走馬灯を見る君へ

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最終章 ノア デ ステファーノの帰還

ノア 2

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 わ、わかっている。 きっと俺が移動させたんだろう、長風呂で忘れているだけなんだ。 
 それか見ず知らずの奴が勝手に入ってきただけかも知れない。



 外れて欲しい予想ばかりを考えながら飛び出そうな心臓を押さえ込む様に息を止めて部屋へと入った。

「……な、何やってんだこんなところで」

 俺の目の前にいた人物を見た瞬間、自分の予想が外れた事を初めて嬉しく感じる。
 舞い上がっているのを悟られないように出来る限り普段通りに俺は尋ねた。

「こんなところじゃと?? ここは我の家でもあるのだぞ?? こんなところ呼ばわりするでない」

 ソファから立ち上がり以前と同じく図々しく答えながらちるが振り返る。

 後ろでは今まで観ていたであろうアニメの音が鳴り響いていた。

「いつからちるの家になったんだよ」

「んー、強いて言うなら初めてここにきた日からかのぅ??」

「なんだそれ」

「まぁ細かい事は良いではないか!!」

 無邪気な笑みを浮かべてながらちるは続けて言った。 

「まぁ、ここが誰の家かは一先ず置いといてとりあえず、我は帰ってきたのだ!! 何か言う事があるのではないか??」

「いや、俺の家だよ。 はぁー、まぁいいや。 そうだな、確かに言わなきゃいけない事があるな」

 まさかこの言葉を言える日が来るとは思っていなかった、俺はこれが夢じゃないかを確認する為に少し唇を噛んだ後、呼吸を整えてちるに言った。

「お帰り、ちる」

「うむ、ただいまなのじゃ!!」

 とびきりの笑顔で元気よくちるが答える。 

 もし俺が神だったらこの時間を止めていたいと思ったが、直ぐに気持ち悪いなと思い直す。

「どうしたんじゃ?? 顔が赤いぞ?? のぼせたのか??」

「あぁ、いや、なんでもない!! それにしても一体どうしてここに?? いや、そもそもどうなってるんだ?? ちるは消えたんじゃないのか??」

 恥ずかしさを誤魔化す為に思いついた質問を全て声に出す。

 全部本当に気になる事だったから特に問題は無いのだけど、なんだか余裕が無い感じになってしまいその事が俺を一層恥ずかしくさせた。

「いっぺんに聞くでない!! 何から答えて良いかわからなくなるじゃろ!! 一つずつにせい!!」

「そ、そうだよな。 悪かった、それにしても全部答えてくれるのか?? 珍しいな」

「まぁのぅ!! 今日は気分が良いからのぅ、それなりに色々答えてやろうと思っておるぞ!!」

 得意げに胸を張って俺に質問を促すちるは本当に気分が良さそうだった。 

 正直言って聞きたい事も言いたい事も纏められない程沢山あったが、その中でも特に気なっている事を俺は初めに尋ねる事にした。

「なぁ、今のちるはさ。 そのどこまで知っているんだ??」

 俺が最初に聞きたかった事、確認したかった事はこの時代にこの家に帰ってきたちるは一体どこまで知っているのだろうという事だ。 

 俺が未来に行ったことや、そこでちるが自ら消えようとしていた事、いやそもそもそんな事は存在しなかった事だったのか。 
 その答えが知りたかった。

「どこまで……と言うのは些か曖昧な質問じゃがまぁ良しとするか。 
 そうじゃの、結果から言えば我は全てを知っておるぞ?? 何故なら我は神であるからのぅ」

「全て??」

「全てじゃ!! 疑い深いお主にはもう少し噛み砕いて言わないと伝わらぬか??」

「出来ればそうして欲しいね」

「うむ、まぁ仕方ないの。 どうやらお主は自身の身に起きた事でさえ信じられない阿呆みたいだからのぅ」

 呆れるように答えるちるの言葉は間違えなく悪口なのに今の俺にはとても嬉しい言葉だった。

 あの世界での出来事は俺の夢なんかじゃ無い、その事が何より嬉しかった。

「何故笑っておるのじゃ?? 阿呆と呼ばれるのがそんなに嬉しいのか??」

「ん?? あぁそうだな。 嬉しいよ、凄い嬉しい」

「そ、そうか。 まぁ良い!! 次じゃ!! 次の質問じゃ!!」
 
 顔を背けて少しだけ赤くなった耳をちるは向ける。 

「なんでちるが照れてんだ??」

「なっ!! 照れてなどいないわ!! 我が照れるわけないじゃろ!! 神じゃぞ!! 我は神様じゃぞ!!」

「わ、悪かったよそんな怒るなって。 えっと、質問だったよな??」

 俺は思考を纏めてちるへの質問を考えた。 
 ちるに全てを知っていると言われた手前、もう未来の話を聞いても仕方が無い。 
 そうなってくると尋ねるべきは今とこれからについてだ。

「なぁちる。 俺は元の時代に帰って来たって事で良いのか??」

「それじゃ!!」

 ちるが待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて俺を指差す。
 
「やはりお主もそこが気になるよのぅ。 なかなか察しが良いではないか!!」

「そ、そうか??」

「そうじゃ!! まぁわかっていて聞いていると思うが答えてやろう。 お主は時間と言う概念では戻って来たとは言えるぞ!!」

「時間?? つまり全く同じ世界では無いって事か??」

「大きく言えば同じじゃが、厳密に言えば違うのぅ」

「どう言う意味だ??」

「ん?? そのままの意味じゃが……あれ?? お主もしかして気付いてないのか??」

「な、何に??」 

「え?? 本当に気付いてないのか?? じゃあこの質問はどういう意味で言ったのじゃ??」

「ただただ気になっただけだよ。 俺は元の世界に帰ってきたのかなぁーってさ」

「……はぁー」

 ちるは項垂れて大きくため息を吐いた。    
 
 ちるはなにが言いたいのだろうか??
 俺の質問はここが元の世界なのかどうかの二択しかないと思うのだが。

「ノアよ。 お主察しが悪くなったのではないか?? そもそもお主はあの世界の事をどう考えておるのじゃ??」

「どうって、この世界の未来だろ??」

「半分正解じゃな」

「半分??」

「ふー、まぁあのままお主があの世界に留まって居ればあの世界は間違えなく未来そのものであったのは確かじゃな」

「俺が帰って来た事でなんか変化はあるっていうのか?? 元の世界に帰って来ただけなんだから別に何も変わりは無いだろう??」

「そうなんじゃがな、今となってはあの世界とは大きく異なる点がひとつ生まれてしまったじゃろ?? 未来から戻ってきた人間がいるのじゃ、それは間違えなく前の世界とは違う点ではないか??」

「あっ!!」

 ここまで説明されて俺はようやくちるの言いたい事に気付いた。 

 確かにちるの言う通りだ。 前の世界に無くて今の世界にあるもの、それは俺自身じゃないか。

 その事が影響して未来が変わる可能性がある今、確かに元の世界に戻ってきたとは言い難いのかも知れないな。 
 
 ……でも、正直言ってそれがどうしたというのだろうか??

 俺は只の人間だし、未来を知っていると言っても今から2千年後も先の事だ。 この世界に大きな影響を及ぼすとは考えられないんだが。

「だ、だけど俺一人が戻ってきた所で大きく未来は変わらないだろう??」

「阿呆か!! めちゃめちゃ変わるわ!!」

 ちるが俺を睨みつけて大声を出す。 なんでこんなに怒っているのか俺には見当がつかなかった。

「良いか?? お主が帰ってきて一番変わった事はなんじゃと思う??」

「いや、そんなのわかる訳がないだろう?? 俺の人生はまだ終わってないんだからっ」

「今現在の話じゃ!!」

 今?? 俺が帰ってきてからした事と言えば風呂に入った事くらいだぞ??
 誰かにあったとかは今の所してないし……いや、違う。 

 俺はもうどうしようもなく世界に影響を及ぼしている。 
 目の前にいるこの少女は……ちるはこの世界の神なんだから。

「つまりここでこうしてちると会った事が世界を変えてしまう事になるかもって言うのか??」

「ようやく理解したのか……そ、それでどうするのじゃ??」

 急にしおらしくなったちるはきょろきょろあたりを見渡す。

 なんだ??
 今日に限ってはちるの言いたい事が全くわからないぞ。
 ちるは一体俺に何を求めているのだろうか??
  ちるに対して能力が使えない事が今までで一番悔しいな。

「ど、どうするとは??」

「そ、そこまで我に言わせるのか?? お主本当は全部気付いてて我をからかっておるのではないだろうな??」

「いや、本当にわからないんだ。 ヒントだけでもくれないか??」

「むう……し、仕方ないのぅ。 ヒントだけじゃぞ??」

 口を大きく膨らませたあと、含んだ空気をそのまま飲み込んでちるは続ける。

「良いか!! この際お主が旅した未来の世界の事はもう忘れるのじゃ。 
 お主が帰ってきた時点でこの世界は最早違う世界になったのだからな。 
 わ、我が言いたいのはな、あっちの世界での我はとても幸せだったという事じゃ!!
 じゃから、その……こっちの世界でも出来れば幸せを感じたいと思っただけじゃ!! そ、それだけじゃ!!」
 
 ヒントどころか答えまで言ってくれたちるはそのまま勢いよくソファへ身を戻した。

 ちるの言いたかった事に気付けなかった事を情けなく思ったが、恥ずかしいそうに顔を真っ赤にしているちるを見れたのだ、きっと気付かなくて正解だったのだろう。

「ちる悪かった。 恥ずかしい思いをさせたみたいだな」

「ま、全くじゃ!! まぁ素直に謝ったからもう一回だけチャンスをやるとしようかのぅ」

「よろしく頼むよ」

「よ、よしじゃあ聞くぞ?? こ、これからどうするのじゃ??」

 チラッとこっちを見てちるが尋ねる。 
 
 これからどうするか。 俺の答えは随分と前から決まっている、いや随分と後ってのが正しいのかも知れないな。
 俺はちるの目を見つめてその問いに答えた。

「とりあえず世界中の料理でも食べに行こうか、ちる」

「ふん、いやじゃな!!」

「……は??」

「そんな格好で言われとも響かんわい!! また後日やり直しじゃな!!」

 こ、こいつ。 自分は寝そべっている癖に!! これでもこっちは大分恥ずかしいんだぞ!!

「あっ!! 後な、お主この手紙はなんじゃ?? これはラブレターと言うやつか?? 随分と恥ずかしい事ばかり書いておるが、どんな気持ちでこれを書いたのじゃ??」

 怒りと恥ずかしさに震える俺に追い討ちをかけるようにちるが言う。 
 その言葉を聞いた瞬間俺はもう色々と考える事をやめた。

「はんっ!! 泣き虫の癖に偉そうだな」

「は、はぁー?? 誰が泣き虫じゃ!。 誰がっ!!」

「おいおい図星だからってそう声を荒らげるなよ。 あぁ、泣き虫じゃなくてお漏らしちゃんの方が良かったか??」

「お、お漏らしなどしとらんわぁ!! お主こそ好きな子を虐めるとは子供みたいな事をするんじゃの!! なるほど五年たっても脳味噌はお子様のままじゃったか!!」

「人の告白を茶化す奴に言われたくないわ!!」 

「茶化したわけでは無いわ!! 恥ずかしかったからの照れ隠しじゃ!! そのくらいわからんのか!! いくら人の心を読めても乙女心を読めないんじゃ能力の持ち腐れじゃな!!」

「ふん、何が乙女だよ。 少女、いや幼女の間違いだろ??」

「むきゃー! お主! 人の容姿を馬鹿にしてはいけないと前にも言ったじゃろぉーが!!」
 
 その後も俺達はずっとしょうもない悪口を言い合い、気付いた時にはもう窓の外は真っ暗になっていた。

 俺は一旦罵り合いはやめにしようとちるに提案し、一先ず晩ご飯を作る事にした。 

 散々文句を言っていたちるも俺が好きな物を作ってやると言った瞬間、肉じゃが!! と元気よく返事をし、思い出した様にアニメを見始めた。
  
 望んでいた日常に泣きそうになるのを堪えて俺は料理を始め、ついさっきちるが言った言葉を思い出す。


「こっちの世界は前の世界とは違う……かぁ」
 

 どうやらちるがもう一度俺の前に姿を現してくれたのは、前とは違う世界だかららしい。 

 
 ふふっ、なんだか随分と俺にとって都合が良い世界になってくれたな。
 
 料理を始めながら俺は心の中で感謝した。
 


 誰にだって??

 決まっている、神様にさ。
 
   
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