ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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気になること

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「この村の長はどなたでしょうか?」


村人達が怯えた表情で私を見た。先程まで剣を突きつけられていたのだ。無理はない。


「村長は不在ですの?お話が聞きたいのですけれど」


誰も名乗り出ないのでそう聞くと、前へ出てきてのは宿のご主人だった。


「今朝出発なされた奥様……ですね」

「ええ、先の村でよくない噂を聞いたので引き返して参りました」


そう言った私を見て安堵したように息をついたご主人は、後ろを見て言った。


「村長は怪我をしました。話ができる状態ではありません。申し訳ないのですが、私が代わりに話をします」


怪我だって?そう言えば先ほどから血の匂いがしている。他のことに夢中になっていたが、もっと早くに気がつくべきだった。


「大きな怪我ですの?村長はどこに?」

「こちらです」


そう言って指されたところに村長だというおじいちゃんが横たわっていた。隣にはおばあちゃんが座っていて、心配そうに覗き込んでいる。

村長はあちこちに剣で斬られた傷がある。どれも命に関わるほど大きな傷ではないが、出血量が多い。放っておけば命はないだろう。


「息はありますね。もう大丈夫ですわ」


光魔法で傷を治すと、周りの人達がざわざわし始めた。これは光属性だからではなく、単純に魔法そのものを初めて見たからだろう。


「傷は消えましたが、失った血液は戻っておりません。当分は安静にして、鉄分の多い物を食べさせるといいと思いますわ」


正直、その辺のことはよく分からないけど。後でお医者さんにちゃんと診てもらわないといけない。


「他にも怪我人がいるのなら申し出てくださいませ。怖がることはありませんわ」


村人達が怯えた表情でひそひそと話をする。これはもうだめだ。多分貴族そのものに対して不信感を抱いている。


「申し訳ありませんが宿屋のご主人、もし怪我人がいるようでしたらお医者様に診ていただくよう言っていただけますか?必要な費用は全てわたくしたちが払いますわ」


私が何も言っても無駄だろうけど、同じ立場の宿屋のご主人の言うことは皆聞くだろう。


「それから、そこそこの広さで、空いている建物はございますか?できるだけ村のはずれの方がいいのですが」


捕縛した人達を集めておく場所が欲しい。ずっと見ておくことはできないから。建物に閉じ込めておけば安心だ。もちろん魔法で外に出れないようにはする。


「使わなくなった食堂があります。廃墟のようになっておりますが、そこでよかったら。多少の雨漏りはしますが他は特に問題ありません」

「ありがとうございます。少しの間お貸しくださいませ」


廃墟だろうがなんだろうが壁と屋根があるだけ感謝して欲しい。なんなら適当にそこら辺の木にでもくくりつけておきたいところなのだ。

見えるところだと村人が怖がるだろうからしないけど。


「それから宿を何部屋か使わせていただいてもよろしいでしょうか?もちろん、迷惑はお掛け致しませんし、お代もお支払いしますので」

「ええ、何部屋でもどうぞ」

「ありがとうございます」


迷惑にならないよう少しでも早く撤収しなければ。


「クルト、聞いたわね。フェルマー伯爵子息以外は皆そこに連れて行ってちょうだい。わたくしも後で」

「いいよ、エレナ。私がしておくから。風の結界でいいよね?」


私の言葉を遮ってクリスが言った。クリスの魔法なら確かに信頼できる。

魔法で結界をはることをこの世界で作り出したのは私だ。使えるのはまだ5人しかいない。私とクリスとユリウス殿下、それから上のお兄様である、ヘンドリックお兄様、クリスのお兄様のヨハン。この国でトップレベルに魔法の才能がある私たちだけ。

結界を張るのにはかなりの魔力量が必要になる。……初めて会った時はただの変な子供だったのに、頼もしくなったものだ。


「ありがとう。お願いするわ、クリス。何かあったらすぐに呼んでね」


ぞろぞろと皆を連れて行く2人の背中を見ていると、ユリウス殿下が不満そうに私に言った。


「そこの子息はどうするつもりかい?」

「え?ええ、そうですね……」


さすがにこの身分の貴族を廃墟に入れることはできない。いや、まあできるけどしない。色々と気になることもあるし。

ラインハルトは後ろで手を縛られて、膝をついて地面を見つめている。目が虚だ。


「宿へ連れて帰ります。ご不満ですか?」

「そうだね。こんな男、君の視界に入れるまでもない」

「そんなことをおっしゃいましても、殿下だって気になる事がございますでしょう?」

「で、殿下……?」


反応したのは宿屋のご主人だった。そういえば名前も名乗ってないし身分の明かしていなかった。別に必要ないかと思って。
村の人たちも見ながら驚いた表情でこちらを見つめている。


「ええ、こちら第一皇子のユリウス・アルベルト殿下です」

「もっとも、皇位継承権はないけどね」


私の言葉にユリウス殿下が付け加える。皆は驚きのあまり言葉が出ないのか、ポカンと口を開けて私たちを見ている。


「畏まる必要はございません。もてなしも必要ありません。ただ少しの間滞在させてくださいませ」


それだけ言って頭を下げると、私はラインハルトへ近付いた。


「聞こえましたね?身分はこちらの方が上です。抵抗することなくわたくしと一緒に来てくださいませ」


私の声が聞こえているのか、聞こえていないのか、ラインハルトは頷くことすらせずに立ち上がった。

どうやら抵抗する気はなさそうだ。まあ両手は縛られてるしね。

私たちは村人達が驚き、何も言わないあいだにさっさと宿へと向かって歩いた。

身分を明かした後の周りの反応はあまり好きじゃない。だって面倒くさいんだもん。
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