三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜

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第58話 希望を手繰る交渉

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 ドルガリスへ着くや否や、俺たちはすぐにルマリア大聖堂へと向かった。

『祖光継諾の儀』は王都のほぼ真ん中に位置するルマリア大聖堂で行われるが、港から中心街までは少し距離がある。

 訳あってギリギリになってしまい、こうして急いでいるわけだ。

 入れ違いになっていなければいいが・・・。

「ひぃ~! 急がないとロザリアさんたちがドルガリスを出てしまいますよ!」
「誰のせいでこうなったと思っている?」
「船の運行が遅れたせいですね! まったく困ります! こちらは急いでいるというのに!」

 デラクール邸で一夜を過ごした俺たちは、その足で朝イチの船で出港するはずだった。

 しかし、タイミングが悪く海流が荒れていた影響で、数日の間船は欠航となってしまったのだ。

 このエセ司教さまのわがままに付き合い、出発を一日遅らせたのが原因で。

 もはや恒例となったグルメを楽しむという、あまりにも下らない理由というのがまた腹立たしい。

 こんなことになるくらいなら、こいつの首根っこ掴んででも船に放り込むべきだった。

「お前の道楽に一日付き合った結果だぞ。自覚しろ」
「はぁ?! 私のせいですか?!」

 なぜ逆ギレされなきゃならない・・・。

「・・・お前、今日から司教を名乗るのをやめたらどうだ」

 きっとそれがエテルヌス教のためになる。

 ひいては人々のためになるというものだ。

「まあまあ。こうして間に合ったのですからいいじゃないですか」
「それはロザリアに会えてから言うんだな」

 そうこうしているうちにルマリア大聖堂の前に辿り着き、そのまま急いで重厚な扉を開け中へ飛び込んだ。

 扉が閉じた瞬間、外部の雑音がピタっと遮断され、静かで厳かな雰囲気に包み込まれた。

 遠くから複数の足音が聞こえる。

 色鮮やかなステンドグラスを通す高い天井から差す虹色の光が、並び歩くロザリアとエルドリック王の威厳を象徴しているようだった。

 ロザリアの砕けた表情が一変、鋭く冷たい視線が向けられた。

「どうしてあなたがここにいるの? 部外者でしょ」
「話したいことがある。時間をくれないか?」
「私には一方的に裏切ったあなたと話すことなんてないのだけど」

 その言葉に胸が詰まる。

 確かに、俺にはこうしてお前と話す資格はないのかもしれない。

 それでも、なんとしてでも真実を伝えなければならないんだ。

 また逃げ出さないように。

 自分を奮い立たせるように、強く拳を握った。

「お前たちを傷つけてしまったことは謝る。謝って許されることでもないことも分かっているつもりだ」

 ロザリアの表情が更に険しくなる。

「あなたの行為がどれだけ非道だったか、どれだけ私の心を引き裂いたか、あなたは全然分かってない。分かっているならそんな簡単に私の前に姿を現すなんてできないはずよ」
「ましてや、そうやって一方的に要求するなんて。話にならないわ」

 ・・・言い返せない。

 全くもってその通りだ。

 だが、こうでもしなければ望む未来は掴めない。

 たとえお前に軽蔑されても、俺は・・・。

 冷たい視線で一瞥し、素通りするロザリアの足が止まった。

 ふと顔を上げると、カルマナとジュリエットがロザリアの前に立っていた。

「気持ちはお察しします。ですが、話だけでも聞いてもらえないですか?」
「私からもお願いします。ロザリア様」

 緊張を帯びる表情で見つめる二人に対し、ロザリアは低い声のまま吐き捨てるように口を開いた。

「そちらの司教さんは見ない顔だけど、カインの仲間? ジュリエットちゃん、行動を共にする人はちゃんと選んだ方がいいよ。私みたいになっちゃうから」

 ロザリアが二人を避けようとした時、カルマナは咄嗟に回り込んだ。

「お願いです。話を聞いてください。とても重要なことなんです。カインさんにとっても、魔王討伐という重き宿命を負ったあなた方勇者の一族にとっても」

 強い意志の籠ったカルマナの言葉に、ロザリアの表情が驚きに変わった。

「この機会を逃せば、あなた方に二度と魔王を倒すチャンスは訪れないでしょう。これは、あなた方だけでなく、世界の存続がかかった話でもあるのです」
「あなた・・・。いったい何者なの・・・?」
「私はカルマナ・イヴァンジェリスタ。大のつく司教をしております」

 カルマナはニコッと笑って困惑するロザリアに応えた。

「頼むロザリア。これは、単に俺がお前を侮辱し勇者パーティを抜けたというだけの、二人だけの問題ではなかったんだ。お前の下す決断次第では、本当に魔王を倒すことができなくなる。それだけは、使命を背負う者として絶対に避けたいだろう?」

 呆気に取られていたロザリアはスッと俺から目を逸らした。

「そんな言い方、ずるいよ」
「すまない」

 すると、彼女はついにその固い表情を崩し、深い息を吐いた。

「・・・分かった。そこまで言うなら聞きましょう」
「ありがとう。感謝する」
「勘違いしないで。あなたを許したわけじゃないから。私はカルマナの意思を汲んだだけ」
「それでも構わない。本当に、ありがとう」

 ロザリアは目を逸らしたままだ。

 しかし、赤く照った頬が少なからず俺の気持ちを受け入れてくれているように思えた。

「早速、場所についてだがーーー」

 その時、突然大聖堂の扉が開き、フリードたちが中へ入ってきた。

「何だよいるじゃねーか。あんまり遅いから待ちきれなくて来ちまったぜ」
「ロザリア~心配したでしょ~・・・って、なんであんたがここにいるのよ?」

 ヴィオラの冷たい視線が俺を見下ろす。

「ほらほらお嬢、そんな顔してるとシワが取れなくなっちゃうよ?」
「うっさい!!」
「痛っ?!」

 場を和まそうとするジュリアンの尻を思い切り蹴る彼女の姿に、どこかホッとした。

「ちょうど皆んな集まったことだし、ここでいいんじゃない?」
「分かった。皆んな、心して聞いてくれ」

 気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと深く呼吸し前を向いた。

 そして、俺は知りうる全てを話した。

 ほんの一握りでもいい。

 この想いが伝わるようにーーー。
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