ミコのお役目

水木 森山

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第一章

お手紙

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「書けたか?」

「うーん」

こんなんで、いいんだろうか?

自信がなくて、唸ってしまう…

しばらく眺めたけど、これ以上何も
思いつかず諦めた

「これでお願い」

「あぁ、預かろう」

立ち上がったシリルは、部屋を出て
すぐに戻ってきた

「マーシュが届けに行った」

マーシュが届けたの?
まぁ、いいか…

マーシュに読まれるのはなんか複雑だけど
手紙が二人の元へ送られたと聞いた方が
ソワソワと落ち着かない気持ちにさせた

今すぐ手紙を取り戻して、ビリビリに
破り捨てたい…

手紙を受け取った二人がどんな反応をするのかが
怖くて、すでに後悔していた

どうして、こんなに弱いんだろう…

シリルの様に、泰然としていたいのに
僕にはそれが、ひどく難しい

うまくできない自分に、また落ち込んでしまう

そんな僕の額に手が当てられた

「熱は下がった様だが、起きていて大丈夫か?」

「うん、平気」

「せっかくの機会だ
 ロウにも手紙を書くか?」

「えっ⁉︎」

すでに後悔しているというのに、もう一通と
言われて顔が引きつる

「そんなに驚く事か?」

「いつも一緒にいるから、その発想が
 なかったというか…」

書きたくないというか、もう書く気力がないから
何とか言い訳を捻り出す

「まぁ、無理にとは言わないが」

書かなくてすみそうで、ほっと胸を撫でおろす

「私に書いてもいいんだぞ」

「・・添削されて返ってきそうだからいい」

「違いない」

ふっ、と笑われた

絶対、揶揄われてるよね…

コンコンコン

「シリル様、少しよろしいでしょうか?」

「今行く」

マーシュに呼ばれて、シリルは席を立った

何かあったのかな?

マーシュが戻って来たって事は
手紙があの二人に届いたって事で…

やっぱり落ち着かない

頭から布団をかぶるけど、ドキドキは治らなくて
はぁーっと、大きなため息が漏れた

直接会えたら、こんな事にならなかったのに…

すぐ熱を出すこの体が恨めしい

でも、今の体質でなかったらどうなっていたのか
想像もつかない

きっと、ロウと出会う事はなかったんだろうな

シリルとも、ここまで関われていたのかも
わからない

そう考えると、この体質のおかげともいえて
なんだか複雑な気持ちになる

暑くなってきて布団から顔を出すと
シリルもちょうど部屋に戻ってきた

「返事が来たぞ」

「へ?」

差し出された封筒に、目が点になる

「返事、来たんだ」

「読まないのか?」

「よ、読むっ」

手を引っ込められる前に、慌てて受け取る

封筒から出した手紙には、手本の様な
綺麗な字が並んでいた

『 カミュ様へ

 お手紙、ありがとうございます
 腕輪を気に入って頂けて、私共も
 嬉しく思います

 何より、頂いたお手紙のお陰で
 ハルが字を習いたいと言い出し
 今、一生懸命練習しております

 ハルからの返事が届くまで
 もう暫くお待ちください

 お熱が下がったと伺いましたが
 どうぞ、御自愛下さい
 
 ディーより』

想像以上に、丁寧な内容で敗北感に襲われる

「ディーって、こんなに綺麗な字を
 書けるんだね…」

「問いただす事が増えたな」

シリルの言葉に、二人が不法侵入者だと思い出す

いずれ別れの時がくるのに、それを忘れるくらい
二人と関わる時間が楽しくて、離れ難くなって
いる自分に、危機感を感じた

「まずはロウに確認するが、期待はできない
 だろうな」

「そういえば、ロウは?」

「明日からにした
 昨日も遅かったからな」

僕のせいだとしょんぼりしていると
シリルに頭を撫でられた

「そんな顔をしてると、ロウが余計に
 休まなくなるぞ」

この顔にダメ出しをされてしまった

顔に出したら余計に心配かけるとわかっている
のにうまくできない

「昨夜はカミュの容体も安定していたから
 休めと言ったんだが、まだ大丈夫だからと
 なかなか動かなかったんだ
 だから…」

「だから?」

言葉をきった後が気になって、先を促す

「居てもいいが、もし倒れたら
 しばらく入室禁止だと言ったら
 渋々立ち上がった
 さすがに己の限界を感じていたらしい」

それだけロウは心配してくれたんだろうけど
僕は何も返せないのに…

「ロウはカミュの世話をするのが
 生き甲斐なんだろうな」

僕の思考が止まる

「誰にも譲りたくないらしい」

やめて

気づきたくない

「カミュ、何を恐れている?」

聞かないで
踏み込んでこないで
僕の側にいたら、きっと…

「私達を殺してしまうと思っているのか?」

図星を指され心臓がドクリと跳ねた

どうして、急に、そんな事を…

「寝ている時、うなされていた
 いつからだ?」

いつからなんてわからなくて、呆然と首を振る

気づいたら、あの夢を見るようになっていた

知られたくなかった

知られたらきっと、嫌われる

殺されるとわかっていて、近づく人間はいない

ギシッと音がして、暗く沈んだ思考が
引き戻された

ベッドに腰掛けたシリルの腕が、僕の頭を
抱きよせる

「気づいてやれず、すまなかった」

別の意味で思考が停止した

いま、なんていったの…?

固まった僕を宥めるように、シリルは頭を撫でる

シリルに謝られる意味も、頭を撫でられる
意味もわからなくて混乱する

なんで?

嫌われるんじゃないの…?

「どんな夢を見ていたんだ?」

まさか、夢の内容を聞かれると思って
なかったから、体を強張らせる

ずっと、目を背けていた気持ちを言葉に
するのは怖い

言葉にした瞬間、現実に起こるのではと
不安が勝った

「辛いなら、無理に話さなくていい」

その言葉に、ほっと力が抜けた












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