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10 まだ心が痛い
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その夜。
四年半ぶりに再会したルシャードのことが、俺の頭から離れなかった。
それは寝支度をして、カスパーと並んで寝台に入るまで続き、カスパーに「おとうさん」と呼ばれても返事をするのが遅れてしまった。
「…………うん?」
「あのにおい、する」
そう言うと、カスパーは俺の首元に小さな鼻をくっつける。
あの匂いとは発情期フェロモンのこと。
俺の発情期を俺よりも早く察知できるのは、カスパーがアルファである証拠だ。
「本当?」
早すぎる。
一か月前に発情期は終わったばかりだというのに、ルシャードに会ったことにより三か月に一度の周期が早まったというのだろうか。
言われてみれば、少しだけ身体に違和感がある。
俺は抑制剤を飲み、再び横になった。
しばらくするとカスパーの寝息が聞こえはじめたのに、マイネの睡魔は一向にやってくる気配がない。
ぐるぐるとした思考が邪魔をして、眠れそうもなかった。
長い間疎遠になっていたルシャードに再び出会ってしまった。
その衝撃による感情の昂りは、なかなか静まりをみせない。
別れぎわのルシャードの言葉を思い返した。
『一緒に王都に帰らないか』
ルシャードが俺を連れて帰りたいかのような、そんな響きがあった。
思い過ごしでなければ、理由はなんだ。
そこで俺は目を硬く閉した。
――期待をするな。隣国の王女のことを忘れるな。
俺は自身に言い聞かせる。
苦しい記憶が脳裏に蘇るのと同時に、胸が軋む。
まだこんなにも心が痛い。
四年半前、まだ公ではなかったものの、ルシャードは結婚間近だった。
婚姻に関する書状を準備しているのをはっきりと見たし、王女との結婚が認められたという話を確かに聞いた。
だからふたりの婚姻が延期になってルシャードが未だに独身だとしても、都合のいい解釈はしない。
それにカスパーを連れて王都になんて、行けるわけがない。
もしカスパーの存在をルシャードが知ってしまったら、勝手に王家の子を産んだ俺を叱責するかもしれない。
それよりも恐ろしいのは、聖獣であるカスパーと無理やり引き離されてしまうことだ。
夜遅くまで鬱々としながら、俺は何度も寝返りを打つ。
眠りにつけたのは早朝と言っていい時刻だった。
浅い眠りを繰り返し、カスパーとともに目を覚ますと、抑制剤を飲んだというのに俺の身体は発情期の火照りが酷くなっていた。
抑制剤が効かないなんておかしい。
カスパーの朝食にバナナとパンとチーズを簡単に用意したあと、耐えられなくなった俺は再び寝台に戻り瞼を閉じた。
カスパーが近寄る気配を感じる。
目を開けると、自身の尻尾を両手で握りしめたカスパーが俺の顔を覗き込んでいた。
その頭を撫でる。
「今日はお父さん調子が悪いから寝てるよ。いい子にしててくれるか?」
「もう、たべた。あそびに、いっても、いい?」
「双子と遊びたいなら、家の前をコニーが通るまで待ってろ」
「わかった」
カスパーは窓から外を眺めてコニーを待つつもりなのだろう。
そのあとすぐに「おとうさん、いってくるね!」と言うカスパーの大きな声と「マイネさん、行ってきます」と言うコニーの声が重なった。
とたんに静かになる。
ひとりきりになった俺は、性的欲求を我慢できなくなった。
下穿きの中に手を伸ばし、勃ち上がった器官を手のひらで刺激する。
じっとりと濡れた後孔にゆっくりと指を挿れた。
掻き回すように動かすと、腰が戦慄く。
もっと太く熱いアルファのもので、奥まで突いてほしいとオメガの本能が欲求する。
はじめての発情期の記憶が俺を襲う。
はじまりは、噛みつくような口づけだった。
俺の舌をルシャードの舌がからめとり、唾液を交換すると、ルシャードは俺の胸を探ったのだ。
そして、ルシャードの指が胸の突起をかすめただけで、後ろが疼き、甘い声が漏れてしまったのだった。
ルシャードの匂いと温もり。
手のひらが肌を蠢く感触がまざまざと蘇った。
俺は、ルシャードの手の動きを再現するかのように、胸の粒に触れる。
「ん……ルシャード様」
両手の指で左右の乳首をつまんで転がした。
ルシャードに触られたときの快感は、こんなものではなかった。
ルシャードの大きな手のひらで触れてほしい。
あのときルシャードに、「マイネ」と繰り返し何度も呼ばれた。
記憶の奥でその声が「好きだ」と囁くけども、あれは夢で見ただけだ。
発情期になると、毎回見る都合のよい夢。
連続で吐精すると、ようやく熱が冷めてきた。
朝方服用した抑制剤の効果が、ようやく出て来たのかもしれない。
寝台から下りて、濡れたタオルで白濁で汚れた身体を清める。
汚れたシーツを取り替えたところで、玄関扉の前で立ち止まる男の姿があった。
ゲリンだ。
台所に招き入れると、林檎の入った紙袋を手渡される。
「ありがとう」と礼を言いながら、テーブルを挟んで向かい合って座った。
「体調は大丈夫か?」
「ただの発情期。抑制剤が効きはじめたからもう平気。俺よりもゲリンのほうこそ、昨日の怪我は大丈夫なのか?」
昨日、黒い森で別れてから、ゲリンと会う機会がなかった。
「あぁ。治療してもらったし、たいしたことない」
そんなこともあったなというような表情をするゲリンは、言葉を続ける。
「それよりも、カスパーのことだが……これからどうするつもりだ? 成長して獣化できるようになれば、隠し通せないだろ」
ゲリンの無表情で淡々とした口調に救われる。
知られたのがゲリンでよかったと思った。
「うん。どうしようかな……ゲリン。俺の話、聞いてくれるか?」
俺はずっと胸の内を誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
ゲリンが神妙にこくりと頷き、俺は語りはじめる。
四年半ぶりに再会したルシャードのことが、俺の頭から離れなかった。
それは寝支度をして、カスパーと並んで寝台に入るまで続き、カスパーに「おとうさん」と呼ばれても返事をするのが遅れてしまった。
「…………うん?」
「あのにおい、する」
そう言うと、カスパーは俺の首元に小さな鼻をくっつける。
あの匂いとは発情期フェロモンのこと。
俺の発情期を俺よりも早く察知できるのは、カスパーがアルファである証拠だ。
「本当?」
早すぎる。
一か月前に発情期は終わったばかりだというのに、ルシャードに会ったことにより三か月に一度の周期が早まったというのだろうか。
言われてみれば、少しだけ身体に違和感がある。
俺は抑制剤を飲み、再び横になった。
しばらくするとカスパーの寝息が聞こえはじめたのに、マイネの睡魔は一向にやってくる気配がない。
ぐるぐるとした思考が邪魔をして、眠れそうもなかった。
長い間疎遠になっていたルシャードに再び出会ってしまった。
その衝撃による感情の昂りは、なかなか静まりをみせない。
別れぎわのルシャードの言葉を思い返した。
『一緒に王都に帰らないか』
ルシャードが俺を連れて帰りたいかのような、そんな響きがあった。
思い過ごしでなければ、理由はなんだ。
そこで俺は目を硬く閉した。
――期待をするな。隣国の王女のことを忘れるな。
俺は自身に言い聞かせる。
苦しい記憶が脳裏に蘇るのと同時に、胸が軋む。
まだこんなにも心が痛い。
四年半前、まだ公ではなかったものの、ルシャードは結婚間近だった。
婚姻に関する書状を準備しているのをはっきりと見たし、王女との結婚が認められたという話を確かに聞いた。
だからふたりの婚姻が延期になってルシャードが未だに独身だとしても、都合のいい解釈はしない。
それにカスパーを連れて王都になんて、行けるわけがない。
もしカスパーの存在をルシャードが知ってしまったら、勝手に王家の子を産んだ俺を叱責するかもしれない。
それよりも恐ろしいのは、聖獣であるカスパーと無理やり引き離されてしまうことだ。
夜遅くまで鬱々としながら、俺は何度も寝返りを打つ。
眠りにつけたのは早朝と言っていい時刻だった。
浅い眠りを繰り返し、カスパーとともに目を覚ますと、抑制剤を飲んだというのに俺の身体は発情期の火照りが酷くなっていた。
抑制剤が効かないなんておかしい。
カスパーの朝食にバナナとパンとチーズを簡単に用意したあと、耐えられなくなった俺は再び寝台に戻り瞼を閉じた。
カスパーが近寄る気配を感じる。
目を開けると、自身の尻尾を両手で握りしめたカスパーが俺の顔を覗き込んでいた。
その頭を撫でる。
「今日はお父さん調子が悪いから寝てるよ。いい子にしててくれるか?」
「もう、たべた。あそびに、いっても、いい?」
「双子と遊びたいなら、家の前をコニーが通るまで待ってろ」
「わかった」
カスパーは窓から外を眺めてコニーを待つつもりなのだろう。
そのあとすぐに「おとうさん、いってくるね!」と言うカスパーの大きな声と「マイネさん、行ってきます」と言うコニーの声が重なった。
とたんに静かになる。
ひとりきりになった俺は、性的欲求を我慢できなくなった。
下穿きの中に手を伸ばし、勃ち上がった器官を手のひらで刺激する。
じっとりと濡れた後孔にゆっくりと指を挿れた。
掻き回すように動かすと、腰が戦慄く。
もっと太く熱いアルファのもので、奥まで突いてほしいとオメガの本能が欲求する。
はじめての発情期の記憶が俺を襲う。
はじまりは、噛みつくような口づけだった。
俺の舌をルシャードの舌がからめとり、唾液を交換すると、ルシャードは俺の胸を探ったのだ。
そして、ルシャードの指が胸の突起をかすめただけで、後ろが疼き、甘い声が漏れてしまったのだった。
ルシャードの匂いと温もり。
手のひらが肌を蠢く感触がまざまざと蘇った。
俺は、ルシャードの手の動きを再現するかのように、胸の粒に触れる。
「ん……ルシャード様」
両手の指で左右の乳首をつまんで転がした。
ルシャードに触られたときの快感は、こんなものではなかった。
ルシャードの大きな手のひらで触れてほしい。
あのときルシャードに、「マイネ」と繰り返し何度も呼ばれた。
記憶の奥でその声が「好きだ」と囁くけども、あれは夢で見ただけだ。
発情期になると、毎回見る都合のよい夢。
連続で吐精すると、ようやく熱が冷めてきた。
朝方服用した抑制剤の効果が、ようやく出て来たのかもしれない。
寝台から下りて、濡れたタオルで白濁で汚れた身体を清める。
汚れたシーツを取り替えたところで、玄関扉の前で立ち止まる男の姿があった。
ゲリンだ。
台所に招き入れると、林檎の入った紙袋を手渡される。
「ありがとう」と礼を言いながら、テーブルを挟んで向かい合って座った。
「体調は大丈夫か?」
「ただの発情期。抑制剤が効きはじめたからもう平気。俺よりもゲリンのほうこそ、昨日の怪我は大丈夫なのか?」
昨日、黒い森で別れてから、ゲリンと会う機会がなかった。
「あぁ。治療してもらったし、たいしたことない」
そんなこともあったなというような表情をするゲリンは、言葉を続ける。
「それよりも、カスパーのことだが……これからどうするつもりだ? 成長して獣化できるようになれば、隠し通せないだろ」
ゲリンの無表情で淡々とした口調に救われる。
知られたのがゲリンでよかったと思った。
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