2 / 2
攫われた小鳥
しおりを挟む
彼女はミレイユという国にある果物屋の一人娘として生を受けた。母の美しい青い髪を、父の輝く金色の瞳を受け継いで生まれた彼女、ハナは、瞬く間に、城下の人気者となった。
幼くして、ハナは歌の才能を開花させる。彼女が歌えばたちまち人が集まり、小鳥は共に歌を奏でた。それはまるで演劇のワンシーンのように。そんな様子を見た街の人々は彼女を「青いカナリア」と呼んだ。
しかし、ミレイユ城下には店が立ち並ぶ表通りから道を1本入り込めば、裏路地へと繋がり、そこはほぼ無法地帯。噂によれば、誰も顔を知らない殺人鬼がいるだとか、子どもたちが窃盗や売春行為を行い、それが当然だというような、そんな世界が広がっていた。
そして、その悲劇はハナが6歳の時に起こった。
綺麗な青い髪の、歌が上手な可愛い子。それは人攫いにとって、攫うには充分すぎる理由だった。
たまたま1人でいた所を、裏路地に引き込まれ、ハナは誘拐されてしまった。
「いやだ、助けて!」
そう叫ぶよりも早く、大人の男の手が、その小さな口を塞いだ。鼻まで覆われてしまい息が苦しい。助けて、助けて、助けて。心の中で何度叫んだことだろう。しかし、それは誰にも届くことは無く、ハナはどんどんと裏路地の奥へと運ばれた。
目的の場所に着いたのか、男たちはどさり、と乱暴にハナを地面に投げ捨てた。それと同時にハナの口も解放され、勢いよく肺に届く空気に噎せた。
「げほ、けほっ…ここは…」
きょろきょろと辺りを見渡すが、コンクリートとレンガの壁があるだけの細い路地。来る途中、何度も曲がってここに着いたため、酸欠で意識が朦朧としていたこともあり、正確な場所もわからない。
幼いハナの心を恐怖が侵食していく。声を、声を出して、助けを求めなきゃ。そう思っても喉が言うことを聞かない。声が出ない。カタカタと震える手をぎゅっと握り、なんとか涙をこらえる。
男たちはハナのすぐ側で何やら口論をしている様子だった。
「だめだ、指一本触れるなと言われてるだろう」
「はあ?そんなん、触るだけなら元に戻しゃ気づかねぇって」
「やめておけ、死にたいのか?」
何を言っているのか、ハナにはほとんど理解できなかったが、早く逃げ出さないとまずいことは理解出来た。
「誰か、助けて!!!!!!」
ハナは自分で思っていたよりも大きな声が出て驚いたが、今はそれどころじゃない。早く逃げなければ。
声に驚いたのはハナだけではなかったようで、男達もこちらを見た。
「おいおい、嬢ちゃん、可哀想になあ。そんな声出したって無駄だよ」
そういう男の背後でコツコツと、誰かが近寄ってくる音が聞こえた。助かる…そう安堵したのも束の間。それは絶望へと変わった。
「おー、まじでカナリアの嬢ちゃん捕まえたのかよ」
ハナを攫った男達よりも、一回り大きな男が下品な笑い声を上げながらこちらへ向かってきた。その大男を認識すると、攫った男たちは通路の両サイドに寄り、大男がハナを一直線上に捉えた。その眼はねっとりとハナの全身を舐めるように見ると、目の前にどかり、と胡座をかいた。
「おい、なにか歌って見せろよ」
大男はにたりと笑いハナの顎を乱暴に掴む。言うことを聞かないとまずいことになる。ハナはそう認識すると、なんとか声を出そうと試みる。しかし、思うように声が出ない。それでも震える声で必死に歌おうとした。
ヒュッ。何科が風を切る音が聞こえ、遅れて、パシンと乾いた音が聞こえた。左頬がじんじんと熱を持つ。頬を叩かれたのだと、理解するには少し時間がかかった。
幼くして、ハナは歌の才能を開花させる。彼女が歌えばたちまち人が集まり、小鳥は共に歌を奏でた。それはまるで演劇のワンシーンのように。そんな様子を見た街の人々は彼女を「青いカナリア」と呼んだ。
しかし、ミレイユ城下には店が立ち並ぶ表通りから道を1本入り込めば、裏路地へと繋がり、そこはほぼ無法地帯。噂によれば、誰も顔を知らない殺人鬼がいるだとか、子どもたちが窃盗や売春行為を行い、それが当然だというような、そんな世界が広がっていた。
そして、その悲劇はハナが6歳の時に起こった。
綺麗な青い髪の、歌が上手な可愛い子。それは人攫いにとって、攫うには充分すぎる理由だった。
たまたま1人でいた所を、裏路地に引き込まれ、ハナは誘拐されてしまった。
「いやだ、助けて!」
そう叫ぶよりも早く、大人の男の手が、その小さな口を塞いだ。鼻まで覆われてしまい息が苦しい。助けて、助けて、助けて。心の中で何度叫んだことだろう。しかし、それは誰にも届くことは無く、ハナはどんどんと裏路地の奥へと運ばれた。
目的の場所に着いたのか、男たちはどさり、と乱暴にハナを地面に投げ捨てた。それと同時にハナの口も解放され、勢いよく肺に届く空気に噎せた。
「げほ、けほっ…ここは…」
きょろきょろと辺りを見渡すが、コンクリートとレンガの壁があるだけの細い路地。来る途中、何度も曲がってここに着いたため、酸欠で意識が朦朧としていたこともあり、正確な場所もわからない。
幼いハナの心を恐怖が侵食していく。声を、声を出して、助けを求めなきゃ。そう思っても喉が言うことを聞かない。声が出ない。カタカタと震える手をぎゅっと握り、なんとか涙をこらえる。
男たちはハナのすぐ側で何やら口論をしている様子だった。
「だめだ、指一本触れるなと言われてるだろう」
「はあ?そんなん、触るだけなら元に戻しゃ気づかねぇって」
「やめておけ、死にたいのか?」
何を言っているのか、ハナにはほとんど理解できなかったが、早く逃げ出さないとまずいことは理解出来た。
「誰か、助けて!!!!!!」
ハナは自分で思っていたよりも大きな声が出て驚いたが、今はそれどころじゃない。早く逃げなければ。
声に驚いたのはハナだけではなかったようで、男達もこちらを見た。
「おいおい、嬢ちゃん、可哀想になあ。そんな声出したって無駄だよ」
そういう男の背後でコツコツと、誰かが近寄ってくる音が聞こえた。助かる…そう安堵したのも束の間。それは絶望へと変わった。
「おー、まじでカナリアの嬢ちゃん捕まえたのかよ」
ハナを攫った男達よりも、一回り大きな男が下品な笑い声を上げながらこちらへ向かってきた。その大男を認識すると、攫った男たちは通路の両サイドに寄り、大男がハナを一直線上に捉えた。その眼はねっとりとハナの全身を舐めるように見ると、目の前にどかり、と胡座をかいた。
「おい、なにか歌って見せろよ」
大男はにたりと笑いハナの顎を乱暴に掴む。言うことを聞かないとまずいことになる。ハナはそう認識すると、なんとか声を出そうと試みる。しかし、思うように声が出ない。それでも震える声で必死に歌おうとした。
ヒュッ。何科が風を切る音が聞こえ、遅れて、パシンと乾いた音が聞こえた。左頬がじんじんと熱を持つ。頬を叩かれたのだと、理解するには少し時間がかかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる