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42 婚姻の儀
そのあと感慨に耽る余裕もなく、俺は婚姻の儀に相応しい姿に大急ぎで整えられた。
「よく似合ってる」
揃いの衣装を着用したルシャードは、嬉しげに俺の姿をじっと眺める。
俺が身に纏っている婚礼の真っ白な装いは、見返りのある襟元に豪華な宝石が散りばめられていた。
袖にはレース模様の白金の刺繍が輝き、背中側の裾は翼のように長いデザインだ。
一週間で用意したとは思えないほど、俺にぴったりだった。
ルシャードが差し出した腕に手を添えて、婚姻の儀が行われる聖ノ宮に足を踏み入れた。
聖ノ宮とは王宮の中心に位置する王の宮である。
政務宮とも金ノ宮とも違い、非常に格式が高く荘厳な印象だ。
アーチの列柱が並ぶ長い回廊を渡り、巨大な両扉の前で足を止まる。
その重厚な両扉が開くと、目に飛び込んだのは、天井に吊るされる王冠の形を成した巨大なシャンデリアだ。
漆喰装飾を施した精緻な壁と天井に囲まれた空間が広がる。
ここは玉座の間と呼ばれる大広間。
正面に鎮座するのは、ディアーク王だ。
事務官をしていた頃に見かけた第一王子とはまったく違い、堂々たる王の威厳に、俺は圧倒された。
俺の顔は緊張で強張っていたに違いない。
そんな俺の腰にルシャードがさり気なく腕を回す。
年老いた大神官の前まで近寄ると、寄り添って佇んだ。
「これより、王弟ルシャードの婚姻の儀を執り行う」
大神官を恭しい声で告げる。
俺とルシャードの両脇で若い神官たちが黙祷を捧げ、大神官は歴代の王の名を列挙したあとに「祝福を与えたまえ」と唱えた。
小さな白い花びらが浮かぶ盃を渡され、ルシャードと同時に花びらごと飲み干す。
「前へ」
ディアーク王が威厳のなる声を轟かせた。
ルシャードとともに王の眼前で一礼すると、ディアークが鷹揚に頷き、そして高らかに宣った。
「ルシャード・フォン・ヴァイツゼッカーとマイネ・オズヴァルドは本日をもって結ばれたことを、ここに宣言する」
婚姻が成立した。
長い遠回りをして、ここまで辿り着いた。
ルシャードの金色の瞳と視線を交わす。
微笑される。
まだ現実味がない。
しかし明日には王弟ルシャードの婚姻が公表されて、全国民が知ることになるのかと考えたら、嬉しさが込み上げてきた。
玉座の間を退出すると、いつの間にか外で待っていたハンが、深々と頭を下げる。
「御結婚おめでとうございます」
俺は思わずルシャードの胸に寄りかかった。
そのまま抱き寄せられる。
「マイネ、先に戻って休んでくれ。疲れただろ。急かせてすまなかった」
確かに、王宮に到着してから二時間しか経っていない。
そもそも、ルシャードと番となる約束してから、十日も経っていないのだから、どんなに急いだのかがわかる。
ルシャードが急ぐのには、理由がある。
カスパーという存在だ。
このあとルシャードは再度、玉座の間に引き返して、カスパーがルシャードの実子だとディアーク王に認めてもらわなければならない。
通常、連れ子のカスパーが実子だと認可されることはない。
しかし実子だという事実を受理してもらうために、ディアーク王の力を借りることにしたのだ。
「先に戻りましょう」
ハンに促され、俺は長い回廊を引き返す。
その回廊の途中で、鹿獣人の宰相ミラと遭遇した。
「御結婚おめでとうございます。王弟妃殿下」
そう呼ばれて、俺は慣れない呼称に戸惑いながら、口を開いた。
「ミラ様、お久しぶりです」
「お久しぶりです。あのとき、マイネ様が妊娠していると知っていたら、絶対に引き止めていました。オメガだとは知らなかったものですから想像もできず……」
あのときとは、俺が王都を逃げると決めたときだ。
でも結局、俺は王宮に帰ってきてしまった。
「ご迷惑をおかけしました」
俺がそう言うと、ハンが不審そうに「なんの話ですか?」と訊く。
ミラは四年半前に俺の死亡を偽装したことを、明らかにした。
俺は、すでにミラが打ち明けているものだとばかり思っていたのだが、違ったようだ。
「マイネに最後に会ったのはミラ様だったのですか⁉︎ ムレ川の証言が偽装だったなんて、考え及びませんでした」
「偽装するのは二回目だったから慣れたものだ。マイネ様は北に逃げると言われたから、南のムレ川に流されたことにした」
ハンは、嘆息する。
「……騙されて、当初、南のほうばかり探してました」
「そうだろ。実はな、二年ぐらい前に北のほうで見たという情報を流したのは私なんだよ。ルシャード殿下が、まだ捜していると知って……黙っていられなくなったんだ。けれど、私もマイネ様がどこにいるのかはわからなくてな」
「……あの、ルシャード殿下はミラ様から偽装だったと聞いたわけでもないのに、ずっと俺を捜してくれていたってことですか?」
俺が少し驚いたように訊くと、突如、ハンが感極まった様子で涙を浮かべた。
「そうだよ。ずっとルシャード殿下はマイネを生きていると信じて捜していた。そう信じたかっただけかもしれないけど、ルシャード殿下の執着を見ていたら、私もマイネは生きてると思いはじめて…………本当によかった」
会えなかった四年と半年の間。
俺はルシャードがどのように過ごしたか、いつか教えてもらえるだろうか、と思った。
「よく似合ってる」
揃いの衣装を着用したルシャードは、嬉しげに俺の姿をじっと眺める。
俺が身に纏っている婚礼の真っ白な装いは、見返りのある襟元に豪華な宝石が散りばめられていた。
袖にはレース模様の白金の刺繍が輝き、背中側の裾は翼のように長いデザインだ。
一週間で用意したとは思えないほど、俺にぴったりだった。
ルシャードが差し出した腕に手を添えて、婚姻の儀が行われる聖ノ宮に足を踏み入れた。
聖ノ宮とは王宮の中心に位置する王の宮である。
政務宮とも金ノ宮とも違い、非常に格式が高く荘厳な印象だ。
アーチの列柱が並ぶ長い回廊を渡り、巨大な両扉の前で足を止まる。
その重厚な両扉が開くと、目に飛び込んだのは、天井に吊るされる王冠の形を成した巨大なシャンデリアだ。
漆喰装飾を施した精緻な壁と天井に囲まれた空間が広がる。
ここは玉座の間と呼ばれる大広間。
正面に鎮座するのは、ディアーク王だ。
事務官をしていた頃に見かけた第一王子とはまったく違い、堂々たる王の威厳に、俺は圧倒された。
俺の顔は緊張で強張っていたに違いない。
そんな俺の腰にルシャードがさり気なく腕を回す。
年老いた大神官の前まで近寄ると、寄り添って佇んだ。
「これより、王弟ルシャードの婚姻の儀を執り行う」
大神官を恭しい声で告げる。
俺とルシャードの両脇で若い神官たちが黙祷を捧げ、大神官は歴代の王の名を列挙したあとに「祝福を与えたまえ」と唱えた。
小さな白い花びらが浮かぶ盃を渡され、ルシャードと同時に花びらごと飲み干す。
「前へ」
ディアーク王が威厳のなる声を轟かせた。
ルシャードとともに王の眼前で一礼すると、ディアークが鷹揚に頷き、そして高らかに宣った。
「ルシャード・フォン・ヴァイツゼッカーとマイネ・オズヴァルドは本日をもって結ばれたことを、ここに宣言する」
婚姻が成立した。
長い遠回りをして、ここまで辿り着いた。
ルシャードの金色の瞳と視線を交わす。
微笑される。
まだ現実味がない。
しかし明日には王弟ルシャードの婚姻が公表されて、全国民が知ることになるのかと考えたら、嬉しさが込み上げてきた。
玉座の間を退出すると、いつの間にか外で待っていたハンが、深々と頭を下げる。
「御結婚おめでとうございます」
俺は思わずルシャードの胸に寄りかかった。
そのまま抱き寄せられる。
「マイネ、先に戻って休んでくれ。疲れただろ。急かせてすまなかった」
確かに、王宮に到着してから二時間しか経っていない。
そもそも、ルシャードと番となる約束してから、十日も経っていないのだから、どんなに急いだのかがわかる。
ルシャードが急ぐのには、理由がある。
カスパーという存在だ。
このあとルシャードは再度、玉座の間に引き返して、カスパーがルシャードの実子だとディアーク王に認めてもらわなければならない。
通常、連れ子のカスパーが実子だと認可されることはない。
しかし実子だという事実を受理してもらうために、ディアーク王の力を借りることにしたのだ。
「先に戻りましょう」
ハンに促され、俺は長い回廊を引き返す。
その回廊の途中で、鹿獣人の宰相ミラと遭遇した。
「御結婚おめでとうございます。王弟妃殿下」
そう呼ばれて、俺は慣れない呼称に戸惑いながら、口を開いた。
「ミラ様、お久しぶりです」
「お久しぶりです。あのとき、マイネ様が妊娠していると知っていたら、絶対に引き止めていました。オメガだとは知らなかったものですから想像もできず……」
あのときとは、俺が王都を逃げると決めたときだ。
でも結局、俺は王宮に帰ってきてしまった。
「ご迷惑をおかけしました」
俺がそう言うと、ハンが不審そうに「なんの話ですか?」と訊く。
ミラは四年半前に俺の死亡を偽装したことを、明らかにした。
俺は、すでにミラが打ち明けているものだとばかり思っていたのだが、違ったようだ。
「マイネに最後に会ったのはミラ様だったのですか⁉︎ ムレ川の証言が偽装だったなんて、考え及びませんでした」
「偽装するのは二回目だったから慣れたものだ。マイネ様は北に逃げると言われたから、南のムレ川に流されたことにした」
ハンは、嘆息する。
「……騙されて、当初、南のほうばかり探してました」
「そうだろ。実はな、二年ぐらい前に北のほうで見たという情報を流したのは私なんだよ。ルシャード殿下が、まだ捜していると知って……黙っていられなくなったんだ。けれど、私もマイネ様がどこにいるのかはわからなくてな」
「……あの、ルシャード殿下はミラ様から偽装だったと聞いたわけでもないのに、ずっと俺を捜してくれていたってことですか?」
俺が少し驚いたように訊くと、突如、ハンが感極まった様子で涙を浮かべた。
「そうだよ。ずっとルシャード殿下はマイネを生きていると信じて捜していた。そう信じたかっただけかもしれないけど、ルシャード殿下の執着を見ていたら、私もマイネは生きてると思いはじめて…………本当によかった」
会えなかった四年と半年の間。
俺はルシャードがどのように過ごしたか、いつか教えてもらえるだろうか、と思った。
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