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第一章 ノア デ ステファーノ

ノア デ ステファーノ 1

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「お主よ、一体いつになったら出来るのじゃ?」

 背後からため息交じりのちるの声が聞こえる。 確かに少し時間をかけすぎているかも知れないが今が一番大事な所だ。
 俺はちるの言葉を適当に受け流し、今日買い物行った時に聞いたレシピを参考に続きの作業を行う事にした。

 数十分後、それは思ったよりもずっと簡単に出来上がった。
 初めて作ったからなかなか時間はかかったし、未だに完成したのかわからないが、味見の段階では俺はとても美味しいと思った。

 さっき適当に返事したからか、その後全く反応の無いちるを不思議に思いながらも、俺は料理を皿に装い急いでちるの待つテーブルへと運ぶ事にした。

「遅くなって悪かったな! 出来たぞー」

 遅くなったこともあり少し声を張って俺はちるに近ずいた。

「はっ!」

 ちるは体を少しビクつかせ俺の方へ振り返った。 ほっぺを片方だけ不自然に赤く染め、口の周りによだれが付いているのを見ると急に静かになった理由がすぐにわかった。

「寝てただろ?」

「なっ! 寝てなどおらん! ちゃんと待っておったわ!」

「……よだれ出てるぞ。 ほら」
 
 俺はちるの前に料理を置きポケットからハンカチを出してちるに渡した。
 ちるは急に申し訳無さそうに俯き素直に俺からハンカチを受け取り小さくありがとうと呟いた。
 別に寝てても気にしないのになんであんな焦って否定したのだろうか??
 俺が料理している間は寝ずに待とうと決めていたのだろうか??

 そんな事を考えていると少し嬉しい気もし聞いてみようかと思ったが、折角の料理が冷めてしまうので今日は辞める事にした。 
 ちるもお腹がすいているだろうしな。

「待たせて悪かったな。 ご飯にしようか?」 

 俺がそう言うとちるはすぐに顔をあげ嬉しそうに食事の準備を始め、それが終わると向かい合う様に椅子に腰掛け、手を合わせたのち俺達は同時に食事を始めた。

「おぉ!! 今日もお主の料理はとても美味しいのぅ!! それに今回の料理は我は初めて食べたぞ!!」

 俺の料理を一口食べたちるは大きな声で言った。

 ちるは毎回俺の料理を褒めてくれるが今日は初めてだったこともあり、少し不安だったけど、どうやら喜んでもらえたみたいで良かった。
 ちるに何かを褒めらるのは俺にとってもとても嬉しい。

「本当か?? 自信なかったが喜んでもらえたみたいで良かったよ!!」

「本当じゃ!! 我は嘘はつかないからのぅ!! 主のご飯はいつも本当に美味しいぞ!!
 今日のは何て名前の料理なのじゃ?? 
これは我の美味しい料理ランキングの中でも上位間違えなしじゃな!!」

「ちょっと待て、ランキングなんてあったのか?? 初耳だぞ??

「いや、無いぞ?? 言ってみただけじゃ!! 全部美味しいからのぅ」

「ないのかよ!! はぁー、まぁいいか、これはな肉じゃがって言う料理らしい。 今日街で聞いてきたんだ、ほら、ちるが最近見てるアニメ?? だったか?? それで有名なのもこの国らしい!! 確か名前は……あれなんだったかな?」

「日本じゃな!」

 ちるは身を乗り出し答えた。

「そうそう、確かそんな名前だったな。 さすがに詳しいな。 その国ではこの料理はお袋の味って言われて好まれていたらしい」 

「お袋?? これが日本の袋の味なのか?? すごい袋じゃなぁ!!」

「ん?? あぁ、お袋ってのは母親の事だよ」

「母親……?? そうかこれが母親の味と言うものなのか」

 そう言うとちるはそれ以上何も言うことも無く黙々と食べ始めた。
 
 自称神様だから何でも知っているのかと思えば、商店街のおじさんが知っている様な事を知らなかったりと、この一年一緒に過ごしてきたが、ちるはどちらと言うと知らない事の方が多いのでは無いかと感じる。
 一般教養や知識といったものは見た目通りそこら辺の少女並みなのかも知れないな。
 黙るちるに視線を向けながら、俺も一緒に食べ進めた。

 母親の味。 正直俺は思い出せない。いや、そもそも何か料理を作ってもらった記憶がないのだ、当然だろう。

 ただ、ちるはどうなのだろうか??
 俺と同じくちるにも母親と父親がいるのだろうか??

 ちると過ごす日々は楽しいが、俺にはまだ知らない事ばかりなのはとても悔しく寂しい事に思えた。
 
「ふぁー、お腹いっぱいなのじゃ!!
お主よ!!今日の料理は本当に美味しかったぞ!! 絶対また食べたいのじゃ!!」

 しばらくするとちるは満足そうにお腹を摩りながらそう言った。

「それにしてもお主は毎回美味しい料理を作ってくれるのぅ!! じゃが最近は同じ料理を見る事が多かったからそろそろ我達は世界の料理と言う物を食べ尽くしてしまったのかと心配していたのじゃ!! まさか最後にこんな美味しい物を持ってくるとは!! お主も演出家じゃのぅ!! 流石じゃ!!」

「ん?? 最後??」

「そうじゃ!! 今日でこの世界の全ての料理を制覇したと言う事だろう??」
 
 ちるは本気で言っているようだった。 こう言った発言を聞くとさっきまで疑ってなかったのに本当に神様なのかと再度考え直してしまう。

「ちる。 残念だけど世界中の料理を食べ尽くすなんて不可能だよ。 世界には途方も種類の料理が存在しているからね」

「な、なんじゃと!! なら我はまだ料理を制覇していないのだな?? まぁじゃが途方も無いって言っても不可能は言い過ぎじゃろ?? あんなに同じ料理をお主は作ってくれたではないか?? 流石に半分くらいは食べたのでは無いのか??」

「んー、俺も詳しくは知らないが半分どころかまだ1%も食べてないんじゃ無いか??」

「1%じゃと!! ほ、本当なのか??」
 
 目を見開いて俺を見つめるちるに、十分驚いちゃってんじゃねぇーかとツッコミを入れたくなったが、きっと認めはしないだろうなと思い、俺は素直に首を縦に振った。

「そ、それは凄いのぅ……よし!! ならば我は決めたぞ!!」

 そう言うとちるは椅子から立ち上がり、いつもの見慣れた体勢で宣言した。

「我はこの世の全ての料理を食べるのじゃ!! 我に不可能がない事を証明するためにものぅ!!」

 俺がさっき不可能って言ったのが引っ掛かっていたのだろう。 全く持って子供っぽい。
 でもちるは本気で自分に不可能が無いと本気で思っているのだろう、だからこんなに自信満々なのだと思う。

 ……俺には絶対無理だが、ちるには出来るかも知れない。 そう思ってしまう事がちるを神様と認めている理由の一つなのかもな。

「まだ少し食べれるか?」
 
俺は椅子から立ち上がりながらちるに尋ぬた。

「んー、厳しいかもしれないのぅ。 まだ何かあるのか?? 折角で悪いがまた明日ではダメかのぅ??」
 
 ちるは申し訳無さそうに俺を見上げ答える。

「いや、まぁ明日でもいいんだ。 ただちるから頼まれてたものがあるだろ?? えーと名前は」

「ど、どら焼きか!」

 ちるは一際大きな声で俺の言葉を遮って言った。
 
「あぁ、まぁ明日でも全然大丈夫だと思うけどどうする??」

急な大声に思わず声を裏返してしまった。 恥ずかしい。

「た、食べる!! 食べるのじゃ!! 絶対今食べるのじゃ!!」

 「わ、わかったよ。 今持ってくるよ」

 いつもなら大声で笑う俺の恥ずかしい失敗を全く気にする事なく矢継ぎ早に答えるちるに、俺は若干圧倒されながらも買ってきたどら焼きを取りに台所へ向かった。

 よっぽど楽しみにしていたのかちるは俺の後ろから満面の笑みでついてきていた。 
 そのはしゃぎようは完全に見た目相応の少女、いや見た不相応かも知れない。
 少女を通り越して幼女の様だ。
 
 俺は冷蔵庫からどら焼きの箱を取り出し後ろで目を輝かしてるちるに渡した。 

「あ、開けても良いのかのぅ?」

「もちろん」

 箱を開けるちるはとても緊張しているように見える。 なんでこんな事で緊張しているのか俺にはわからないが、きっとちるの中では大事な事なのだろう。

「おぉー!! 凄いぞ!! これは凄いぞ!! あのアニメのまんまなのじゃ!! なぁなぁお主よ!  食べて良いかのぅ??」

「ん?? ああ、その為に買ってきたんだしな」

 興奮したまま箱からどら焼きを取り出し、ちるは大きく口を開け一口食べた。

「んー、美味しいのぅ!! これはハマる気持ちがわかるぞ!! とてつもなく美味しいぞ!! ほれ!! 主も食べるのじゃ!!」

 そう言ってちるは食べかけのどら焼きを俺に渡す。
 なんで食べかけの方なのかとも思ったが、俺は有り難くちるの手からどら焼きを受け取った。

「もらっていいのか? じゃあ遠慮なく」
 
 ちるからどら焼きを受け取ったどら焼きを俺はそのまま口に運んだ。 

「確かに美味しいな」

「じゃろ?? めちゃくちゃ美味しいのじゃ!! これを考えた人間は天才じゃな!! そのどら焼きはお主がもう全部食べて良いぞ!! 我はもう一個の方を食べるからのぅ!」

 そう言ってちるは箱からもう一つどら焼きを取り出し、いつものソファーの方へ歩き出した。

 もしかして、最初の一口を大きく食べてそれを渡してきたのは少しでも多く食べようとしての事だったのか?? 
 箱を開けて中身が二つだと見た瞬間にそっちの方がいっぱい食べれると判断したのだろうか??
 ……流石ちるだ。 いや、これは流石って言うべき事なのだろうか??

 俺は冷蔵庫に目を向ける。 どら焼きは全部で十個ほど買ってきており、さっきのは箱に入りきらなかった物を分けて入れてもらったもので残りはまだ冷蔵庫の中にある。

 そのまま視線をちるの方へ向ける。
 ちるは既にソファーに座り美味しそうにどら焼きを頬張っていた。 

「はぁー、まぁ後で教えてやるか」

 俺は手に持っていた残りを口に入れ、ちるの元へと向かう。

 買いに行って良かったと改めて俺は思う。
 俺が見たかったちるの表情を見る事が出来たのだから。
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