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消えた手紙④

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 惨劇の跡を残す室内を見渡し、シャーロットはレストレードに事件の概要を聞いた。

 彼の話によると、エドワルド・ルーカス氏は二重生活を送っていた様で、王都では独身の紳士として知られていたのだが、実は地方都市に妻が居たらしい。
 その妻と言うのがこれまた気性の激しい女性なのだそうだ。
 そしてこのエドワルド氏殺害の容疑で逮捕されたのが、この妻なのだと言う。
 犯行の動機は痴情の絡れだ。

「ではこの事件はもう解決しているのね」
「ああ、そうだ。残念ながら君の出番はないぞ」

 鼻息荒くそう言ったレストレードだが、ふと思い出した様に言った。

「そう言えば1つだけ妙な事があったな」
「妙?」
「ああ、この絨毯を見た前よ」

 レストレードは血の染みが残る絨毯を指し示した。
 彼が絨毯を捲って見せる。

「これは⁉︎」
「変だわ!」

 捲られた絨毯は裏側まで血が染み込んでいる。
 しかし、それだけの量の血が流れているにも関わらず、床には血の染みが一切ないのだ。

「どう言う事?こんなに血が染み込んでいるなら当然床にも染みが出来てる筈よ」
「そうだろ?それでこっちには……」

 レストレードが別の場所を捲ると、そこには血の跡が無いにも関わらず、床にベットリと血の染みが出来ていたのだ。

「これは……」
「どうだね、血痕が出来てから絨毯が90度動かされていると言う証拠だ」

 私とシャーロットは素早く視線を交わし、うなずき合った。

「これは問題ですわよ、レストレード。この現場を保存していた部下はどなたかしら?」
「ああ、それならマクファーソンだな。ほら、今もそこで見張りをいている」
「では今すぐ彼を問い詰めるべきね」
「そうね、じっくり話を聞くべきだわ」
「そ、そうか?では彼を呼んで……」
「いや、私達が居ない方が彼も話やすいでしょう。
 私達は此処で待っているから彼から話を聞いてくると良いわ」
「ああ、では行ってくる」

 玄関の外で見張りをしている衛兵の所に行くレストレードの背が私達の視界から消えた瞬間、行動を開始する。

「ジーン!机と椅子を!」
「ええ!」

 私が机や椅子を退かすと、シャーロットが絨毯を引っぺがした。
 私達は2人掛かりで這いつくばって床を調べる。
 すると…………。

「有った!」

 シャーロットが床の一部が隠し扉になっているのを発見したのだ。
 その蓋を開けて中を覗き込んだシャーロットは落胆した声で言う。

「……空だわ」

 急いで絨毯と机や椅子を戻したところで、レストレードが怒り心頭と言った様子で帰ってきた。

「まったく!何てことだ!」
「どうでしたか?」
「どうもこうもないさ!これは重大な職務規定違反だ!」

 レストレードが聞き取った話はこうだ。

 エドワルド氏の遺体を解剖の為に移送したあと、この現場を見張っていたマクファーソンは1人の淑女と会った。
 淑女はメイド募集の張り紙を見て来たと言った。
 どうやら家を間違えたらしい。
 そこで少し世間話をしたマクファーソンと淑女。
 話題は自然とエドワルド氏の事件の話になった。
 淑女も事件の事は新聞で呼んで知っていたそうだ。
 そこで淑女は事件に興味を持ち、現場を見せて欲しいと言うのだ。
 すでに捜査は終わっているので、少しくらいは良いかと考えたマクファーソンは、こっそり淑女を部屋に招き入れた。
 すると、生々しく残る血痕を見た淑女は気絶してしまったのだ。
 マクファーソンは慌てて気付けの魔法薬を取りに走ったのだが、戻って来た時には淑女の姿は消えていたのだ。

「その淑女はおそらく気絶したのが恥ずかしくて逃げたのだろうな」
「そうね」
「ん?だが、何で絨毯が90度ずれていたのだろうか?」
「気にする事はないわよ。犯人はオズワルドの妻でしょう」
「ああ、それは確実だ。本人も自供している」
「なら問題ないね。おめでとう、レストレード。貴方はこの難事件を独力で解決し、部下の規律違反も見逃さなかったわ」
「そうね、流石優秀なレストレード部隊長だわ」
「そ、そうかい?」

 私達が煽てると、レストレードは満更だも無い態度で鼻を膨らませる。
 その後、コッテリと絞られて意気消沈しているマクファーレンに2、3話を聞いた私達は、手紙の現在の持ち主の所に向かうのだった。
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