8 / 47
第一章
2
しおりを挟む翌朝、熱は下がったけど、念のため
安静に過ごすことになった
また、退屈な一日が始まる…
憂鬱な気分になるけど、そんな素振りを見せれば
また、ロウに気を遣わせてしまうので
お気に入りの本を手に取った
「今日は本を読んでるから
ロウは下がっていいよ」
側に控えていたロウは、一つ頷くと退出した
たいして読む気もないけど、本を開く
案の定、文字を眺めるだけで頭に入ってこない
思い浮かぶのは、昨日のこと
うまく、話せなかったな
だけど、もっと話したかった…
開いたままの扉を気にして、そっと息を吐き出す
彼の態度は友好的とはいえなかった
なのに、不愉快だとも思わなかった
最後なんて、僕の体調に気づいてくれた
また、会って話せるかな…
そこで考えるのを止める
話すことなんて、もうないじゃないか
お礼を言えたんだから、十分なはず
彼らは一時的にここに居るだけなんだから
もう、関わることも無いだろう
どこかでそれを残念に思う自分がいるけど
気づかない振りをして
そのままぼんやりと本を眺めていた
コンコンコン
「入るぞ」
ノックの音でハッと顔を上げる
「シリル、おはよう」
「おはよう、体調はどうだ?」
「熱も下がったし、もう大丈夫だよ」
「そうか
で、何を落ち込んでいる?」
ベッドの脇にあるイスに腰掛けると
世間話でもするかのようにサラリと問い詰めてくる
「・・そんな顔、してた?」
いつから見られていたんだろう…?
シリルの顔を伺いながら少し惚ける
「死んだ魚のような目をしてたな
本が全くカモフラージュになっていない」
「・・僕、そんなに酷い顔してた…?」
以前出てきた魚の姿煮を思い出す
どんよりと白濁したアレと同じだなんて…
思わず、手で顔を覆う
「冗談に決まっているだろう」
「・・シリルが言うと、冗談に聞こえないよ」
子供っぽいと思っても、つい口を尖らせてしまう
「誤魔化されてやる気はないからな」
「誤魔化すつもりなんて…」
ないと言い切れず、俯いてしまう
ただ、大した事じゃないから
言う必要がないと思っただけ
「うまく、話せなかったなぁって…」
「・・昨日の、客人の部屋でか?」
コクンと頷くと、シリルは顎に手を当て
ゆっくり話し始めた
「カミュは、うまくやっていたと思うが…
彼らは私達に、怒りや不信感があるはずだ
だが、カミュに対して淡々と接していた
腹の中でどう思っていたかまではわからないが
悪い感情は無かったのではないか?」
「そう、なのかな…」
悪い感情は無い、そうなのかもしれない
だけど、心のモヤモヤはなぜか晴れてくれなかった
「・・・親しく、なりたかったか?」
少しためらいながら言われたその言葉が
ストン、と心にはまる
そっか…
仲良くなりたかったんだ
だからもっと話したかったのかと納得する
そして、それがわかっても
もう何もできない事も
「ううん、お礼を言えたから十分だよ」
そう言い切る事で、自分に言い聞かせる
「・・本当に、それでいいのか?」
ー ヤメテ ー
「どうして?
最初からお礼を言いに行きたかっただけだよ?」
何か言いたげな顔のシリルに笑ってみせる
ー ソンナメデミナイデ ー
「・・そうか…
あの後、私は残って話を続けたんだが」
あっさり引いたシリルだけど
続く話に少し身構える
「散々カミュのことを言われた」
ん?
「なぜ万全でないのに連れてきた、とか
しっかり食べさせているのか
無体な事をしているのではないか、とかな」
予想外の内容に、衝撃が強すぎて受け止められない
「なんで…?」
なぜ、僕の事なんか気にするの?
会いに行ったのも、僕の我儘だ
散々、迷惑をかけてるのは僕の方なのに
シリルを責める理由がわからない
「なぜ、か…
そう言うカミュこそ
なぜ、ディーを心配したんだ?」
「えっと、動かないから?」
「それだけか?」
そう聞かれて、なぜ?と自分に問うが
それ以上の理由は思い浮かばない
「そうだけど…」
「ならば、客人がカミュを心配しても
不思議ではないだろう?」
あぁ、それだけ僕の顔色が悪かったのか
と、納得する
だけど、気にかけてくれたと知って
じわじわと心が温まる
そして、それが感情になる前にブレーキをかけた
期待してはいけない、と
「・・それで、どうする?」
「? 何を?」
「客人はずいぶんカミュを心配しているが?
熱が下がったのなら、元気な姿を見せれば
安心するんじゃないか?」
シリルの言葉に、会いに行ってもいいのかと
心が揺れる
その一方で、嫌な予感も膨れ上がった
「最初から僕を連れて行く気だった…?」
「バレたか」
全く悪びれる様子がないことに
怒りを通り越して脱力してしまう
「最初から言ってくれればいいのに…」
あれだけ、自分に言い聞かせていたのは
なんだったのか
完全に空回りだったのかと虚しくなる
「それではダメだと思ったんだ」
何がダメなのか、首を傾げる
「カミュが会いたいと思う気持ちがなければ
それが客人に伝わるだろうとな」
それは、つまり…
僕が会いたいと思う事は
シリルにとって都合がいい事だった
なのに、僕はそれを一生懸命隠していた…
頭を抱えてしまう
ほんと、バカみたいだ
苛立ちか怒りか、腹の底にドロリとした
何かが沈殿する
だけど、気づいちゃいけない
それはあってはいけない物だから
今はただ、この話を終わらせよう
「僕が行っても、たいして役に立たないよ」
「ただ、客人にカミュの元気な姿を見せたいだけだ
私は幼な子を虐待する危険人物だと
思われているからな」
「えっ、何で?」
「サラが洞窟の湖に沈んでいたからだ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
青天の霹靂ってこれじゃない?
浦 かすみ
恋愛
贅沢三昧でとんでもない王妃だった私、国王陛下の(旦那)から三行半を突き付けられた!
その言葉で私は過去を思い出した。
第二王妃からざまぁを受ける羽目になった私だが、おや待てよ?
それって第一王妃の仕事もうやらなくていいの?
自分磨きに独り立ちの為に有効使わせてもらいましょう!
★不定期更新です
中盤以降恋愛方面の話を入れていく予定です。
誤字脱字等、お見苦しくてすみません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる