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第四章 ノア デ ステファーノ
ノア デ ステファーノ 1
しおりを挟む「ノアあれが最後の一人、リリィーよ。 アルティミスト・リリィー。
彼女の本名ね、ユーノが一番信頼している人物でこの間会った三人よりも頭飛び抜けて強いわ。
私の仲間の意識が戻らなのも彼女の能力が原因なの」
ベルは小声で俺に耳打ちをする。
「あれがベルが言ってた奴か」
薄暗くて良くは見えないが、華奢な身体に身長も大きい方ではない。 顔はフードで覆われていて良く見えない。 ただベルの話だとあいつの攻撃を喰らったら終わりらしい。
「ええ、彼女の能力は失神。 攻撃を与えた者を強制的に失神させる力、対戦闘では文字通りの一撃必殺ね。
更に厄介なのは失神期間も自在な所よ。 最大三ヶ月の間、相手を失神させられる。
私も最近知ったんだけどね、ユーノと話し合いをした時に仲間の陥っている状況を聞いたらそう言っていたから本当かどうかは定かじゃないけど……でも一ヶ月以上仲間が目覚めない状況を考えれば嘘じゃないかも知れないわね」
「だからこんなに距離をとっているって事か」
俺達はリリィーと大きく距離を開けている、少しびびり過ぎな気もするが実際に戦ったベルにとってはトラウマにも近いんだろう。
「ほ、本当に行くんですか??」
震えた声でベルが言う。
「あぁ。 行かなきゃ始まらないからな。 それにいくらなんでも急に殴りかかってきたりはしないだろう??」
だけどベルの気持ちも理解は出来る、あれは間違えなく最強に近いだろう。 戦って勝てる相手じゃない、こんなに離れているのにリリィーから不気味な凄みを感じる、
俺にとってもこんな事は初めてだった。 前に見た三人でさえギリギリ勝てるかどうかと言った感じだったけど、ここまでの奴がユーノの下に付いているとは想像していなかった。
だけど俺にはどうしてもあいつに近付かないといけない理由がある。
気を引き締めてリリィーの元へと向かう覚悟を決め、震えるベルと共に歩き出す。
「おや? こんな夜に誰かと思ったらこれは珍しい。 ベルスロット様ではありませんか、私の顔など見たく無いと思っていたけどそれは私の勘違いだったって事??」
俺達が近づくとリリィーは少し声を張ってそう言った。
「勘違いじゃないわ。 貴方の顔なんて、声なんて聞きたくもない!! ……でも今日は用件があったから」
ベルは俺の手を握り潰すつもりなんじゃないかと思う程強く握り締め、声を振り絞りながら返す。
「用件? 貴方が私にですか?」
街灯に照らされたフードの中で僅かに赤い髪がなびく、会話するのに困らない距離まで来た時、俺の身体はまるで自分の身体じゃないかの様に重くなっていた、心の底からこの女に恐怖を抱く。
こいつは本当に人間か??
昔ちるが見ていたアニメか何かのバグキャラみたいだ。
「えぇ、貴方に頼みたい事があるの!!
ユーノを止める為に私に力を貸して欲しい! お願い!」
ベルは隣で頭を下げて言った。 その瞬間、俺の身体の重みが取れた、同時に先程までこの空間を支配していたリリィーの殺気も綺麗に無くなっていた。
「つまらない」
低い声でリリィーが呟く。
「貴方本当にベルスロット様でしょうか?? そんなくだらない事を仰る方だとは思っていませんでした。
聞く所によると私の部下にも同じ様な話を持ち掛けているみたいじゃありませんか。
正直信じられない話でしたがまさか本当の事だったとは、それにその様な得体の知れない男まで連れて。 私達に戦いを挑んだ貴方は敵ながら少し尊敬の念を持っていましたので今の状況は残念です。 最近は王族らしく国に籠り、その男と楽しく過ごしていると聞いていました。 ……成る程全てを諦めましたか。 まぁそれも仕方ありませんよね、ベルスロット様は私達に負けたのですから。 大人しく王族ごっごと恋愛ごっこでもしておくのが賢明でしょう」
そう言い残しリリィーは少し早足でその場から離れていく。
意外に話す奴だなと俺は思った、その姿にやっぱりそう簡単にバグキャラなんて存在しないもんだなと思った、リリィの話す姿は素直になれない女の子の様にも見えたから。
「ベルありがとうな。 何回も辛い思いをさせて悪かった」
「…あー怖かったぁ。 でも別にこのくらい何とも無いわ! それにノアに協力できる事はするって約束だったしね!!」
ベルはまだ若干声が震えている、無理はない。 あの殺気は十九歳の女の子が耐えれるものでは無い、それでも声を出し俺の頼みを成し遂げたんだ。
改めてベルの凄さを再確認する事になった。
「それにしても……どいつもこいつも好き勝手に言ってくれるわねぇ! なんであんなに悪態が付けるのかしら!! 三馬鹿は兎も角まさかリリィーまであんな言い方するなんて!!
あいつがあんなに話している所なんて見た事がなかったわ、いつもクール気取っているのに!」
何かから解放されたのかベルは大声で喚く。
確かにリリィーを含めユーノの部下、重役の四人と話す事は出来たが全員ベルに悪態をついていた。 こっちも本当に仲間になってくれるとは思っていない、こんな話無視すれば良い事なのに全員無駄に口を開く、まるでベルにやる気を出させたいと願っている様に。
「でも本当にこれで良かったの??」
少し時間が過ぎた後、ベルはまた不安げな顔で聞いてきた。
無理もない、俺とベルが出会ってからもう少しで一ヶ月になる。 ちるが消される日まで残り二ヶ月も無いし、俺達が今迄してきた事と言えばこれくらいしか無いのだから。
でも俺にとってはかなり重要な事だった。 相手の幹部全員と顔を合わせた今、ちるを助ける事に必要なパーツほぼ揃いつつある。
「あぁ。 ベルには何も話していなくて悪かったな。 この作戦が上手く行った時にちゃんと説明するから、もう少しだけ俺を信じて欲しい」
「あっ、いいえ! 私もノアの事を疑っている訳じゃ無いの! ……ごめんなさい、ちょっと弱気になっていたのかも知れないわね。 信じているわ、私もシャルもね」
俺の言葉に焦ったのかベルは謝りながら返す。
俺の事をこんなに信じていてくれているベルとシャルには感謝しかない。
その信頼に答える為にもミスは許されない、必ず成功させようと強く思った。
「さてと、今日は一旦戻りましょうか! シャルも待っているだろうし!」
話を切り上げベルはそう言うとそそくさと歩き出した。 この場所にもう用は無い、俺はベルの後を着いて歩く。
ベルの国、アゼロフリュームを初めて見た時はまずその大きさに驚いた。 五つに分けた大陸の一つが全部この国なのだから当然と言えば当然だろうけどたった一ヶ月じゃその全てを見て回るのは不可能な程だった。
そしてシャルの言っていた通り獣人の存在は珍しいものではなく日常の至る所でその姿を見る事ができた、勿論人間の姿も。
ベルはこの国を獣人と人間が手を取り合って生きている国だと言った、その言葉は正しくその通りだった、こんなに多種多様な人間、獣人達が一緒に生きていけるなんてまるで夢物語の様だと俺は思った。 細かい所での問題はあるかも知れないがこの国が問題なんてない平和そのものに見えたから。
暫く歩いていると目の前に大きな城が見えてきた、あれがベルの住んでいる場所だと聞いた時は驚きもしたけどそれよりも恐ろしいと言った感情の方が大きかった。
ベルが王族だという話は聞いていてもいざその証を見せられると自分でもわからないけど何故か萎縮してしまっていた。
それもあって俺はベルのお城には入った事が無い、城の近くの宿の一室を使わさせてもらってそこでこの一ヶ月は生活をしていた。
今日もその予定だったけど、いつもの分かれ道にたどり着いた時ベルは唐突に口を開いた。
「ノア、今日で一様一つの区切りがついた事になるわ。 だから良かったら少し話さない??」
ベルの表情は暗くてよく見えないが声はいつもと違って少しだけ弱々しく感じた。
俺もベルに話したい事があったので、その提案は有り難かった。 自分からは少し言い難かったから。
「あぁ、そうだな。 どこで話そうか?? ここで良いか?」
「もう夜も遅いし、一度私の家に一緒に戻りましょ、ノアは何故か入りたがらないけど外よりはマシでしょ?? さ、行きましょう」
そう言うとベルはそのまま城の入口に向かった。
「この中に入るのか……」
思わず声に出しながら俺は上を見上げる、ここからじゃもう城の全体図は見る事は出来なかった。
さっきのリリィーよりは幾分かマシだろうと俺は思いベルの後に続いた。
自分でも何でこんなにビビっているのか不思議だった。
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