奥様は大剣豪

はぐれメタボ

文字の大きさ
1 / 11

奥様は大剣豪

しおりを挟む
  空から暖かな光が降り注ぐ穏やかな昼下がり、王都のとある庭園に和やかに談笑する者達の姿があった。
  テーブルに座しているのは4人。
  鍛え抜かれた巌の様な身体に無数の戦いの痕を刻んだ壮年の男性は、モンゴメリー伯爵家の当主、モーリス・モンゴメリーである。
  
「わが伯爵家としてはこれを機に是非ともサージェント辺境伯家と友誼を結びたいと思っております」

  穏やかであるがどこか鬼気迫る物を感じてしまうのは、モーリス伯爵が戦場にその名を轟かせる歴戦の勇者であるからたろうか?
  そう考えながら話を聞いていたのは今年20歳になったばかりの若き辺境伯。
  ダーリン・サージェントである。
  今日、この場はいわゆるお見合いの場という奴だ。
  両親と兄が予期せぬ事故で他界してしまった為、急遽ダーリンが領地を継ぐ事になってしまったのである。
  言い方は悪いが兄の予備であったダーリンは、特に婚約者なども居なかった。
  しかし、これから辺境伯家を背負って立つ為には妻、そして跡取りが必要不可欠である。
  辺境伯という高い地位を持つダーリンであったが、見合いの話はあまり多くない。
  それと言うのもサージェント辺境伯領に接する隣国は非常に好戦的であり、何度も辺境伯領へ攻め込んで来ているのだ。
  つまり、サージェント辺境伯領はこの王国で最も危険な領地と言える。
  そんな所に嫁いで来たいなどと言う令嬢などまず居ない。
  その為、男爵家か子爵家辺りの下級貴族の娘と結婚できれば……思っていた。
  だが、なんとモンゴメリー伯爵家の三女、サマンサ嬢とのお見合いに漕ぎ着ける事に成功したのである。
  モンゴメリー伯爵家は武門の名家である。
  その伯爵家と友誼を結ぶことが出来れば国の盾となる辺境伯家としては非常に心強い。
  しかも、何故かサマンサ嬢の両親はこのお見合いにノリノリなのである。
  ダーリンの左右に座ったモンゴメリー夫妻は、正面で恥ずかしそうにしているサマンサ嬢をグイグイと押していた。
  そして、肝心なサマンサ嬢なのだが……

「…………可憐だ」

「え?」

「あ、い、いや、その……と、とてもお美しいご令嬢だと……」

「……………っ!」

  サマンサとダーリンは2人して真っ赤になって視線をそらす。
  ダーリンはもともと結婚に夢など見てはいなかった。
  貴族として結婚は義務であり、重要なのは如何に辺境伯家に利益をもたらすかであった。
  しかし、サマンサを一目見た時から、そんな事は頭から抜け落ちていた。
  サマンサは明るい赤髪を肩の辺りで切り揃えており、守ってあげたくなる様な可憐な女性だった。
  年はダーリンの4つ下で16歳、王都に住んでいてこの年まで婚約者もいなかったというから驚きである。

「ほら、サマンサ。
  貴女からもダーリン殿に何かお話してみなさいな」

モーリス伯爵の奥方であるエンドラ夫人が真っ赤になったサマンサ嬢を的確にフォローしていた。
  
  そんなこんなで話は進み、ダーリンは無事サマンサと婚約、サマンサは辺境伯領へと嫁入りする事となった。

  


  そして、嫁入りの日、辺境伯領の屋敷の前でダーリンはサマンサの馬車を待っていた。
  その顔色はあまり良くない。
  先触れとしてやって来た護衛からサマンサの馬車が野盗に襲われたと聞いたのだ。
  護衛の説明で、野盗は問題なく討伐されサマンサは無事だと聞いているが、それでも心配である。
  すると、そこにモンゴメリー伯爵家の馬車が到着した。
  侍女に続いて降りて来たサマンサは令嬢に相応しい淑やかな仕草で礼を取った。

「ダーリン様、末永くよろしくお願い致します」

「ああ、こちらこそ。
  それと、私の事はダーリンで良いよ。
  私もサマンサと呼ばせて貰う。
  それよりも道中、野盗に襲われたと聞いたが怪我などは無かったかい?」

  ダーリンが心配そうに尋ねるがサマンサは笑顔で問題ないと答えた。
  その後、サマンサは馬車の荷物入れから自ら薄汚れた袋を取り出した。

「おやサマンサ、その荷物はなんだい?」

「えへへ、道中襲って来た野盗の首ですわ」

「……………………」

  サマンサは可憐にハニカミながら、照れた様に袋の中の生首を見せてくれた。
  ダーリンはこの時、まだ知らなかった。
  モンゴメリー家では一族が皆、戦闘の訓練を受ける事を。
  サマンサがモンゴメリー伯爵家、始まって以来の天才である事を。
  サマンサの両親は、剣に熱中する娘の行き遅れを案じて結婚を後押ししていた事を。
  現在王都ではダーリン辺境伯がモンゴメリー家の剣豪令嬢を娶ったともっぱらの噂である事を。


  奥様の名前はサマンサ。
  そして、旦那様の名前はダーリン。
  
  ごく普通の貴族の2人は、ごく普通のお見合いをし、ごく普通の政略結婚をしました。

  でも、ただ1つ違っていたのは……

  
  奥様は大剣豪ソードマスターだったのです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

馬小屋の令嬢

satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。 髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。 ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

処理中です...