奇跡探偵ひなの

はぐれメタボ

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時をかける犯人

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「被害者は鈴木俊樹26歳、仕事場に出勤して来ない為、様子を見に来た後輩によって、自宅である社員寮の一室で死亡している所を発見された」

  車での移動中、浩一はひなのに事件の概要を語る。

「死因は何ですか?」

「絞殺だ。
  作業用ロープの様な物で頚動脈を圧迫されての窒息死。
  死亡推定時刻は昨夜の午前2時から3時の間だ。
  社員寮の出入り口には防犯カメラが有り、不審人物は映って居なかった。
  事件当日、寮に居たのは8人。
101号室の佐藤匠。
102号室の山口洋一。
105号室に被害者の鈴木俊樹。
106号室の徳永義之。
201号室の向井直人。
202号室の清水剛。
204号室の濱田雅俊。
205号室の松本優太。
  この内、佐藤氏、向井氏、清水氏、濱田氏、松本氏の5人は松本氏の部屋で朝までゲームをしていたそうだ。
  山口氏と徳永氏は、犯行時刻は睡眠中でアリバイは無い」

「5人はずっとゲームをしていたのですか?」

「ああ、1時頃からゲームを始めて途中で部屋を出た者は居ないと全員が証言している」

  現場に到着したひなのは浩一を引き連れて現場となった部屋に入った。
  鈴木氏の部屋は綺麗に片付けられたシンプルな部屋だった。
  玄関のすぐ脇に簡易的なキッチンがある他は、ユニットバスと押入れがあるだけだ。

「さむ……」

「ああ、窓が全開だからな」

  玄関から見て真っ正面、ベランダへと続く窓が全開にされている。

「閉めないのですか?」
 
「事件当時から窓は開けられていたからな、現場保全だ」

  ひなのはキョロキョロと部屋を見回しながらベランダに出る。
  ベランダには洗濯機が置いてあるくらいで特に変わった物はない。

「犯人は此処から侵入した……訳ではなさそうですね」

「ああ、見ての通り此処のベランダの下は用水路とになっていてかなりの高さがある。
  まぁ、脚立なんかの道具を使えば侵入出来なくはないだろうが、わざわざ用意して侵入したにしては何も荒らされた形跡がない」

「ふぅん」

  ひなのは愛用のコインを手のひらの中で転がす。
  
「5人がゲームをしていたと言っていましたが、何のゲームですか?」

「ん?
  え~と、何だったか……ああ、アレだ!
  たしか、『クリーチャー・ハンティング3』だよ、一昨日発売されたやつ
  知ってるか?」

「はい、私も予約して買いました」

「それを朝までプレイしていたらしい」

「ふむ、ではその5人に話を聞きましょう」




  205号室に移動したひなのと浩一は集まった5人に話を聞く。
  
「また話すのか?
  今、部屋に戻ったばかりだぞ?」

「すみません、操作にご協力をお願いします」

「それで、何を話せば良いんだ?」

「はい、それは……あ!」

  チリン

  ポケットからメモ帳を取り出そうとしたひなのだったが、メモ帳を取り出した時にコインを引っ掛けて落としてしまった。
  
「ああ……」

  コロコロと転がるコインを追いかけてひなのは部屋の奥へと進む。

「あ、おい!」

「はは……すみません」

  ひなのはベランダの前でようやくコインを捕まえた。

「たく、俺達は疲れているんだから早くしてくれ!」

  松本氏は苛立った様子で告げる。
  窓からベランダを見ていたひなのが振り向くと松本氏に応じる。

「すみません、すぐに終わりますので」

「刑事さんに何度も言ったが俺達5人は1時からずっとこの部屋に居たんだ。
  俺達が犯人な筈はないだろう!」

「ずっとこの部屋の中にいたのですか?
  一歩も外には出ずに?」

「ん?
  いや、松本が途中で洗濯機を回していたがずっとベランダにいた事は俺達全員が見ていたぞ」

  佐藤氏がそう口にする。

ピンッ!
  ひなのが指で弾いたコインが頭上に向けて高く舞い上がり、頂点に達した途端地面に向けて落下を始める。

パシッ!
  そのコインを受け止めたひなのは、そっとコインを覗く。

「表、成る程」

「お、おい、ひなの?」

「デカさん、犯人がわかりました」

手河てかさんだ。
  いやそれよりも本当に犯人が分かったのか?」

「はい、犯人は205号室の松本優太さん、貴方です……多分」

「な……何をいきなり!
  だいたい鈴木が殺されたのは2時~3時の間なんだろ!
  その時間、俺はこの部屋でゲームをしていた!
  それはこの4人が見ている!」

  4人は松本氏の言葉を肯定するように皆、首を縦ふる。

「……このゲーム、『クリーチャー・ハンティング3』は通信での協力プレイがキモですよね。
  そして、協力プレイの最大人数は4人……なのに何ですか5人で遊んでいたのですか?」

「そんなのは俺達の勝手だろう!
  5人で買いに行ったから皆んなで集まっただけだ!
  交代で遊んでいたんだよ」

「そうですか……でも、ラッキーでしたよね。
  5人いたおかげで洗濯の為に抜けても問題なくゲームを続けられたのですから」

「だったら何だよ!
  あいつらがゲームに夢中になっている間に俺が下の階に降りて鈴木を殺したとでも言うのかよ!

「流石にそんな事をすれば誰かに気付かれるでしょう。
  しかし、下の階から毛布を1枚引き上げるだけなら洗濯の振りをしながらでも十分に可能だったと思います」

「も、毛布だと……」

  松本の声に戸惑いの気配が混じる。

「そうですよ、貴方の洗濯機の中に放り込まれている【電気毛布】の事です」

「⁉︎」

  先程、転がったコインを追いかけたひなのの視線に入ったのは洗濯機から見える電気毛布の制御パネルだった。

「あ、アレは……その、よ、酔っていたからな。
  間違えて洗濯機で回してしまっただけだ!」

「では調べさせて貰いましょう。
  デカさん、電気毛布を鑑識に回して下さい。
  被害者の毛髪か何か出ると思います」

「……っ!」

「ど、どう言う事だ?」

  浩一はひなのに尋ねた。

「鈴木さんが殺されたのは午前2時よりももっと前なんですよ。
  4人が松本さんの部屋を訪れるもっと前です」

「だ、だが検視では……」

「そこで、電気毛布です。
  松本さんは延長コードで伸ばした電気毛布をこの部屋のベランダから垂らして鈴木さんの死体に被せたのです」

「そうか!
  死体を温めて死亡推定時刻をズラしたのか!」

「ぐ……」

「松本さん、電気毛布を調べさせて頂きます。
  また、詳しいお話をお聞きしますので署までご同行をお願いします。

  松本氏はただ、項垂れるだけだった。



  ある日のファミレス。

「あ、そっち行ったぞ」

「デカさん、閃光をお願いします」

  向かい合うように座った大柄な男と小柄な少女がゲームに興じていた。

「そう言えば前の事件、犯行の動機は学歴をバカにされてカッとなって殺してしまったらしい。
  その後、漫画を参考に偽装工作を試みたそうだ」

「漫画ですか……ずいぶんと雑なトリックでしたからね」

  そこに料理を持ったウエイトレスが現れる。

「お待たせしました~、チーズハンバーグステーキ&エビフライセットです」

「あ、私です」

  ひなのは画面から目を離さずに告げる。

「ソースかつ丼・天麩羅蕎麦セットです」

「僕です」

「ごゆっくりどうぞ~」

  ウエイトレスが立ち去った後も、しばらくは料理そっちのけでゲームに集中する2人だった。
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