奇跡探偵ひなの

はぐれメタボ

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怒鳴り声のアリバイ

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「ふぅ~」

  浩一は手にしていた新聞紙を自分のデスクに投げ置く。
  日課である朝刊のチェックだ。
  しかし、最近の記事の中には若干思うところが無い訳ではない。
  ここ1年で増えたニュースと言えば……

[◎探偵王子大活躍 : 警察を悩ませていた難事件を見事解決!]

[◎埼玉植物園殺人事件解決 : 犯人逮捕の決め手は向日葵、活花探偵えりかさん独占取材]

[◎事件解決率上昇、探偵法の利点を徹底分析]

  探偵法……警察当局外特別捜査協力法の施行により、事件の解決率は確かに上昇した。
  従来の捜査で専門家に意見を聞く事はあったが、探偵法の施行により、その専門家に捜査権限が与えられる様になった。
  勿論、誰にでもと言うわけでは無い。
  厳しいテストを受けて認められた者が専門的な知識を必要とされる事件が起きた時に協力を要請されるのだ。
  そして、世間の人々は彼等の華々しい活躍に湧いた。
  まるで漫画やドラマの様な活躍に。
  しかし、誰しもがそれを歓迎したわけでは無い。
  特に警察官の中には彼等を歓迎しない者も多い。
  浩一も初めはあまり良い感情を持っていなかった。
  自分達が苦労して集めた証拠、一日中町を歩き回り集めた情報を、探偵達は好き勝手いじり廻し、犯人の特定と言う成果のみを掻っ攫って行く。
  そう考えていた事もあった。
  だが、ある日先輩の刑事に言われた。
  『俺達は縁の下の力なのだ』と言う言葉で考えを改めた。
  俺達が証拠を探し、情報を集めなければ探偵達の活躍は無い。
  ならば、探偵達の活躍は俺達の活躍なのだと。
 
 
  「………………戻りました」

  先輩の言葉を思い出していたからなのか、その先輩が署に戻って来た。
  しかし、その足取りは何処か重く、声には覇気が無い。
  捜査が行き詰まっているのだろうか?
  先輩は上着を椅子に脱ぐと直ぐに立ち去って行った。
  何となく気になった浩一は先輩の後を追う。

「先輩!」

  自動販売機の側に置かれた椅子に腰掛けた先輩に声を掛ける。

「…………浩一か」

「どうしたんスか?
  何だか元気無いみたいっスけど?」

「ああ、ちょっと今の事件ヤマでな……」

「確か、旅館で起きた殺人事件でしたっスね。
  今日から探偵を投入するって話でしたが、捜査が難航しているってことっスか?」

「…………いや、事件は解決した」

「え?」

「その探偵が現場に入って30分で事件を解決してくれたよ」

「なら何で……」

「いやな、『あれ』を見ていると『刑事おれって本当に必要なのかな?』って思っちまってな」

「何です、『あれ』って?」

「探偵だよ、名探偵……」

「いえ、それは分かりますが……何でそれでそんなに悩んでいるんスか?
  先輩、俺に『刑事は縁の下の力だ』って言ってくれたじゃないっスか!」

「証拠や情報何て関係無い。
  縁の下の力何て必要としない。
  そう言う理不尽な存在がいるんだよ」

「は?
  いや、証拠や情報も無くどうやって事件を解決するって言うんっスか!」

「偶然に……な」

「……偶然?」

「そうだ、お前もその内会うかも知れん。
  あらゆる事件を偶然……奇跡的に解決する名探偵、奇跡探偵にな」

「き、奇跡探偵?」

「そうだ、俺が担当していた事件について知っているか?」

「概要くらいは……」

「そうか、それで捜査の結果犯人を特定する事が出来た」

「え、犯人が分からなかったから探偵を呼んだじゃ無かったんスか?」

「いや、犯人は分かっていた。
  だが、そいつにはアリバイが有ったんだ」

  先輩は手にしていた缶コーヒーを卓に置くと話し始めた。
  




  旅館の離れを丸ごと借りていた小説家とその家族、事件当時離れに居たのは被害者である【小説家】と【妻】【長男】【長女】【次女】そして原稿を受け取りに来ていた【編集者】、離れと旅館を繋ぐ出入り口には監視カメラが有り、不審な人物は映ってはいなかった。
  小説家は毎年、同じ時期にこの旅館に泊まっており、今年も例年通り離れを一週間借りていた。
  小説家は到着してすぐ、締め切りが迫っている新作の執筆のために離れの二階の部屋に篭っていた。
  所謂《カンズメ》ってヤツだ。
  小説家が部屋に入ってから誰かと接触したのは4回、初めに妻が様子を見に行ったら苛立ちながら追い返された。
  2回目は次女が食事に呼びに行ったが直ぐに追い返されてドアすら開けて貰えなかった。
  そして3番目に接触したのが長男だ。
  この長男は金銭関係のトラブルで父親である小説家と揉めていた。
  カンズメ状態の父親に会いに行ったのも金銭面での援助を頼む為だったそうだ。
  長男は部屋の前で怒鳴られたそうだが、無理やり部屋の中に入ると父親と言い争いを始めたらしい。
  その争いは真下の部屋に居た家族にも聞こえた程だと言う。
  しばらくして静かになると、青タンを作った長男が降りて来たらしい。
  妻が声を掛けるが長男は縁側で不貞腐れた様にミュージックプレイヤーで音楽を聴き始めた。




「それは…………如何考えても長男が犯人なんじゃ……」

「俺もそう思った。
  しかし、そう簡単には行かなかった」

  


  長男が部屋に戻った後、担当の編集者がやって来た。
  これも毎年の事であり、編集者は一階に居た家族に挨拶すると、二階に上がり小説家が篭る部屋をノックした。
  すると、部屋からは小説家の怒鳴り声が聞こえた。
  随分と機嫌が悪い様で真下の部屋にまで怒鳴り声が響いて来た。
  そして、降りて来た編集者は頭を掻きながら部屋に入って来た。
  原稿が上がるまで待たせて貰う事になった編集者もそのまま部屋に残る。
  しばらくして再び編集者が小説家の部屋へ向かうと返事が無い。
  編集者がドアを開けてみると胸を刺されて死亡していた小説家を発見した。





「と、言う事は編集者が最初に声を掛けだ時には被害者はまだ生きていたと言う事っスよね?
  では、編集者が犯人という事っスか?」

「いや、編集者には被害者を殺す動機が無かった。
  むしろ被害者が死んで1番困るのはむしろ編集者の方だ」

「では、一体だれが…………」

「そこで、上が呼んだのが奇跡探偵だ」

「奇跡探偵…………」

「そうだ、今まで何度か協力を要請された専門家探偵と組んだ事はあるがあいつは……奇跡探偵だけは異色すぎる」

「そこまでっスか?」

「ああ、普通、現場に到着した捜査協力者は何をすると思う?」

「そりゃあ……勿論、事件の概要を確認してり、容疑者からの聞き取りや現場検証でスかね?」

「ああ、だが奇跡探偵は違う。
  ヤツは部屋へ入ると卓に置いてあった箸を持つと卓に立てたんだよ」

「は?」

「だから、箸を卓に立てたんだ。
  そして、手を離す。
  すると、箸は倒れる。
  当然だ。
  そこで、奇跡探偵は箸が倒れた方向を指差してあっちを探せと言う。
  舐めてんのかと思ったさ」

「…………それで、探したんスか?」

「ああ、庭の塀の向こう側、林の中から伝振動スピーカーと延長用のコードが発見された。
  それも長男の指紋付きだ」

「伝振動スピーカー?」

「テーブルや窓ガラスに貼り付けるとそれらを振動させてスピーカーに変える事が出来る道具らしい。
  俺も詳しくは知らないが若者の間では有名な物らしいぞ。
  ……つまり、長男は父親である小説家を殺害した後、用意していた伝振動スピーカーを窓の外側へ貼り付けて外へと垂らした。
  そして縁側に出た長男は上の部屋から伸びるコードにプレイヤーを接続したんだ。
  そして、編集者が現れて小説家の部屋を訪ねた時、長男はタイミングを見計らって予め編集して置いた被害者の怒鳴り声を再生した。
  窓ガラスをスピーカーにした都合上、かなりの音量になってしまうが、直前に自分が大喧嘩をして見せれば『機嫌が悪い』で済まされる確率が高い。
  そして、編集者の叫び声で家族と二階に向かうのだが、長男が居たのは縁側だ。
  1番最後に部屋に到着しても不思議ではない。
  長男は、家族が部屋から出て二階に上がる僅かな時間を利用して伝振動スピーカーを強く引っ張り回収すると、塀の外へと投げ捨てたんだ。
  長男のアリバイは見事にくずれ、犯行を自供、事件はたった30分で解決さ」

「いい事じゃ無いですか?」

「そうだよ、いい事なんだけどさ…………他の探偵は俺たちが集めた捜査資料をつかって事件を解決に導く。
  しかし、あの奇跡探偵は違う。
  ヤツは『たまたま』、『偶然』『まぐれ』で、事件を解決するんだ。

「ぐ……偶然って事は……」

「偶然だよ、ただ、その偶然は100%の確率で起こる。
  あれはもう奇跡さ。
  あれを見ちまうと本当に刑事おれ達って必要なのかなって考えちまったんだ。

「何言ってんスか、先輩!
  俺達は市民を守る最前線じゃ無いですか!
  元気を出して下さいよ!」

「…………はは!
  そうだな……よし、今度、奇跡探偵が投入される事件があれば浩一に担当を変わって貰うとしよう!」

「そんな、勘弁してくださいよ~」

  少しだけ立ち直った先輩の後を後輩の刑事は慌てて追い掛けるのだった。
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