Non Piangere

針野えんじゅ

文字の大きさ
11 / 41
第三章 出会い

りんごのタルト

しおりを挟む
 「どうぞ、召し上がってください」
 ハナはりんごが沢山乗ったタルトと紅茶をナナの目の前に置いた。お礼、と言っていたが、そんなもの、お互い様なのだからお詫びされることでもない。しかし、目の前に置かれたりんごのタルトはとても美味しそうで、ナナ食前の挨拶もそこそこにタルトを口へ運んだ。
 「おいしい!」
 「ほんと?よかった」
 さすがは果物屋。りんごは甘く、少し酸味もあって、ナナはぺろりと平らげてしまった。
 「ありがとう、とっても美味しかったよ。ハナが作ったの?」
 「はい!お口にあったようで良かったです」
 ハナは、褒められたことが嬉しかったのか、少し照れくさそうに笑った。可愛い子だなあと感じながら紅茶を口に含むと店の方から声が聞こえた。
 「すみませーん!」
 「あれ?お父さんいないのかな‥‥はーい!ごめんなさい、少し待っててください」
 そう言い残して、ハナは客人の方へ向かった。聞こえてきた声が聞き覚えのあるような気がして、ナナは悪いこと、と思いながらも、こっそりと店の様子を伺うことにした。
 そっと店の方を覗きみると、ハナは何やら男性と話しているようだった。
 「これを君に渡したくて。受け取ってくれる?」
 「かわいい…でも、いいの?私なんかにこんな…」
 どうやら、なにか受け取ったようだ。相手は誰なのか、のぞき込んでいる場所からは死角になり、見えない。
 「君だからだよ。ああ、もう時間だ、行かなきゃ」
 「そう…」
 「…そんな悲しそうな顔しないで。またすぐにくるよ。じゃあ、またね、愛してる」
 そんなセリフを残して、ドアの開閉音が聞こえた。ハナが戻ってくる。
 「彼氏?」
 盗み聞いたことを悪びれる事もなく聞くと、ハナは顔を赤らめた。その首元にはさっきは無かったネックレスが光る。
 「可愛いプレゼントじゃん」
 「ふふ、ありがとうございます」
 とても幸せそうな彼女の表情につられ、顔が緩む。
 しかし、さっきの男の声…。どこかで聞き覚えがある。この街の人間だろうか。そんなことを考えながら、残っていた紅茶を飲み干した。
 「ありがとう、美味しかった」
 「そんな、お礼なんて!でも、こんな言い方駄目なのかも知れないですけど、ぶつかったのがナナさんで良かった。今日はとても楽しかったです」
 ふわりと笑うハナにつられ、笑う。そして、別れを告げ、帰路についた。流石にハチも帰ってる頃だろう。はぐれた妹のことを思い出しながら歩く。
 「あ、兄さん」
 ハチのことを考えて歩いていたせいか、ハチの声が聞こえた気がして、少し笑ってしまった。シスコンって訳じゃないはずなんだけどなあ。そう自嘲しながら歩みを進めようとすると
 「ちょっと、兄さん!」
 さらにハチの声が聞こえた。振り向くとそこにはハチの姿があった。
 「ああ、ハチ!買い物終わった?」
 「ああ、ハチ!じゃない!いつも突然いなくならないでって言ってるでしょう!?」
 「あはは、ごめんて」
 そんなやり取りをしていると、隣から笑い声が聞こえた。ハチの姿を見つけ、それしか気にしていなかったが、どうやら隣に人がいたようだ。
 「いつも、本当に仲がいいね」
 「あれ、坊ちゃ……ミヤさんじゃないですか」
 本人に坊ちゃんというと怒られるので言いかけた言葉を飲み込んで言い直す。それを知ってか知らずか笑う、ミヤの両手には重そうな荷物がいくつも。よく見ると、中身は薬の材料のようだ。
 「こんな重そうな荷物を持ってるハチさんが見えてね。いてもたってもいられなくて」
 持たせてもらってるんだ、と両手の荷物を持ち上げる。それは荷物を持たずにどこかへフラフラといなくなってしまった兄への嫌味ではなく、本心から心配しているような言葉だった。
 「ああ、すいません。うちの妹がご迷惑を…あ、荷物貰います」
 謝罪をして荷物を引き取るとミヤは何故かありがとうなんてお礼を言う。本当に、お人好しというか、なんというか。
 しかし、ミヤは身分の高い貴族だったはず。それが何故こんなところに。と、ひとつの疑問が浮かんだが、まあ、そういう事もあるんだろうと、特に何かを聞くこともなくその疑問は忘れ去ってしまった。
 「ああ、そうだ。君たちはリンゴは好き?」
 そう聞きながら、ミヤが唯一持っていた自分の荷物の中からリンゴを二つ、取り出した。
 「さっき、知り合いからリンゴを沢山もらってね、私一人じゃ食べきれないし、貰ってくれないかい?」
 リンゴ、と聞いて、さきほど食べたハナのリンゴタルトを思い出して思わず涎が出かける。有り難くリンゴを受け取り、ミヤと別れるとハチが口を開いた。
 「美味しそうなリンゴだね。帰ったら剥いて食べようか」
 「ん~、なあ、ハチ」
 「ん?」
 「リンゴでタルトとか作れないの?」
「は?タルト?」
 なぜ突然タルトが出てきたのか、不思議そうに目をパチクリさせる妹が可愛くて
 「やっぱなんでもない、早く帰ろう」
 なんて可愛い妹が剥いてくれるリンゴを楽しみにしながら帰宅することにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...