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ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。

19話 願い

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「がっははは! お主ら本当にあの機械でこの世界に来たのか!  それにして彼奴がもポンコツなのは知っていたがまさかここまで馬鹿な事までするとはのぅ!! 久々に笑いが止まらんわ、お主らも運が良いのぅ。 普通死ぬぞ」
 
 目の前の魔女は豪快な笑い声を部屋中に響かせながらお腹を抑える。
 
 いや、笑い事じゃないからね?? 現に俺は死にかけたし。
 
「お、お腹が痛いのじゃ。 面白すぎるなお主ら」
 
「こ、これでわかったでしょ! 私達は確かに異世界人だけどなんの力も貰ってないのよ! だからヒントだけでもくれないかしら??」
  
 いつも通りの口調に戻った青蜜は今なお大声で笑い転げる魔女に問いかけた。
 
「ま、まぁ確かに我の力でこの世界に来た言うなら協力してやっても良いかも知れんな。 
 じゃがお主ら本当に身体に変化は無いのか?? さっきも言ったがこれはただの石をダイヤモンドに変える機械じゃぞ?? 少なからずお主らの身体にも何か変化があると思うのじゃがな」
 
 ……マジで?? もしかして気付いてないだけで俺にも何か特別な力が使えたりするのだろうか?? 
 だとしたら是非ともその力が何なのかを知りたい! 
 もうチート級の能力なんて言わないから、せめて異世界っぽいのを! 弱くてもいいから魔法とか!!
 
「そ、それは本当なの??」
 
 青蜜も俺と同じく興奮しているのだろう。 さっきまでおっさんに怒っていた筈の顔が少し綻んでいる。
 
「あぁ、お主らがこの世界に来た時の願望が多少なり叶えられている筈じゃな。 自身の能力の変化にも気付いてないとは愚かしいが、まぁ今確認してやるわ。 
 面白い物を見せてもらった事だしのぅ、どれどれ」
 
 そう言うと魔女は俺達に背を向けて歩き出し徐に機械を弄り始めた。
 
「ちっ、あのポンコツめ。 好き勝手にいじくり回しおって、それに何じゃこの設定は。 何がしたいのか意味不明では無いか!!」
 
 ぶつぶつと文句を言いながらも魔女は耐えず手を動かす。
 
 ……緊張するな。 
 もしこれで良い能力もらえたらおっさんの事は許してやっても良いかもな。
 
「おっ! あったあった、これじゃな。
 えーとな、最初にこの世界に来た者に与えられたのは能力は治癒能力じゃな。 
 この世界に来る時に誰かを助けたいと願っておったみたいじゃの! 
 ふむ、こんな事を日頃から考えておる若者などもう絶滅したと思っておったわ」
 
 最初にこの世界に来た者……って事は結衣ちゃんか? 凄いな、誰かを助けたいなんて普通に学校生活を送ってて考える事か?? 良い子過ぎるだろ!! 
 それに今考えれば、その力のおかげで俺は死なずに済んだって事になるのか、命の恩人だな。
  
 ……俺一生結衣ちゃんのファンになるわ。
 
「二番目に来た者には身体強化が施されておるな。 強くなりたいとでも考えておったのじゃろう。
 こっちはよく聞く願いではあるが、実際に生活してて普段から常に強くなりたいなんて考えておる奴などあまりいない事を考えれば少し阿呆っぽいのぅ」
 
 あ、青蜜らしい……。 この世界に来る前に聞かされてたら驚いたけど、今となったらこいつがそんな事を考えていた事に驚きはないな。 まぁこれ以上強くなってどうするんだって疑問はあるけど。
 
 俺は二人に視線を向ける。 二人も頬を赤らめていたが、内心少し嬉しそうだった。 
 
「最後に来た者は……おっ! これは前の二人に比べても一際珍しいのぅ。 どう言う訳か知らんが異能の力を2つも受け取っておるでは無いか!! しかもそのうちの一つはこの我が見た事もない能力じゃ!! これは貴重なサンプルになりうるのぅ」
 
 目の前の魔女が口を動かす度に俺の心臓は壊れるんじゃ無いかと思うほどにその鼓動を強めていった。
 
 最後に来た者、俺の事だ!! しかも今2つって言わなかった?? それに珍しいって!!

 結衣ちゃんが治癒の力や青蜜が身体強化っても羨ましかったけど、俺の方が珍しいのか!!
 この流れで言えば精神系だったりする?? 
 いやいや、この魔女の驚きを見るにもっと珍しいものなんじゃないか? 
 俺この世界に来る時、なに考えてたったっけ?? 
 
 期待に胸を膨らめせて俺は魔女の次の言葉を待った。
 
「最後の者に与えられた力は身体変化。 それに特殊スキルの『言いたがり』 じゃ!!」
 
「おー!! ……ん? 身体変化? どこも変化した様に感じないけど??」
 
 またも勝手に口から出た俺の本心に、魔女はすぐに反応を示す。
 
「お主が三番目なのか?? 良かったのぅ! お主は特別に願いを2つも叶えてもらったのだぞ! こんな事が起こりえるとはな!!
 いやはや、昔作ったとはいえ流石に我の発明品じゃ、想像を超えていくな」
 
 魔女は大きく頷きながら自画自賛を始める。
 
「なぁ、俺の能力について詳しく説明してくれないか? 身体変化ってのはなんだ?? それに『言いたがり』ってのも気になるし!!」
 
 いてもたってもいられなくなり俺は魔女の肩に手を当てて説明を求めた。
 
「な、何じゃ? さ、触るでないわ!! 確かにあの二人の能力は少し自分ではわかりにくいかも知れんが、お主のはとってもわかりやすく若者らしい願いだったと言うのにまだ自分で気づいとらんのか? お主この世界に来て何かおかしいと思った事は本当にないのか??」
 
「……おかしいと思った事??」
 
 俺は必死に脳味噌をフル回転させる。

 おかしい事かぁ、むしろまともな事を探す方が難しい気もするんだが。
 
「んー、パッと思いつくのは俺が心の中で考えてた筈の事が勝手に口に出る事くらいだけど、流石にそんなの能力でも何でもっ」
 
「何じゃ理解しとるではないか」
 
 俺の思考を読んだのか、魔女の言葉は俺の考えを途切れさせた。
 
 いや、もしかしてまた勝手に声に出していたのか? しかもこの魔女今なんて言った??
 
「いやいやいやいや! ……冗談だろ??」
 
「冗談? なにを困惑しとるのじゃ? お主はこの世界に来る時に、もっとクラスの皆と仲良くしたいと思っておったのじゃろ?? 
 緊張してあんまり話せないのが悩みで、それをどうにか解消したいと! 
 我の機械はそんなお主の願いを叶えたまでじゃ、普段から言いたい事を言えないお主に変わって心の声を勝手に拡散する能力。 それが『言いたがり』の力じゃぞ??」
 
「ぷっ」
 
 俺の後ろで笑い声を我慢しきれなかった青蜜の声が聞こえた。 振り返って見てみると口を押さえ顔を下に向けている……結衣ちゃんも一緒に。
 
 嘘だろ? また俺だけこんなオチなの? 異世界転移の神様さぁ……もう少し優しくしてくれても良いんじゃないの??

「ま、まぁまぁ。 まどかちゃんはもう一つ叶えて貰った事があるのでしょう?? そ、そっちに期待すれば良いんじゃない??」
 
 完全に勝ち誇った笑顔で青蜜が俺の肩を叩き慰め様としてきた。 
 
 く、悔しいが確かに青蜜の言う通りだ! そうだ、俺にはまだ希望がある!! 
 
 もう一つの能力、身体変化が! 青蜜の身体強化が純粋に力やスピードを上げるものだと仮定すれば、俺のは自分の身体を何かに変化させる事が出来たりするかもしれない!! これも十分異世界っぽくて良い能力だ! 
 
 俺は犬や猫の事は結構好きだし、そう言えばこの世界に来る時に動物になってみたいって願いをした様な気がしてきたぞ!!
 
「なぁ!! 俺の身体変化ってのは、自分のイメージした動物とかにも慣れたりするのかな??」
 
 出来て当然の如く俺は魔女に尋ねる。 

「いや、お主の身体変化はもう終わっとるぞ? 自分の身体なのにまだわからんのか??」 
 
「……お、終わっている? いやそんな訳ないだろ!」
 
 自分の手で全身をさわる。 
 
 腕も足も変化は無いし、目も耳も特に良くなったとは思えない。 変わった所なんて何も無い筈だ。
 
「全然変化してないだろ?? 自分の身体の事くらいはわかっているつもりだ!! つまり変化するとしたらこれからじゃ無いか!!」
 
「まだ気づかんのか? お主が今まで抱えていた劣等感が解消したのだぞ??」
 
「……劣等感?? あっ!!」
 
 魔女の言葉に自分では確認できない箇所に俺はようやく気付いた。
 
「あ、青蜜さ……身長いくつだっけ??」
 
「な、何よいきなり。 そんな事まどかちゃんに言う必要ないでしょ!」
 
「お願いします! 教えて下さい!!」
 
「し、仕方ないわね! 身長だけよ!! 体重は絶対に教えないから!! ……161㎝よ」
 
「今、どんな靴履いてるの? 学校で履いてた時と同じやつ??」
 
「はぁ?? 何その質問! 変態みたいな事きかなっ」
 
「お願いします!!」
 
「ろ、ローファーよ! ヒールローファー! いつも履いてるのと同じ! な、何なのよもう!!」
 
 この言葉で俺は自分の身に変化があった事に確信する。
 
 学校で会う時の青蜜は俺と目線の位置がほぼ一緒だったのに、いや俺の方がちょっと低かったけど、それはさておき今は青蜜が少し小さく見える。
 
 服装を着替えていたからてっきり靴も変えたのだと思っていたがそうでは無かった。 
 
 ……俺が少し大きくなっていたのだ。
 
「どうやらやっと気づいた様じゃな?? それにしても、まさか自分のコンプレックスの変化にも気づかないとはなぁ」
 
 魔女の言葉が俺の胸に深く突き刺さる。
 
 俺のコンプレックス……それは一年生の男子高校生の平均身長に達していなかった事、そしてそのくせに座高が平均よりも高かった事だ。
 
「つ、つまり俺の身長が……」
 
「そうじゃ! お主の身長は3㎝もアップしておる! お主の夢だった170㎝台じゃ!! しかも何と足の長さの方を伸ばして貰っておるぞ!! 感激もんじゃろ??」
 
 魔女は再び満足そうに無い胸を突き出す。
 
 
 そうか、俺は遂に170㎝台の男になったのか。 

 古の魔女の力で異世界に来て、死ぬ思いまでしてようやく手に入れる事が出来た俺の力。
 


 ……何だこれおい。
 
 大声でせせら笑う青蜜と結衣ちゃんの遠慮した様な笑い声を一身に浴び、俺はもう考える事を放棄した。
 
  
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