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7章◆雷光轟く七夜祭
伝書羽
しおりを挟むなんとなくそう思い、タビトは率直に疑問をぶつけてみる。
「リウル先輩。どうやって先生と連絡取ったんですか?」
「んぇっ!? ど、どーやってって!?」
リウルがやけに高い声を上げた。
「ど、どうやってっていうと、それはだな、エット、」
いつになく目線を泳がせ、無意味に後ろ手で頭を掻く。するとその手を避けるようにしてまた小鳥が小さく舞った。その後再度リウルの頭の上で落ち着く小鳥を見て、タビトの頭で何かが閃く。
「あ。もしかしてその鳥」
「えっ。と、トリ? いやこいつは関係ないぞ、こいつはただの――」
「もしかして伝書羽ってやつじゃないですか!? ほら、足に手紙括りつけて相手のとこに飛ばすやつ!」
タビトが目を輝かせてそう言えば、リウルは「へっ」と気の抜けた声を出す。けれど一拍開けると先ほどまでのどこか落ち着かない様子から一転し、堂々と胸を張って言った。
「そ、……そう! 実はそーなんだ! こいつがこう、ちょろっと先生んとこまで飛んで行ってくれたワケ!」
「やっぱりそうなんですか! オレ伝書羽って物語の中でしか読んだことなくて、実物見たことないんですよね。近くで見ていいですか?」
「ん? お、おう。いいぞ」
リウルが胸の前で腕を掲げると、小鳥が慣れた様子でその指の上に舞い降りる。そのちょっとした仕草にも一人と一羽の信頼関係が現れているようで、タビトはわくわくしながら歩み寄った。
「うわ、近くで見ると小さいですね。名前は何ていうんですか?」
女性の手のひらにもすっぽり収まってしまいそうなくらいの大きさだった。羽の色は淡い緑色で腹の方は白く、黒いつぶらな瞳の上に白い筋が走っている。
「名前はマチャ。鳥の種類のことを言ってんなら俺も知らねぇ。このあたりではあったかい時期だけ見かける鳥だな。夜目も効くちょっと珍しいやつだ」
「へぇー……伝書羽って鳩とか鷹とか梟とか、そういう種類の鳥がやるもんだと思ってました。こんな小さい子でもできるもんなんですね」
「ん? そ、そうだな。まあ俺の躾が良かったってことだな」
「そういえば犬だけどアンコもめちゃめちゃ賢いですしね。リウル先輩って動物の躾が上手いんですね」
「あ? あーうん、そうだな。ま、一番は躾がどうのってより飼い主に似たってとこだろうな!」
「え? 飼い主に……似た……?」
「おい何でそこで不思議そうな顔になる」
不穏な気配を感じ取ったのか、リウルの指先からマチャが飛び立つ。小鳥はタビトとリウルの頭上で優雅に一周円を描くと、東の方に向かって飛んで行った。
「あ、行っちゃった。いいんですか?」
「いいよ、うちは基本的に放し飼いだから。疲れたら家に戻ってくる」
「へぇ、ほんとに賢いんだな……」
タビトは感心しながらマチャが消えた方角を眺めていたが、リウルはおもむろに腕や肩をぱたぱたと手で叩き始めた。小鳥が残していった羽毛や埃を払っているらしい。
「で、お前はどうする? 俺は厨房戻るけど中で待つか」
「あ……いえ、ここにいます。なんかそういう気分なんで」
「そうか。じゃ、お疲れ」
リウルは最後に後ろで縛った髪を手櫛で梳かして結い直すと、そのまま中に入って行った。
一人裏口に残されたタビトは何をするでもなく、背もたれに焦げ跡がついた椅子に腰掛ける。
元々人気のない場所なだけに、一人になると静けさが際立つ。今夜は表通りの方から花火を心待ちにする人々の笑い声や話し声が風に乗って流れてくるぶん、余計うら寂しい場所に思えた。
「先生、……早く来ないかな……」
寂しさを紛らわすように、あえて声に出して呟いてみる。リウルは「もうちょっとかかる」と言っていたが、具体的なことは何も言っていなかった。もう少し詳しく聞けばよかったなあ、と今更ながら思ったが、連絡手段が伝書羽ならリウルも細かいところまでは知らないのかもしれない。ならばもう、大人しく待つしかない。
タビトは背もたれに体重を預けると、すっかり暗くなった夜空を見上げた。家を出た時は日が暮れた直後でまだ西の空が薄ぼんやりと明るかったのに、あれからもう何時間も経ったような気分だ。実際には全部合わせても一時間ほどしか経ってないのだろうが、この短い間に色んなことが一気に起こって、頭の中が静かに興奮していた。
夜空に瞬き始めた星を数え、今日の出来事を一つずつ振り返ろうとした時、視界の外で高い靴音が響いた。カツン、という華奢な音は婦人用のハイヒール特有のものだ。イリスではないとは分かりつつも、何となくそちらに目をやると、意外な人物が立っていた。
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