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これはとある国に伝わるおとぎ話。信じる者もいれば、嘘っぱちだ作り話だと笑う者もいる。そんな不確かな伝承です。
今は立派なこの国が、小さな小さな村だった頃。その異変は訪れました。
小さな村の二軒の家。一軒はこの村で一番大きく、1人の男の住む家。もう一軒は川の下流にあり、老夫婦が住む家。そんな二軒の家の前に一輪ずつの花が咲きました。
この村の土は植物が育ちにくく、野菜はもちろん、雑草すら生えないような土地でしたので、村の人々は驚きました。
「すごいわ!本物の花よ!」
「さすが×××さん、こんな土地でも花を咲かせる方法をお考えになったのね!」
村の人々は大きな家に咲いた花を見て、そこに住んでいた男を褒めました。しかし、川の下流にある家にも花が咲いていたのを見ると、人々の表情は曇り、そして口々に言いました。
「さすが×××さん、恥ずかしくないのかしら。人の家のものを盗るだなんて」
人々はまるで、下流の家の夫婦が、花を盗ったかのように話します。自分の家の前に花が咲いたことに喜んでいた老夫婦でしたが、その人々の心無い一言に涙しました。大きな家に比べれば、本当に粗末な家に住む老夫婦でしたが、心の優しい老夫婦はいくら盗んでなどいないと伝えても信じてもらえないことに心を痛めておりました。
大きな家の男は老夫婦に言いました。
「うちには確かに二輪、花が咲いていたんだ、それが今は一輪だけ…お前達がとったに違いない」
男は珍しい花を全て自分のものにしようと、嘘をつきました。人々はその嘘を信じ、さらに老夫婦のことを悪く言い始めたのです。
「さっさと花を返せよ、盗人め」
「こんな粗末な家に住んでいるくせに」
「子どもにも恵まれなかったくせに」
花とは関係の無いことまで罵倒され、老夫婦は心身共に疲れてしまい、とうとう、自分たちが盗みましたと花を男に渡してしまいました。
男の大きな家の庭先には二輪の花が並んで咲くよう植えられました。
花を渡して以来、老夫婦のもとに訪ねてくる者はなく、2人は静かに暮らし、傷つけられた心を癒しておりました。
花はいつまで経っても枯れる気配はなく、10ヶ月が過ぎました。
ある夜、男は夢を見ました。それはそれは美しい女神様が夢に現れたのです。
「あなたにこの子を授けましょう」
そう言って、女神様は男に赤ちゃんを差し出しました。とても元気な青色の髪の男の子です。
しかし男は言います。
「俺に赤ん坊などいらない。手に入るのならば、お前が欲しい」
そして女神に手を伸ばしました。すると女神は怒り、子どもを置いて姿を消してしまいました。
その夜、老夫婦も同じような夢を見ました。美しい女神様が老夫婦に言います。
「あなたたちにこの子を授けましょう」
そう言って、女神様は老夫婦に赤ちゃんを差し出しました。静かに眠る金色の髪の女の子です。
老夫婦は涙を流しながら、女神様に言いました。
「ありがとうございます、女神様。この子を大切に育てます」
老夫婦は子どもに恵まれなかったので、それはそれは喜びました。女神様はそんな老夫婦の姿を見ると、ニコリと笑って姿を消していきました。
いつしか夢の時間は終わり、男と老夫婦は赤ちゃんの泣き声で飛び起きました。ああ、あれは夢ではなかったのです。目の前の赤ちゃんたちはあまりにも暖かく、夢だと思うにははっきりとしすぎた質量を持って、ここにいるぞ、ここは夢じゃないぞ!と言わんばかりに泣きました。
男は男の子を乱暴に掴むと、泣き叫ぶ声も無視して老夫婦の元に駆けつけました。
「おい、お前たちは子供がいなかっただろう!こいつをくれてやる!」
突然のことに老夫婦は驚きます。
「しかし、うちにも今日女の子が…」
「ええい、そんなもの、知ったものか!」
子供の育てかたなど分からず、ただ面倒だと考えた男は老夫婦に男の子を押し付けて帰っていきました。
決して裕福でない老夫婦は2人の赤ちゃんを目の前にしてどうしたものかと考えていました。すると、それからというもの、不思議なことに、毎朝家の前に食べ物が置かれるようになったのです。きっとこれも女神様のご配慮だと、老夫婦は2人を育てていこうと約束しました。
男の子はヴィル、女の子はライアと名付けられ、老夫婦の優しさを沢山もらって育ちました。そしてとうとうふたりは15の誕生日を迎えました。
今は立派なこの国が、小さな小さな村だった頃。その異変は訪れました。
小さな村の二軒の家。一軒はこの村で一番大きく、1人の男の住む家。もう一軒は川の下流にあり、老夫婦が住む家。そんな二軒の家の前に一輪ずつの花が咲きました。
この村の土は植物が育ちにくく、野菜はもちろん、雑草すら生えないような土地でしたので、村の人々は驚きました。
「すごいわ!本物の花よ!」
「さすが×××さん、こんな土地でも花を咲かせる方法をお考えになったのね!」
村の人々は大きな家に咲いた花を見て、そこに住んでいた男を褒めました。しかし、川の下流にある家にも花が咲いていたのを見ると、人々の表情は曇り、そして口々に言いました。
「さすが×××さん、恥ずかしくないのかしら。人の家のものを盗るだなんて」
人々はまるで、下流の家の夫婦が、花を盗ったかのように話します。自分の家の前に花が咲いたことに喜んでいた老夫婦でしたが、その人々の心無い一言に涙しました。大きな家に比べれば、本当に粗末な家に住む老夫婦でしたが、心の優しい老夫婦はいくら盗んでなどいないと伝えても信じてもらえないことに心を痛めておりました。
大きな家の男は老夫婦に言いました。
「うちには確かに二輪、花が咲いていたんだ、それが今は一輪だけ…お前達がとったに違いない」
男は珍しい花を全て自分のものにしようと、嘘をつきました。人々はその嘘を信じ、さらに老夫婦のことを悪く言い始めたのです。
「さっさと花を返せよ、盗人め」
「こんな粗末な家に住んでいるくせに」
「子どもにも恵まれなかったくせに」
花とは関係の無いことまで罵倒され、老夫婦は心身共に疲れてしまい、とうとう、自分たちが盗みましたと花を男に渡してしまいました。
男の大きな家の庭先には二輪の花が並んで咲くよう植えられました。
花を渡して以来、老夫婦のもとに訪ねてくる者はなく、2人は静かに暮らし、傷つけられた心を癒しておりました。
花はいつまで経っても枯れる気配はなく、10ヶ月が過ぎました。
ある夜、男は夢を見ました。それはそれは美しい女神様が夢に現れたのです。
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そう言って、女神様は男に赤ちゃんを差し出しました。とても元気な青色の髪の男の子です。
しかし男は言います。
「俺に赤ん坊などいらない。手に入るのならば、お前が欲しい」
そして女神に手を伸ばしました。すると女神は怒り、子どもを置いて姿を消してしまいました。
その夜、老夫婦も同じような夢を見ました。美しい女神様が老夫婦に言います。
「あなたたちにこの子を授けましょう」
そう言って、女神様は老夫婦に赤ちゃんを差し出しました。静かに眠る金色の髪の女の子です。
老夫婦は涙を流しながら、女神様に言いました。
「ありがとうございます、女神様。この子を大切に育てます」
老夫婦は子どもに恵まれなかったので、それはそれは喜びました。女神様はそんな老夫婦の姿を見ると、ニコリと笑って姿を消していきました。
いつしか夢の時間は終わり、男と老夫婦は赤ちゃんの泣き声で飛び起きました。ああ、あれは夢ではなかったのです。目の前の赤ちゃんたちはあまりにも暖かく、夢だと思うにははっきりとしすぎた質量を持って、ここにいるぞ、ここは夢じゃないぞ!と言わんばかりに泣きました。
男は男の子を乱暴に掴むと、泣き叫ぶ声も無視して老夫婦の元に駆けつけました。
「おい、お前たちは子供がいなかっただろう!こいつをくれてやる!」
突然のことに老夫婦は驚きます。
「しかし、うちにも今日女の子が…」
「ええい、そんなもの、知ったものか!」
子供の育てかたなど分からず、ただ面倒だと考えた男は老夫婦に男の子を押し付けて帰っていきました。
決して裕福でない老夫婦は2人の赤ちゃんを目の前にしてどうしたものかと考えていました。すると、それからというもの、不思議なことに、毎朝家の前に食べ物が置かれるようになったのです。きっとこれも女神様のご配慮だと、老夫婦は2人を育てていこうと約束しました。
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