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32 聖獣のマーキング
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そして、王族らしい凛とした声で言った。
「内緒よ。私は名前を言ってはいけない人なの。誰も私の名前を呼んでなかったでしょ?」
ルシャードがガッタ王国で極秘に会っていたのは死んだエリーゼだったというのか。
それならば、ハンが俺に伝えられなかったのも頷ける。
そして、そんな真実があるなんて思いもしない俺は、ハンとミラの会話を立ち聞きして、ルシャードが会いに行ったのはガッタの王女だと盛大に誤解してしまった。
ふたりが「王女殿下」と言っていたから……。
ルシャードは、俺のこめかにに口づけを落として、姉を出迎えに行っただけだ。
「私が亡霊になったのは、父上にリサとの結婚を反対されたからなの。当時、私には婚約者がいて、その人と無理やり結婚させられそうになったから、リサとふたりでガッタに逃亡した。そしたら父上が、私を死んだことにしてしまったのよ」
眉を顰めるエリーゼの背中を、リサがそっと撫でた。
「エリはベータで、女アルファの私と結婚しても妊娠の確率が低い。聖獣を産む確率はゼロに近い。だから反対された」
王家の血を引く獣人アルファは聖獣になる。
ベータのエリーゼが聖獣を産むには、男アルファの聖獣と婚姻するしかない。
エリーゼの婚約者が誰だったのか、なんとなく察することができた。
「そのあとディアーク兄上とルシャードが、私のために時間をかけて父上を説得してくれたらしいの。ようやく結婚の許しがでたのが四年半前。そのときにガッタからアンゼルに戻ってきたわ」
「そうだったのか……」
俺は無意識に止めていた息を吐き出す。
国王から結婚の許しが出たのは、ルシャードではない。
エリーゼだった。
結婚の話などなかった。
そして、俺の勘違いを利用して、嘘を吐いた人がひとりだけいる。
「国王も宰相も王女は生きていたと、公表したかったみたいだけど、私は王女に戻るつもりはなかった。公にはしないでほしいって頼んだの」
思い出す。
あのときミラが公表すると言うのを聞いて、ルシャードの結婚のことだと疑いもしなかったことを。
長年の胸の底に渦巻く不快な感情がなくなる。
続けて、エリーゼは楽しげに言った。
「そうだ、マイネを見つけたこと、ルシャードに教えてもいい?」
「もうご存知です」
俺は泣きたいような笑いたいような昂った心を、抑えながら答える。
「そうなの? 四年半前、私たちが王宮に到着した日、行方不明になった事務官を必死に捜してたのよ。あんなルシャードはじめて見た」
ルシャードは俺が死んだと知らされても、ずっと捜してくれていた。
それは、どうしてか?
都合のいい答えが浮かぶ。でもそれが正解なのでは?
リサが口を開けた。
「そういえば、マイネにはじめて会ったとき、アルファのマーキングの匂いがした。あれはルシャードだったのね。強いアルファの匂いすぎて、ちょっと近寄りがたかった。聖獣のマーキングは一年以上も残るのね。すごい」
「マーキング?」
はじめて耳にする言葉だ。
リサが説明してくれる。
「アルファ同士にしかわからない匂いよ。マーキングは他のアルファが近寄らないようにするためって言われてるわ。普通は一週間もしないで消えてしまうのだけど、聖獣のマーキングは違うみたいね」
知らなかった。
妊娠してたことと関係があるのかもしれない。
妊娠中も出産後も、聖獣のルシャードに守られていたのかと思うと、むずむずとした喜びが湧き起こる。
臆病な俺は、ルシャードを好きだと、想うことさえ許されないと思っていた。
息苦しいだけだった胸の奥が、優しい温まりで包まれる。
――俺は今でもルシャードが好きだ。
「内緒よ。私は名前を言ってはいけない人なの。誰も私の名前を呼んでなかったでしょ?」
ルシャードがガッタ王国で極秘に会っていたのは死んだエリーゼだったというのか。
それならば、ハンが俺に伝えられなかったのも頷ける。
そして、そんな真実があるなんて思いもしない俺は、ハンとミラの会話を立ち聞きして、ルシャードが会いに行ったのはガッタの王女だと盛大に誤解してしまった。
ふたりが「王女殿下」と言っていたから……。
ルシャードは、俺のこめかにに口づけを落として、姉を出迎えに行っただけだ。
「私が亡霊になったのは、父上にリサとの結婚を反対されたからなの。当時、私には婚約者がいて、その人と無理やり結婚させられそうになったから、リサとふたりでガッタに逃亡した。そしたら父上が、私を死んだことにしてしまったのよ」
眉を顰めるエリーゼの背中を、リサがそっと撫でた。
「エリはベータで、女アルファの私と結婚しても妊娠の確率が低い。聖獣を産む確率はゼロに近い。だから反対された」
王家の血を引く獣人アルファは聖獣になる。
ベータのエリーゼが聖獣を産むには、男アルファの聖獣と婚姻するしかない。
エリーゼの婚約者が誰だったのか、なんとなく察することができた。
「そのあとディアーク兄上とルシャードが、私のために時間をかけて父上を説得してくれたらしいの。ようやく結婚の許しがでたのが四年半前。そのときにガッタからアンゼルに戻ってきたわ」
「そうだったのか……」
俺は無意識に止めていた息を吐き出す。
国王から結婚の許しが出たのは、ルシャードではない。
エリーゼだった。
結婚の話などなかった。
そして、俺の勘違いを利用して、嘘を吐いた人がひとりだけいる。
「国王も宰相も王女は生きていたと、公表したかったみたいだけど、私は王女に戻るつもりはなかった。公にはしないでほしいって頼んだの」
思い出す。
あのときミラが公表すると言うのを聞いて、ルシャードの結婚のことだと疑いもしなかったことを。
長年の胸の底に渦巻く不快な感情がなくなる。
続けて、エリーゼは楽しげに言った。
「そうだ、マイネを見つけたこと、ルシャードに教えてもいい?」
「もうご存知です」
俺は泣きたいような笑いたいような昂った心を、抑えながら答える。
「そうなの? 四年半前、私たちが王宮に到着した日、行方不明になった事務官を必死に捜してたのよ。あんなルシャードはじめて見た」
ルシャードは俺が死んだと知らされても、ずっと捜してくれていた。
それは、どうしてか?
都合のいい答えが浮かぶ。でもそれが正解なのでは?
リサが口を開けた。
「そういえば、マイネにはじめて会ったとき、アルファのマーキングの匂いがした。あれはルシャードだったのね。強いアルファの匂いすぎて、ちょっと近寄りがたかった。聖獣のマーキングは一年以上も残るのね。すごい」
「マーキング?」
はじめて耳にする言葉だ。
リサが説明してくれる。
「アルファ同士にしかわからない匂いよ。マーキングは他のアルファが近寄らないようにするためって言われてるわ。普通は一週間もしないで消えてしまうのだけど、聖獣のマーキングは違うみたいね」
知らなかった。
妊娠してたことと関係があるのかもしれない。
妊娠中も出産後も、聖獣のルシャードに守られていたのかと思うと、むずむずとした喜びが湧き起こる。
臆病な俺は、ルシャードを好きだと、想うことさえ許されないと思っていた。
息苦しいだけだった胸の奥が、優しい温まりで包まれる。
――俺は今でもルシャードが好きだ。
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