異世界転生したけど採取生活で平穏に生きています 〜武勲とか伝説とかよそでやってください〜

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第1話『村人シロの生活』の1

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 シロは切り立った崖の上から、ぼんやりと景色を眺めていた。

 自分の村は小さく見えて、周りには海のように広大な森が広がっていた。風が通り過ぎて波のように木々を揺らし、シロの短い黒髪を撫でた。

 太陽は森の水平線に近付きつつあった。シロは背後を見る。連れはまだ現れない。

 シロは荷物から水筒を取り出し、水を飲みながら望遠を続ける。自分の村の向こうに別の村があり、更に遠くには王都があった。

 訪れれば巨大な王都も、今は指で潰せそうな大きさだ。シロはそこで行われている慌ただしい営みを思い返してみる。

 声を張り上げて競う数多くの商店、日々進化する武器防具、汚濁の掃き溜めのような賭博場や娼館、物々しい王城や教会、出征する軍隊やギルドの冒険者たち……

 シロは回想を打ち切り、安心して息をつく。どれも自分には関係なく、必要のないものだった。

「シロ!」

 背後から枝をかき分ける音と共に、ジェイが現れた。

「終わったぞ」

「お疲れ」

 シロはジェイが置いた袋の中身を確認する。火薬の材料になるキノコ、ヒノコダケが確かに30本入っていた。

「お前また疑ってるだろ」

「仕事なんだから確認するのは当たり前だ。ジェイも数えて」

 シロは自分の袋を差し出す。ジェイは面倒くさそうに中身のキノコを数える。

「……お前これ、70あるじゃねーか」

「なんか沢山あったから。報酬も色つくだろうし」

「いや、だから、お前がたくさん採った分、俺が見つけるのが遅くなるだろ!」

「あー……それもそうか」

「手分けした意味が無いじゃねぇか……犬なしでよくもこんなに見つけたな」

「団十郎がいれば200はかたい」

 あーはいはい、と言いながらジェイはシロの隣に座り、自分の水筒を傾けた。

「……いつ来ても、ここからの眺めは格別だな。仕事も終わったし、最高だ」

 ジェイはそう言って夕日を眺める。オレンジ色の光が彼の茶色い髪を赤に近づけていた。

「……なあシロ」

「なに」

「今度ここをデートに使ってもいいか?」

「駄目だ。それに、こんなところまで着いてこれる女は普通じゃないぞ」

「確かに……女の子はおしとやかな方がいいからな」

 ジェイは展望ではなく女の子に想いを馳せる。シロはため息をつく。おしとやかどころか、ジェイにとってはほぼ全ての女がデートの対象だ。

「日が沈まないうちに帰ろう」

「お、そうだな」

 腰を上げたシロとジェイは、夕日を背に村への帰路へついたのだった。
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