15 / 30
【離婚した攻め】
1
しおりを挟む
「こんにちは。覚えてますか?」
伊野崎晶太はレジにいる男に笑いかけた。
A大学駅前のカフェだ。
その男が、はっとした表情を見せた。
「もちろんです。伊野崎先生」
どこにでもいるような容姿でありながら、人懐っこい愛嬌のある表情をする男だ。
「サイン会の日、 雨宮さんから、ここのカフェラテをいただいたんですよ」
「はい。いらっしゃいました」
カフェラテを注文し、彼から商品を受け取る時、伊野崎は小声で言った。
「あの時は、私のせいで誕生日を台無しにしてしまってごめんね」
両手を胸の前で振り、彼が急いで否定する。
「そんな、先生のせいなんかじゃないですよ」
「私が叩き起こせばよかったんですよ」
長めの髪を耳にかけながら、伊野崎は「またね」と言って店を出る。
歩きながら飲む。あまり時間がない。
電車を乗り継ぎ、大手出版社の本社ビルのエントランスに着き、三階の文芸出版部に向かった。
訪問を告げると個室ブースに通され、暫し雨宮を待つ。
「お待たせしました」と雨宮が現れ、向いの席に座った。
カラー用紙を広げる。
「文庫の装丁ですが、3パターンのデザインを考えてもらいました。これとこれとこれ。先生、どうですか?」
半年前に伊野崎の担当編集になった雨宮は、見栄えがよい。
特に笑うと端正な顔に隙ができ、伊野崎の好みではないが女性に好かれるだろうな、と思っていた。
しかし、雨宮はバイセクシャルで現在は男と付き合っている、と聞いた。
雨宮の恋人は、たぶん先程のカフェにいた彼だ。
バイセクシャルと付き合うなんて時間の無駄だ、と伊野崎は思っている。
他人ごとながら、早く別れた方がいいと忠告したくなる。
過去の自分と重ねてしまうからだろう。
装丁と帯のデザインが決まり、打ち合わせが終わった。
雨宮が腕時計を見る。
「昼過ぎちゃいましたね」
コンビニに行く雨宮と共に外に出ると、並んで歩く。
「さっき雨宮さんの後輩くんに会いましたよ。サイン会で花束あげた子」
伊野崎は、何気なくを装って口にする。
「どこでですか?」
「A大学駅前のカフェで。名前は 夏生くんでしたよね?」
「…はい」
雨宮から営業用の笑顔が消えた。
伊野崎が、夏生の名前を覚えていたのが気に入らなかったのだろう。
「あの…先生…」
「コンビニ過ぎちゃいますよ」
コンビニの前だった。
「あっ」
「お疲れさまでした」と挨拶し、雨宮を残し駅へと向かった。
途中で適当に昼飯を食べ帰宅する。
伊野崎の自宅は平屋の古く狭い一軒家で、もともとは祖父母が住んでいた。父親が相続し、五年前から伊野崎が暮らしている。
最寄り駅からかなり歩くが、静かで住みやすい場所だった。
玄関前のアプローチに見知った男が佇んでいた。
見間違えるわけがない。
それは、二年ぶりに見る 柴理一だった。
伊野崎晶太はレジにいる男に笑いかけた。
A大学駅前のカフェだ。
その男が、はっとした表情を見せた。
「もちろんです。伊野崎先生」
どこにでもいるような容姿でありながら、人懐っこい愛嬌のある表情をする男だ。
「サイン会の日、 雨宮さんから、ここのカフェラテをいただいたんですよ」
「はい。いらっしゃいました」
カフェラテを注文し、彼から商品を受け取る時、伊野崎は小声で言った。
「あの時は、私のせいで誕生日を台無しにしてしまってごめんね」
両手を胸の前で振り、彼が急いで否定する。
「そんな、先生のせいなんかじゃないですよ」
「私が叩き起こせばよかったんですよ」
長めの髪を耳にかけながら、伊野崎は「またね」と言って店を出る。
歩きながら飲む。あまり時間がない。
電車を乗り継ぎ、大手出版社の本社ビルのエントランスに着き、三階の文芸出版部に向かった。
訪問を告げると個室ブースに通され、暫し雨宮を待つ。
「お待たせしました」と雨宮が現れ、向いの席に座った。
カラー用紙を広げる。
「文庫の装丁ですが、3パターンのデザインを考えてもらいました。これとこれとこれ。先生、どうですか?」
半年前に伊野崎の担当編集になった雨宮は、見栄えがよい。
特に笑うと端正な顔に隙ができ、伊野崎の好みではないが女性に好かれるだろうな、と思っていた。
しかし、雨宮はバイセクシャルで現在は男と付き合っている、と聞いた。
雨宮の恋人は、たぶん先程のカフェにいた彼だ。
バイセクシャルと付き合うなんて時間の無駄だ、と伊野崎は思っている。
他人ごとながら、早く別れた方がいいと忠告したくなる。
過去の自分と重ねてしまうからだろう。
装丁と帯のデザインが決まり、打ち合わせが終わった。
雨宮が腕時計を見る。
「昼過ぎちゃいましたね」
コンビニに行く雨宮と共に外に出ると、並んで歩く。
「さっき雨宮さんの後輩くんに会いましたよ。サイン会で花束あげた子」
伊野崎は、何気なくを装って口にする。
「どこでですか?」
「A大学駅前のカフェで。名前は 夏生くんでしたよね?」
「…はい」
雨宮から営業用の笑顔が消えた。
伊野崎が、夏生の名前を覚えていたのが気に入らなかったのだろう。
「あの…先生…」
「コンビニ過ぎちゃいますよ」
コンビニの前だった。
「あっ」
「お疲れさまでした」と挨拶し、雨宮を残し駅へと向かった。
途中で適当に昼飯を食べ帰宅する。
伊野崎の自宅は平屋の古く狭い一軒家で、もともとは祖父母が住んでいた。父親が相続し、五年前から伊野崎が暮らしている。
最寄り駅からかなり歩くが、静かで住みやすい場所だった。
玄関前のアプローチに見知った男が佇んでいた。
見間違えるわけがない。
それは、二年ぶりに見る 柴理一だった。
66
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
君に不幸あれ。
ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」
学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。
生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。
静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。
静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。
しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。
玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。
それから十年。
かつて自分を救った玲に再会した静は玲に対して同じ苦しみを味合わせようとする。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる