《浮遊落下/ランディングフェザー》の魔法をかける。
 龍の考え方は雑だ!!





 すでに春だというのに銀龍山脈の尾根は雪深かった。踏みしめたところがずぶずぶと雪に沈んでいく。小柄な俺とカトラは下手すると全身雪に埋まる。

「フィレモンの墓――霊廟はどこにあるんだ?」
「しばし待つのだ」

 心話ではなく、実際に共通語を話してカトラ。
 銀髪銀眼の巫女服の少女がふとうつむき、目をつむった。

「――暑い」

 はじめに気がついたのはマリアだった。

「雪に埋もれ、入り口を塞いでいる氷雪を融かすのである」

 全身を焼け石のような温度に高めるカトラ。すぐに周囲の雪が融け始め、岩肌が露出する。焼け石じゃないな。金属を融かすための炉だ。

 現れたのは馬車ほどもある一枚岩。カトラはひょいっと岩を持ち上げる。

「この下にある。先に入るのである」

 岩の下から現れたのは地下への階段だ。
 海に空に地下。目まぐるしい場所の変化に多少くらっとする。

「メテオ、明かりを……えっ、見える?」

 荷物から松明を取り出そうとしていたマリアが、素っ頓狂な声を出す。

「『龍王の装飾卵イースターエッグ』に触れたものはしばらく龍の加護が得られるのである」

 俺たちが階段を降りるとカトラも階段へ向かい、ゆっくりと内側から岩を下ろす。低く腹に響くずしんという音とともに暗黒が俺たちを取り巻く――はずだった。

「暗闇を見通す龍の瞳。人間にはクセになるのである?」

 ほぼ完全な暗闇にもかかわらず、視える。
 エルフたちのように熱を感知するのでもなく、ドワーフたちのようにろうそくの光だけで炭鉱の中で不自由しない視力でもない。
 生物と無生物、すべてが発するオーラを捉えている。というのだろうか。

「しばらく階段を降りていくのである。一番下がフィレモンの霊廟なのである」

 視界の不自然さに戸惑う俺とマリアのわきを抜けて、カトラはすたすたと下に向かっていく。

「ね、ねえ。カトラ」
「どうしたのである?」

 マリアがカトラの背を追った。ここに危険があるとは思えないが、俺はしんがりを守っていよう。

「『龍王の装飾卵イースターエッグ』の力は確かに凄いけど、あまり使わないほうがいいんじゃないかしら?」
「どういうことなのである?」
「つまり、その――人間でいったらお腹の子供の力を分けてもらっているんでしょう?」

 あ、そうか。
 カトラと行動していたから感じていなかったが、この『龍王の装飾卵イースターエッグ』が与えてくれた力は卵からの力。
 つまり生まれる前の卵の力を浪費していることになるのか。

「確かに使い過ぎはよくないのである。けれど、風圧やら暗闇を見透すくらいであれば、寝返りくらいのものなのである」
「たまに使うぶんには平気なのね?」
「そうなのである。しかし、狂太子みたいな使い方は卵によくないし、孵化の時間をますます長めるので、よほどのことがない限りやめてほしいのである」

 狂太子が『龍王の装飾卵イースターエッグ』でやったこと。

「ワームの大群を見透す操ったことや、カトラを操ったこと。龍の力を自分に乗り移らせて半龍化したこと……か」
「そうした龍の力の乱用は卵によくないのである。使いすぎれば孵化が送れるだけでなく、最悪の場合は卵の中で死んでしまうのである……」
「なるべく使わないようにしましょう。ね、メテオ」
「そうしよう」

 生まれる前から働かされて過労死なんてシャレにならない。

「そろそなのである」

 『鼻』を操ったヒクヒクさせたカトラが胸いっぱいに深呼吸をした。
 俺もそれを真似てみたが、不思議なだった。
 味覚とも嗅覚とも違う、他の感覚が体内にあるような気分だ。

 吸い込むとうっとりとする蠱惑的な何かを感じ取れるのだ。

 マリアもこの感覚に戸惑いつつも、なんと表現したらいいかわからないようだった。

 階段を登って、地下から「いいにおい」が強くなってきた。
 やがて龍の目を借りずしても、地下がうっすら光っているのがわかった。
 地下をくり抜いた階段は、ふいに大きな空洞の壁面へと抜けた。

「――あの凶相の王子は、わたしとの約束を守ったようなのである」

 そこは野球場ほどの広さの大空洞だった。
 ――おそらく。

 空洞に埋め尽くされたのは金貨銀貨の山に荒くカットされた宝石。ひと目でわかる立派な武具の類。神像に壺に彫刻。さらには未開封の宝箱などで埋め尽くされていた。

「フィレモンの霊廟は荒らさない――わたしとかの狂太子が取り交わした口約束なのである。存外義理堅かったようなのである」

 光源がどこにあるのかはわからない。
 ただし、ここには光を反射させる金銀や、内側から光を発するような宝石が庭石のような無造作で散らばっている。

「いい香りなのである? 龍はこの宝の香りがことのほか好物なのである」

 満足気に深呼吸をして、カトラは大空洞の内壁をとりまいた階段を下っていく。
 この言い知れない香りは宝の香りなのか。

「これが古代龍エルダードラゴンの宝なのか……」
「すごいわ。財宝に目がくらむってこういうことなのね……」

 ザクッ。

 階段が終わり。というか、そこまで財宝が埋まっていたので、俺たちはどれだけの価値があるかわからない地面を踏みしめながら、カトラについていった。

「ただいま、なのである。フィレモン」

 岩をくり抜いて作られた壁龕へきがんには、一本の槍が置かれていた。
 金属でできた長柄の先に、鏡のように光を反射する銀の槍頭がついた槍。
 あえてこの岩のくぼみに安置されていなければ、この大空洞に埋め尽くされた財宝の山に埋もれてしまうほど地味な槍だった。

「……はじめまして。ドラゴンブリンガー。龍王フィレモン」

 俺は槍に向かって心からの敬意で頭を下げた。

 間違いない。ドラゴンブリンガーと呼ばれた男の魂が、この槍には篭っている。
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