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第6章 リリィーアルティメスト

リリィー アルティメスト 2

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「遅かったな?」

 遅れて部屋に入る私に直ぐ様トラが怪訝な表情を向ける。

「ごめんなさい、少し考え事をね」

「考え事?」

「トラ! うるさい! リリィー様が迷惑しているでしょ! それに全然遅くないし!」

「ああ? お前に聞いてないんだよ! それに毎度うるさいのはお前の方だろ!」

「あんたまたお前って言ったわね? 今度こそ本当に許さないわよ?」

 大きなテーブルを挟んで向かい合って座っていたニクスとトラは声を荒げて立ち上がる。

 今日だけで3回目にもなる言い合いにうんざりしつつ、私はニクスの隣まで歩き肩に手を置いた。

 まぁ今回は私にも非がある。

「ありがとうニクス、でも私が遅かったのも確かだしトラが気になるのも無理ないわ。 
 トラ、私が考えていた事はきっとこれからユーノが話す事に関係してくる事だと思うの、だから少し待って貰えるかしら?」

「……まぁ俺も無理に聞こうとは思ってないよ」

 トラは私の言葉を聞いて素直に席に腰を落とした。

「リリィー様がそれで良いなら!」

 ニクスも顔を赤らめながら静かに座った。

「ありがとう二人とも」

 私は二人に軽く会釈しそのままニクスの隣に座る事にした。

「流石リリィー! 手慣れたもんだな!
 さてとじゃあ始めようか! 先ずは今日わざわざ集まってもらってありがとう。 久々に会ったし色々話したい所だけど、時間も無いから早速本題に入る」

 後半につれユーノが醸し出す空気が変わる、その顔には先程までの笑顔は無くなっていた。

「ユーノが俺達を全員呼び出すなんて相当な緊急事態なんだろ? どうした?」  

「あぁ、トラの言う通りこれはとても大事な話だ。 結果から言う、ちる様の力を使用する事が不可能になった。 その原因は俺達が決めたコードがある男の書き換えられたからだ」


「「「なっ!!!」」」

 ユーノの言葉に三人は一斉に声を出す。
 
「ちょっと待って下さいユーノ様! そんな事ありえません! コードを書き換えたと言う事はちる様の居場所に、あの場所にその男が侵入したって事ですか? あれの内部は私が作ったんですよ? そんな簡単に攻略できるはず無いです!」

「そうだぜユーノ! ニクスの能力は俺も知っている、タネを知らない人間が見破れる様なものじゃ無い! 
 それにあの場所はその存在自体を俺の力で隠しているんだ! そもそも場所がわからなかったら辿り着けないはずだろ?」 

「それに万が一にもトラとニクスの力を見破り内部に侵入した所で我々が決めたコードを知っていないと新しく書き換える事なんて不可能では?」

 三人共ユーノの話を直ぐには信じられないと言った感じで思い思いに言葉を口にした。

「お前らの気持ちもわかる。 正直言って俺にも信じられないかった。 リリィーの報告を聞いた時もお前達と同じ反応をしたよ。 だけどこれは事実なんだ、俺も直接確認した事だから間違いない」

「リ、リリィー様は知っていたんですか?」

 ニクスは直ぐ様私の方を向いて言った。

「ええ、私はその場所にいたから。 ユーノに報告したのも私よ」

「……リリィー、お前その場に居たのか?」

 トラの言葉から僅かに怒りが感じられる。 
 何故怒っているのかは大方検討がつく、私がその場に居ながらその男を、ノアを逃した事に不満を持っているのだろう。

「ええ、でも私が着いた時には全て終わっていたわ」

「なんでそいつを逃した! お前ほどの奴が取り逃すとは思えない!!」

 想像通りの言葉がトラから発せられる。 私は言葉を選びながらトラやニクスに説明する事にした。

「あの場ではそれが一番良いと思ったからよ。 あの男が、いえノアの言っている事が本当かどうかを確かめる必要もあったし何より、もしそれが本当だった場合ノアの機嫌を損なう行動をする事は得策じゃないわ。 彼が変えたコードを知らない私達にとってわね」

「……だがその場から逃げられた以上、そのノアって奴を探すのは大変な事だぞ? この国は広い、直ぐに見つかる保証なんて何処にも無い! 俺達は顔も知らないんだ! このままそいつが見つからない可能性だってあるじゃないか!」

「彼の居場所ならもうわかっているわ。 それに貴方達三人も一度会った事があると思うけど?」

「俺達が会った事があるだと?」

 私の言葉にトラは全く心当たりが無い様に首を傾げる。

 まぁトラが覚えているとは思っていなかったからその反応は意外ではなかったけど。 

「リリィー様。 その男の名はノアと言うんですか?」

 テイミーがトラに変わって私に質問する。

「ええ、トラは覚えてないみたいだけど」

「こいつは戦って負けた相手の事くらいしか覚えませんからね。 成る程、リリィー様が何故その男を逃したか納得しました。 もう一人居たのですね」

「あぁ? 一体何の話してんだ?」

 トラは視線を私からテイミーに向け、テイミーは呆れた様に言葉を返す。

「少し前の事とは言えお前本当に何も覚えていないのか? 俺達の前に最近意外な訪問者が来たじゃないか、その事は全員で共有した話だった筈だ。
 そしてその時に一緒に居た男がノアって名乗ってただろ」 

「あー! あの冴えない男ですか? 思い出しました! 確かにノアって言ってましたね!」

 私の隣から一際大きな声が聞こえてきた。 

 まさかニクスも忘れていたとは思わず、その声に私は少し驚いてしまった。

「はぁー、ニクスもか。 まぁそれは良い、リリィー様が逃したのは隣にベルスロットのお嬢さんがいた事も影響しているんだろう。 あのお嬢さんを拘束するのは骨が折れるからな。
 それにベルリン家が絡んでいるなら居場所は自ずと限られてくる。 だから先にユーノ様に報告したって事だろう」

「え、ええ。 テイミーの言う通りよ。 ノアは間違えなくベルスロットの近くにいる、接触を図るのは難しくない筈よ。
 それにノアは私達との話し合いには何時でも応じると言っていたわ」

「その言葉は信じられるのか?」

 トラが再び口を開く。 

「信じられる、と言うよりむしろノアは私達との話し合いを待っているとも思えた。 恐らく彼の目的はベルスロットと同じくちる様の解放のはず。
 だとしたらそれを成し遂げる為には私達と交渉する必要がある、ノアが持っているカードはちる様の力を使用する際のコード、私達が持っているのカードはちる様自身って所かしら」

「どっちも譲る気は無さそうに思えますね」

「私もそう思うわ。 でもノアの話を聞く必要が私達にある以上、素直に話だけでも聞いても良いと考えた。 それがあの時の私の思いよ」

 少しの間、場が沈黙に包まれる。 みんな今聞いた情報を頭で整理していると言った所なのだろう。


「ユーノ様でも一度書き換えられたコードを元に戻す事は、いえ元に戻さずとも再度変更する事は出来ないのですか?」


 ニクスはユーノに恐る恐る尋ねる。

 正直それは私も一番気になっていた事だ、ユーノならこの状況を打開する策を持っているのでは無いかと考えていたから。
 
「無理だな。 書き換えられたコードを戻す事が出来るのは現状ノアって奴だけだ」

 ユーノはあっさりと二クスの言葉に答える。

 声は坦々としていたがその表情は私には何処か嬉しそうにも見える。

 それにしてもユーノには本当に策は無いのだろうか? 
 その言葉も表情も私にはわからない事ばかりだ。

「そうですか。 ではノア本人から直接聞く必要があるって事ですね」

 小さな溜息を吐きながらそう言うとニクスは再び口を閉ざした。

「……そもそもよ、ノアって奴は一体どうやってコードを書き換えたんだ? 書き換えた事が事実なら問題はその手口じゃねぇーか?
 あの場所を見つけた事、その内部の事を知っていた事、そして何より俺達だけが知っているコードを知っていた事。
 なぁ? ここまでくると考えられるのは一つしかないんじゃないか?」 

 トラが発した言葉で場の雰囲気が一気に変わる。

「お前何が言いたいんだ?」

 テイミーがトラの言葉にいち早く反応を返す。

「最初からお前らも分かっているんだろ? 裏切り者が居るんだよ! この中にな!」

 三度大きな声でトラが立ち上がりながら叫ぶ。

「トラ、貴方自分が何言っているか分かっているの?」

 ニクスの声が今まで一番冷たく重い。 
トラの言葉に不快感を隠せない様だ。
 ユーノは特に何も反応する事は無く只々その場を眺めていた。

「ニクスの能力や俺の能力を見破り俺達しか知り得ないコードを書き換える。 そんな事を出来るのは他でも無い俺達自身しか居ない!」

 トラの言葉にニクスもテイミーも言葉を返す事はなかった。
 そう、私を含め恐らくユーノもその可能性を考えなかったわけじゃ無い。 
 誰もが真先に思い付きながらもその言葉を口にする事は出来なかった。 トラは私達を見回してそのまま話を続けた。

「ニクス、テイミー、リリィー。 お前らあいつらが、ベルリンが来た時に何か言われたんじゃ無いのか?」 

 トラの言葉に殺気が混じる。 その瞬間私は身構えた、トラの殺気に対してでは無くユーノの殺気に。

「……トラ、お前俺に殺されたいのか?」

 ユーノが静かに口を開いてトラへ告げる。 
 ユーノの目を見ればその言葉が本心から出たものだと直ぐに分かった。
 トラにもそれが伝わったのかユーノから一歩距離を置いた。

「だけどユーノ! どう考えたって」

「黙れ。 俺達の中の誰かが裏切ったなんて話は聞きたく無い。 そんな事に時間を使う為にお前達を呼んだわけじゃ無いからな。 俺が今日お前達を呼んだのは頼みがあったからだ、そのノアとの交渉をお前達四人でしてきて欲しいんだ。 俺にはまだやる事が残っているからな。 必ずノアが書き換えたコードを取り返してきて欲しい。 頼めるか?」

 ユーノは最後の方トーンを落として私達に頭を下げた。

 その言葉にトラは静かにその場に座り直す。
 額を流れる汗の量がトラの胸の内を代弁する様にも見えた。

「も、勿論です! ユーノ様! 私達が必ずノアからコードを聞き出してきます!」

「私も異論はありません。 私達の失敗は私達で取り返してきます」

 ニクスとテイミーはそんなトラを庇う様に直ぐ様ユーノに返事をする。

「ありがとう。 リリィーはどうだ?」

「私も問題ないわ。 ノアとはもう一度話してみたいと思っていたから」 

 私の言葉に嘘はない。 ノアとは出来れば二人だけで話してみたいとも思っていたくらいだ。

 でも少し気になる事がある、それはユーノ自身がノアと面識がない事だ。 
 
 どんな人物か興味は無いのだろうか? 

「ユーノ、貴方本当にノアとの交渉には参加しないの?」

「俺が興味あるのはノアが書き換えたコードであってそいつ本人じゃない。 それにお前達を信じているからな、お前達四人に出来ない事なんて無いだろ? 俺はそう信じている、だから自分のやるべき事をやりながらゆっくり待っているよ」

 ユーノは優しく微笑みながら私達に言い、そのまま続けてトラに話す。

「トラ、その為にはお前の力も必要なんだ。 手伝ってくれないか?」 

 ユーノの言葉にトラは大きな手で頭を掻きむしりながら答えた。 

「あぁ、それがユーノの頼みならな。 あとニクス、テイミー、リリィー……悪かったな」

「ふふ、貴方が素直に謝るなんて珍しいわね。 まぁ許してあげるわ」

「いや、こいつが謝るなんて珍しいどころか初めてだろ。 まぁ俺もそんなトラに免じて許してやるか」

 テイミーとニクスはからかう様にトラに言う。

 トラは少し照れているのかこちらを向く事なく小さく舌打ちをする。
 なんだかんだで仲の良い三人を私は少し羨ましく思った。
 
「みんなありがとうな。 この件はそうだな、テイミーお前に任せる。 お前の能力はまだ知られていない可能性があるからな」

「わかりました」

「これで俺からの話は以上だ。 他に何か気になる事はあるか?」 

 ユーノの言葉に全員首を横に振る。

「よし! じゃあ俺はこれからちる様の元へと向かう、何かあれば連絡してくれ」

「はっ!」

 私達は声を合わせて返事をした。 

「そうだ、言い忘れていた事があった。 リリィー少し残ってくれるか? 一つ聞きたい事があるんだ」

「私に? 分かったわ」

「テイミー、ニクス、俺達はノアからコードを聞き出す策を考えよう。 いざって時の策も含めてな。 リリィーはユーノの話が終わったらきてくれ」

「ええ、そう時間はかからないと思うから直ぐに行くわ」

「リリィー様お持ちしていますね」

 ニクスとテイミーはトラに促されるままに席を立ち部屋を後にした。

「悪いなリリィー。 個別に頼みたい事がある」

 全員が部屋から出て行ったのを確認した後にユーノは静かに話を始めた。

 ユーノが私に話した言葉はいつものユーノとは思えないものだった。


 
 その後私はトラ達とその日の晩まで話し合った。 テイミーを中心としてあらゆる可能性を考えながら。
 交渉の日は私達の準備の事もあり五日後に決め、その事をノアやベルスロットに伝える役は私に任された。



 次の日私は直ぐにベルリン家へ向かった。 思った通りノアはベルリン家に滞在しており、私が来るのを心待ちにしていたかの様な笑顔を向けた。

 私は交渉の日と時間をノアに伝えた。 
 
 隣でベルスロットとシャルは私に敵意を向けていたがノアは驚く程素直に私達の提案を飲んだ。

 その時のノアは前にあった時と雰囲気がまた少し違っている気がした。 まるでこの先の事を全て見通しているかの様な余裕を感じる。

 ……私はそんなノアに少しの期待を抱く。

 交渉の結果がどうなるかはわからない。 話した所でお互いに譲る事なんて絶対に無いだろう、もし戦いになればノアが私達に敵うとは到底思えない。 だけどこの男は私と違う未来を見ているのでは無いかと思ったからだ。
 
 

 それから四日経ちノア達との交渉の日。
 
 私達は4人でベルリン家へと赴き、その入り口で彼等を待った。 
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