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第二章 ベルリン ベル スロット
ベルリン ベルスロット 1
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「ベル様いい加減に諦めてくれませんか??」
目の前で大きな溜息を吐くユーノに
私は怒りを抑え切れずに大声をだす。
「はぁ?? 諦められるわけ無いでしょ!! 貴方自分が何をしようとしているかわかっているの??」
「勿論です。 私は本気ですから。
それにこの話は前回の戦いで決着はついたのでは?? この世界では勝った方に決定権がある。 それはベル様も承知のはずですが??」
「そ、それは……」
確かにユーノの言っている事は間違ってない。 私達は負けたのだ。
私が言い淀んでいるとユーノは哀れんでいる様な顔を私に向けた。
「もう宜しいですか?? 色々と準備に忙しいので。 ベル様、もう貴方に出来る事は何もありません。 それでも再び私達に戦いを挑むと言うなら次は容赦しません。 まぁそんな戦力もう貴方に残されていないでしょうがね。
失礼します」
そう言うとユーノは立ち上がり私に背を向けて歩き出した。
その後ろ姿を私は眺めることしか出来なかった、折角のチャンスに何も変えられ無かった事、そしてユーノの言葉に何も言い返せない自分に無性に腹がたつ。
だけどさっきのユーノの言葉は決して嘘じゃ無い。 前回の戦いで私達は負けた。 それにあの戦いで死者が出なかったのは、間違え無くユーノが手加減したからだ。
「次は容赦しない」
ユーノが去り際に放ったその言葉は私に恐怖を刻むには充分過ぎるものだ。
次戦ったら恐らく皆殺しさせられるだろう。 そん感じざるを得ない程あの時のユーノの表情は冷たかった。
それに例えその恐怖に打ち勝ったとしても私にはもう一緒に戦ってくれる人などいない。
私の味方をしてくれたみんなは既に動く事も出来ない程のダメージを負っているのだから……。
結局はユーノの言う通り私に出来る事はもう何も無いのだ。
私は立ち上がりユーノとは別の方向に歩く。
ユーノに会いにここまで来た道のりを引き返す為に。
それから二時間ほど歩き私は自分の家の前に着いた時、今回の事をシャルになんて言うべきかを考える為に扉の前で立ち止まった。
シャルはこの日を、あの会談を、最後の希望と言っていた。
家を立つ際、絶対にユーノの気持ちを、決意を覆して欲しいと私に懇願したのだ。
それなのに結果は失敗いや、大失敗だ。 もっと他に言い方があったのでは無いか、やれる事はあったんじゃ無いのか、そんな後悔が次々と生まれ私の足は、もうその場から動かす事は出来なくなっていた。
「ベル様??」
背後から聞こえた聞き覚えのある声に呼ばれ私はゆっくりと振り返る。
目の前には傘を差し不安そうに私を見るシャルが立っていた。
「シャ、シャル……あのね」
「ど、どうしたんですか!! 全身濡れているではありませんか!! もしかしてこの雨の中を歩いて帰ってきたのですか? と、とにかく話は後です!! 早く此方へ」
私の言葉を遮り、シャルは私を引き込む様に家の中に入れた。
「すぐに温まって下さい!! 早くしないと風邪を引いてしまいます!!」
シャルは慌てた顔で私にタオルを渡し、お風呂場へと引きずる。
私はその手を無理矢理引き離した。
今は何より先ずシャルに謝らなければいけないのだ。
今日の私の大失敗を。
「シャル聞いて、大事な話があるの」
「わかりました、ではベル様がお風呂に入られた後にお聞きします」
そう言って再びシャルは私の手を握る。 私は足に力を入れその場から動く事を拒否した。
「いいえ、貴方にとって大事な事なの。 今聞きなさい。 今日の会談の事よ、少し長くなるけど結果から言うと」
「そんな事はどうでも良いんです!! 良いですか!! その話は後ほど詳しくお聞きしますが、シャルにとって今一番大切な事はベル様です。 ですから早く此方にいらして下さい!!」
私の言葉を再度遮りシャルは怒鳴る。
その剣幕は何時もの温厚なシャルからは想像出来ず、私はとても驚いた。 その瞬間、僅かに足に入れていた力が抜け落ち、シャルの気迫と力に押されながら私はお風呂に放り込まれた。
急な出来事に頭が追い付かなかったが、何故だか今日のお風呂はいつもより暖かい気がした。
お風呂から上がりシャルが用意してくれた着替えに袖を通し私は駆け足でリビングに向かう。
リビングにはシャルが不安げに佇んでおり私はそんなシャルにゆっくり近付き背後から抱きしめた。
「べ、ベル様!! お身体は大丈夫ですか?? その、先程は失礼しました!! ベル様に対してあの様なっ」
「ううん、良いの。 私の方こそ心配をかけたみたいね。 本当にごめんね。 ねぇ、シャルもう少しこうしていても良いかしら??」
シャルの言葉を遮り私は腕に少しだけ力を込める。
「も、勿論です。 ベル様さえ不快で無いのなら」
頭の上に付いている小さな耳を小刻みに動かしてシャルは言う。
私はそれを見ていると不思議といつも幸せな気持ちになる。
暫くして私はシャルから離れ向かい合う様にして座った。
「ほ、本当に大丈夫ですか?? とても憔悴している様でしたので」
シャルは未だに不安そうに私を見つめる。
「もう大丈夫よ。 それにしても、ふふ、シャルって怒ったら結構怖いのね。 知らなかったわ」
「そ、それは!! その、ベル様の事が心配だったのです」
シャルは顔を真っ赤にし俯きながら呟いた。 この子は本当に感情が豊かだと思う、私を含め周りをいつも笑顔にしてくれる。 シャルのこういう所が私は大好きだ。
「シャルは本当に優しいのね」
「いえいえ、ベル様程では無いですよ」
「私?? 私は結構厳しいと思うのだけど?? 優しいなんて言われた事もないしね」
「そんな事ありません。 ベル様はとてもお優しいですよ。 私を含め皆もそう思っています。 そんなベル様だから皆も力を貸してくれたのだと思います」
「そう、知らなかったわ。 と言う事はもう少し厳しくしても大丈夫って事で良いのかしら??」
「あっ!! いえ、それは!! 多分今ぐらいが丁度良いと思います!!」
シャルはお尻に生えている大きな尻尾を左右に揺らして答える。 その姿を見ると私の言葉に焦っているんだなとすぐに推測できた。
「冗談よ。 それにもう訓練をする必要も無いの。 シャルさっきの話の続きを言っても良いかしら??」
私はシャルの目を真っ直ぐ見つめた。 シャルは小さく深呼吸をしたのち、軽く頷く。
そこから私は今日の出来事を丁寧にシャルへ伝えた。 ユーノに言われた事、それに何も言い返す事ができなかった事、何より会談そのものは何も意味がなく失敗に終わった事。
私が話している間、シャルは何度か小さく頷くだけで特に何も言う事はなかった。
「以上が今日の会談の内容よ。 本当にごめんなさい。 結局私には何も出来なかったわ」
「いえいえ、ベル様はとても頑張ったと思います。 単身でユーノの拠点まで赴いたんです! 何されるかわからない状況でもあったのに、その勇気には感服致します!! シャルはベル様がこうして無事にお戻りになられた事を本当に嬉しく思います!!」
私は何も答えられなかった。 シャルが気を使ってくれているのが、痛いほどわかっていたからだ。 そこからはお互いに口を閉ざし、部屋の中は重たい空気に包まれていた。
そんな時シャルが唐突に声を張り上げて言う。
「それにしてもユーノのあんぽんたん!! ベル様に対してなんて口の聞き方を!! 許せませんね、なんかムカついて来ました!!」
シャルは急に立ち上がり顔を上げてユーノに対する不満を口にする。
目に涙を溜めている。 きっとそれを流すまいと必死なのだろう、その姿に私は胸が締め付けられる。
「ベル様!! ベル様もそう思いますよね!! ユーノの奴、昔はあんなに小ちゃくて可愛かったのに今ではあんなに憎たらしく成長しちゃって!! まぁ顔は今でも少し可愛い所はあるけど……いや、そうじゃなくて!! ベル様も一緒に叫びましょう!! ユーノのアホ!! バカ!! この分からず屋!!」
そう言ってシャルは私の手を取り立ち上がらせた。 涙はもう数え切れない程こぼれ落ちていた。
「そ、そうね!! ユーノのバカ!! 泣き虫!! 何よ、カッコつけちゃって!! 昔は私の後ろでメソメソしてた癖に!!」
「そうだ、そうだ!! 泣き虫!! おぬしょした時誰が布団洗ってあげたと思っているんだぁ!!」
それから私とシャルはお互いに泣きじゃくりながらユーノに対する不満を言い続けた、不満というよりは殆どが悪口だったけど。
「あー、スッキリしました!! たまには大声を出すのも良いものですね!!」
暫くしてシャルは微笑みながら私に言った。
シャルの言う通り、私はとてもスッキリしていた。 こんな風に大声で泣き喚く事なんて今まで無かったから。
「ええ、とてもスッキリしたわ!! だけどなんか言い過ぎてユーノに悪い気もしちゃうわね」
「良いんですよ、あんな奴!! 私はまだまだ言い足らないくらいですよ!!」
シャルはほっぺを膨らませてそっぽ向く。 辛いのはシャルも同じなのに、私に気を使ってくれているのが伝わる。
私とシャルは先程と同じ場所に座り直した。
暫く沈黙が流れたが、さっきまでと違い、空気は重く感じる事は無かった。
私は今までの事を少し振り返っていた、この一ヶ月ユーノの計画を阻止しようと色々と行動を起こしてきた。
ここまでやってこれたのは間違え無くシャルのおかげだ。 その気持ちを伝えようと思う。
「シャルには色々お世話になったわね、正直貴方の助けがなければここまで来れなかったわ。結果はまぁ思った通りにはならなかったけど……兎に角ありがとう!! 感謝しているわ」
「い、いえいえ!! 私は何もしてませんよ……そ、それにしてもこれからどうしましょうか?? 私とベル様でどこか遠い所にでも行きましょうか??」
「え?」
シャルの言葉に私はすぐ様反応した。
「シャル……もしかしてその、諦めるの??」
「え?」
その言葉に今度はシャルが同じ言葉を返す。 その表情は明らかに困惑している様だった。
その表情を見ればシャルが何を考えいるかはすぐに分かった。
「ベ、ベル様、正直言って私はもう諦めるしかないと思っています。 悔しいですが私達の完敗なのですから」
俯きながらシャルは声を震わせて言う。
私はシャルがそんな事を言うとは思っていなかった。 いや、思っていなかったのではない、多分私はその言葉を聞きたくなかったのだ。
心臓がこんなに高鳴っているのは、いつかシャルの口からこの言葉を聞くんじゃないかと恐れていたからだ。
そんな自分の心情を悟られないように私は普段通りにシャルへ話した。
「シャル、私は諦めないわ。 例え死ぬ事になったとしてもね」
「私だって諦めたくはありません。 もし私達がユーノを止められなかったら、ユーノはこのまま、ちる様をこの世界から消し去る筈ですから……。
で、ですがそれを止める為にベル様までもが消えてしまう事になったら。 わ、私はっ」
シャルは今にも消えてしまいそうなか細い声で言う。
だけど、シャルのその言葉は私には逆効果だ。
私が諦めたらその時点でちる様は消えてしまう、それを再確認させる事になるのだから。
ユーノの成し遂げたい事、それはこの世界からちる様を消滅させる事。
そして私にはそれが許せない。 ちる様をこの世界から消し去るなんて今でも理由がわからないしきっと理由を聞いても理解もできない事なのだろう。
ユーノに負けて尚且つ脅しの言葉までかけられている今、もう一度戦いを挑むのは戦力的にもそして何より時間的に不可能なのはわかっているのだ。
それでも、それでも私には諦めると言う選択肢を選ぶつもりはない。
「シャル、本当にごめんなさい。
貴方が私を思ってくれている気持ちはとても嬉しいわ。 だけどね、私は諦めるわけには行かないの。 もしここでちる様を見捨てる様な事をしたら、どっちにしても私は死ぬのよ。 ベルリン ベルスロットはね」
私の言葉にシャルは特に反応せず何も答えず俯いたままだった。 それでも私はシャルに話しかけた。
シャルはちる様の事が大好きだったのだ、それは私も痛い程分かっている。
きっとシャルだって本当は諦める事などしたくは無いのだ。
だけど私の事を思って言いたくもない事を言ってくれているのだ。
シャルに辛い思いをさせている事を私は申し訳なく思う。
「ふふ、やっぱりベル様は本当にお優しいです、こんな状況なのにシャルに気を使ってくれているのですね。 ベル様自身も辛い時なのに……なんだか昔を思い出します」
「昔??」
シャルは顔を上げ私の目を見つめ返し立ち上がって続けて言った。
「私を誰だと思っているのですか!! 私はシャル!! シャル・リー・ロッテ!! この私が諦めるなんて事は有り得ません!!」
シャルは微笑みながら私を見る。 その目は真っ直ぐ私の目を捉える。
その目を私は逸らす事は出来なかった、とても眩しく光るその目を。
私は溜息混じりにシャルに答えた。
「今日は私の知らないシャルをいっぱい見してくれるのね。 その口上は誰かに教えて貰った事なのかしら??」
「ふふ、これはシャルが勝手に真似しているだけです。 どうですか?? 結構似ていましたか??」
「全然駄目ね!! ちゃんと見てなさい!!」
私は立ち上がり深く呼吸をして気持ちを整える。
そんな私を見ているシャルは目をキラキラと輝かせ先程よりも大きく尻尾を左右に振っていた。
私はシャルの目を見つめ返して今日一番の声を出す。
「私はベル!! ベルリン・ベルスロット!! 不可能を可能にし、あらゆる不条理に打ち勝つ者!! 驚天動地の事態にも決してその誇りを失わない者!! 諦める事なんて有り得ない!! それこそが我等がベルリンである証なのだから!!」
私が言い終えるとシャルはすぐに大きく拍手をしてくれた。 私は少し恥ずかしかったが気持ちはとても晴れやかになった。
言葉にする。 たったそれだけの事に思えるのにその効果はとても大きい様に思える、きっと言葉には特別な力があるんじゃないかと私は思う。
「さてと!! シャル!! これからの予定を決めるわよ!!」
「はい!! ベル様!!」
私は諦めない。 シャルと二人だけになった今でも可能性を探し続ける。
例えその結果が失敗に終わろうとも命をかける事になったとしても。
諦めると言う選択肢はもう私達の中には無くなっていた。
目の前で大きな溜息を吐くユーノに
私は怒りを抑え切れずに大声をだす。
「はぁ?? 諦められるわけ無いでしょ!! 貴方自分が何をしようとしているかわかっているの??」
「勿論です。 私は本気ですから。
それにこの話は前回の戦いで決着はついたのでは?? この世界では勝った方に決定権がある。 それはベル様も承知のはずですが??」
「そ、それは……」
確かにユーノの言っている事は間違ってない。 私達は負けたのだ。
私が言い淀んでいるとユーノは哀れんでいる様な顔を私に向けた。
「もう宜しいですか?? 色々と準備に忙しいので。 ベル様、もう貴方に出来る事は何もありません。 それでも再び私達に戦いを挑むと言うなら次は容赦しません。 まぁそんな戦力もう貴方に残されていないでしょうがね。
失礼します」
そう言うとユーノは立ち上がり私に背を向けて歩き出した。
その後ろ姿を私は眺めることしか出来なかった、折角のチャンスに何も変えられ無かった事、そしてユーノの言葉に何も言い返せない自分に無性に腹がたつ。
だけどさっきのユーノの言葉は決して嘘じゃ無い。 前回の戦いで私達は負けた。 それにあの戦いで死者が出なかったのは、間違え無くユーノが手加減したからだ。
「次は容赦しない」
ユーノが去り際に放ったその言葉は私に恐怖を刻むには充分過ぎるものだ。
次戦ったら恐らく皆殺しさせられるだろう。 そん感じざるを得ない程あの時のユーノの表情は冷たかった。
それに例えその恐怖に打ち勝ったとしても私にはもう一緒に戦ってくれる人などいない。
私の味方をしてくれたみんなは既に動く事も出来ない程のダメージを負っているのだから……。
結局はユーノの言う通り私に出来る事はもう何も無いのだ。
私は立ち上がりユーノとは別の方向に歩く。
ユーノに会いにここまで来た道のりを引き返す為に。
それから二時間ほど歩き私は自分の家の前に着いた時、今回の事をシャルになんて言うべきかを考える為に扉の前で立ち止まった。
シャルはこの日を、あの会談を、最後の希望と言っていた。
家を立つ際、絶対にユーノの気持ちを、決意を覆して欲しいと私に懇願したのだ。
それなのに結果は失敗いや、大失敗だ。 もっと他に言い方があったのでは無いか、やれる事はあったんじゃ無いのか、そんな後悔が次々と生まれ私の足は、もうその場から動かす事は出来なくなっていた。
「ベル様??」
背後から聞こえた聞き覚えのある声に呼ばれ私はゆっくりと振り返る。
目の前には傘を差し不安そうに私を見るシャルが立っていた。
「シャ、シャル……あのね」
「ど、どうしたんですか!! 全身濡れているではありませんか!! もしかしてこの雨の中を歩いて帰ってきたのですか? と、とにかく話は後です!! 早く此方へ」
私の言葉を遮り、シャルは私を引き込む様に家の中に入れた。
「すぐに温まって下さい!! 早くしないと風邪を引いてしまいます!!」
シャルは慌てた顔で私にタオルを渡し、お風呂場へと引きずる。
私はその手を無理矢理引き離した。
今は何より先ずシャルに謝らなければいけないのだ。
今日の私の大失敗を。
「シャル聞いて、大事な話があるの」
「わかりました、ではベル様がお風呂に入られた後にお聞きします」
そう言って再びシャルは私の手を握る。 私は足に力を入れその場から動く事を拒否した。
「いいえ、貴方にとって大事な事なの。 今聞きなさい。 今日の会談の事よ、少し長くなるけど結果から言うと」
「そんな事はどうでも良いんです!! 良いですか!! その話は後ほど詳しくお聞きしますが、シャルにとって今一番大切な事はベル様です。 ですから早く此方にいらして下さい!!」
私の言葉を再度遮りシャルは怒鳴る。
その剣幕は何時もの温厚なシャルからは想像出来ず、私はとても驚いた。 その瞬間、僅かに足に入れていた力が抜け落ち、シャルの気迫と力に押されながら私はお風呂に放り込まれた。
急な出来事に頭が追い付かなかったが、何故だか今日のお風呂はいつもより暖かい気がした。
お風呂から上がりシャルが用意してくれた着替えに袖を通し私は駆け足でリビングに向かう。
リビングにはシャルが不安げに佇んでおり私はそんなシャルにゆっくり近付き背後から抱きしめた。
「べ、ベル様!! お身体は大丈夫ですか?? その、先程は失礼しました!! ベル様に対してあの様なっ」
「ううん、良いの。 私の方こそ心配をかけたみたいね。 本当にごめんね。 ねぇ、シャルもう少しこうしていても良いかしら??」
シャルの言葉を遮り私は腕に少しだけ力を込める。
「も、勿論です。 ベル様さえ不快で無いのなら」
頭の上に付いている小さな耳を小刻みに動かしてシャルは言う。
私はそれを見ていると不思議といつも幸せな気持ちになる。
暫くして私はシャルから離れ向かい合う様にして座った。
「ほ、本当に大丈夫ですか?? とても憔悴している様でしたので」
シャルは未だに不安そうに私を見つめる。
「もう大丈夫よ。 それにしても、ふふ、シャルって怒ったら結構怖いのね。 知らなかったわ」
「そ、それは!! その、ベル様の事が心配だったのです」
シャルは顔を真っ赤にし俯きながら呟いた。 この子は本当に感情が豊かだと思う、私を含め周りをいつも笑顔にしてくれる。 シャルのこういう所が私は大好きだ。
「シャルは本当に優しいのね」
「いえいえ、ベル様程では無いですよ」
「私?? 私は結構厳しいと思うのだけど?? 優しいなんて言われた事もないしね」
「そんな事ありません。 ベル様はとてもお優しいですよ。 私を含め皆もそう思っています。 そんなベル様だから皆も力を貸してくれたのだと思います」
「そう、知らなかったわ。 と言う事はもう少し厳しくしても大丈夫って事で良いのかしら??」
「あっ!! いえ、それは!! 多分今ぐらいが丁度良いと思います!!」
シャルはお尻に生えている大きな尻尾を左右に揺らして答える。 その姿を見ると私の言葉に焦っているんだなとすぐに推測できた。
「冗談よ。 それにもう訓練をする必要も無いの。 シャルさっきの話の続きを言っても良いかしら??」
私はシャルの目を真っ直ぐ見つめた。 シャルは小さく深呼吸をしたのち、軽く頷く。
そこから私は今日の出来事を丁寧にシャルへ伝えた。 ユーノに言われた事、それに何も言い返す事ができなかった事、何より会談そのものは何も意味がなく失敗に終わった事。
私が話している間、シャルは何度か小さく頷くだけで特に何も言う事はなかった。
「以上が今日の会談の内容よ。 本当にごめんなさい。 結局私には何も出来なかったわ」
「いえいえ、ベル様はとても頑張ったと思います。 単身でユーノの拠点まで赴いたんです! 何されるかわからない状況でもあったのに、その勇気には感服致します!! シャルはベル様がこうして無事にお戻りになられた事を本当に嬉しく思います!!」
私は何も答えられなかった。 シャルが気を使ってくれているのが、痛いほどわかっていたからだ。 そこからはお互いに口を閉ざし、部屋の中は重たい空気に包まれていた。
そんな時シャルが唐突に声を張り上げて言う。
「それにしてもユーノのあんぽんたん!! ベル様に対してなんて口の聞き方を!! 許せませんね、なんかムカついて来ました!!」
シャルは急に立ち上がり顔を上げてユーノに対する不満を口にする。
目に涙を溜めている。 きっとそれを流すまいと必死なのだろう、その姿に私は胸が締め付けられる。
「ベル様!! ベル様もそう思いますよね!! ユーノの奴、昔はあんなに小ちゃくて可愛かったのに今ではあんなに憎たらしく成長しちゃって!! まぁ顔は今でも少し可愛い所はあるけど……いや、そうじゃなくて!! ベル様も一緒に叫びましょう!! ユーノのアホ!! バカ!! この分からず屋!!」
そう言ってシャルは私の手を取り立ち上がらせた。 涙はもう数え切れない程こぼれ落ちていた。
「そ、そうね!! ユーノのバカ!! 泣き虫!! 何よ、カッコつけちゃって!! 昔は私の後ろでメソメソしてた癖に!!」
「そうだ、そうだ!! 泣き虫!! おぬしょした時誰が布団洗ってあげたと思っているんだぁ!!」
それから私とシャルはお互いに泣きじゃくりながらユーノに対する不満を言い続けた、不満というよりは殆どが悪口だったけど。
「あー、スッキリしました!! たまには大声を出すのも良いものですね!!」
暫くしてシャルは微笑みながら私に言った。
シャルの言う通り、私はとてもスッキリしていた。 こんな風に大声で泣き喚く事なんて今まで無かったから。
「ええ、とてもスッキリしたわ!! だけどなんか言い過ぎてユーノに悪い気もしちゃうわね」
「良いんですよ、あんな奴!! 私はまだまだ言い足らないくらいですよ!!」
シャルはほっぺを膨らませてそっぽ向く。 辛いのはシャルも同じなのに、私に気を使ってくれているのが伝わる。
私とシャルは先程と同じ場所に座り直した。
暫く沈黙が流れたが、さっきまでと違い、空気は重く感じる事は無かった。
私は今までの事を少し振り返っていた、この一ヶ月ユーノの計画を阻止しようと色々と行動を起こしてきた。
ここまでやってこれたのは間違え無くシャルのおかげだ。 その気持ちを伝えようと思う。
「シャルには色々お世話になったわね、正直貴方の助けがなければここまで来れなかったわ。結果はまぁ思った通りにはならなかったけど……兎に角ありがとう!! 感謝しているわ」
「い、いえいえ!! 私は何もしてませんよ……そ、それにしてもこれからどうしましょうか?? 私とベル様でどこか遠い所にでも行きましょうか??」
「え?」
シャルの言葉に私はすぐ様反応した。
「シャル……もしかしてその、諦めるの??」
「え?」
その言葉に今度はシャルが同じ言葉を返す。 その表情は明らかに困惑している様だった。
その表情を見ればシャルが何を考えいるかはすぐに分かった。
「ベ、ベル様、正直言って私はもう諦めるしかないと思っています。 悔しいですが私達の完敗なのですから」
俯きながらシャルは声を震わせて言う。
私はシャルがそんな事を言うとは思っていなかった。 いや、思っていなかったのではない、多分私はその言葉を聞きたくなかったのだ。
心臓がこんなに高鳴っているのは、いつかシャルの口からこの言葉を聞くんじゃないかと恐れていたからだ。
そんな自分の心情を悟られないように私は普段通りにシャルへ話した。
「シャル、私は諦めないわ。 例え死ぬ事になったとしてもね」
「私だって諦めたくはありません。 もし私達がユーノを止められなかったら、ユーノはこのまま、ちる様をこの世界から消し去る筈ですから……。
で、ですがそれを止める為にベル様までもが消えてしまう事になったら。 わ、私はっ」
シャルは今にも消えてしまいそうなか細い声で言う。
だけど、シャルのその言葉は私には逆効果だ。
私が諦めたらその時点でちる様は消えてしまう、それを再確認させる事になるのだから。
ユーノの成し遂げたい事、それはこの世界からちる様を消滅させる事。
そして私にはそれが許せない。 ちる様をこの世界から消し去るなんて今でも理由がわからないしきっと理由を聞いても理解もできない事なのだろう。
ユーノに負けて尚且つ脅しの言葉までかけられている今、もう一度戦いを挑むのは戦力的にもそして何より時間的に不可能なのはわかっているのだ。
それでも、それでも私には諦めると言う選択肢を選ぶつもりはない。
「シャル、本当にごめんなさい。
貴方が私を思ってくれている気持ちはとても嬉しいわ。 だけどね、私は諦めるわけには行かないの。 もしここでちる様を見捨てる様な事をしたら、どっちにしても私は死ぬのよ。 ベルリン ベルスロットはね」
私の言葉にシャルは特に反応せず何も答えず俯いたままだった。 それでも私はシャルに話しかけた。
シャルはちる様の事が大好きだったのだ、それは私も痛い程分かっている。
きっとシャルだって本当は諦める事などしたくは無いのだ。
だけど私の事を思って言いたくもない事を言ってくれているのだ。
シャルに辛い思いをさせている事を私は申し訳なく思う。
「ふふ、やっぱりベル様は本当にお優しいです、こんな状況なのにシャルに気を使ってくれているのですね。 ベル様自身も辛い時なのに……なんだか昔を思い出します」
「昔??」
シャルは顔を上げ私の目を見つめ返し立ち上がって続けて言った。
「私を誰だと思っているのですか!! 私はシャル!! シャル・リー・ロッテ!! この私が諦めるなんて事は有り得ません!!」
シャルは微笑みながら私を見る。 その目は真っ直ぐ私の目を捉える。
その目を私は逸らす事は出来なかった、とても眩しく光るその目を。
私は溜息混じりにシャルに答えた。
「今日は私の知らないシャルをいっぱい見してくれるのね。 その口上は誰かに教えて貰った事なのかしら??」
「ふふ、これはシャルが勝手に真似しているだけです。 どうですか?? 結構似ていましたか??」
「全然駄目ね!! ちゃんと見てなさい!!」
私は立ち上がり深く呼吸をして気持ちを整える。
そんな私を見ているシャルは目をキラキラと輝かせ先程よりも大きく尻尾を左右に振っていた。
私はシャルの目を見つめ返して今日一番の声を出す。
「私はベル!! ベルリン・ベルスロット!! 不可能を可能にし、あらゆる不条理に打ち勝つ者!! 驚天動地の事態にも決してその誇りを失わない者!! 諦める事なんて有り得ない!! それこそが我等がベルリンである証なのだから!!」
私が言い終えるとシャルはすぐに大きく拍手をしてくれた。 私は少し恥ずかしかったが気持ちはとても晴れやかになった。
言葉にする。 たったそれだけの事に思えるのにその効果はとても大きい様に思える、きっと言葉には特別な力があるんじゃないかと私は思う。
「さてと!! シャル!! これからの予定を決めるわよ!!」
「はい!! ベル様!!」
私は諦めない。 シャルと二人だけになった今でも可能性を探し続ける。
例えその結果が失敗に終わろうとも命をかける事になったとしても。
諦めると言う選択肢はもう私達の中には無くなっていた。
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