ゲームは終わっても人生は続く〜入れ替わり令嬢のその後〜

紅蘭

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麻薬

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宿の一室。一番端の部屋。そこにラインハルトを押し込んだ。もちろん縄は繋いである。


「フェルマー伯爵子息。少々お話を聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」


私がそう言うと、ラインハルトは私の方を見た。相変わらずうつろな目だ。こちらを見てはいるけど目は合わない。

……あまり近寄りたくない感じだな。

ユリウス殿下が隣にいる以上、何があっても安全ではあるのだが、少し気味が悪い。それはどうしようもない。


「わたくしが見る限り、あなたは正気ではないようですが、どう思われますか?」


『普通ではない』。正直それしか分からない。だって人を操るなんてユリウス殿下以外にできるとは思えない。そしたら他に何が原因か分からない。

うつろな目がゆっくりと瞬きをする。しかしいくら待っても答えはなかった。

ユリウス殿下を見上げる。私が何か言う前に「放っておいたら?」と一言。よっぽど気に入らないらしい。

こりゃだめだ。ユリウス殿下は考える気すらおきないようだ。それか、もう原因は分かっていて、私に首を突っ込んで欲しくないか。

……今回は前者だ。私の直感がそう告げていた。

まあいいや。色々試してみよう。まずは治癒魔法から……。

ラインハルトに魔法をかける。身体的な原因ならこれで何か変化があるはず。精神的なものだったら無理だろうけど。

じっと様子を観察する。変化はすぐに現れた。ラインハルトがうずくまって呻き声を上げ始めたのだ。


「下がって」


ユリウス殿下に腕を引かれて後ろへ下がる。


「あ、あの、何が起こっているのでしょう?わたくし治癒魔法をかけただけなのですが……」


苦しそうなラインハルトをじっくりと見つめるユリウス殿下。

なになに、なんなの?

少ししてユリウス殿下は私の背を扉のほうへと押した。出るように促される。


「あ、あの……?」

「辛いのはせいぜい一晩だ」


ユリウス殿下は部屋を出る間際にラインハルトに向けてそう言った。どうやら全てわかったらしい。それなら早く説明して欲しいものだ。

2人で部屋を移動して、私は聞いた。


「どういうことですか?」

「大したことはないよ。とりあえず座りなよ」


そう言われても椅子はひとつしかない。私が座ってしまうとユリウス殿下が座れない。それは申し訳ない。少し考えて、私はベッドへ腰を下ろした。

そんな私を見て、ユリウス殿下がため息をついた。


「その無防備なところはどうにかしてもらいたいな」

「あら、ここにはわたくしたちしかいませんもの。べつに問題ありませんわ」

「だからだよ。僕と2人きりで隙を見せるのは感心しない。僕が押し倒したらどうするつもりかい?」


それを聞いて思わず笑みがこぼれた。だから私はこうして隙を見せることができるのだ。


「殿下が本当に私を襲うつもりならそのようなことはおっしゃいませんわ」

「ああ、そう……」


呆れたようにそう言ったユリウス殿下は、それ以上何も言わずに椅子へと座った。


「それで、どういうことでしょう?説明していただけますか?」

「君は麻薬って知ってる?」


麻薬?麻薬ってあの、大麻とか覚醒剤とかそんなやつ?


「ええ、話で聞いた程度で、使ったことはございませんが……」

「あれは使うべきじゃないよ」


……この人は実際にそれを使ったことがあるのだろうか。

しかしそれを聞くということはラインハルトのあれは麻薬ってことだろうか。

ああ、そういえば薬が切れたら苦しい、みたいな話聞いたことあるな。


「わたくしの魔法で体内の麻薬が消えたのでしょうか?」


ユリウス殿下は頷く。


「流石、話が早いね。薬が切れたら少しは話もできるだろう。君は僕がいいと言うまで奴に近付いてはいけないよ」

「ええ、近付くつもりはございませんが……」


ユリウス殿下がこう言うってことは普通に危険がある時だ。私だって薬をやっている人に近付きたいとは思わない。


「じゃあ僕はもう少し調べ物するから。君はこの部屋から出ないように。約束だよ」


「はい」とも「いいえ」とも言わずに笑顔を浮かべる。そんな私を見てユリウス殿下は何か言いたそうな表情で部屋を出て行った。

ラインハルトに近付くつもりは毛頭ない。だけど部屋から出ないのはまた話が別だ。まあ流石にこの状況で1人でうろつくこともしないけど。

残党がいたら怖いし。


少し待つとクリスが「終わったよ」と顔を出した。

あの人数を移動させたのだ。大変だっただろう。


「お疲れ様。ありがとう。大丈夫でした?」

「うん、途中で何人か暴れたけど、すぐにクルト様が押さえ込んでたよ。所詮は田舎の人間だね」

「そう、二人とも怪我とかもないのね。よかったわ」


いつもと何ら変わらない様子のクリスを見ると少し安心する。

今頃リリーは……。

ブンブンと頭を振って考えを散らす。思ったって仕方のないことだ。あっちにはヘンドリックお兄様もヨハンもいる。万が一など起こるはずがない。


「さっきクルト様が近くの役所に連絡してたから、今日の夜には誰か来るよ。だから明日の朝には出発できるね」

「ええ、そうね……」


このままラインハルトを置いて行っていいのだろうか。麻薬の経路も掴んでいないのに。

麻薬を売っている人はいるのか、ラインハルト以外にも麻薬をしている人はいないか。これはチャンスでもある。このまま放っておいて被害者が増えるのは絶対に避けたい。

一刻も早く王都へ帰りたい気持ちは変わっていない。だけど胸がモヤモヤした。
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