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第一章
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しおりを挟む「いいんだ
カミュが苦しんでいるのを、知っている
少しでも、和らげてやりたいと思ったんだが
余計に苦しめてしまったな…」
あふれそうになる涙を堪えているせいで
首を振るしかできない
違う
そんなつもりじゃなかった…
ただ、守り石を断りたかっただけなのに
酷い事を言ってしまった
また、うまくできなかった…
ズシンと心が沈む
僕のせいで、部屋は重苦しい空気に
包まれてしまった
「ハル、名誉挽回の好機です」
「む?」
「カミュ様に身に着けたいと思って頂ける様な
守り石を作りましょう」
「っ応!」
三人の目が点になる
いらないって言ってるのに、何考えてるの⁉︎
誰も何も言わないからか、さっそくハルが
トレイごと引きよせた
そして、この空気を物ともせず
嬉々として石を選んでいく
「ハル、今のカミュ様に必要な石を
選ぶのですよ」
「むぅ」
赤や黄色の原色ばかり選ぶハルに
ディーがやんわりと口を挟む
もう、何をどう突っ込めばいいのかわからない
シリルもロウも、興味深々に眺めているだけで
止める気配はない
だからといって、自分で止める勇気は
もうないし…
一人もんもんと考え込んでいたら
ハルと目が合った
目をすがめて僕を見るから、心臓がバクバクと
音を立て始める
また、何か言われるのかと緊張していたら
今度は目を瞑った
視線がそれて、ほっと体の力が抜けたけど
年下のハルの動きに動揺する自分が
なんだか情けなくて落ち込む
そんな僕とは対照的に、ハルは真剣な表情で
石を選び続けていた
僕なんかのために、どうして動けるんだろう
ハルに良いことなんて何もないのに
ぼんやりと考えていたらロウがシリルの側に行き
耳打ちする
一つ頷くと開けたままの扉に向かって声をかけた
「マーシュ、いるか?」
「はい」
「ロウを手伝ってくれ」
「かしこまりました」
なんだろう…
どこへ行くのかな?
さっきの言葉のせいで、呆れられてしまった
のだろうかと、不安に思いながらロウを見送る
「紡ぐ紐が必要になるかもと言われただけだ」
シリルの言葉に、また戻ってくるとわかって
安心する
けど、守り石を作る事が決定になってるのが
気になった
「あの、僕、本当に今ので十分だよ?」
「ディーの言ったように、見てから決めれば
いいだろう」
そう言われたら、何も返せなくて黙り込む
「難しく考えなくていい
気に入らない物を無理に身につける必要は
ないのだから」
そう、なのかな…
正解がわからないから、成り行きを
見守る事しかできない
「あぁ…」
突然こぼれたハルの声に、僕達の注目が集まる
それまでは、石を手に取っては戻していたのに
ひょいひょいと選んでいく
淡い色のブルーを中心に、深い森を思わせる
グリーンや透明な石が選ばれていった
つい、目を奪われる
ぐらぐらと揺れる心を悟られないように
冷静な顔をする
「糸欲しい」
「糸?
紐ではないのか?」
「糸編む」
糸って、あの細い糸だよね?
僕達の頭には疑問符が浮かんでしまう
「お待たせいたしました」
「ロウ、ハルが糸が欲しいと言っているが…」
「はい、用意しております」
ロウが持ってきた箱を、ハルの前に置いた
「おぉ」
ハルが嬉しそうに手を伸ばして
今度は、迷わずに選んでいく
緑色と茶色、濃淡の違う糸を何本も手に取った
いつも側にいる二人を思わせる色に
頬が緩みそうになる
くっ、喜んでなんか、ない
欲しくない、欲しくない…
必死で自分に言い聞かせる
そんな事を考えている間にも、ハルは糸の端を
何本もまとめて玉結びする
端っこを持ったディーが隣のイスに座ると
ハルが糸を編み始めた
ハルの指の動きに合わせて
ポンポンと弾む糸玉達に目をみはる
「ハルっ、待って!」
ロウの焦った声に、二人は顔を上げた
「ハルは、その…
力を使ってるの?」
ロウの質問に、ハルの顔が強ばった
何か、ダメだったのかな…?
「糸が絡まない様、風の力を使いましたが
いけませんでしたか?」
固まっているハルの代わりに、ディーが答えた
ポンポン跳ねてたのは、風の魔法だったんだ
「無闇に使うなと言ったはずだ」
納得した僕とは違い、シリルは溜め息を吐いた
見てて面白かったけどなぁ
「カミュに悪影響はないのか?」
「風を動かしただけですので、無いと思いますが
カミュ様、気分が悪くなったりして
いませんか?」
「へっ?
ないよ?」
こちらに話が振られると思わなかったから
びっくりしてしまう
「ならばいい
続けなさい」
だけと、ハルの表情は晴れない
「カミュ殿、不快…か?」
伺うように聞かれるけど、ハルが不安に思う
理由がわからず、首を傾げる
「全然不愉快じゃないよ?
見てて面白かったし」
「そうかっ」
嬉しそうに笑うと、ハルはまた
張り切って手を動かし始めた
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