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2章◆恋と恩義と性欲と
第六番『誘う未亡人』-1
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--------
魔人の書 第四番:のろまのベロチェ
投与日:美春の月 三十一日
危険度:2
一般的な症状:体を動かす速度が通常の十分の一程度に落ちる状態が五日前後続く。
推定快復期間:五~七日
被験者十五番の症状:速度の落ち幅が想定より少ない(三分の一程度?)。三日目にはほぼ通常通り動けるようになる。
--------
魔人の書 第五番:白鬼夜行
投与日:枝折の月 五日
危険度:3
一般的な症状:髪や皮膚が異様な白色に変色し、わずかな日光ですら浴びると火傷を負う状態が一週間程度続く。火傷の症状には個人差があるが、酷い場合は皮膚が焼け爛れたり障害が残るおそれあり。日光への耐性が元に戻った後も、体の色が戻らないことも。
推定快復期間:十日
被験者十五番の症状:皮膚の変色が平均的なアビニア人程度の色で止まる。日光に対しては「いつもより眩しい。」と本人は言うが客観的には通常時とほぼ同じ反応に見受けられる。火傷なし。三日目には被験者本人も「やっぱいつもこんなもんかも。」と証言し、五日目には皮膚の色も元の状態に戻る。
--------
魔人の書 第六番:誘う未亡人
投与日:枝折の月 十日
危険度:5
一般的な症状:喪服姿の婦人の幻覚が四六時中現れ、自死するように誘導する。期間はおよそ三日から十日だが個人差が激しい。長い者だと一か月程度現れ続ける。
推定快復期間:症状による
被験者十五番の症状:喪服姿の婦人が現れない。
--------
「『未亡人』が出てこないって……お前、やっぱすごいな。色々と」
枝折の月、十二日の夜、午後八時。
イリス家のダイニングテーブルには、リウルが「小鹿の馬車亭」から運んできたご馳走が並んでいた。山羊肉のステーキに魚介と茸をバターと一緒に蒸したもの、ふかふかの胡桃パン、温めて柔らかくした根菜の盛り合わせ、白山葡萄のゼリー、黒サクランボをたっぷり乗せたチーズケーキ。
ずらりと並べられた料理は壮観だが、この数週間で三度目ともなれば、さすがのタビトも食い気より遠慮の方が先に立ってしまう。いつもよりかは幾分落ち着いた様子でステーキを口に運ぶ。
「すごいって言われてもよく分からないですけどね。いいんですかね、オレなんもしてないのにご褒美だけもらって」
「いいんじゃねえの? そういう約束だろ。食っときゃいいんだよ、お前は命かけてんだから」
「命かけてる実感はないんですけどねー……」
魔人の書の四番『のろまのベロチェ』、五番『白鬼夜行』で少し体調を崩したものの、どちらもすぐ本調子に戻った。二日前に投与された六番『誘う未亡人』では症状すら出なかった。本来『誘う未亡人』は魔人の書の最初の山場とされているらしく、イリスは当初やきもきしていたのだが、蓋を開ければこれである。
緊張の糸が切れたような生ぬるい空気の中、タビトは黙々と料理を口に運ぶ。
料理をサーブし終わったリウルは暇なのか、椅子に斜めに腰かけ食器棚のグラスを磨いていた。家主であるイリスはリウルが料理を届けに来たと同時に入れ違うように外出。よって今この家には二人しかいない。
――ずっと気になっていたことを訊くなら、今しかない。
タビトはステーキの最後の一切れを呑み込むと、水を一口飲んで深呼吸し、リウルに向き直る。
「あの。リウル先輩。訊きたいことがあるんですけど」
「……なんだよ。改まって」
訝し気にリウルが片眉をあげる。どことなく不機嫌そうな表情に怖気づきそうになりつつも、一息に尋ねる。
「あの、……リウル先輩とイリス先生ってどういう関係なんですか?」
「……はぁ? どーいうってお前……」
と、リウルは気の抜けた返事をする。かと思いきや、ブッと勢いよく吹き出した。そしてけらけらと笑い出す。
「っくく、お前その言い方……! どうせやらしいことでも考えてんだろ。ぶっクク、あり得ねーから。やっぱエロガキだなあタビトくんは」
「なっ……! べ、別にそんなことは……!」
実際、かなり疑っていたのだが。
一笑に伏されることに恥ずかしさを覚える一方で、タビトはこっそりと安堵もしていた。
リウルが笑いをかみ殺しながら続ける。
「まあ先生はお綺麗な方だからな、そういう相手がいそうなのは分かる。でも俺は違ぇよ。俺はそうだなあ……ああ、ある意味お前と同じかもな」
「え? オレと同じ?」
「オレも星渡しの儀がきっかけで色々困ったことになったことがあんだよ。あん時に先生が助けてくれなきゃ、俺は今頃ここにいないだろうな」
星渡しの儀。
既に懐かしさすら覚えるその言葉に、一瞬息が止まった。
「あれ? ……ということはリウル先輩も、どこか別の村で儀式を受けて王都に来たってことですか……? 元々王都に住んでた訳じゃなくて……?」
「そうだよ。というか王都にいる平民は、ほぼ全員移住者だ。王都では子どもが生まれないからな」
「え、……」
出し抜けに思いがけないことを聞かされ目を剥く。
「そ、それってすごい秘密なんじゃないんですか? そんなことオレに話して大丈夫なんですか?」
「これくらいなら別にいいだろ。王都で子どもが生まれないってことは何年か住めば自然と分かることだし。……ああそうだ、気になるならいっそ先生に訊いてみてもいいんじゃねえか」
「先生に?」
リウルは手に持ったグラスをきゅ、と鳴らすと、人の悪そうな顔を浮かべた。
「王都にいる間は子どもを持てなかった夫婦でも、不思議なことに王都から離れて数年も経てば普通に子どもが生まれるんだ。不気味だろ? これも一部では魔人の呪いと言われてたりする」
「魔人!? エッそれってどういうことですかそれも魔人の書に関係あったり――」
「あーもうダメ、ここまで。これ以上は喋りませーん」
タビトが思わず腰を浮かせるも、リウルはうるさそうに手で払う仕草をする。
「でも魔人は毒で……」
「だぁから知らないって。俺も小耳に挟んだくらいだからホントに何も知らないんだよ」
「うぅ……」
――絶対嘘だ、絶対まだ何か隠してる。
とは思ったが、当初の目的は果たされた。リウルはイリスに強い恩義を感じているだけで、『あっちの世界』の住人ではないらしい。タビトは大人しく引き下がることにして、胡桃パンを指でちぎる。
「それじゃあもう一個……、別の話していいですか」
「何だ、まだあんのか。また変なこと訊くんじゃねえだろうな」
「訊くというか……お願いというか」
こっちはこっちで言い出しにくい。タビトはリウルの反応を窺いながら、怖々口を開く。
「あの。オレを小鹿の馬車亭で、働かせてくれませんか?」
「……」
リウルは目を丸くすると、たっぷり五秒は経ってから、
「はぁああ?」
と言った。さっきの「はぁ?」より数段呆れているのが分かる。
「いや、あのなお前……自分の立場分かって言ってんのか? お前今魔人の書に挑んでんだぞ? こういうことはあんま言いたくねえが、今回の毒で死んでたっておかしくなかったんだぞ?」
「わ、分かってますって。そりゃいつ死ぬかも分かんないやつを雇うなんて無理な話だって。だからこう、オレでもできるような単純な作業とか力仕事とかだけでもやらせてもらえないかなって」
「いや、そーいうこと言ってんじゃねえんだが……」
リウルは困ったような顔で頭をかく。
しばらく腕を組んで何か考え込んでいたが、探るような目でタビトを見る。
「……なんでウチで働きたいと思った?」
「えーっと……正直に言うと、働けるならどこでもいいんです。ただもっと先生の役に立ちたくて」
「先生の? それならお前が生きてるだけでじゅーぶん役に立ってるだろ」
「そういうことじゃなくて……一人前の男としてどうなのかって話ですよ。何もかも先生の世話になって飯食って寝てるだけなんて、リウル先輩なら耐えられます? 先輩もオレと同じ立場だったから、今こうして先生に恩返ししてるんじゃないですか?」
タビトが前のめりになって訴えれば、リウルは弱々しく「うっ」と呻く。
「たしかに……居たたまれねえな。さんざん世話になってるのに自分だけいい飯食って……働きもせずクソして犬と散歩するだけの生活……」
それはちょっと酷く言い過ぎだと思ったが、タビトは黙って頷く。
するとリウルは根負けしたかのように、大きくため息を吐いた。
「ああもう、分かったよ。俺だってまだ見習いの身だから安請け合いはできねえが、機会があれば親方に聞いといてやる。聞くだけだからな」
「やった! ありがとうございますリウル先輩!」
「ただし。当然だけど先生の許可は必須だし最優先は魔人の書だ。先生が駄目って言ったら駄目だからな」
「はい、分かってますって!」
既に仕事が決まったかのように喜ぶタビトを見て、リウルは苦笑いを浮かべる。
「本当に、……お前はそうやってはしゃいでるだけで、十分先生の救いになってると思うけどなぁ……」
「えっ、リウル先輩もう気が変わったんですか。ちゃんと紹介してくださいよオレのこと」
「わぁってるよ」
リウルは長い腕を伸ばすと、子どもにやるようにタビトの髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
やめてくださいよ、なんでいつもそういうことするんですかぁ、などとじゃれ合っていると、バタンと玄関口でドアの開く音がした。それからスリッパを引き摺るような音がして、キッチンの入り口にイリスが顔を出す。
「先生! おかえりなさい」
「ただいま。リウ、ありがとう。無理言って残ってもらって」
「いいんですよ。それじゃ子守りも終わったことだし店戻ります。食器はまた表に出してもらえれば空いてる時回収しとくんで」
「うん、いつもありがとう。親方にもよろしく言っておいて」
やっとイリスが帰ってきたと思ったのに、今度はリウルが入れ違いで帰ってしまうらしい。タビトがついリウルを目で追っていると、リウルはタビトの額を軽く小突き、さっさと勝手口から出て行った。
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魔人の書 第四番:のろまのベロチェ
投与日:美春の月 三十一日
危険度:2
一般的な症状:体を動かす速度が通常の十分の一程度に落ちる状態が五日前後続く。
推定快復期間:五~七日
被験者十五番の症状:速度の落ち幅が想定より少ない(三分の一程度?)。三日目にはほぼ通常通り動けるようになる。
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魔人の書 第五番:白鬼夜行
投与日:枝折の月 五日
危険度:3
一般的な症状:髪や皮膚が異様な白色に変色し、わずかな日光ですら浴びると火傷を負う状態が一週間程度続く。火傷の症状には個人差があるが、酷い場合は皮膚が焼け爛れたり障害が残るおそれあり。日光への耐性が元に戻った後も、体の色が戻らないことも。
推定快復期間:十日
被験者十五番の症状:皮膚の変色が平均的なアビニア人程度の色で止まる。日光に対しては「いつもより眩しい。」と本人は言うが客観的には通常時とほぼ同じ反応に見受けられる。火傷なし。三日目には被験者本人も「やっぱいつもこんなもんかも。」と証言し、五日目には皮膚の色も元の状態に戻る。
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魔人の書 第六番:誘う未亡人
投与日:枝折の月 十日
危険度:5
一般的な症状:喪服姿の婦人の幻覚が四六時中現れ、自死するように誘導する。期間はおよそ三日から十日だが個人差が激しい。長い者だと一か月程度現れ続ける。
推定快復期間:症状による
被験者十五番の症状:喪服姿の婦人が現れない。
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「『未亡人』が出てこないって……お前、やっぱすごいな。色々と」
枝折の月、十二日の夜、午後八時。
イリス家のダイニングテーブルには、リウルが「小鹿の馬車亭」から運んできたご馳走が並んでいた。山羊肉のステーキに魚介と茸をバターと一緒に蒸したもの、ふかふかの胡桃パン、温めて柔らかくした根菜の盛り合わせ、白山葡萄のゼリー、黒サクランボをたっぷり乗せたチーズケーキ。
ずらりと並べられた料理は壮観だが、この数週間で三度目ともなれば、さすがのタビトも食い気より遠慮の方が先に立ってしまう。いつもよりかは幾分落ち着いた様子でステーキを口に運ぶ。
「すごいって言われてもよく分からないですけどね。いいんですかね、オレなんもしてないのにご褒美だけもらって」
「いいんじゃねえの? そういう約束だろ。食っときゃいいんだよ、お前は命かけてんだから」
「命かけてる実感はないんですけどねー……」
魔人の書の四番『のろまのベロチェ』、五番『白鬼夜行』で少し体調を崩したものの、どちらもすぐ本調子に戻った。二日前に投与された六番『誘う未亡人』では症状すら出なかった。本来『誘う未亡人』は魔人の書の最初の山場とされているらしく、イリスは当初やきもきしていたのだが、蓋を開ければこれである。
緊張の糸が切れたような生ぬるい空気の中、タビトは黙々と料理を口に運ぶ。
料理をサーブし終わったリウルは暇なのか、椅子に斜めに腰かけ食器棚のグラスを磨いていた。家主であるイリスはリウルが料理を届けに来たと同時に入れ違うように外出。よって今この家には二人しかいない。
――ずっと気になっていたことを訊くなら、今しかない。
タビトはステーキの最後の一切れを呑み込むと、水を一口飲んで深呼吸し、リウルに向き直る。
「あの。リウル先輩。訊きたいことがあるんですけど」
「……なんだよ。改まって」
訝し気にリウルが片眉をあげる。どことなく不機嫌そうな表情に怖気づきそうになりつつも、一息に尋ねる。
「あの、……リウル先輩とイリス先生ってどういう関係なんですか?」
「……はぁ? どーいうってお前……」
と、リウルは気の抜けた返事をする。かと思いきや、ブッと勢いよく吹き出した。そしてけらけらと笑い出す。
「っくく、お前その言い方……! どうせやらしいことでも考えてんだろ。ぶっクク、あり得ねーから。やっぱエロガキだなあタビトくんは」
「なっ……! べ、別にそんなことは……!」
実際、かなり疑っていたのだが。
一笑に伏されることに恥ずかしさを覚える一方で、タビトはこっそりと安堵もしていた。
リウルが笑いをかみ殺しながら続ける。
「まあ先生はお綺麗な方だからな、そういう相手がいそうなのは分かる。でも俺は違ぇよ。俺はそうだなあ……ああ、ある意味お前と同じかもな」
「え? オレと同じ?」
「オレも星渡しの儀がきっかけで色々困ったことになったことがあんだよ。あん時に先生が助けてくれなきゃ、俺は今頃ここにいないだろうな」
星渡しの儀。
既に懐かしさすら覚えるその言葉に、一瞬息が止まった。
「あれ? ……ということはリウル先輩も、どこか別の村で儀式を受けて王都に来たってことですか……? 元々王都に住んでた訳じゃなくて……?」
「そうだよ。というか王都にいる平民は、ほぼ全員移住者だ。王都では子どもが生まれないからな」
「え、……」
出し抜けに思いがけないことを聞かされ目を剥く。
「そ、それってすごい秘密なんじゃないんですか? そんなことオレに話して大丈夫なんですか?」
「これくらいなら別にいいだろ。王都で子どもが生まれないってことは何年か住めば自然と分かることだし。……ああそうだ、気になるならいっそ先生に訊いてみてもいいんじゃねえか」
「先生に?」
リウルは手に持ったグラスをきゅ、と鳴らすと、人の悪そうな顔を浮かべた。
「王都にいる間は子どもを持てなかった夫婦でも、不思議なことに王都から離れて数年も経てば普通に子どもが生まれるんだ。不気味だろ? これも一部では魔人の呪いと言われてたりする」
「魔人!? エッそれってどういうことですかそれも魔人の書に関係あったり――」
「あーもうダメ、ここまで。これ以上は喋りませーん」
タビトが思わず腰を浮かせるも、リウルはうるさそうに手で払う仕草をする。
「でも魔人は毒で……」
「だぁから知らないって。俺も小耳に挟んだくらいだからホントに何も知らないんだよ」
「うぅ……」
――絶対嘘だ、絶対まだ何か隠してる。
とは思ったが、当初の目的は果たされた。リウルはイリスに強い恩義を感じているだけで、『あっちの世界』の住人ではないらしい。タビトは大人しく引き下がることにして、胡桃パンを指でちぎる。
「それじゃあもう一個……、別の話していいですか」
「何だ、まだあんのか。また変なこと訊くんじゃねえだろうな」
「訊くというか……お願いというか」
こっちはこっちで言い出しにくい。タビトはリウルの反応を窺いながら、怖々口を開く。
「あの。オレを小鹿の馬車亭で、働かせてくれませんか?」
「……」
リウルは目を丸くすると、たっぷり五秒は経ってから、
「はぁああ?」
と言った。さっきの「はぁ?」より数段呆れているのが分かる。
「いや、あのなお前……自分の立場分かって言ってんのか? お前今魔人の書に挑んでんだぞ? こういうことはあんま言いたくねえが、今回の毒で死んでたっておかしくなかったんだぞ?」
「わ、分かってますって。そりゃいつ死ぬかも分かんないやつを雇うなんて無理な話だって。だからこう、オレでもできるような単純な作業とか力仕事とかだけでもやらせてもらえないかなって」
「いや、そーいうこと言ってんじゃねえんだが……」
リウルは困ったような顔で頭をかく。
しばらく腕を組んで何か考え込んでいたが、探るような目でタビトを見る。
「……なんでウチで働きたいと思った?」
「えーっと……正直に言うと、働けるならどこでもいいんです。ただもっと先生の役に立ちたくて」
「先生の? それならお前が生きてるだけでじゅーぶん役に立ってるだろ」
「そういうことじゃなくて……一人前の男としてどうなのかって話ですよ。何もかも先生の世話になって飯食って寝てるだけなんて、リウル先輩なら耐えられます? 先輩もオレと同じ立場だったから、今こうして先生に恩返ししてるんじゃないですか?」
タビトが前のめりになって訴えれば、リウルは弱々しく「うっ」と呻く。
「たしかに……居たたまれねえな。さんざん世話になってるのに自分だけいい飯食って……働きもせずクソして犬と散歩するだけの生活……」
それはちょっと酷く言い過ぎだと思ったが、タビトは黙って頷く。
するとリウルは根負けしたかのように、大きくため息を吐いた。
「ああもう、分かったよ。俺だってまだ見習いの身だから安請け合いはできねえが、機会があれば親方に聞いといてやる。聞くだけだからな」
「やった! ありがとうございますリウル先輩!」
「ただし。当然だけど先生の許可は必須だし最優先は魔人の書だ。先生が駄目って言ったら駄目だからな」
「はい、分かってますって!」
既に仕事が決まったかのように喜ぶタビトを見て、リウルは苦笑いを浮かべる。
「本当に、……お前はそうやってはしゃいでるだけで、十分先生の救いになってると思うけどなぁ……」
「えっ、リウル先輩もう気が変わったんですか。ちゃんと紹介してくださいよオレのこと」
「わぁってるよ」
リウルは長い腕を伸ばすと、子どもにやるようにタビトの髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
やめてくださいよ、なんでいつもそういうことするんですかぁ、などとじゃれ合っていると、バタンと玄関口でドアの開く音がした。それからスリッパを引き摺るような音がして、キッチンの入り口にイリスが顔を出す。
「先生! おかえりなさい」
「ただいま。リウ、ありがとう。無理言って残ってもらって」
「いいんですよ。それじゃ子守りも終わったことだし店戻ります。食器はまた表に出してもらえれば空いてる時回収しとくんで」
「うん、いつもありがとう。親方にもよろしく言っておいて」
やっとイリスが帰ってきたと思ったのに、今度はリウルが入れ違いで帰ってしまうらしい。タビトがついリウルを目で追っていると、リウルはタビトの額を軽く小突き、さっさと勝手口から出て行った。
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