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第七章 散りゆく
救済
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日も落ちて、空に星がキラキラと瞬き出した頃、ハチは果物屋にたどり着いた。
「ありがと!気をつけてな」
店先にはジェトーが客を見送る姿があった。ジェトーがハチの姿を見つけると、手を振って笑った。
「よお、どうしたんだ、薬屋の嬢ちゃん?そんな慌てて」
「ハナさんは!!」
「は?」
あまりのハチの勢いに圧され、ジェトーは1歩後退る。それにも構わず、ハチはまた問う。
「ハナさんはどこに」
「私に用かしら?」
店の奥から、顔を出したのは青い髪の美しい少女。
「ハナさん!」
「ハチさん?」
ハナは状況を読めないようで金色の瞳をパチパチと瞬かせていた。
「ハナさん、話が…!」
「ま、待って、ハチさん。落ち着いて、ね?」
ハチはハナに宥められながら、奥の部屋に通された。一度心を落ち着かせて、ハナに話し始めた。リウに毒薬を作るよう命じられたこと。恐らく、明日、ハナを毒殺しようとしていること。全てを話し、最後に、
「逃げて」
ハナはハチの友人であった。そんな友人を助けたい。そんな心からの願い。
唐突に自分が殺されるなどと話されても、直ぐには理解出来ないだろう。けれど時間が無い。とにかく、ハナをここから少しでも遠いところへ連れていかなければ。そんな考えがハチの頭の中をグルグルと回る。
「そう…でも、お店を置いていくわけには行かないわ…それに、お父さんのこともあるし…」
ハナの父、ジェトーは昨日、床に転がっていたオレンジに気付かず、それを踏み、転んでしまったそうだ。その際、腰を売ってしまい、あまり動き回ることが出来ないのだそう。その為、明日の城への搬入を娘であるハナが行うらしい。
自分が明日殺されるかもしれないというのに、気味の悪いくらい落ち着いているのは、現実を受け入れきれていないからなのか。ハナは自分を毒殺しようとしている人の元へ向かおうとしている。
「自分が殺されるかもしれないんだよ!?なのに…」
「ハチさん、心配しすぎだよ。それに、何もリウ様と二人だけになるわけじゃないのよ?」
「でも…っ」
伝わっていないのかと思うほど、平然としているハナに、ハチは段々と苛立ちを募らせていく。不安と怒りから涙が溢れる。
「ハナさんのバカ!」
「ハチさん…」
ハチの言葉に、一瞬悲しそうな表情を見せたハナだったが、でもね、と言葉を繋げた。
「この店は、父さんと母さんの大事なお店なの。母さんが死んで、それでも父さんが頑張って、ようやく城から注文してもらえるようにまでなったの。もし、私が明日行かなければ、この店は、城からの注文を断った店としてレッテルを貼られることになる」
ハナは真剣な目でハチを見ると言った。
「この店は私にとっても何より大切なの。だから、ごめんね、そのお願いは、聞けない」
眉を八の字にして泣きそうな顔で笑うハナにハチはそれ以上かける言葉が見つからなかった。目の前の友人は生きているのに、自分には彼女が死ぬ運命を止められたかもしれないのに、それが叶わないことが悔しく、唇を噛み締めた。
「わかった、ハナさんがそこまで言うなら、もう止めない。けど、一つだけ約束して。城で出た食べ物とか飲み物とか、何も口にしないで」
渡した毒薬はお湯に溶かさななければ、効能が出ないよう、特殊な膜で覆った錠剤にした。お湯のことはリウには告げていないが、錠剤にしてあることでナイフなどに塗るなどということは、手間がかかる分しないはず。だとすれば、飲み物か食べ物かに紛れ込ませるのが手っ取り早い。
つまり、なにも口にしなければ毒から身を守れる可能性が高いのだ。
「うん、わかった。約束する」
ハナは頷き、ハチの手を取った。
「一応、明日の朝、万が一のために解毒剤を持ってくる。だから、」
「ありがとう、ハチさん」
話がひと段落し、そろそろ帰ろうかとハチが立ち上がる。それを見たハナが言った。
「ねえ、ハチさん、どうしてわざわざ教えてくれたの?」
情報を漏らしたことが知れれば、ただでは済まないのに、そう言った意味も含んだその質問に、ハチは
「当たり前でしょう?大切な友人だもん」
そう笑って返した。
「それじゃ、また明日の朝に来るね」
「うん…わかった」
その言葉を聞くと、ハチはくるりとハナに背を向けて、帰り道を歩き始めた。その時、
「さようなら」
そう聞こえた気がして振り返ると、ハナは店に引っ込んでしまい、そこには誰もいなかった。気のせいかと、ハチは解毒剤を作るため、急いで家へと帰っていった。
「ありがと!気をつけてな」
店先にはジェトーが客を見送る姿があった。ジェトーがハチの姿を見つけると、手を振って笑った。
「よお、どうしたんだ、薬屋の嬢ちゃん?そんな慌てて」
「ハナさんは!!」
「は?」
あまりのハチの勢いに圧され、ジェトーは1歩後退る。それにも構わず、ハチはまた問う。
「ハナさんはどこに」
「私に用かしら?」
店の奥から、顔を出したのは青い髪の美しい少女。
「ハナさん!」
「ハチさん?」
ハナは状況を読めないようで金色の瞳をパチパチと瞬かせていた。
「ハナさん、話が…!」
「ま、待って、ハチさん。落ち着いて、ね?」
ハチはハナに宥められながら、奥の部屋に通された。一度心を落ち着かせて、ハナに話し始めた。リウに毒薬を作るよう命じられたこと。恐らく、明日、ハナを毒殺しようとしていること。全てを話し、最後に、
「逃げて」
ハナはハチの友人であった。そんな友人を助けたい。そんな心からの願い。
唐突に自分が殺されるなどと話されても、直ぐには理解出来ないだろう。けれど時間が無い。とにかく、ハナをここから少しでも遠いところへ連れていかなければ。そんな考えがハチの頭の中をグルグルと回る。
「そう…でも、お店を置いていくわけには行かないわ…それに、お父さんのこともあるし…」
ハナの父、ジェトーは昨日、床に転がっていたオレンジに気付かず、それを踏み、転んでしまったそうだ。その際、腰を売ってしまい、あまり動き回ることが出来ないのだそう。その為、明日の城への搬入を娘であるハナが行うらしい。
自分が明日殺されるかもしれないというのに、気味の悪いくらい落ち着いているのは、現実を受け入れきれていないからなのか。ハナは自分を毒殺しようとしている人の元へ向かおうとしている。
「自分が殺されるかもしれないんだよ!?なのに…」
「ハチさん、心配しすぎだよ。それに、何もリウ様と二人だけになるわけじゃないのよ?」
「でも…っ」
伝わっていないのかと思うほど、平然としているハナに、ハチは段々と苛立ちを募らせていく。不安と怒りから涙が溢れる。
「ハナさんのバカ!」
「ハチさん…」
ハチの言葉に、一瞬悲しそうな表情を見せたハナだったが、でもね、と言葉を繋げた。
「この店は、父さんと母さんの大事なお店なの。母さんが死んで、それでも父さんが頑張って、ようやく城から注文してもらえるようにまでなったの。もし、私が明日行かなければ、この店は、城からの注文を断った店としてレッテルを貼られることになる」
ハナは真剣な目でハチを見ると言った。
「この店は私にとっても何より大切なの。だから、ごめんね、そのお願いは、聞けない」
眉を八の字にして泣きそうな顔で笑うハナにハチはそれ以上かける言葉が見つからなかった。目の前の友人は生きているのに、自分には彼女が死ぬ運命を止められたかもしれないのに、それが叶わないことが悔しく、唇を噛み締めた。
「わかった、ハナさんがそこまで言うなら、もう止めない。けど、一つだけ約束して。城で出た食べ物とか飲み物とか、何も口にしないで」
渡した毒薬はお湯に溶かさななければ、効能が出ないよう、特殊な膜で覆った錠剤にした。お湯のことはリウには告げていないが、錠剤にしてあることでナイフなどに塗るなどということは、手間がかかる分しないはず。だとすれば、飲み物か食べ物かに紛れ込ませるのが手っ取り早い。
つまり、なにも口にしなければ毒から身を守れる可能性が高いのだ。
「うん、わかった。約束する」
ハナは頷き、ハチの手を取った。
「一応、明日の朝、万が一のために解毒剤を持ってくる。だから、」
「ありがとう、ハチさん」
話がひと段落し、そろそろ帰ろうかとハチが立ち上がる。それを見たハナが言った。
「ねえ、ハチさん、どうしてわざわざ教えてくれたの?」
情報を漏らしたことが知れれば、ただでは済まないのに、そう言った意味も含んだその質問に、ハチは
「当たり前でしょう?大切な友人だもん」
そう笑って返した。
「それじゃ、また明日の朝に来るね」
「うん…わかった」
その言葉を聞くと、ハチはくるりとハナに背を向けて、帰り道を歩き始めた。その時、
「さようなら」
そう聞こえた気がして振り返ると、ハナは店に引っ込んでしまい、そこには誰もいなかった。気のせいかと、ハチは解毒剤を作るため、急いで家へと帰っていった。
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