ワールドトークRPG!

しろやぎ

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三部

035_事情

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「おお。ひさしぶりだな、メテオ」

 《転移/テレポート》でウォルスタにある魔術師ギルドの私室に現れた俺を出迎えたのは、予想していたマリアではなかった。

「は、ハム? どうして俺の部屋に!? っていうかその子供は……ああ、そういや嫁さんが妊娠してたもんな。双子だったのか?」

 巨躯に鎧も纏わず剣も帯びず、平服にエプロンをかけていたハムが両手に抱えていたのは、清潔なおくるみに巻かれたふたりの赤ん坊。性別すらわからないが、すやすやと眠っている。まだ産まれて数日も経っていないだろう。

「そのだな――」
「というかこんなところにいていいのか? ミユちゃんの傍にいてやらないとダメだろ。でも、かわいいなあ。名前はなんていうんだ?」
「俺のところの息子はヴルストって名前だが――メテオ。今は姿を、いや。なんといったらいいのか……むう」

 どうにも困ったという顔のハム。何があったというんだ。

 眉をハの字にしたハムの背後で、扉がぎぃぃと開いた。
 いかんな、しばらく留守にしたせいか丁番の油が切れたか。ギイギイ音を立てる扉は貧乏くさい。

 扉の奥からぬうっと出てきたのは、おかっぱ髪のアーティアだ。
 右手には俺があげた錫杖。栄枯転変ホイルオブフォーチュンがしっかり握られている。
 気に入ってくれたというのは本当のようだな。

「俺はちょっとマリアのところに」
「えっ、ここにいるのか――」

 俺の言葉が終わる前に、ハムはアーティアの脇をさっと通り抜けていってしまった。

「アーティア。ここにマリアがいるのか!? あいつに話が――」
「メテオ――くたばれぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 完全に油断しきった俺の側頭部に頑丈で硬いものが叩きこまれた。



「……はっ!?」
「おはよう。気分はどう? メテオ」

 どれだけ意識を失っていたのかはわからないが、俺は気を失っていたようだ。
 自分のベッドの上に寝かされ、そばに座ったマリアが優しく俺のほっぺたを撫でている。
 ベッドの両脇にはなんだか気まずそうにしているアーティアと、ふたりの子供を抱えたハムが立っている。

「何がなんだかわけがわからない……」
「だろうなあ」

 気の毒に。といわんばかりにハムが苦笑している。

「なんで俺は殴られたんだ……それになんでマリアもみんなもここに? リーズンとガルーダも隠れてるのか? エステルたちもいるのか?」
「わたしたちだけよ。さっきはいきなり殴ったのは悪かったわ」

 錫杖を持ったアーティアがきまり悪そうにしている。

「さっき俺にくたばれって……」
「だから謝ってるじゃない」
「いやいやいや! それ謝ってないよね!? 理由を話してくれ!!」
「理由はムカッとしたからよ。こんな錫杖送りつけて……」
「気に入ってるんじゃなかったのか!?」
「こんな経費の塊みたいな武器、わたしが好きになるはずないじゃないの!!」

 あっ。
 察したかもしれない。

「事情が事情だから念のために持ってきたけど、こんな武器使いたくないに決まってるじゃない」

 単純な過ちだった。
 確かにアーティアを作った聡の願いはこの錫杖だったが、キャラクターであるアーティアが湯水のように金を消費するアイテムを好むはずがない。
 テーブルトークRPGでのプレイヤーの好みが、必ずしもキャラクターの好みに反映するわけではないということか。
 親の心、子知らず。とはちょっと違うか。

「じ、事情って?」
「マリアの護衛だ」

 ハムが応えた。
 マリアの護衛って……それ必要なのか?

「回復の役目もあったけどね。正直必要ないくらい順調だったわ」

 ……なんのこと?

「ハム」

 マリアがハムからふたりの子供を受け取った。
 今まで見たことがないくらい、慈愛に満ちた優しい顔で。

「メテオ。わたしたちの子供よ」

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 えっ?

「そりゃあ戸惑うよなあ……」
「これに関しては同情するわ」

 えっ? えっ?

「俺と、マリアの、子供?」
「そうよ。双子だったのはわたしも驚いた」

 えっ? えっ? えっ?

「俺たちは席を外すか」
「ええ。メテオがいればもう護衛の必要もないわね」

 といってハムとアーティアは俺の部屋から出ていった。 

「ようやく借金を返し終わったのね。レベルはどう? メテオが望んだアーティファクトを作れそう?」
「ええっと……もうちょい」
「そう」

 ………………
 
 マリアに会ったら怒ろうと思っていた。
 事前に相談もなくどうして突然いなくなったのか。
 どんな事情があるにせよ、一言相談してくれたっていいじゃないか。
 そりゃあ借金はあったけど、絶対に返しきれる自信だってあった。
 何より半年間の間、一緒に冒険しててそれはわかってくれていたはずだ。

 考えていたことすべてが、俺の子宣言にすべて消し飛んだ。

「何も聞かないの?」
「ありすぎて頭が追いつかない」
「……抱いてみる?」

 すやすやと眠る双子を抱かせてくれた。
 
 ――うわぁ。ぐにゃぐにゃで触るのが怖い。

「いつ。いつ産まれたんだ?」
「昨日よ」
「マジか! てかマリアはそんな元気でいいのか!?」
「アーティアが魔法で全快させてくれたから。産婆さんも手配してくれたし、ハムとハムの奥さんもいろいろ手伝ってくれたし」
「そうか。……産まれてまだそんななのに、髪の毛ってあるんだな」

 われながら妙な感想だ。
 双子の頭を撫でると、ふわふわの髪の毛が揺れる。
 俺の子――マリアと俺の。

「子供ができたからマリアはウォルスタに戻ったのか?」
「そうよ」
「……なんで。俺に相談してくれなかったんだ?」
「あなたを縛り付けるため」

 思いがけない理由。
 縛り付ける――なぜ?

「あなたは誰よりも力のある魔術師になった。ここではないどこか違う世界にまで飛んでいってしまおうとしているくらいに」

 いつも余裕の姿勢を崩さないマリアの顔が凍りついていた。

「あなたは時の精霊の加護で歳を取らない。いつか離れ離れになっちゃうのは仕方ない。でも、ここではないどこかに行ったきりになるなんて許せない」

 凍てついた顔はじわじわと激情で赤みが差してきた。

「だって。だってあなたは違う世界のマリアにも会うんだもの。わたしと同じだったら、あっちのマリアだって何をしてもメテオを逃したりはしない。逃がすくらいならいっそ殺してしまうくらいは考えるもの――」

 マリアの大きな青い瞳から、涙がこぼれ落ちた。

「あなたはもうわたしのもの。この世界のどこ以外にも行かせない。でも、冒険を続けないあなたなんて好きじゃない。でも、子供がいればあなたは絶対にこの世界に戻ってくる。どんなに追い込まれた状況であっても、事情があっても絶対に戻ってくる。今もこうして魔術師としてのすべての力を、違う世界に戻るためだけに使っているんだもの」

 子供のように涙と洟を流して、顔を歪ませて語るマリア。
 こんな姿はあちらの世界でも見たことがない。

「わたしはあと何年もしたら冒険者なんかできなくなる。でも、子供たちは違う。そのまた子供たちも。あなたがどんなに遠くへ行っても、子供たちはその後を追っていける……」
「……マリア」
「ごめんなざぁい! 勝手に産んで勝手なことをしてごめんなざぁい!! そうでもしないとわだじ、頭がおかしくなっぢゃいぞうだっだの!! あなだが。メデオがどこか行っちゃうと考えたら――ごめんなざぁい!!」

 初めてみた泣きわめくマリア。
 いつも思いのままに振る舞い、自由奔放なマリア。
 悪いと思いつつも、それを止められなかったと認めるマリア。
 
「あんぎゃー!!」
「うぇーーーん!!」

 母の泣く声に子供らも続いた。

「ほら、子供たちまで泣いちゃうだろ」
「うう……ごめんね。ごめんなざぁい……」
「俺だけだとふたりもあやせない……そういえば名前。名前はもうつけたのか」

 なんとか感情の波がおさまってきたマリアが、目と鼻をこすりながら首を振った。

「……まだ。でも、女の子の名前は考えてるの」
「なんて名前だ?」
「……お姉ちゃんはルナ。古い伝説に出てくる、月の女神の名前から取ろうと思うの」

 ルナ。いい名前だ。

「男の子のほうはメテオにつけてもらいたくて、まだ考えてないの……」
「それなら――ツクヨミ。っていうのはどうだ? 俺の前世で月の神様の名だ」

 ルナ、という名前を聞いて頭に浮かんだ名前だ。
 口に出してみると、もうこれしかないっていうくらいの名前だ。

「……ツクヨミ。異国風の名前ね」
「そうだな。ルナとツクヨミ。どうかな?」
「素敵な名前……でも、メテオはわたしを許せるの? 勝手にこんなことしたわたしを?」

 自分でも驚くほどわだかまりが消えていた。
 思えばこれほどマリアらしいこともない。
 自由で、勝手で、それでも芯が絶対にブレない。目的のためならどんなことでもする――

「許す」
「じゃあ、たまには一緒に冒険に連れていってくれる?」
「もちろん」
「ルナとツクヨミが大きくなったら家族で冒険できる?」
「約束する」
「メテオ――わたしのメテオ。大好きよ。どんなに離れてても、わたしが死んだり、あなたが死んだってこの思いは絶対に変わらない。大好き。愛してる――メテオ」
「俺だって愛してる――マリア」

 俺とマリアはこれまでにないくらい優しく抱き合った。
 間にいるルナとツクヨミが苦しくないように。

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