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43 捨てた聖獣
金ノ宮に戻ると玄関口で家令に出迎えられて、「おめでとうございます」と祝福を受けた。
そこでハンと別れ、侍従のクリアに妃部屋に案内される。
ルシャードの自室と内扉で繋がった広々とした部屋だ。
着替えようと婚礼の衣装に手をかけたとき、ずくに脱ぐのが少し躊躇われた。
慌ただしく準備をしたため、勿体無いような気がしてしまったのだ。
ふとカスパーに見せたいな、と思った。
「着替えはあとでもいい? カスパーどこにいる?」
俺は着替えを手伝おうと控えていたクリアに訊く。
「カスパー様は庭園で遊んでいらっしゃいます」
俺はそのままの格好で庭園に向かった。
庭園に出ると、俺を見つけたカスパーが駆け寄ってきた。
「おとうさん! かっこいい! きれい!」
カスパーに笑顔で抱きつかれる。
カスパーもルシャードが用意した高価そうな服を着ていた。
容姿が優れているから、すでに王家の一員のようだ。
これまでカスパーの服は購入することがほとんどなく、譲ってもらった古着が多かった。
だが、これからは洋服だけではなく、教育も惜しみなくカスパーに与えられるのだろう。
「けっこん、できた?」
「あぁ、ディアーク王に認められたよ」
カスパーに報告したことにより、ようやく婚姻したのだなと実感が持てた。
「マイネ、おめでとう。王弟妃になった気分はどうだ?」
護衛役となったゲリンが、揶揄うように言う。
ゲリンも騎士の制服を与えられ、凛々しく麗しい姿だ。
「今まで通りだよ。俺は何も変わらない。ゲリンはどう? はじめての王宮だろ?」
「領主館も立派なお屋敷だったから、慣れてるつもりだったけど、なんか規格外すぎるな」
「きれい! ひろい! かっこいい!」
カスパーが興奮したように両手を広げて歓声を上げた。
萎縮するどころか、かなり気に入っている様子だ。
俺のほうが緊張しているかもしれない。
ガゼボに冷たい茶を準備してもらって三人で飲むと、喉が乾いていたことに気づいた。
茶を飲み終わったカスパーが、再び庭園の奥へと消え、ゲリンがそのあとを追う。
ぼんやりしていると、いつも通りの黒衣を着たルシャードがガゼボに現れた。
「カスパーが実子だと認められた。これで、もう何も心配いらない」
ルシャードは長椅子に座って、俺の肩を抱く。
「……よかった」
肩の荷が下りた。
実子だと認められるだろうとは聞いてはいたものの、結果を知るまで心配だったのだ。
「夕食はここに近しい人たちだけを呼んで、祝いの宴をする。それまでゆっくり過ごすといい」
ルシャードはそう言うと、なぜか膝の上に俺を座らせた。
うなじの匂いを嗅がれて、耳元で囁かれる。
「……夜は、ふたりだけで過ごしたいのだが、よいか?」
熱を帯びたルシャードの瞳が、俺を捕えた。
意味はわかる。
「発情期じゃないですよ……」
「抱きたい。駄目か?」
直接的なルシャードの言葉に、一気に全身の熱が上昇する。
想像して、狼狽えてしまう。
ゆっくりとルシャードの顔が近づき、唇が唇に軽く触れる。
カスパーに見られなかっただろうかと、ふと思い、ルシャードの胸を押した。
「見られます」
「もう結婚したのだから、誰に見られてもいいと思うが……確かにそんな恥ずかしそうな可愛いマイネを見られたくはないな」
ルシャードが目を細めて、愛おしそうに微笑んだ。
そんな表情を見たら、鼓動の高鳴りが止まらなくなる。
「殿下のほうこそ、その表情は心臓に悪いです」
「――殿下と、いつまで呼ぶつもりだ?」
ルシャードが首を傾げて訊き、俺は言い直す。
「……ルシャード様」
ルシャードが満足そうに頷き、俺の頬に触れた。
「なんだろうな。名の呼び方が変わっただけで、こんな気持ちになるとは考えてなかった。マイネが愛おしすぎる」
ルシャードは、再び俺の唇に口づけを落とした。
そして、おもむろにポケットから取り出しのは、見覚えのある聖獣の置物だ。
「覚えているか?」
それは、俺が四年半前に王宮を去るとき、寄宿舎の自室に残したオブジェだ。
ルシャードと一緒に購入した思い出の品でもあった。
けれども、ルシャードを好きな気持ちとともに捨てたのだ。
俺が頷くと、ルシャードから聖獣を受け取る。
再び俺の手に戻ってきた。
「マイネが置いていった荷物は、すべて俺の部屋で保管してある。必ずマイネに返せる日がくると信じて、ずっと待っていた」
ルシャードから必死に逃げた過去が蘇ったが、あの頃の痛みが消えていく。
捨てたはずの聖獣。
どちらの聖獣も俺に戻ってきた。
そこでハンと別れ、侍従のクリアに妃部屋に案内される。
ルシャードの自室と内扉で繋がった広々とした部屋だ。
着替えようと婚礼の衣装に手をかけたとき、ずくに脱ぐのが少し躊躇われた。
慌ただしく準備をしたため、勿体無いような気がしてしまったのだ。
ふとカスパーに見せたいな、と思った。
「着替えはあとでもいい? カスパーどこにいる?」
俺は着替えを手伝おうと控えていたクリアに訊く。
「カスパー様は庭園で遊んでいらっしゃいます」
俺はそのままの格好で庭園に向かった。
庭園に出ると、俺を見つけたカスパーが駆け寄ってきた。
「おとうさん! かっこいい! きれい!」
カスパーに笑顔で抱きつかれる。
カスパーもルシャードが用意した高価そうな服を着ていた。
容姿が優れているから、すでに王家の一員のようだ。
これまでカスパーの服は購入することがほとんどなく、譲ってもらった古着が多かった。
だが、これからは洋服だけではなく、教育も惜しみなくカスパーに与えられるのだろう。
「けっこん、できた?」
「あぁ、ディアーク王に認められたよ」
カスパーに報告したことにより、ようやく婚姻したのだなと実感が持てた。
「マイネ、おめでとう。王弟妃になった気分はどうだ?」
護衛役となったゲリンが、揶揄うように言う。
ゲリンも騎士の制服を与えられ、凛々しく麗しい姿だ。
「今まで通りだよ。俺は何も変わらない。ゲリンはどう? はじめての王宮だろ?」
「領主館も立派なお屋敷だったから、慣れてるつもりだったけど、なんか規格外すぎるな」
「きれい! ひろい! かっこいい!」
カスパーが興奮したように両手を広げて歓声を上げた。
萎縮するどころか、かなり気に入っている様子だ。
俺のほうが緊張しているかもしれない。
ガゼボに冷たい茶を準備してもらって三人で飲むと、喉が乾いていたことに気づいた。
茶を飲み終わったカスパーが、再び庭園の奥へと消え、ゲリンがそのあとを追う。
ぼんやりしていると、いつも通りの黒衣を着たルシャードがガゼボに現れた。
「カスパーが実子だと認められた。これで、もう何も心配いらない」
ルシャードは長椅子に座って、俺の肩を抱く。
「……よかった」
肩の荷が下りた。
実子だと認められるだろうとは聞いてはいたものの、結果を知るまで心配だったのだ。
「夕食はここに近しい人たちだけを呼んで、祝いの宴をする。それまでゆっくり過ごすといい」
ルシャードはそう言うと、なぜか膝の上に俺を座らせた。
うなじの匂いを嗅がれて、耳元で囁かれる。
「……夜は、ふたりだけで過ごしたいのだが、よいか?」
熱を帯びたルシャードの瞳が、俺を捕えた。
意味はわかる。
「発情期じゃないですよ……」
「抱きたい。駄目か?」
直接的なルシャードの言葉に、一気に全身の熱が上昇する。
想像して、狼狽えてしまう。
ゆっくりとルシャードの顔が近づき、唇が唇に軽く触れる。
カスパーに見られなかっただろうかと、ふと思い、ルシャードの胸を押した。
「見られます」
「もう結婚したのだから、誰に見られてもいいと思うが……確かにそんな恥ずかしそうな可愛いマイネを見られたくはないな」
ルシャードが目を細めて、愛おしそうに微笑んだ。
そんな表情を見たら、鼓動の高鳴りが止まらなくなる。
「殿下のほうこそ、その表情は心臓に悪いです」
「――殿下と、いつまで呼ぶつもりだ?」
ルシャードが首を傾げて訊き、俺は言い直す。
「……ルシャード様」
ルシャードが満足そうに頷き、俺の頬に触れた。
「なんだろうな。名の呼び方が変わっただけで、こんな気持ちになるとは考えてなかった。マイネが愛おしすぎる」
ルシャードは、再び俺の唇に口づけを落とした。
そして、おもむろにポケットから取り出しのは、見覚えのある聖獣の置物だ。
「覚えているか?」
それは、俺が四年半前に王宮を去るとき、寄宿舎の自室に残したオブジェだ。
ルシャードと一緒に購入した思い出の品でもあった。
けれども、ルシャードを好きな気持ちとともに捨てたのだ。
俺が頷くと、ルシャードから聖獣を受け取る。
再び俺の手に戻ってきた。
「マイネが置いていった荷物は、すべて俺の部屋で保管してある。必ずマイネに返せる日がくると信じて、ずっと待っていた」
ルシャードから必死に逃げた過去が蘇ったが、あの頃の痛みが消えていく。
捨てたはずの聖獣。
どちらの聖獣も俺に戻ってきた。
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